- こ -
こ[籠] (名)かご。竹取「いと幼ければこに入れて養ふ」
こ[故] (接頭)死んだ人の名に冠する。故大納言。故姫君。(接頭)死んだ人の名に冠する。故大納言。故姫君。
こきし (名)「こにきし」に同じ。朝鮮・琉球などの王をいう。琴後集、九、長歌、観二琉球来聘使一作歌「ことさへぐ南の島のこきしらを、ことむけまして」
こきし (副)「こきだ」「ここだ」などと同義。たくさん。ひどく。はなはだしく。古事記、中「こなみが、なこはさば、たちそばの、みのなけくを、こきしひゑね」=年増(としま)が食物(な)をくれといったら、立っている■(そま)の木の実の無いのを、たくさんやれ。⇒こきだ。
こぎそく[漕ぎ退く] (動、下二)漕いで退ける。漕ぎのける。土佐日記「いつしかといぶせかりつる難波潟芦漕ぎそけて御船来にけり」
こきだ (副)「こきし」「ここだ」などと同義。たくさん。ひどく。はなはだしく。古事記、中「うはなりが、なこはさば、いちさかき、みのおほけくを、こきだひゑね」=若い女が食物(な)をくれといったら、どんぐりの実の多いのをたくさんやれ。⇒こきし。
こきだし (形、ク)多い。たくさんある。万葉、[2-232]「三笠山野辺行く道はこきだくも繁り荒れたるか久(ひさ)にあらなくに 笠金村」
こきたる[こき垂る] (動、下二)垂れさがる。続古今、秋下「あしびきの山田の稲のかたよりに露こきたれて秋風ぞ吹く」
こきでん[弘徽殿] (名)(1)禁中、清涼殿の北にある殿舎。いわゆる後宮で、皇后・中宮・女御などの御在所。附図参照。枕草子、四「けふの雪山つくらせ給はぬ所なむなき。御前の壺にもつくらせ給へり。春宮・弘徽殿にもつくらせ給へり」(2)弘徽殿にお住まいになるお方。弘徽殿の女御など。源氏、桐壺「なきあとまで、人の胸明くまじかりける人の御おぼえかなとぞ、弘徽殿などには、なほ許しなうのたまひける」
ごきない[五畿内] (地名)畿内五か国、山城・大和・河内・和泉・摂津の称。謡曲、道明寺「五畿内河内の国、土師寺」
こきばく (副)こんなに。たいそう。たくさん。ここばく。万葉[20-4360]「大御食(おほみけ)に仕へまつると、をちこちに、いざり釣りけり、そきばくも、おぎろなきかも、こきばくも、ゆたけきかも」
こぎはつ[漕ぎ泊つ] (動、下二)漕いで行って泊まる。港へ漕ぎつける。「はつ」は泊まる意。万葉、[7-1229]「我が舟は明石の海に漕ぎ泊てむ沖へな放(さか)りさ夜ふけにけり」
こ[濃] (接頭)「濃い」「色が深い」などの意をあらわす。濃酒。濃紫。濃染。
こきまず[こき混ず] (動、下二)入りくんで混ぜる。混じりあわせる。古今集、一、春上「見渡せば柳さくらをこきまぜて都ぞ春のにしきなりける 素性法師」
ごきやう…キヨウ[五経] (書名)儒教で尊重される易経・詩経・書経・春秋・礼記の五つの経書の称。日本へは五世紀のころ、継体天皇の御代に百済の五経博士段揚爾によって伝えられたという。源氏、帚木「三史・五経の道道しき方を、明らかにさとり明かさむこそあいぎやうなからめ」
ごきやうごくどの…キヨウ……[後京極殿] (人名)鎌倉時代の歌人、藤原良経の別称。⇒ふぢはらのよしつね。増鏡、一、おどろのした「今の摂政は院の御時の関白基通の大臣、その後は後京極殿ときこえ給ひし」
ごぎやくさい[五逆罪] (名)無間地獄におちるべき五種の罪。殺父・殺母・出仏身血・殺阿羅漢・破和合僧の五つ。平家、一、妓王「未だ死期も来たらぬ母に身を投げさせむずることは、五逆罪にてやあらむずらむ」
ごきん[五金] (名)金・銀・銅・鉄・錫の五つの金属をいう。折り焚く柴の記、中「年に豊凶あり。ましてや、五金のごときはこれを産する地も多からず」
こきんしふ…シユウ[古今集] (書名)⇒こきんわかしふ。
こきんしふとほかがみコキンシユウトオカガミ[古今集遠鏡] (書名)⇒とほかがみ。
こきんでんじゆ[古今伝授] (名)「古今集」の解釈に関する秘密の伝授をいう。下野守東常縁が飯尾宗祗に伝えたのが最初で、愚にもつかぬ三木・三鳥の秘事などをさす。宗祗から宗長を経て肖柏に伝えた堺伝授と、宗祗から三条西実隆を経て細川幽斎に伝えた二条家当流との二流があった。
こきんろくでふ…ジヨウ[古今六帖] (書名)こきんわかろくでふ。
こきんわかしふ…シユウ[古今和歌集] (書名)二十一代集の一。二十巻。勅撰和歌集の最初のもの。醍醐天皇の延喜五年(905)(勅を奉じて、紀貫之・紀友則・凡河内躬恒・壬生忠岑らの撰したもの。「万葉集」に洩れた古歌および当時に至るまでの秀歌千百十一首を収む。その歌風は、万葉歌人のように赤裸裸に率直に歌いあげるというよりは、むしろ巧みに美しく言いまわそうとするところにある。略して「古今集」という。
こ[個] (接頭)物を数えるに用いる助数詞。一個。
こきんわかろくでふ…ジヨウ[古今和歌六帖] (書名)類題歌集。六巻。平安時代に成るものであるが、成立年代も編者も未詳。天地人にかたどる分類をとり、全巻二十五項目の下に、それに相当する和歌およそ四千五百首を収む。略して「古今六帖」という。
こく[刻] (名)(1)一昼夜を十二支に配当して十二時とするとき、その一時の三分の一。今の四十分に当たる。たとえば、子の上刻、子の中刻、子の下刻などと呼ぶ。(2)漏刻(ロウコク)においては、一時の四分の一。今の三十分に当たる。(3)後世の「時」には、一昼夜を十二時として、その百分の一。この場合では、日の長短によって、一時の刻に差異があり、平均すれば一時は八刻と三分の一に当たる。春分・秋分は昼夜おのおの五十刻。冬至は昼四十刻、夜六十刻。夏至は昼六十刻、夜四十刻。
ごく[曲] (名)(1)琴の曲をいう。宇津保、俊蔭「むすめ一わたりにごく一つ習ひて、一日に大ごく五つ六つ習ひとりつ」(「一わたり」は「一度」)(2)「役・用」の意。古川柳「かみしもでごくにも立たぬ物を呉れ」(お年玉の扇)
ごく[御供] (名)「供物」の敬称。御供物。
ごくい[極意] (名)(1)至極。(2)奥義。おくの手。
こくう[虚空] (名)空。大空。天。
ごくうしよ[御供所] (名)神社などの御供物をととのえるところ。神厨。
こくかコツ…[国歌] (名)(1)その国民全体の斉唱する歌。「君が代」の類。(2)「和歌」に同じ。「国歌大観」
こくが[国衙] (名)国司の官庁。
こくがく[国学] (名)(1)わが国古来の文学・ことば・国史等を研究して、国民精神文化の粋をきわめようとする学問。その最も隆盛となったのは江戸時代であり、荷田春満・僧契沖・賀茂真淵・本居宣長らが国学の大家である。(2)平安時代に京都以外の諸国に設けて、郡司の子弟などを教育した学校。「大学寮」に対するもの。
こ[戸] (接尾)家を数えるのに用いる助数詞。十戸。
こくきコツ…[国記] (名)(1)その国の歴史の書。(2)わが国の古代に書かれた歴史の書。神皇正統記、三「国記・重宝は皆焼きほろびにけり」
こくげ[国解] (名)昔、諸国から太政官または所管の官庁に差し出す公文書。また、国民が国司などに訴える文書。古今著聞集、十七、変化「同じき十月十四日、国解を書きて落したりける帯を具して、国司に奉りたりけり」
ごくげつ[極月] (名)陰暦十二月の異称。
こくざう…ゾウ[国造] (名)「くにのみやつこ」に同じ。
こくさうゐん…ソウイン[穀倉院] (名)平安時代、朝廷の貯穀所。京都二条の南、朱雀の西にあった。年中の饗食・賑恤・学問料などに宛てた。源氏、桐壺「所所の饗など、内蔵寮・穀倉院など、おほやけごとにつかうまつれる、おろそかなることどもぞと、とりわきたる仰せごとありて、きよらを尽くしてつかうまつれり」(源氏の元服について)
こくざうゐん…ゾウイン[穀蔵院] (名)前項に同じ。
こくさくのきやう…ヨウ[告朔の?羊] (句)昔、中国で、天子が毎年の冬に、来年十二か月の暦と政令とを諸侯に頒布し、諸侯はこれを受けて祖先の廟に納めておき、毎年朔日(一日)に羊のいけにえを供え、廟に告げて、その月の暦と政令とを受けた、このいけにえの称。転じて、実益はないが、慣例上廃することのできないことにいう。たはれぐさ、上「告朔の?羊に同じく、もろこしにては捨てざるぞよき」
こくし[国司] (名)昔、地方自治のために各国に置き、その地方を管轄せしめた職。くにのつかさ。みこともち。
こくし[国師] (名)(1)奈良時代の僧官。諸国の国分寺に配し、その国の僧尼を監督し、国家の祈?をするもの。後世、講師と改称した。(2)天子・国家の師範たるべき僧侶の称号。わが国では天皇からこの称号を高僧に授けた。
こくし[黒子] (名)(1)ほくろ。(2)転じて、ごく小さな土地。
ご[期] (名)(1)時。折。期限。宇津保、蔵開、上「子うみたまふべきご近くなりぬれば」(2)死ぬ時。最期。末期。謡曲、土蜘蛛「きのふより心も弱り身も苦しみて、今はごを待つばかりなり」
こくしゆ[国守] (名)(1)国司の長官。くにのかみ。受領(ずりやう)。(2)江戸時代、国持の大名。
こくしゆ[国主] (名)(1)天子。増鏡、二、新島もり「みもすそ川の同じ流れとは申しながら、なほ、時の国主を守り給はすることは強きなめりとぞ」(2)江戸時代、一国の主。国守。
こくしゆ[国手] (名)「一国の技術の上手」の義。名医や碁打の名人などをいう。
ごくすゐのえん…スイ…[曲水の宴] (名)「きよくすゐのえん」に同じ。
こくせんやかつせん[国姓爺合戦] (戯曲名)近松門左衛門作の時代物浄瑠璃。明の遺臣■芝龍およびその子■成功(母は日本婦人)が明国の勢力回復を企てた事蹟を 脚色したもの。正徳五年(1715)初演。
こぐそく[小具足] (名)鎧の小手・脛当(すねあて)・脇楯(わきだて)等の総称。また、具足だけで鎧の胴を着ないこと。義経記、四「我が身は赤地の錦の直垂に、小具足ばかりにて、黒き馬の太く逞しきに」
ごくそつ[獄卒] (名)(1)地獄で亡者を苛責するという鬼。牛頭(ごづ)・馬頭(めづ)、五色の鬼などがいるという。平治物語、二、信頼降参事並最期事「獄卒のしもとは今こそ当たるらめ」(2)牢獄を守る人。(3)人をののしって言う語。
ごくたい[玉帯] (名)「たまのおび」「ごくのおび」に同じ。
こくたん[穀旦] (名)よい日。吉日。吉旦。
こくど[国帑] (名)国の財宝をおさめる蔵。転じて国の財産。
ご[御] (名)婦人の敬称。「伊勢の御」
ごくねちのさうやく…ソウ…[極熱の草薬] (名)「にんにく」の異称。源氏、帚木「ごくねちのさうやくをぶくして、いと臭きによりなむ、え対面賜はらぬ」
