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丸山林平「定本古事記」

- 上巻 -

【 神代の物語 】

原 文
於レ是、天突跳命以、詔三伊邪那岐命・伊邪那美命二柱突、修二│理│固│成是多陀用幣流之國、賜二天沼矛而言依賜也。故、二柱突、立二【訓立云多多志】天浮橋而、指二│下其沼矛以畫隅、鹽許袁呂許袁呂邇【此七字以音】畫鳴【訓鳴云那志】而引上時、自二其矛末一垂落之鹽、累積成レ嶋。是淤能碁呂嶋。【自淤以下四字以音】
読み下し文
ここに、天つ神詣の命もちて、伊邪那岐命・伊邪那美命二柱の神に、この漂へる国を修理り固め成せと詔りごちたまひて、天の沼矛を賜ひて言依さしたまひき。故、二柱の神、天の浮橋に立たして、【立を訓みてタタシと云ふ。】其の沼矛を指し下ろして画きたまへば、塩こをろこをろに【此の七字、音を以ふ。】画き鳴して、【鳴を訓みてナシと云ふ。】引き上げたまふときに、其の矛の末より垂り落ちたる塩累積りて島と成れり。これ淤能碁呂島なり。【淤より以下の四字、音を以ふ。】
丸山解説
〔天突跳命以〕あまつかみもろもろのみこともちて。高天原の諸神のおことばをもって。この「みこと」は、おことば。〔天沼矛〕あめのぬほこ。底本の訓「あまのぬほこ」には従わぬ。「あまつ」「あめの」と訓ずるのが通例である。「あまつかみ」「あまつひつぎ」、「あめのうずめ」「あめのかぐやま」など。「あめの」は「高天原の」の意の美称。「ぬ」は「瓊」の転。玉のような、りっぱな矛。〔言依賜也〕ことよさしたまひき。底本の訓「ことよざしたまひき」には従わぬ。江戸時代の国学者は、濁るまじき語を濁る癖があった。

宣長は、これを排しながらも、当時の趨勢に抗し得なかったらしい。「言」は「事」の借字。「よさし」は「寄す」の未然形「よさ」に敬語の助動詞「す」の連用形「し」の付いた語。「事を依頼し給うた」意。〔立〕たたし。「立つ」の未然形「立た」に敬語の助動詞「す」の連用形「し」の付いた語、「お立ちになり」の意。〔天浮橋〕あめのうきはし。底本の訓「あまのうきはし」には従わぬ。「あめのぬほこ」参照。「あめの」は美称。「浮橋」については諸説があるが、筆者は「船」の義と考える。すなわち、海に浮いている橋で、「船」のこと。「天降る」は「海降る」であり、上代語では、「天」をも「海」をも「あま」と言った。のちにamaがumiと転化したもので、母音の転換である。古代人は水天髣髴、はるかなるかなたを「あま」と呼んだものと解する。〔鹽〕しほ。ここでは潮のこと。〔許袁呂許袁呂邇〕潮の次第に凝り固まってゆくさまの副詞。「和訓栞」に「こをろこをろ。凝の義。をはこの韻也。」とある。「ろ」は口調を整えるための接尾語。「子ろ」「嶺ろ」などの「ろ」の類。〔那志〕「鳴らし」の中略。〔垂落之鹽〕したたりおちたるしほ。垂り落ちた潮。底本の訓「しただるしほ」は、例の濁るまじきを、好んで濁る癖から来たもの。〔淤能碁呂嶋〕潮のおのずから凝り固まって生じ島。
田中孝顕 注釈

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