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丸山林平「定本古事記」

- 下巻 -

【 履中天皇 】

原 文
故、率二曾婆訶理、上二│幸於倭一之時、到二大坂山口、以爲、曾婆訶理、爲レ吾雖レ有二大功、蝉殺二己君。是、不レ義。然、不レ賽二其功、可レ謂レ無レ信。蝉行二其信、裝惶二其菷。故、雖レ報二其功、滅二其正身。是以、詔二曾婆訶理、今日留二此間一而、先給二大臣位、明日上幸、留二其山口、來芟二假宮、忽爲二豐樂。乃於二其隼人一賜二大臣位、百官令レ拜。隼人、歡喜、以二│爲蒹一レ志。爾、詔二其隼人、今日與二大臣、飮二同盞酒。共飮之時、隱レ面大鋺盛二其荵酒。於レ是、王子先飮、隼人後飮。故、其隼人飮時、大鋺覆レ面。爾、取下│出置二席下一之劔上斬二其隼人頸。乃明日上幸。故、號二其地、謂二羝飛鳥一也。上二│到于倭、詔之、今日留二此間、爲二祓禊一而明日參出、將レ拜二突宮。故、號二其地、謂二蘚飛鳥一也。
読み下し文
故、曽婆訶理を率て倭に上り幸でます時に、大坂の山の口に到りまして、以為はしけらく、「曽婆訶理、吾が為に大き功あれども、既に己が君を殺せまつれり。是は、義ならず。然れども、其の功に賽いざるは、信無しと謂ふべし。既に其の信りしごと行なはば、還りて其の情こそ惶けれ。故、其の功に報ゆとも、其の正身をば滅ぼしてむ。」と、おもほしけり。ここをもて、曽婆訶理に詔りたまひけらく、「今日は此間に留まりて、先づ大臣の位を給ひて、明日上り幸でまさむ。」と、のりたまひて、其の山の口に留まりまして、即ちに仮宮を造りて、忽かに豊楽為しめしまひき。乃りて其の隼人に、大臣の位を賜ひて、百の官をして拝ましめままひき。隼人、歓喜びて、志を遂げぬとぞ以為ひける。爾に、其の隼人に詔りたまひけらく、「今日、大臣と同じ盞の酒を飲まむとす。」と、のりままひて、共に飲みたまふ時に、面を隠す大鋺に、其の進むる酒を盛りけり。ここに、王子先づ飲みたまひて、隼人後に飲む。故、其の隼人の飲む時、大鋺、その面を覆ひたりき。爾、席の下に置きたまへる剣を取り出だして、其の隼人の頸を斬りたまひき。乃りて、明くる日上り幸でましけり。故、其地を号づけて、近飛鳥とは謂ふなり。倭に上り到りまして、詔りまひけらく、「今日は此間に留まりて、祓禊為て、明日参出て、神宮を拝まむとす。」と、のりたまひき。故、其地を号づけて、遠飛鳥とは謂ふなり。
丸山解説
〔大功〕おほきいさを。大なる功績。大きなてがら。「おほき」は「大きな」の意の接頭語。「大聖」「大博士」などという。ソバカリが墨江中王を刺し殺したことをいう。〔不レ義〕みちならず。君臣の義に反する。底本の訓「きたなきしわざなり」には従わぬ。
〔賽〕報ゆ。説文に「賽、報也。」とある。〔無レ信〕まことなし。「その言に誠なし」の意。ソバカリに約したことが、いつわりとなるからである。底本は「いつはりせし」と訓じているが、やや意訳に過ぎる。〔信〕ちぎりしごと。約束したように。意訳に過ぎるが、ひとまず、底本の訓に従う。
田中孝顕 注釈

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