ごくのおび[玉の帯] (名)革帯(かくたい)の背部の飾りを白玉でつくったもの。参議または三位以上のものの着用。ごくたい。たまのおび。
こくび[小頸・衽] (名)「おくみ」の前の方の意という。
こくふ[国府] (名)昔、国司の政務をとった役所。国衙。国庁。のち、略して「こふ」といい、その所在地を「府中」と称した。今も、各地にその名が残っている。
こぐふねの[漕ぐ船の] (枕詞)船の縁から「浮く」「ほ」などに冠する。後撰、十一、恋三「こぐふねのうきたる恋もわれはするかな」新勅撰、十一「こぐふねのほには出でずも恋ひわたるかな」新拾遺、十二「こぐふねのほの見し人に恋ひやわたらむ」
こくぶんがく[国文学] (名)わが国に発生し発達したところの文学の総称。和歌・俳句・物語・日記・紀行・随筆・謡曲・狂言・浄瑠璃の類。
こくぶんじ[国分寺] (寺名)奈良時代、天平十三年(741)、聖武天皇の勅願国家鎮護のために諸国に命じて建立せられた寺。僧・尼の二種の寺がある。大和では東大寺を以て総国分僧寺とし、法華寺を以て総国分尼寺とした。諸国の国分寺の址は、今多く「国分」という名で呼ばれている。
こくみ (名)「こぶ」「いぼ」などの贅肉。祝詞、六月晦大祓「国つ罪とは、生膚断・白人・胡久美」
ごくらくじ[極楽寺] (寺名)(1)石清水八幡宮附属の寺。男山の麓にあった。徒然草、五十二段「極楽寺・高良などを拝みて、かばかりと心得て帰りにけり」(2)鎌倉市にある真言律宗の寺。正元元年(1259)建立。
ごくらくじのきりどほし…ドオシ[極楽寺の切通し] (地名)鎌倉市坂下から同市極楽寺門前に至る切通し。もと、西から鎌倉に入るには稲村が崎の海岸を通ったが、海水侵蝕のため通行不便となったので、鎌倉時代に、極楽寺の忍性和尚が開いたという切通し。太平記、十、稲村崎成二干潟一事「さるほどに、極楽寺の切通しへ向かはれたる大館二郎宗氏」
(名)松の枯れ葉。芭蕉の句「ごを焚いて手拭あぶる寒さかな」
ごくらくじやうど…ジヨウ…[極楽浄土] (名)仏教で、阿弥陀仏の居所たる浄土。すべてが円満で、生・死・寒・暑・憂悩のない楽土。ごくらく。ごくらくせかい。宇津保、俊蔭「その人は、極楽浄土の楽に琴を弾き合はせて遊ぶ人なり」
こぐらし[小暗し] (形、ク)少し暗い。ほのぐらい。
こぐらし[木暗し] (形、ク)木が茂って、あたりが暗い。
ごくらふ…ロウ[極﨟] (名)最も年功を積んだ者の意。六位の蔵人の古参者第一位の者をいう。「一﨟」ともいう。古今著聞集、十八、飲食「順徳院の御時、新蔵人源邦時分配をしける。極﨟以下とさぶらひにて、次第の事ども行ひけり。三献の後、一﨟判官藤原康光いひけるは」
こぐれ[木暗・木暮] (名)木陰の暗いところ。
ごぐんのあや[呉郡の綾] (名)綾の一種。中国の呉国、今の江蘇地方の名産。平家、一、我身栄花「楊州の金、荊州の珠、呉郡の綾、蜀江の錦、七珍万宝、一つとして欠けたることなし」
こけ (名)(1)苔。(2)「草」のこと。「こけの細道」とか「こけむす」とかいう場合の「こけ」は「苔」をいうのではなく、一般にいう「草」のことである。
こけ[虚仮] (名)(1)ばか。おろか。浮世床、一、下「やたらに、ちんぷんかんぷんばかり言つて、こけをおどしてゐたが」(2)歌などの意の浅はかなこと。鴨長明の無名抄、上「あまりに虚仮すぎていかにぞやと覚え侍る」(3)仏教では心と相との不調和なことをいう。
ごけい[五刑] (名)五種の刑。古くは墨(いれずみ)・?(はなそぎ)・?(あしきり)・宮・大辟(くびきり)・の五種。(「宮」は性器を切り取る刑)後世は笞・杖・徒・流・死の五種。太平記、二十三、土岐頼遠参二合御幸一致二狼藉一事「その罪を論ずるに、三族に行ひてもなほ足らず、五刑にくだしても何ぞ当たらむ」
ごけい[御禊] (名)「みそぎ」の敬称。天皇即位の後、大嘗会の前月に行われる御潔斎。とよのみそぎ。また、斎宮の御潔斎にもいう。
ご[御] (接頭)漢語に冠して敬意をあらわす語。御老人。御殿。御勉強。御丁寧。
こげつせう…シヨウ[胡月抄] (書名)正しくは「源氏物語胡月抄」という。江戸時代初期の国文学者北村季吟の著。延宝元年(1673)成る。「源氏物語」の注釈書として最も名高い。広く和漢の書にわたり、本文に引用した故事・古語を説明し、丁寧に従来の説を抄録し、花鳥余情・細流抄・明星抄・孟津抄なども参酌して、すこぶる精細に注釈し論証している。さらに親切に頭注や傍注を施し、後学に益するところが多大である。もちろん、今日から見て、多少の誤りのあるのは、やむを得ない。
ごけにん[御家人] (名)家人(けにん)の敬称。武家の臣。家の子。(2)江戸時代、御目見(おめみえ)以下の士。
こけのころも[苔の衣] (名)(1)苔を衣に見たてていう語。(2)僧侶の衣の称。後撰集、十七、雑三「世をそむく苔の衣はただ一重かさねばうとしいざふたり寝む 遍昭」
ごけぶん[後家分] (名)後室に対する扶持。平治物語、三、牛若奥州下りの事「今も後家分を得て乏しからであなるぞ」
ごけぶん[後家分] (名)その家の一門なみに取り扱われる身分。
こけら[■] (名)(1)木片。こっぱ。けずりくず。古今著聞集、十一、画図「ただ今散りたるこけらばかりにて、前に散りつもりたるなし」(2)檜などの材木を薄くへいだ板。板屋根などを葺くのに用いる。こば。そぎいた。
こけら[鱗] (名)うろこ。いろこ。こけ。
こけら[苔ら] (名)「苔」に同じ。蜻蛉日記「こけらついたる松の枝につけて」
こけるからとも (句)こき散らした枝とも。伊勢物語「いにしへのにほひはいづら桜花こけるからともなりにけるかな」
ごげん[語原] (名)ある語がどのようにして起ったかという原義。語の意義を考える上に必要なことではあるが、こじつけになりがちなものである。
ご[御] (接尾)人に関する語に付けて敬意をあらわす語。殿ご。ててご。姉ご。
ここ (代)(1)場所を指す近称代名詞。このところ。この国。(2)事物を差す近称代名詞。これ。このこと。この点。この場合。この世。(3)自称代名詞。われ。竹取「ここに使はる人にもなきに、願ひをかなふるうれしさ」同「ここにも心にもあらでかくまかるに、昇らむをだに見送り給へ」
こご[供御] (名)「くご」の訛。
ごこ[五鈷] (名)独鈷の類で、両端が五つに分かれてるもの。五鈷杵。古今著聞集、二、釈教「右の手に五鈷を持ち、左の手に一乗経を持つ」
ここうのざんげん[虎口の讒言] (句)虎の口のように人を害する恐ろしい讒言。平家、十一、腰越「思ひの外に虎口の讒言に依つて、莫大の勲功を黙(もだ)せられ、義経罪無うして科を蒙る」(腰越状の一節)
ごこくなはのかま…ナワ…[五石納の釜] (句)五石入れの釜。宇治拾遺、一「あさましと見たるほどに、五石なはの釜を五つ六つ舁ぎもて来て、庭に杭ども打ちて据ゑ渡したり」
ここし (形、シク)こどもらしい。おおようである。紫式部日記「ここしきさまうちしたり。宮いだき奉れり」
こごし (形、シク)けわしい。険岨である。万葉、[3-301]「磐が根のこごしき山を越えかねてねには泣くとも色に出でめやも」
こごしふゐ…シユウイ[古語拾遺] (書名)史書。一巻。斎部広成の著。大同年間(806-809)成る。平安時代の初期、斎部氏の衰えた時、天地開闢以降文武天皇の朝に至るまでの斎部氏の由緒・功績を、同家に伝わっていた旧辞によって録し、朝廷に愁訴した書。その中には、「記紀」に洩れた記事も多く、我が国の古代史の研究には一参考として尊重される。漢文で書かれている。
こごしよ[小御所] (名)(1)禁中、清涼殿の東北に当たる御殿。幕府の使者、所司代、諸大名などは、ここで謁見を賜わった。(2)将軍家の世子の住所。また、その世子の称。「大御所」の対。(3)室町時代、将軍参内の時の休息所。
ごこしよ[五鈷杵] (名)「ごこ」に同じ。
ごい[五噫] (名)中国、後漢の梁鴻が世事の非を嘆じた「五噫の歌」から転じて「悲しみ嘆く」意に用いる。太平記、二、長崎新左衛門慰意見事「持明院殿方の人人、案に相違して、五噫をうたふ者のみ多かりけり」
ここだ (副)多く。はなはだしく。万葉、[4-611]「今更に妹に逢はめやと思へかもここだわが胸おぼほしからむ 大伴家持」(「おぼおし」は「心が晴れない」)
ここだく (副)前項に同じ。万葉、[4-658]「思へども験(しるし)もなしと知るものをいかにここだく我が恋ひわたる」
ここち[心地] (名)(1)心持。気持。(2)思いはかること。考え。心。(3)気分の悪いこと。病気。水鏡、上「世の中のここちおこりて、人おほくわづらひき」
ここに (接続)前のことを言い終えて、次のことを言い起す時に用いる接続詞。そこで。かれ。古事記、上「ここに、いざなぎのみこと、桃子(もも)にのりたまはく」
ここにおいて (接続)そこで。この時に当たって。
ここのかのせく[九日の節供] (名)陰暦九月九日の節供。重陽。宇津保、楼上、上「九日の御せくにもて来たり」
ここのかのせち[九日の節] (名)前項に同じ。大鏡、八「相撲の節、九日の節はそれよりとまりたるなり」
ここのしな[九品] (名)「くほん」に同じ。古今著聞集、十三、哀傷「二つなくたのむちかひはここのしなのはちすの上の上もたがはず」
ここのそぢ…ジ[九十] (数)九十。九十歳。続後撰集、雑下「ここのそぢあまり悲しき別れかな長き齢(よはひ)と何たのみけむ」
ここのへ…エ[九重] (名)(1)禁中。天子に九門あるの義からいう。詞花集、一、春「いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重ににほひぬるかな 伊勢の大輔」(一条院の御時、奈良の八重桜を、人が禁中に奉った時の歌)(2)京都。みやこ。謡曲、田村「鄙の都路隔て来て、九重の春に急がむ」(3)九つ重なること。また、その重なったもの。後拾遺集、五、秋下「朝まだき八重咲く菊の九重に見ゆるは霜の置けるなりけり」
こ[海鼠] (名)なまこ。古事記、上「もろもろの魚ども、皆仕へまつらむと申す中に、こ申さず」
ごいかう…コウ[語意考] (書名)賀茂真淵の著。一巻。国語の意味を論じたもので、五十音図のこと、発音のこと、動詞の活用をはじめ、体・用・令・助のこと、十二か月の和語の意味などを述べたもの。明和六年(1769)成り、寛政元年(1789)刊。
ここのへにきこゆ…エ…[九重に聞ゆ] (句)京都中で名高い。都の人が皆知っている。平家、四、競「伊豆守仲綱の許に、九重に聞えたる名馬あり」
ここばく (副)「ここだ」「ここだく」に同じ。
こごひのもり…ゴイ…[子恋の森] (地名)歌枕の一。ほととぎすの名所。伊豆の国、 静岡県熱海市大字伊豆山にある伊豆神社の森をいう。枕草子、六「もりは、おほあらきの森、しのびの森、こごひの森」後拾遺集、十七、雑三「さつき闇こごひの森のほととぎす人知れずのみ鳴きわたるかな 藤原兼房」
ここめ (名)「しこめ」の訛か。恐ろしいもの。しこめ。妖怪。古今著聞集、十六、興言利口「鬼・ここめをも物ならず思へる武士は、恐ろしきものぞ」
ここもと (代)(1)自称代名詞。私。拙者。(2)場所を指す近称代名詞。ここ。このところ。源氏、須磨「波ただここもとに立ち来る心地して、涙落つるとも覚えぬに、枕浮くばかりになりにけり」
ここら (副)多く。はなはだ。ここだ。ここだく。竹取「我が子の仏、変化の人と申しながら、ここら大きさまで養ひ奉る志おろかならず」同「ここらの日ごろ思ひわび侍りつる心は、けふなむおちゐぬる」
こごる[凝る] (動、四)凍って凝り固まる。凝結する。
こころあがり[心上がり] (名)思い上がること。たかぶりおごること。枕草子、三「草は…おもだかも、名のをかしきなり。心あがりしけむと思ふに」=草は…沢瀉も名が面白いのである。大づらに高ぶっているのだろうと思うので。
こころあて[心当て] (名)(1)心で見当をつけること。当て推量。古今集、五、秋下「こころあてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花 凡河内躬恒」=当て推量で折ろうと思えば折ることもできよう、初霜が真白に置いて、霜と花とがいずれであるかまがようような白菊の花を。(2)心だのみにしていること。心で当てにしていること。
こころあひのかぜ…アイ…[心合の風] (句)わが心をよく知っていて、思う方へ吹いて行く風。また、思う方から吹いて来る風。催馬楽、道の口「みちのくの武生(たけふ)の国府(こふ)に我はありと、親には申したべ、心あひの風や」
こいそ[小磯] (地名)相模の国、神奈川県中郡大磯の西部の地。多くは、「大磯・小
磯」と続けていう。太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「足柄山のたうげより、大磯・小磯見おろして、袖にも波はこゆるぎの」
こころいらる[心いらる] (動、下二)心がいらだつ。神経がたかぶる。枕草子、三「あまり痩せからめきたるは、心いられたらむとおしはからる」=あまり痩せて干からびたような人は、(どうも)いらいらしている神経質の人のように思われる。
こころいられ[心いられ] (名)前項の連用形が名詞に転じた語。心がいらだつこと。心がいらいらすること。源氏、竹河「わがいと人笑はれなる心いられをかたへは目なれてあなづりそめられたると思ふも胸いたければ」
こころおきて[心おきて] (名)(1)心のもちかた。心の定め。大鏡、二、左大臣時平「右大臣は才世にすぐれ、めでたくおはしまし、御心おきてもことの外にかしこくおはします」源氏、帚木「わたくしざまの世に住まふべき心おきてを、思ひめぐらさむ方もいたり深く」(2)かねてから心に思い置いたこと。予期。栄花、月宴「朱雀院のて御心おきてを本意かなはせ給へるも、いとめでたし」
こころおくる[心後る] (動、下二)(1)心がにぶい。気がきかない。おろかである。源氏、帚木「その折につきなく目にもとまらぬなどを、おしはからずよみ出でたる、なかなか心おくれて見ゆ」(2)臆する心が生ずる。気おくれがする。
こころおこす[心起す] (動、四)(1)発心する。一念、発起する。宇治拾遺、四「その時、この盗人心おこして法師になりて」(2)何かの心を起す。何かをしようと思う。
こころがさ[心嵩] (名)思慮。深い考え。太平記、七、先帝船上臨幸事「家富み一族広うして、心がさある者にて」
こころぎも[心肝] (名)(1)「心」に同じ。雄略紀、二十三年八月「何ぞ心ぎもをつくして、みことのりすることねもごろならざらむや」(2)思慮。考え。大鏡、八「やをら引き隠してあるべかりけることを、こころぎもなく申すものかな」
こころげさう…ソウ[心仮粧] (名)心づくろいをすること。源氏、末摘花「世にめでられ給ふ御有様をゆかしきものに思ひきこえて心げさうしあへり」
こころげさう…ソウ[心懸想] (名)心のうちに恋い慕う情を起し、どきまぎすること。落窪物語「典薬の助、いつしかと心げさうしありきて、あこぎがゐたる所によりて」
こころことなり[心異なり] (形動、ナリ)(1)心が変わる。竹取「衣着つる人は、心ことになるなりといふ」(「衣」は「天の羽衣」)(2)特別な心である。源氏、桐壺「このみこ生まれ給ひてのちは、いと心ことに思ほしおきてたれば」
こいたじき[小板敷] (名)禁中の殿上の南西の小庭から御殿にのぼる処にある板敷の称。
徒然草、二十三段「こじとみ、小板敷・たかやりどなども、めでたくこそ聞ゆれ」
こころざま[心状] (名)心の状態。気だて。心情。
こころしらひ…シライ[心しらひ] (名)心づかい。注意。落窪物語「いとつきなげなるものから、心しらひの用意過ぎて、いとさかしらなり」(「つきなげ」は「不似合」)
こころしらふココロシラウ[心しらふ] (動、四)(1)よく知っている。よく通じている。継体紀、二十一年六月「正しく、直く、めぐみ、勇みて、つはものの事にこころしらへるはいま麁鹿火(あらかひ)の右に出づるものなし」(2)心づかいをする。注意する。源氏、葵「おとなしくして恥づかしうや思さむと、思ひやり深く心しらひて」
こころそらなり[心空なり] (形動、ナリ)(1)意識を失っている。うわのそらである。ぼんやりしている。夢中である。万葉、[11-2541]「徘徊(たもとほ)り往箕(ゆきみ)の里に妹を置きて心空なり土は踏めども」(2)心を奪われる。うっとりとする。謡曲、羽衣「及びなき身の眺めにも、心空なる景色かな」(この句は、後続拾遺集「いかならばなき世とか思ふ見るからに心空なる天の羽衣 円融院」からとったもの)
こころづから…ズカラ[心づから] (副)自分の心から。自発的に。後撰集、七、秋下「年ごとに雲路まどはぬかりがねは心づからや秋を知るらむ 凡河内躬恒」
こころづきなしココロズキナシ[心づきなし] (形、ク)いやに思う。いとわしい。源氏、帚木「常は少しそばそばしく、心づきなき人の、をりふしにつけて、出で栄えするやうもありかし」落窪物語「顔の見ぐるしう、鼻の穴よりは人通りぬべく吹きいららげて臥したるは心づきなく、愛敬なくなりて」
こころとげ[心疾げ] (名)性急らしいさま。敏捷そうなさま。神経質らしいさま。狭衣物語、三、中「心とげなる御気色」
こころながら[心ながら] (副)自分ながら。源氏、帚木「うらめしと思ふこともあらむと、心ながらおぼゆる折折も侍りしを」
こころなし[心なし] (形、ク)(1)思慮がない。情趣を解し得ない。徒然草、百四十二段「心なしと見ゆるものも、よき一言はいふものなり」新古今、四、秋上「心なき身にもあはれは知られけり鴨立つ沢の秋の夕ぐれ 西行法師」(2)無心である。千載集、六、冬「澄む水を心なしとはたれかいふ氷ぞ冬のはじめをも知る 大納言隆季」(3)思いやりがない。同情心がない。万葉、[1-17]「しばしばも、見放(みさ)けむ山を、こころなく、雲の、隠さふべしや」
こころにくし[心にくし] (形、ク)(1)おくゆかしい。何となく心がひかれる。源氏、桐壺「しのびやかに、心にくき限りの女房よたりいつたりさぶらはせ給ひて、御物語せさせ給ふなりけり」(2)気がねである。気おくれがする。伊勢物語「はじめこそ心にくくもつくりけれ。今はうちとけて」
こいちでう…ジヨウ[小一条] (名)次項参照。枕草子、一「家は……東三条・小六条・小一条」
こころのやみ[心の闇] (句)理非の分別に迷うこと。思案にくれること。古今集、十三、恋三「かきくらす心のやみにまどひにき夢うつつとは世人さだめよ 在原業平」
こころば[心葉] (名)(1)こころ。こころばえ。(2)飾りにつける造花・生花・松葉・梅の枝の類。宇津保、蔵開、上「くだものの四折敷、敷物、心葉いと清らなり」(2)大嘗会の神事に奉仕する官人が、かざしとして冠につける金銀製の梅の枝。
こころばへ…バエ[心ばへ] (1)気だて。性質。竹取「心ばへなど、あてやかにうつくしかりつることを見ならひて」(2)意味。趣意。風情。おもむき。「歌の心ばへ」
こころはゆ[心栄ゆ] (動、下二)愉快になる。得意になる。源氏、帚木「心はえながら、鼻のわたりをこづきて語りなす」
こころまうけ…モウケ[心設け] (名)心に待ち設けること。心がまえ。期待。準備。源氏、須磨「親しう仕うまつる限りは御供にまゐるべき心まうけして」
こころやむ[心病む] (動、四)(1)気に病む。煩悶する。伊勢物語「いといたう心やみけり」(2)怒る。うらむ。
こころやり[心やり] (名)なぐさみ。気ばらし。
こころやる[心やる] (動、四)(1)なぐさめる。思いを晴らす。(2)心得る。承知する。狂言、宗論「さう心やれ」
こころゆかし[心ゆかし] (形、シク)おくゆかしい。また、心の奥底が知りたい。
こころゆきはつ[心ゆきはつ] (句)心にかかる憂いがすっかり晴れる。心残りがない。竹取「かぐや姫の心ゆきはてて」
こいちでうゐん…ジヨウイン[小一条院] (人名)敦明親王・藤原師尹(もろただ)などの別称。前項の場合は、藤原師尹の邸。近衛の南、洞院の西の「小一条」にその邸があったのによる。
こころゆるび[心弛び] (名)心が弛むこと。気が休まること。
こころよし (形、ク)(1)楽しい。うれしい。愉快だ。(2)気持ちがよい。きみがよい。(3)気がいい。お人よしだ。枕草子、二「人にあなづらるるもの、家の北おもて、あまり心よきと人に知られたる人」(4)気だてが優美である。源氏、玉髪「心よくかいひそめたる者に女君も思したれど」(5)病気が快方に向かう。狂言、武悪「気色も段段と快うござる」
こころよせ[心寄せ] (名)(1)心をその方へ寄せること。ひいきにすること。源氏、榊「院の御心よせもあればなるべし」(2)愛好すること。源氏、早蕨「例の御心よせなる梅の香をめでおはする」
こころをかしココロオカシ[心をかし] (形、シク)心に面白いと思う。愛すべきだ。かわいい。源氏、若菜、下「から猫の…同じやうなるものなれど、心をかしく人馴れたるは、あやしくなつかしきものになむ侍る」
ここんちよもんしふ…シユウ[古今著聞集] (署名)二十巻。橘成季の著。建長六年(1254)成る。鎌倉時代の説話文学集で、神■・釈教・政道・文学などを三十部に分類して、わが国古今の伝説・実話などを収む。
ござ[御座] (名)(1)「座」の敬語。御座(ぎよざ)。おましどころ。源氏、桐壺「冠者の御座、引入れの大臣の御座、御前にあり」(2)おわしますこと。謡曲、大原御幸「しばらくこの所に御座をなされ、御帰りを御待ちあらうずるにて候ふ」(3)貴人の敷く上等の畳。枕草子、十「ことさらに御座といふたたみのさまにて、かうらいなどいと  きよらなり」
こさい[巨細] (名)大きい事と小さい事と。細大。委細。
ござい[五罪] (名)「五刑」に同じ。
こざう…ゾウ[故造] (名)ことさらに造り設けること。捏造。
こざかし[小賢し] (形、シク)ちょっと利口である。わるがしこい。
こいふす (動、四)ころがり伏す。ころげて伏す。万葉、[17-3962]「うつせみの、世の人なれば、うち靡き、床にこいふし、痛けくの、日に日(け)にまさる」
こざかどの[小坂殿] (名)京都の綾の小路にある妙法院の別殿。また、ここにお住まいになった尊性・性恵の両親王をもいう。徒然草、十段「綾の小路の宮のおはします小坂殿の棟に、いつぞや縄を引かれたりしかば」
こさき[小前] (名)平安時代、殿上人の警蹕の称。その前を追う声が、上達部の警蹕の声より短いのでいう。「大前」の対。枕草子、四「近衛の御門より左衛門の陣に入り給ふ上達部のさきども、殿上人のは短ければ、おほさき・こさきと聞きつけてさわぐ」
こざくらをきにかへす…オ…カエス[小桜を黄に返す] (句)小桜革すなわち地を藍染にし、白く小さな桜の花形を染め出した革を、黄染にした鎧革。つまり、小桜が黄色になり、地全体は萌黄色になったもの。平家、一、御輿振「唱(となふ)その日の装束には、きちんの直垂に小桜を黄にかへしたる鎧着て」
こざくらをどし…オドシ[小桜縅] (名)「小桜革縅」ともいう。小桜革を細く裁って、鎧の札(さね)を縅したもの。
ござのま[御座の間] (名)貴人の御座所。また、貴人の着座している正面の柱間。
ござぶね[御座船] (名)天子・公卿・将軍・大名などの乗る船。太平記、先帝船上臨幸事「さるほどに、追手の船一艘、御座船に追ひついて、屋形の中に乗り移り」
ござめれ (句)「にこそあるめれ」の約転。であるようだ。であるらしい。謡曲、三井寺「まさしく、我が子の千満殿ござめれ」
ござん[五山] (名)五つの名高い寺。(1)京都の五山は、天龍寺・相国寺・建仁寺・東福寺・万寿寺。(2)鎌倉の五山は、建長寺・円覚寺・寿福寺・浄智寺・浄明寺。
ござんなれ (句)「にこそあるなれ」の約転。一説、「御座あるなれ」の約。(1)にてあるよな。であるな。保元物語、二「さては一家の郎等ござんなれ」(2)いざ来たれ。よしきた。■丸、二「きやつこそ丑の時参り、ござんなれ、大内の有様たづねむ」
ござんぶんがく[五山文学] (名)吉野時代から室町時代の末期にわたる約二百年間における京都五山の僧の禅宗文学の称で、日記・記録・史伝・漢詩の類。五山の僧は、戦国争乱の時代にひとり超然として学芸の研究に従い、これが次の江戸時代の文運発展に大きな影響を与えた。
こいまろぶ (動、四)ころげまわる。古事記、上「そのみなとの蒲のはなを取りて、敷き散らして、その上にこいまろびてば、なが身もとの膚のごと必ず癒えなむものぞ」
ござんめれ (句)「にこそあるめれ」の約転。一説、「御座あるめれ」の約。であるようだ。であるらしい。ござめれ。曾我物語、五「これに控へたるは、曾我の五郎が乗りたる馬ござんめれ」
こし[層] (名)三重の塔、五重の塔、二階の家、三階の家などの各階層の義。階。層。級。舒明紀、十一年十二月「この月、百済川のほとりの九重(ここのこし)の塔を建つ」
こし[輿] (名)乗り物の名。屋形の内に人または神体をのせ、二本の轅を肩にかつぎ上げて行くもの。天皇・神体などをのせる場合には特に「みこし」ともいう。平家、灌頂、大原御幸「それより御輿にぞ召されける」
こし[越] (地名)山などを越して行く地につけた名称。(1)出雲の国、島根県簸川郡の中部、神戸川に沿う地。今の古志村の辺。太古、やまたのおろちの住んでいたという地。古事記、上「ここにこしのやまたのをろちなも、年ごとに来て食ふなる」(2)北陸道地方の総称。越前・越中・越後などの地方。
こじ[巾子] (名)呉音「こんし」の略転。冠の、頂の上に高く突き出た中空の部分。ここへ髪を入れる。宇津保、祭の使「冠の破れひしげて、巾子の限りある、尻切れの尻の破れたるを穿きて」(巾子だけの残った冠の意)
こじ[小師] (名)小法師。子供の僧。平家、七、経正都落「中にも幼少の時、小師でおはせし大納言法印行慶と申ししは」
こじ[故事] (名)昔あった事実。また、先例。
こじ[居士] (名)(1)学徳があって官に仕えない人。資産があり、徳の高い人。処士。(2)出家せずに、在家のまま仏教を修行する人。(3)在家の男子の、死亡後に法名の下につける敬称。
ごし[呉子] (人名)中国、戦国時代の衛の人。呉起。兵法家で、同名の兵法書を著わしている。保元物語、一「堅き陣を破ること、呉子・孫子が難しとする処を得」(為朝が)
こしかた[来し方] (句)「きしかた」ともいう。過ぎ去った時。過去。また、過ぎて来た方向。通って来た場所。
こいんず[胡飲酒] (名)舞楽の名。中国で、胡国の王が酒に酔って舞うさまの舞い。こんじゆ。古今著聞集、十三、祝言「右大弁、笙を吹きけり。次に古鳥蘇、次に胡飲酒」
こしき[甑] (名)飯をふかす具。せいろう。徒然草、六十一段「御産の時、甑おとすことは定まれることにはあらず」(屋根からこしきを落すのである。甑と子敷(胞衣)とをかけた迷信的風習)
こじき[古事記] (書名)太安万侶撰。三巻。和銅五年(712)に成る。神代から推古天皇の朝に至るまでの歴史的伝承をしるした我が国最古の書。文武天皇が稗田阿礼に誦習せしめた帝紀・旧辞の類をもととし、元明天皇の勅を奉じて安万侶が撰したもので、当時まだ仮名文字がなかったため、漢字だけで国語の音を写し、よく古語のすがたを伝え、また、つとめて伝承のままをしるそうとしたもので、史書とはいうが、叙事詩のような美を発揮している。
こじきでん[古事記伝] (書名)本居宣長の著。四十八巻。「古事記」の注釈書。「伝」は「春秋左氏伝」のごとく「注釈」の義。寛政十年(1798)成る。宣長が三十五年の歳月を費やした研究で、国文研究上最大業績の一であるが、今日から見れば幾多の欠点があるのはやむを得ない。
こしきぶのないし[小式部の内侍] (人名)平安時代の女流歌人。橘道貞と和泉式部との間に生まれ、一条天皇の中宮上東門院に仕えた。「大江山いくのの道の遠ければまだふみも見ず天の橋立」の歌で名高い。生没年未詳。
こしげし[木茂し] (形、ク)木立がしげっている。
こしごえ[腰越] (地名)相模の国、神奈川県鎌倉郡の西南海岸。もと、東海道から鎌倉に入る門戸に当たり、往時は駅であった。太平記、十、本間自害事「三万余騎の兵共、須臾のほどに分かれ靡き、腰越までぞ引きたりける」
こしごえじやう…ジヨウ[腰越状] (名)寿永四年(1185)五月二十四日、源義経が腰越から大江広元に贈って、頼朝の誤解をとき、許しを請うた文。しかし、頼朝の怒りはとけず、六月、義経はさびしく去った。「平家、十一、腰越」にくわしい。
こしざし[腰差] (名)祿として賜わる巻絹。腰に差して退出するのでいう。増鏡、七、おりゐる雲「袿・細長・こしざしなど、品品に随ひてけぢめあるべし」
こししやうじ…シヨウ…[腰障子] (名)障子の下部すなわち腰張の部分の高さが一尺内外のものの称。
こしだい[輿台] (名)輿を地に置く時、轅を載せる台。四本足の机のような形のもの。
こう[公] (名)(1)大臣。(2)ひろく貴人の尊称。きみ。(3)おおやけ。おもてむき。
こしだか[腰高] (1)「たかつき」に同じ。(2)腰の高い器物または障子などの称。
こじだん[古事談] (書名)六巻。源顕兼の著ともいうが未詳。鎌倉時代の初期に成る。種種の書から伝説を集めたもので、たとえば孝謙天皇が道鏡を寵し給うたこと、在原業平が二条の后を盗んだこと、清少納言が零落して、「駿馬の骨を買わないか」と言ったというような雑話が収められている。
こしぢ…ジ[越路] (地名)北陸道の古称。⇒こし(越)。
こじつ[故実] (名)昔の儀式・法制・服飾・作法などの伝統的な実例。多くは「有職故実」と熟して用いられる。
こしでん[古史伝] (書名)平田篤胤の著。三十二巻。天保年間(1804頃)成る。宣長の「古事記伝」にならい、自署「古史成文」について、くわしく注釈したもの。
こじとみ[小蔀] (名)(1)小さい蔀のある窓。(2)禁中、清涼殿の東南隅の間にある蔀の小窓。主上がここから殿上の間をごらんになる処という。徒然草、二十三段「小蔀・小坂殿・高遺戸なども、めでたくこそ聞ゆれ」
こじとる[こじ取る] (動、四)根からこぎ取る。根こぎにする。景行紀、十二年九月「磯津山(しつやま)の賢木をこじりとりて、上枝には八握剣をとりかけ」
こしのくに[越の国] (地名)(1)出雲の国の地名。こし(1)に同じ。出雲風土記、神門部「その時、古志の国の人ども来たりて堤をつくり」(2)北陸道の総称。特に越後の国(新潟県)の称。古事記、上「こしのくにに、さかしめをありときかして」こしのみち[越の道](地名)北陸道の古称。こしぢ。
こしば[小柴] (名)(1)雑木の小枝。万葉、[20-4350]「庭中のあすはの神にこしばさしあれは斎はむ帰り来までに」(2)「小柴垣」の略。源氏、若菜「同じこしばなれど、うるはしうしわたして」
こしばがき[小柴垣] (名)雑木の小枝でつくった垣根。源氏、若紫「夕暮れのいたうかすみたるにまぎれて、かのこしばがきのもとに立ち出で給ふ」
こう[侯] (名)大名。諸侯。
ごじふおんづ…ジユウ…ズ[五十音図] (名)国語の五十の諸音をあらわす仮名を音声の分類によって排列した図の称。すなわち、ア・イ・ウ・エ・オの五段と、ア・カ・サ・タ・ナ・ハ・マヤ・ラ・ワの十行とを組み合わせたもの。現代かなづかいでは、ワ行の「ゐ」「ゑ」の二字を用いることはないが、この二字が五十音図から除かれたものと思ってはならない。
ごじふにるゐ…ジユウ…ルイ[五十二類] (名)釈迦入滅の時、四方から来集したという人類以下禽獣虫魚など五十二種の生物の称。保元物語、一、法皇崩御の事「かの二月中(きさらぎなか)の五日の入滅には、五十二類愁への色を顕はし、この七月二日の崩御には、九重の上下悲しみを含めり」
ごしふゐわかしふゴシユウイワカシユウ[後拾遺和歌集] (書名)二十一代集の一。第四番めの勅撰集。二十巻。藤原通俊が白河天皇の勅を受け、九年を費やして応徳三年(1086)に撰進したもの。
こしぼその[腰細の] (枕詞)「じが蜂」すなわち「すがる」は腰が細いので、「すがる」に冠して、柳腰の美人にたとえる。万葉、[9-1738]「こしぼそのすがるをとめの、そのかほの、いつくしけきに、花のごと、ゑみて立てれば」
こしやう…シヨウ[小姓] (名)主人に近侍して雑用をつとめる少年。お小姓。
こしやう…シヨウ[胡床] (名)床机(しやうぎ)に同じ。
ごしやう…シヨウ[加後生] (名)(1)後の世に生まれかわること。また、その世。来世。(2)来世の安楽。「後生を願ふ」(3)転じて、折り入って事を頼むときに用いる語。「後生なれば」
ごじやう…ジヨウ[五常] (名)人の常に守るべき五つの道。仁・義・礼・智・信。または、義・慈・友・恭・孝。平家、二、教訓「五常を乱らず、礼儀を正しうし給ふ人なれば」
こじやうらふ…ジヨウロウ[小上■] (名)公卿の女の女官となった者の称。禁秘抄、下「善悪を謂はず、公卿の女を小上■と号す」
ごしゆいん[御朱印] (名)室町・江戸の時代に、将軍家や大名が政務執行の文書に朱肉をもって押した印。転じて朱印を押した文書。折り焚く柴の記、中、堂上寺社御朱印「諸大名に御朱印を頒ち下さるべきにて、某が草を召さる」
こ[蚕] (名)かいこ。万葉、[11-2495]「たらちねの母が飼ふこのまゆごもりこもれる妹を見むよしもがな」
こういん[後胤] (名)数代の後の子。子孫。後裔。平家、一、祗園精舎「桓武天皇第五の皇子一品式部卿葛原親王九代の後胤、讃岐守正盛が孫刑部卿忠盛の朝臣の嫡男」
ごしゆのあくびやう…ビヨウ[五種の悪病] (句)耳・口・眼・鼻・頭の病をいう。平家、二、善光寺炎上「五種の悪病起つて、人僧多くほろびし時」
こしゆひ…ユイ[腰結] (名)袴着・裳着の式の時、腰の紐を結ぶ役。尊長や徳望のある人を選んでこれに当てる。源氏、行幸「この御腰結にはかの大臣(おとど)をなむ」
こしゆふコシユウ[腰結ふ] (動、四)袴着・裳着の式の時、腰の紐を結ぶ。増鏡、十三、今日のひかげ「東二条院御こしゆはせ給ひて」
ごしよ[御所] (名)(1)内裏。(2)主上。(3)上皇・三后・皇子の御住所。(4)大臣家以上の住所。また、その人の敬称。ごすさま。(5)将軍またはその一族の住所。また、その人。
ごしよ[御所] (寺名)「御室の御所」の略で、仁和寺のこと。宇多法皇が仁和寺に住まわれ、その後も代代法親王がここに住まわれたのでいう。徒然草、五十四段「紅葉散らしかけなど、思ひよらぬさまにして、御所へ参りて、児(ちご)をそそのかし出でにけり」
ごしよぐるま[御所車] (名)屋形のある牛車の称。
ごしよどころ[御書所] (名)昔、宮中で書物を検察し保管する職。
こしよろし[此しよろし] (句)「し」は強めて指示する助詞。これはよろしい。これぞよし。古事記、上「おきつとり、むなみるとき、はただきも、こしよろし」=沖の水鳥がするように、胸を張って両袖をぱたぱたやってみると、これはよく似合ってよろしい。
こしらず[子知らず・子不知] (地名)越後の国、新潟県西頸城郡の日本海岸に面した険路。多くは「親知らず・子知らず」と続けて用いる。昔、そこを通る時は、親は子を、子は親を、かえりみるいとまもないほど危険であったことからいう。⇒おやしらず。奥の細道「けふは親しらず・子しらず・犬戻り・駒がへしなどいふ北国の難処を越えて疲れ侍れば」
こしらふコシラウ (動、下二)(1)なぐさめる。蜻蛉日記「人の聞かむも、うたて物狂ほしければ、問ひさして、とかうこしらへてあるに」(2)よいようにとりつくろう。とりなす。源氏、夕顔「事のさま思ひめぐらしてとなむこしらへ置き侍りつる」(3)さそう。あざむく。
こうえい[後裔] (名)数代の後の子。子孫。後裔。平家、一、祗園精舎「桓武天皇第五の皇子一品式部卿葛原親王九代の後胤、讃岐守正盛が孫刑部卿忠盛の朝臣の嫡男」
こしらふコシラウ[拵ふ] (動、下二)(1)構えつくる。建設する。(2)つくる。製造する。(3)工夫する。支度する。ととのえる。(4)かざる。つくろう。(5)いつわる。
こじり[鐺] (名)刀の鞘の末端の飾り。金属や角などで飾る。
こじり[?] (名)たるきの端の飾り。多くは金属で飾る。
こじるゐゑん…ルイエン[古事類苑] (書名)百科辞彙。五十一冊。大正三年(1914)完成。上古から慶応三年までの制度文物および社会百般の事項をわが国の典籍中から抄出したもので、我が国唯一の官撰百科大辞典である。明治十二年、西村茂樹の建議により文部省内にその編集掛を設けて編集を始め、数回の職制改革を経、三十五年の歳月を費して神宮司庁によって完成された。次の三十部門から成る。天・歳・時・地・神祗・帝王・官位・封祿・政治・法律・泉貨・称量・外交・兵事・武技・方技・宗教・文学・礼式・楽舞・人・姓名・産業・服飾・飲食・居処・器用・遊戯・動物・植物・金石。
こしゐ…イ[腰居] (名)腰の立たない不具者。いざり。古今著聞集、十二、楡盗「小さき釜の失せたりけるを、隣なりける腰居が盗みたりけりと言ひつぎありて」
こしをりすずめ…オリ…[腰折り雀] (名)「宇治拾遺物語」にある説話。正直婆さんが石に打たれて腰を折った雀を助けてやると、雀がそのお礼にひさごの実をくわえて来た。そのたねからひさごがみのって、中から多くの米が出る。これを聞いた隣の欲張り婆さんが、わざわざ一羽の雀の腰を打って逃がしてやると、雀のくわえて来たひさごの実からは虻や蜂が出て、ついにその婆さんを刺し殺してしまったという説話。のちの「舌切り雀」は、この説話に基づくという。
こしをるコシオル[腰折る] (動、下二)(1)表現がまずい。文章が拙劣である。⇒こしをれうた。紫式部日記「また空のけしきもうちさわぎてなむとて腰折れたることや書きまぜたりけむ」(2)人に屈服する。津国女夫池、三「少知に腰は折るまじ」
こしをれ…オレ[腰折れ] (名)(1)腰のかがんだ老人。古今著聞集、十六、興言利口「ならさかのさかしき道をいかにしてこしをれどもの越えて来つらむ」(2)「こしをれうた」または「こしをれぶみ」の略。
こしをれうた…オレ…[腰折れ歌] (名)短歌の第三句を腰といい、その第三句と第四句との続きの悪い短歌のことで、まずい歌の意。また、自分の短歌を謙遜してもいう。こしをれ。
こしをれぶみ…オレ…[腰折れ文] (名)前項から転じた語で、まずい文章。また、自分の文章を謙遜してもいう。こしをれ。
こうえふ…ヨウ[後葉] (名)後の世。後代。子孫。後胤。古事記、序文「偽りを削り、実(まこと)を定め、後葉につたへむとす」
ごしん[護身] (名)(1)一身を守ること。(2)密教加持の法をもって身を守ること。源氏、若紫「ひじり動きもえせねど、とかくしてごしんまゐらせ給ふ」
ごじん[吾人] (代)自称代名詞。元来は複数なのであるが、単数の意にも用いる。われわれ。われら。わたくし。
ごしんざう…ゾウ[御新造] (名)身分ある人の新婦を呼ぶ敬称。転じて、新婦でなくともいう。
こす[小簾] (名)すだれ。みす。をす。金槐集「秋近くなるしるしにや玉すだれこすのま通し風の涼しさ」
こず (動、上二)根ごと掘り取る。根引きにする。古事記、上「天のかぐやまのいほつまさきを根こじにこじて」(この語は、連用形の「こじ」以外に用例がないから、上二段か四段かまたは上一段か決定し難いが、ひとます上二段としておく)
ごす[期す] (動、サ変)(1)期待する。徒然草、九十二段「道を学する人、夕べには朝あらむことを思ひ、朝には夕べあらむことを思ひて、重ねてねんごろに修せむことを期す」(2)覚悟する。謡曲、安宅「かねて期したることなれば、惜しき命にあらねども」
ごすゐ…スイ[五衰] (名)(1)天人の死に臨んであらわす五つの衰相。一は衣が塵埃に染み、二は花鬘が萎悴し、三は両腋に汗が流れ、四は臭気が生じ、五はその座を楽しまないという。(倶舎論)謡曲、羽衣「涙の露の玉鬘、かざしの花もしをしをと、天人の五衰も目の前に見えてあさましや」(2)戒律を犯した人の受ける五つの衰相。平家、灌頂、六道「いまだ五衰の悲しみを免れず」
ごせ[後世] (名)「ごしやう」の(1)(2)に同じ。
ごぜ[御前] (名)(1)「御前駆」の略。みさきばらひ。みさきおひ。今昔物語、三十一、五「いろいろにさうぞきたる指貫姿のごぜども」(2)「ごぜん」の略。貴婦人または単に女の敬称。姫ごぜ・伯母ごぜのように、その称呼の下につけてもいう。
ごぜ[瞽女] (名)歌をうたい、三味線を弾きなどして物を請う盲目の女。
ごうがしや[恆河沙] (名)「恆河」は印度のガンジス川。恆河の無数の沙(すな)のことで、無数の数量の意にいう語。宇津保、俊蔭「一寸をもちて空しき土を叩くに、一万恆河沙の宝湧き出づべき木なり」
ごせく[御節供] (名)「せちく」に同じ。
こせぢ…ジ[巨勢路] (地名)大和の国、奈良県高市郡の西部にある巨勢へ通ずる道。軽の大路の続き道であろう。万葉、[1-50]「わが作る、日のみかどに、知らぬ国、依り巨勢道ゆ、わが国は、常世にならむ」
ごせち[五節] (名)(1)五節の舞い。(2)五節の舞姫。枕草子、一「ずりやうの五せちなどいだすをり」
ごせちどころ[五節所] (名)五節の舞いの時、舞姫の控えている所。常寧殿(じやうねいでん)内に設けられる。紫式部日記「このごろの公達は、ただ五節所のをかしきことをかたる」
ごせちどの[五節殿] (名)「じやうねいでん」に同じ。栄花、松下伎「中宮は登花殿に、ごせちどのかけてぞおはしましける」
ごせちのえんすゐ…スイ[五節の淵酔] (句)五節の舞いの翌日、殿上で催す宴会。太平記、十二、大内裏造営事「五節の淵酔、大嘗会はこの所にて行はる」
ごせちのこころみ[五節の試み] (句)「五節の御前の試み」または「五節の帳台の試み」ともいう。五節の舞いの前に、天子が舞姫の舞いまたはその音楽の試楽を検せられること。宇津保、俊蔭「その年の五節の試みの夜、后の宮よりはじめ奉りて、多くの女御・更衣まうのぼり給へるにも」
ごせちのまひ…マイ[五節の舞ひ] (名)昔、毎年十一月の中(なか)の丑・寅・卯・辰の四日にわたって宮中で行われた女楽の公事において、五人の舞姫の舞う舞い。のちには、大嘗祭にだけ行うようになった。略して「五節」という。天武天皇が吉野の離宮におわしました時、琴をおひきになると、天女が天降って羽衣の袖を五たびひるがえして舞いを奏したという故事にもとづく。謡曲、吉野夫人「そのいにしへの五節の舞ひ、小忌の衣の羽袖をかえし、月の夜遊を見せ申さむ」
ごせつく[五節供] (名)一年五度の節供の総称。正月七日・三月三日・五月五日・七月七日・九月九日。⇒せつく。
ごせつけ[五摂家] (名)平安時代以後、摂政・関白たるべき家柄。藤原氏一族のうち、近衛・鷹司・九条・二条・一条の五家をいう。
こうがん[紅顔] (名)若若しく、血色のつややかな顔。和漢朗詠集、無常「朝(あした)に紅顔あつて世路に誇れども、暮(ゆふべ)に白骨となつて郊原に朽ちぬ 義孝少将」
こせほあん[小瀬甫庵] (人名)江戸時代初期の文人。名は道喜。美濃の人。はじめ豊臣秀次に仕え、秀次の没後雲州候に仕え、また加州候に仕えた。寛永七年(1630)没、年七十六。主著、太閤記・信長記・天正軍記。
こせやま[巨勢山] (地名)奈良県高市郡の旧腋上(わきがみ)と高市とを分界する丘陵。万葉、[1-54]「こせやまのつらつらつばきつらつらに見つつ思ふな巨勢の春野を」
ごぜん[御前] (名)(1)高貴の方の前。「御前試合」(2)貴人の尊称。また、婦人の尊称。「父御前」「静御前」
ごぜん[御前](代)(1)自分の妻や他の婦人に対していう対称代名詞。宇治拾遺、十四「御前だち、さはいたく笑ひ給ひてわび給ふなよ」(2)江戸時代、諸大名・旗本等に対し、その家臣からいう対称代名詞。その奥方を「御前様」という。
ごせんわかしふ…シユウ[後撰和歌集] (書名)二十一代集の一。第二番めの勅撰集。二十巻。村上天皇の天暦五年(951)、勅を奉じて、大中臣能宣・清原元輔・源順・紀時文・坂上望城らが撰進したもの。「古今集」に洩れた古歌および「古今集」以後の和歌およそ千四百余首を収む。
こそ (助詞)(1)とりたてて、強く指示する意をあらわす副助詞。この助詞をうけて文を結ぶ場合の活用語は已然形である。古事記、下「うべしこそ問ひたまへ、まこそに問ひたまへ」万葉、[1-1]「そらみつやまとの国は、おしなべてわれこそ居れ、しきなべてわれこそ坐(ま)せ」(2)請い願う意をあらわす終助詞。「社」の字の用いるのは、神に祈願する意から戯れに用いたものという。この場合は用言の連用形につけて言い切る。万葉、[1-15]「わたつみのとよはた雲に入日さしこよひの月夜(つくよ)あきらけくこそ」同、[13-3283]「今更に恋ふとも君に遭はめやも寝る夜を闕(お)ちず夢(いめ)に見えこそ」
こそ (接尾)人の称呼の下につける敬称。「さま」などの意。父こそ。大殿こそ。君こそ。
こぞ (名)(1)昨年。去年。古今集、一、春上「年の内に春は来にけりひととせをこぞとやいはむ今年とやいはむ 在原元方」=十二月のうちに立春となってしまった。あとの幾日かを去年といったらよいか、今年といったらよいか。(2)昨夜。昨晩。ゆうべ。允恭紀、二十三年三月「かた泣きに我が泣く妻、こぞこそ、やすく膚触れ」
こぞ[此ぞ] (句)これぞ。これこそ。貫之集「ほととぎす鳴くとも知らずあやめ草こぞくすりびのしるしなりける」
こそぐる (動、四)くすぐる。狂言、子盗人「あの余念のない顔は。ちとこそぐりませう」
ごさうまんぴつ…ソウ……[梧窓漫筆] (書名)六巻。江戸時代の漢学者太田錦城の随筆集。学芸・道徳などに関する雑説。文政五年(1822)成る。つづいて「梧窓漫筆後編」「梧窓漫筆三編」を出している。
こうがんせう…シヨウ[厚顔抄] (書名)僧契沖の著。三巻。徳川光圀の依頼により「日本書紀」および「古事記」の中にある歌をぬき出して注釈したもの。巻一・巻二に「書紀」の歌百二十七首、巻三に「古事記」の歌五十六首を収む。元禄四年(1691)成る。
こそだい[姑蘇台] (名)中国、春秋時代に呉王夫差の造った台の名。西施という美人を越王から贈られ、これを受けて、この台を築き、西施を侍らせて游宴したという。(史記、呉世家)平家、七、聖主臨幸「強呉たちまちに亡びて、姑蘇台の露、■棘に移り、暴奏すでに衰へて、咸陽宮の煙、睥睨を隠しけむも、かくやとぞ覚えける」
こそで[小袖] (名)(1)「大袖」に対する語。男女の着る、袖の小さい下着。また、礼服の大袖の下に着る、袖の小さい着物。(2)絹布の綿入の称。「ぬのこ」に対する語。
こそはゆし (形、ク)(1)くすぐったい。(2)きまりがわるい。
こぞめ[濃染] (名)色濃く染めてあること。万葉、[11-2828]「くれなゐの濃染の衣(きぬ)を下に着ば人の見らくににほひ出でむかも」
こぞりて (副)みんな。のこらず。全部。伊勢物語「舟こぞりて泣きにけり」=舟に乗っていた人がみんな泣いた。
こぞりは[小反刃] (名)刃が少しそっている意で、小さななぎなたをいう。
こぞる[挙る] (動、四)ことごとく集まる。ことごとく集める。
こたい[古体] (名)古風。昔風。大鏡、六、内大臣道隆「弘徽殿の上の御局の方より通りて二間(ふたま)になむ侍ひ給ひけることこそ承りしか。古体に侍るにや。女のあまりに才かしこきはものあしと人の申すなるに」
こだい[古代] (名)(1)古い時代。古昔。(2)古めかしいこと。現代的でないこと。古風。更級日記「母いみじかりし古代の人にて、初瀬には、あなおそろし、奈良坂にて人にとられなば、いかがせむ」
こだいかえう…ヨウ[古代歌謡] (名)「古事記」「日本書紀」「風土記」などの中に存する歌謡をいう。
こうき[鴻基] (名)大事業の基礎。大切なもと。古事記、序文「これすなはち邦家の経緯、王化の鴻基なり」
ごだいどうわ[五大童話] (名)「日本五大童話」ともいう。桃太郎・猿蟹合戦・舌切雀・花咲爺・かちかち山の五つをいう。これらの童話は、戦争・仇討・奇計などの内容を盛る点その他から考えて、だいたい室町時代の戦国争乱の世に生じたものと見られている。
こたか[小鷹] (名)「大鷹」の対。(1)はやぶさ・はいだか・つみ・しぎ・うずら等の総称。(2)しぎ・うずらなどをとる鷹狩の称。こたかがり。徒然草、百七十四段「小鷹によき犬、大鷹につかひぬれば小鷹にわろくなるといふ」
こたかがり[小鷹狩] (名)しぎ・うずらなどの小鳥をとる鷹狩。秋に行う。小鷹。
こだかし[小高し] (形、ク)少し高い。小高い。古事記、下「やまとの、このたけちに、こだかるいちのつかさ」=大和の、この高市の、小高いところにある、市のつかさ。(「小高る」は「小高し」の連体形である。
こだかし[木高し] (形、ク)梢が高い。万葉、[3-452]「妹として二人作りしわがしまは木高く繁くなりにけるかも」(「しま」は「庭園」「築山」)
こだくみ[木工・木匠] (名)(1)大工。番匠。(2)次項の略。
こだくみのつかさ[木工寮] (名)「もくれう」に同じ。
こだち[木立] (名)群がり生い立っている木。徒然草、十段「今めかしく、きららかならねど、木立ものふりて」
ごたち[御達] (名)「御」は婦人の敬称。その複数。女官たち。伊勢物語「昔、男、…御達なりける人をあひ知り」
こだて[こ楯] (名)(1)「こ」は接頭語。一説に「木」という。楯のかわりとして身を寄せるもの。源平盛衰記、三十三、兼康板蔵城戦事「前には柴垣を掻き、後ろには大木をこだてにして、敵を待つところに」(2)身をおおい隠すもの。博多小女郎浪枕、上「あひの舳際(へきり)を小楯にて、時分をうかがひ、さあ来いと」
こうぎ[公儀] (名)(1)おもてむき。太平記、三十九、諸大臣?二道朝一事「これは心中
の憤りにて、公儀に出すべき咎にあらず」(2)おおやけ。公家。また、武家政府の尊称。
こだに (名)蔦の一種。今の「まめつた」で、木や岩などにはいまわる。その葉は秋に紅葉する。枕草子、三「草は…ひるむしろ・こけ・こだに、雪間のあを草」源氏、宿木「こだになど、すこし引き取らせたまひて」
こたび[此度] (名・副)このたび。今度。今回。こたみ。
こたみ[此度] (名・副)前項の転。意は同じ。
こだる[木垂る] (動、四)老木となって、枝が垂れ下る。万葉、[3-310]「ひむがしの市の植木のこだるまで逢はず久しみうべ恋ひにけり」
こだる (動、下二)(1)傾く。くずれる。しなだれる。宇治拾遺、一、鬼に瘤取らるる事「横座の鬼、盃を左の手に持ちて、ゑみこだれたるさま、ただこの世の人のごとし」(2)ひるむ。たゆむ。室町殿日記「みかた弱りて、軍こだれかかれば」
ごだんのほふ…ホウ[五壇の法] (句)「五大尊の御修法」または「五壇の御修法」ともいう。東・西・南・北・中央の五箇所に壇を設け、これに五大尊明王を勧請して修する御修法。天子または国家の重大事、たとえば兵乱鎮定とか息災増益などのために行う。平家、六、横田河原合戦「調伏のために、五壇の法承つて行ひける」
こち〔東風〕 (名)東の方から吹く風。春風。大鏡、二、左大臣時平「こち吹かばにほひおこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ 菅原道真」
こち[此方] (代)(1)場所を指す近称代名詞。ここ。こっち。また、「ここへ」の意にも用いる。古事記、下「くさかべの、こちの山」更級日記「いづら、猫は。こちゐてこ」=猫はどこにいるの。ここへ連れていらっしゃい。(2)自称代名詞。われ。おのれ。われわれ。狂言、二人大名「そちが急がばこちも急ぐ」
ごち[五智] (名)恩・道・命・足・幸、または時・難・命・退・足の五つを知ること。「命」は天命、「足」は足ること。「退」は退譲。謡曲、安宅「兜巾(ときん)といつぱ五智の宝冠なり」
こちかぜ[東風] (名)「こち(東風)」に同じ。
こうぎ[公議] (名)(1)公平な議論。(2)公儀の評議。官辺の評定。太平記、十三、北山
殿謀反「出雲の国へ流さるべしと公儀に定まりにけり」
こちく[胡竹] (名)「ちござさ」の一種。せいの低い竹。笛に作る。また、胡竹で作った笛。蜻蛉日記「雲井よりこちくの声を聞くなべにさしぐむばかり見ゆる月かげ」(「胡竹」を「此方来」にかけている)
こちごち[此方此方] (代)あちこち。そちこち。をちこち。万葉、[3-319]「なまよみの甲斐の国、うち寄する駿河の国と、こちごちの国のみ中ゆ、出で立てる、ふじの高ねは」
こちごちし (形、シク)無骨である。ごつごつしている。無風流である。土佐日記「舟君の病者(やまうど)、もとよりこちごちしき人にて、かうやうのこと更に知らざりけり」(「かうやうのこと」は「かようなこと」すなわち、和歌の風流事)
ごぢそう…ジ…[護持僧・御持僧] (名)天子の身を護るという如意輪の本尊に祈って、天子の御身の御平安を祈る僧。宮中に候して祈る僧もあり、各寺にいて祈る僧もある。大鏡、一、五十六代「その御時の護持僧は智証大師におはします」平家、二、座主流し「如意輪の御本尊を召し返いて、御持僧を改易せらる」
こちたし (形、ク)「言甚(こといた)し」の約。(1)人の口が多くて、うるさい。わずらわしい。万葉、[11-2535]「おほよそのわざとは思はじ我ゆゑに人にこちたくいはれしものを」(2)多い。甚だしい。ことごとしい。大げさである。枕草子、一「菊の露もこちたくそぼち、おほひたる綿などもいたくぬれ」源氏、宿木「殿上人などいと多くひきつぎ給へる御いきほひこちたきを見るに」
こちなし (形、ク)無骨である。無作法である。無風流である。こちごちし。古今著聞集、七、能書「名をば大納言大別当とぞ言ひける。こちなかりける名なりかし」
ごちによらい[五智如来] (名)五智を円満に具足する如来。⇒ごち(五智)。
こちのかへし…カエシ[東風の返し] (句)次項に同じ。後拾遺、十九、雑五「吹き返すこちのかへしは身にしみき都の花しるべと思ふに 康資王母」(次項の歌の返歌)
こちのかへしのかぜ…カエシ…[東風の返しの風] (句)東風の吹いたのち、その返しに吹く西風。こちのかへし。後拾遺、十九、雑五「にほひきや都の花はあづまぢの東風の返しの風につけしは 源兼俊母」
ごぢやう…ジヨウ[御諚] (名)貴人の命令。御命令。平家、十一、那須与一「外れむをば存じ候はず御諚で候へば仕つてこそみ候はめとて、御前をまかり立ち」
こうきゆう[後宮] (名)天子の住居せられる前殿の後ろにある宮殿。后・妃などの住まれる奥むきの殿舎。転じて、ここに住まれる后・妃および后・妃に奉仕する宮人の称。
ごちやくこ…テヤヅ…[御着袴] (名)「はかまぎ」の敬称。天皇・皇太子・親王等の場合にいう。
こちゆうのてんち[壺中の天地] (句)昔、中国の仙人壺公が薬壺の中に入って、金殿玉楼中に入ったと同じく旨酒甘肴の歓楽を尽くしたという故事(漢書、方術伝)から、別天地・仙境の意となる。壺中。壺中の天。和漢朗詠集、仙家「壺中の天地は乾坤の外、夢裏の身名は旦暮の間、元?」=自分の住む仙境は全くこの世界の外にあるから、この浮世における身の名誉や利欲などは、朝に夕べをはかられぬはかないものだ。(この場合の「壺中の天地」は「幽居」の意)
ごぢよく…ジヨク[五濁] (名)仏教で、五種のけがれ。劫濁・見濁・煩悩濁・衆生濁・命濁の五つ。五滓。五渾。謡曲、田村「三十三身の秋の月、五濁の水に影きよし」
ごぢよくあくせ…ジヨク…[五濁悪世] (名)五濁のある悪い世の中。末世。狭衣、三、上「げに、この五ぢよくあくせには余らせ給ひけり」
ごちよくろ[御直廬] (名)禁中における摂政・関白の控え所。平家、一、殿下乗合「主上明年御元服御加冠拝官の御定めのために、しばらく御直廬にあるべきにて」
ごぢん…ジン[五塵] (名)仏教で、衆生の真性を汚す煩悩の源となる五つのもの。色・声・香・味・触の称。五境。謡曲、江口「実相無漏の大海に、五塵・六欲の風は吹かねども」
ごづ…ズ[牛頭] (名)地獄の獄卒で、牛頭人身のもの。平家、五、文覚被レ流「黄泉の旅に出でなむ後は、牛頭・馬頭(めづ)の責めをば免れ給はじものをと」
こつか[谷下] (名)「こくか」の音便。仏教で、谷底の石を砕く修行をいう。謡曲、自然居土「身をこつかに砕きても、彼の者を助けむためなり」
こづか…ズカ[小柄] (名)刀に附属する小刀。春波楼筆記「生きたる鹿の耳元を小づかを以て衝き破り、血をすすりければ」
こつがい[乞丐] (名)こじき。ものもらい。方丈記「おのづから都に出でて、身のこつがいとなれることを恥づといへども、かへりてここにをる時は他の俗塵に馳することを憐れむ」
こ[木] (名)木(き)。古事記、上「かぐ山のうねをのこのもとにます、み名はなきさはめの神」同、下「竹の根の根だる宮、この根の根ばふ宮」
こうきよ[薨去] (名)親王および三位以上の人の死。
こつけいぼん[滑稽本] (名)江戸時代の小説の一種。酒落本に系統を引き、滑稽を主とした作品。一九の「東海道中膝栗毛」、三馬の「浮世風呂」「浮世床」の類。製本が半紙本と小本との中間の大きさであったので中本(ちゆうほん)ともいう。
こつじき[乞食] (名)(1)人の家の門に立って食を請う僧。釈迦在世の当初から行われた。托鉢。(2)こじき。ものもらい。こつがい。
ごづせんゴズ…[牛頭山] (地名)印度の摩羅耶山の称。その形が牛の頭に似ているところからいうと。
ごづせんだんゴズ…[牛頭栴檀] (名)印度の牛頭山に生ずる栴檀の木。また、その木から製した香。麝香に似て、かんばしく、一切の病を除くという。太平記、二十四、三宅荻野謀叛事「預り人怪しみ驚きて、その跡を見るに、馨香(けいきやう)、座にとどまりて、あたかも牛頭栴檀のにほひのごとし」
こつぜんと[忽然と] (副)たちまち。にわかに。ふと。
こづたふコズタウ[木伝ふ] (動、四)木の枝から枝へと伝わり移る。古今集、二、春下「木伝へばおのが羽風に散る花を誰におほせてここら鳴くらむ 素性法師」(誰に罪をきせて)
こつちやう…チヨウ[骨張・骨頂] (名)(1)主張すること。意地を張ること。折り焚く柴の記、中、村上領訴訟議「かの余党ら、以ての外に骨張し」(2)転じて、張本の義となり、さらに最上・至極・随一の義となる。生玉心中、上「嘉平次様といふ人はうそつきの骨頂」
こづつ…ズツ[小筒] (名)小銃。鳥銃。「大筒」の対。
こづていコズ…[特牛] (名)牡牛。ことひ。ことひうし。
ごづてんわうゴズ…ノウ[牛頭天王] (神名)仏教で、印度の北、九相国の吉祥園の王。舎衛国の祗園精舎を守る神。わが国では、薬師如来の化身と称し、すさのおの命に垂迹し給うといい、京都の祗園、尾張の津島等に祀る。
こうぎよ[薨御] (名)親王・女院・摂家・大臣の死。
こつなし[骨無し] (形、ク)無骨である。こちなし。こちごちし。大鏡、三、太政大臣実頼「すこしこつなく思し召さるれど、さりとてあるべきことならねば、書きてまかんで給ふに」。
こづのうちたえコズ…[去豆の打絶] (地名)「うちたえ」は、国引伝説において、国を引いた綱が、そこで絶えたことを意味する。「こづ」は地名。今の島根県簸川郡北浜村大字小津附近の称。出雲風土記、意宇郡「国来国来と引き来縫へる国は、こづのうちたえよりして、やほにきつきのみさきなり」⇒やほにきつきのみさき。
こつび[忽微] (名)極めてわずかなこと。駿台雑話、二、天下の宝「天は運動の物なり。運動の人をもて候せずしては、そのきざしの忽微なるを覚えず」
こつぱふ…ポウ[骨法] (名)礼儀・作法。略して「骨」ともいう。源平盛衰記、十三、高倉宮信連合戦「衛府の官をけがす侍に縄つけむなど申し行ひつること、無下に骨法を知らざりけり」
こづみ…ズミ[木屑] (名)木の屑。塵芥。万葉、[7-1137]「宇治の人の譬(たとへ)の網代われならば今は依らまし木屑ならずとも」
こづみなす…ズミ…[木屑なす] (枕詞)「木の屑」のようにの意。海上に漂う木の屑は波のために海岸に打ち寄せられるので「寄る」に冠する。万葉、[11-2724]「秋風の千江(ちえ)の浦回(うらみ)のこづみなす心はよりぬ後は知らねど」
こづむコズム (動、四)(1)片寄る。傾く。偏する。古今著聞集、十、相撲強力「馬の差縄の先をむづと踏まへけり。踏まへられて掻きこづみてやすやすと止まりにけり」(2)筋肉が凝る。「肩、こづむ」
ごづめ…ズメ[後詰・後攻] (名)(1)先陣に代わるため予備として後に控えている軍勢。うしろづめ。(2)敵軍をその背後から攻めること。また、その軍隊。うしろづめ。ごぜめ。
こて[籠手・小手] (名)(1)鎧の具。両方の腕のおおうもの。平治物語、二、待賢門の軍「紺の直垂に、黒糸縅の腹巻に、左右の小手をさして」(2)弓を射る時に用いる具。革で作り、左の臂に掛けるもの。ゆごて。
ごてい[五帝] (名)中国上代の五帝王の名。黄帝・??・帝■・帝堯・帝舜。異説が多い。平治物語、一、信頼信西不快「惟みれば三皇・五帝の国を治め」
こうけい[公卿] (名)⇒くぎやう(公卿)
ごでうのさんみ…ジヨウ…[五条の三位] (人名)藤原俊成の別称。
ごでうのだいり…ジヨウ…[五条の内裏] (名)京都の五条の北、大宮の東にあった亀山天皇の皇居。文永七年(1270)に炎上。徒然草、二百三十段「五条の内裏には、ばけものありけり」
こてうはい…チヨウ…[小朝拝] (名)元日に、殿上人だけ、清涼殿の東庭で拝賀する儀式。朝拝のない年に行う。
こてん[古典] (名)昔のすぐれた書物。「昔」の意味をどこまでとするかは、極めてむずかしい。考えようによっては、幸田露伴作の「五重の塔」や樋口一葉作の「たけくらべ」なども、今日から見て「古典」の概念に入るといえるが、一般的には、明治以前のものをいう。
こと[言] ことば。古事記、上「その妹に、をみなをこと先きだちてふすはずとのりたまひき」
ごと[如] (助動・語幹)「ごとし」の語幹。「ごとく」の意に用いる。古事記、上「あしかびのごと萌えあがる物によりて成りませる神のみ名は、うましあしかびひこぢの神」
ことあげ[言挙・言揚] (名)特に言いたてること。揚言。古事記、中「これ、ことあげしてのりたまはく」万葉、[13-3253]「葦原の瑞穂の国は神ながら言挙せぬ国」
こといだす[こと出だす] (動、四)ことばを出す。喧嘩をする。大鏡、五、太政大臣伊尹「前の日、こといださせ給へりし度のことぞかし」(喧嘩をしたことをいう)
こといみ[言忌] (名)不吉のことばを避けて慎むこと。十六夜日記「言忌しながら涙のこぼるるを」
ことうけ[言承] (名)うけあう返事。承諾。徒然草、百四十一段「あづま人こそ、いひつることはたのまるれ。都の人は、ことうけのみよくて実(まこと)なし」
こうし[孔子] (人名)中国、春秋時代の聖人。世界四聖の一。名は丘、字は仲尼。魯の
人。仁を理想の道徳として諸侯を説いたが用いられず、経書の編述に従い、子弟を教育した。周の敬王四十一年、紀元前四七九没、年七十二。
ごとうしざん[後藤芝山] (人名)江戸時代の儒者。名は世鈞。讃岐高松藩の儒官。漢文の訓、後藤点の創始者。天明二年(1782)没、年六十一。主著、職原抄考証。
ことおく (動、四)指図する。古今著聞集、十二、偸盗「山だちの主領とおぼしきもの、ことおきて候ひありけるを」
ことおちず[事落ちず] (句)粗漏なく。祝詞、大嘗祭「待ち斎(ゆまは)り仕へまつれるみてぐらを、神主・はふりら請けて、事落ちず捧げ持ちて奉れと宣る」
ことかた[異方] (名)異なる方。他の場所。枕草子、五「あさましきもの…はづしたる矢の、もて離れて、ことかたへ行きたる」
ことぐさ[言種] (名)(1)いいぐさ。くちぐせ。古今著聞集、十八、飲食「中の関白は、かく酒を好みたまひて、常のことぐさに、極楽世界に按祭使(あぜち)なくば、我また往生すべからずとぞ仰せられける」⇒あぜち。(2)いいわけ、口実。枕草子、四「あぢきなきもの…むつかしきこともあれば、いかでまかでなむといふことぐさをして」=つまらぬ、いやなこと…気にいらないことでもあると、どうかしてさがりたいと、口実を設けて。(3)うわさのたね。評判の材料。心中天の網島「明日は世上のことぐさに、紙屋治兵衛が心中と、仇名散りゆく桜木に」
ごとくだいじ[後徳大寺] (人名)藤原実定の別称。
ごとくだいじのおとど[後徳大寺の大臣] (人名)藤原実定の別称。その項を見よ。徒然草、十段「後徳大寺のおとどの、寝殿に鳶ゐさせじとて、縄を張られたりけるを、西行が見て」
ことくに[異国] (名)(1)別の地方。他の土地。宇治拾遺、四「おのが国にはあらで、ことくにに田を作りけるが」(2)外国。異邦。とつくに。源氏、常夏「広くことくにのことを知らぬ女のためとなむおぼゆる」
ことごころ[異心] (名)(1)他のことを思う心。ほかの考え。源氏、手習「姫宮をおき奉りたまひて、世にことごころおはせじ」(2)ふたごころ。あだしごころ。伊勢物語「昔、男女、いとかしこく思ひかはして、こと心なかりけり」
ことごと[異事] (名)異なる事。別の事。蜻蛉日記「このごろはことごとなく、明くれば言ひ、暮るれば嘆きて」
こうしつ[後室] (名)(1)家の中の後ろの方にある室。(2)身分ある人の未亡人の称。
ことごと (副)ことごとく。みんな。古事記、上「いましは、そのともがらのありのまにまにことごとゐて来て、この島より気多(けた)の崎まで、皆列(な)み伏しわたれ」万葉、[1-29]「たまだすき、うねびの山の、橿原の、ひじりの御代ゆ、生(あ)れましし、神のことごと、つがの木の、いやつぎつぎに、天の下知らしめししを」
ことごとし[事事し] (形、シク)大げさである。ぎょうぎょうしい。源氏、帚木「光源氏、名のみことごとしう言ひ消たれ給ふとが多かなるに」
ことごとに (副)ことごとく。みんな。ことごと。古事記、上「あらぶる神のおとなひ、さばへなす皆わき、よろづの物のわざはひことごとにおこりき」
ことごとに[異異に] (副)別別に。後拾遺、一、春上「梅の花香はことごとに匂はねどうすく濃くこそ色は咲き(見え)けれ 清原元輔」
ことさけを (枕詞)「殊酒」の義であろう。「よい酒」を押し滴らす意から「おしたる」に冠する。(原文の「琴酒」の字にとらわれてはならない)万葉、[16-3875]「ことさけをおしたる小野ゆ出づる水、ぬるくは出でず」
ことさへぐ…サエグ[言さへぐ] (枕詞)「ことさへぐ」は諸説があるが、要するに外国人のことばの通じない意である。そこで、「から」「くだら」などに冠する。万葉、[2-135]「ことさへぐ韓(から)の崎なるいくりにぞ、深海松(ふかみる)生ふる」同、[2-199]「ことさへぐ百済(くだら)の原ゆ神葬(はふ)り、はふりいまして」
ことざま[異様] (名)(1)異常の有様。へんな姿。源氏、榊「かたちのことざまにうたてげに変はりて侍らば、いかが思さるべきと聞え給へば」(2)異なる方面。他の人。源氏、葵「ただいまは、ことざまに分くる御心もなくて」(3)あだし心。心変わり。伊勢物語「ねんごろに言ひ契りける女の、ことざまになりにければ」
ことざま[事様] (名)物事の様子。有様。徒然草、十段「大方は、家居にこそ、ことざまは推し量らるれ」同、三十二段「よき程にて出で給ひぬれど、なほことざまの優におぼえて、物の隠れよりしばし見ゐたるに」
ことざまし[事醒まし] (名)興味をそぐこと。源氏、紅葉賀「これらに面白さの尽きにければ、ことごと目もうつらず、かへりてはことざましにやありけむ」
ことさむ[事醒む] (動、下二)興がさめる。徒然草、十一段「大きなる柑子の木の、枝もたわわになりたるが、まはりをきびしくかこひたりしこそ、少しことさめて、この木なからましかばと覚えしか」
こうしや[巧者] (名)(1)物事に熟練していること。上手。(2)わざに巧みな人。巧手。
ことさやぐ[言さやぐ] (枕詞)「ことさへぐ」に同じ。謡曲、白楽天「むつかしや、ことさやぐ唐人(からびと)なれば、おことばをも、とても聞きも知らばこそ」
ことさらぶ[殊更ぶ] (動、上二)わざとらしい。源氏、帚木「さすがに忍びて笑ひなどするけはひ、ことさらびたり」
ことじりしふ…シユウ[琴後集] (書名)「きんごしふ」に同じ。
ことじりのおきな[琴後の翁] (人名)村田春海の別称。
ことそぐ〔事殺ぐ〕 (動、四)事を省く。省略する。
ことだつ[事立つ] (動、四)常と変わったことをする。きわだつ。伊勢物語「睦月(むつき)なればことだつとて大御酒たまひけり」
ことだつ[言立つ] (動、下二)誓って言う。ことあげする。万葉、[18-4094]「海行かば水漬(みづ)くかばね、山行かば草むすかばね、大君の辺(へ)にこそ死なめ、かへりみはせじ、と言立て」
ことだて[言立て] (名)誓って言うこと。揚言。万葉、[18-4094]「大伴と佐伯(さへき)の氏は、人の祖(おや)の立つることだて」
ことだま[言霊] (名)言語の中にやどる霊魂。上代の人は言語の霊妙不可思議な作用を神霊の力と信じていた。万葉、[5-894]「神代より言ひ伝(つ)て来らく、そらみつやまとの国は、すめがみのいつくしき国、ことだまの幸(さき)はふ国と語りつぎ言ひつがひけり」
ことだまの[言霊の] (枕詞)言語の妙用は限りがない意から、多い意の「八十(やそ)」に冠する。万葉、[11-2506]「ことだまのやそのちまたに夕占(ゆふけ)問ふ占正(うらまさ)に告る妹はあひ依らむ」
ごうじや[恆沙] (名)「恆河沙」の略。謡曲、小鍛冶「さあらば十方恆沙の諸神、只今の宗近に力を合はせてたび給へ」
ことぢ…ジ[琴柱] (句)琴の胴の上に立てて絃を強く張るに用いる具。これを左右に移動させて音を調節する。
ことじににかはす…ジ…ニカワ…[琴柱に膠す] (名)琴柱を膠で固定せしめては音の調節が不可能であるから、転じて、物事に拘泥すること、融通のきかぬことをいう。
ことつく (動、下二)いいわけの方便とする。かこつける。大鏡、六、右大臣道兼「暑きにことつけて、御簾どもあげ渡して、御念誦などもし給はず」
ことつぐ[言告ぐ] (動、下二)言い告げる。伝言する。万葉、[8-1506]「ふるさとのならしの丘のほととぎす言告げやりしいかに告げきや 大伴田村大嬢」
ことづつコトズツ[言伝つ] (動、下二)ことずける。伝言する。ことつぐ。古今集、三、夏「やよや待て山ほととぎすことづてむわれ世の中にすみわびぬとよ みくにのまち」(ほととぎすは、この世とあの世とを往復する鳥と見られていたので)
ことで[言出] (名)ことばに出ること。また、ことばに出すこと。蜻蛉日記「聞ゆべき人は今日のこと知りなむと、ことでして」
ことと[事と] (副)その事と特にとりたてて。とりわけて。特に。源氏、桐壺「取り立てて、はかばかしき御うしろみしなければ、こととある時は、なほよりどころなく心細げなり」
ことど[言跡] (名)離別または旅立などの時の別れのことば。古事記、上「その石を中に置きて、あひ対(む)き立たしてことどをわたす時に」万葉、[19-4251]「たまほこの道に出で立ち往く我は君がことどを負ひてし行かむ 大伴家持」
こととふコトトウ[言問ふ] (動、四)(1)ものをいう。話す。祝詞、六月晦大祓「言問ひし磐根・樹根立、草の片葉(かきは)をも語(こと)やめて」(2)たずねる。問う。古今集、九、覇旅「名にし負はばいざこととはむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと 在原業平」(3)おとずれる。訪問する。平家、灌頂、大原御幸「僅かに言問ふものとては、みねに木伝ふ猿の声」
ことなぐし (名)「事無薬」の意で、「酒」を意味する。古事記、中「すすこりが、かみしみきに、われゑひにけり、ことなぐし、ゑぐしに、われゑひにけり」=すすこりがつくった酒に私は酔った。事無薬、歓喜薬のうま酒に私は酔ったわい。
こうしやう…シヨウ[工匠] (名)大工。職人。たくみ。
ことなしぐさ[事無草] (名)思うことなしという草。また、「忍草」の異称。ただし、「枕草子」には「ことなしぐさ」と「しのぶぐさ」とを並べかかげている。枕草子、三「草は…ことなしぐさは思ふことなきにやあらむと思ふもをかし」
ことなしび[事無しび] (名)何の事もなげなこと。平凡。無造作。枕草子、十二「ことなしびにまかせてなどはあらず、心とどめて書く」=何の言うべきこともないのにまかせて無造作に書くのではなくて、心をこめて書く。
ことなしぶ[事無しぶ] (動、上二)なにげないふうをする。知らぬふりをする。古今集、十三、恋三「村鳥の立ちにし我が名今更にことなしぶともしるしあらめや」=こんなに浮名が立ってしまっては、知らない顔をしていたとて何の効果があろうか。(「村鳥の」は「立つ」の枕詞)
ことなほすコトナオス[言直す] (動、四)ことばでさとし導いて正しく直くする。祝詞、大殿祭「神たちのいすろごひ荒れびますを、言直し和(やは)しまして」
ことならば (句)(1)こんなことなら。古今集、二、春下「ことならば咲かずやはあらむ桜花見るわれさへにしづごころなし 紀貫之」(2)できることなら。源氏、横笛「笛竹に吹きよる風のことならば末のよ長き音に伝へなむ」
ことなり[異なり] (形動、ナリ)(1)ちがっている。変わっている。同じくない。源氏、柏木「いとどしく春雨かと見ゆるまで、軒のしづくにことならず」(2)すぐれている。格別である。徒然草、百九十段「異なることなき女を、よしと思ひ定めてこそ添ひゐたらめと、いやしくも推し量られ」
ことなる[事成る] (動、四)(1)事が成立する。約束などができあがる。万葉、[9-1740]「わたつみの神の女に、たまさかに、い漕ぎ向かひ、あひとぶらひ、ことなりしかば、かき結び、常世に至り」(2)支度がととのう。準備ができあがる。枕草子、九「いかにぞや、事成りぬやなどいへば、まだ無期(むご)などいらへて、御輿・腰輿などもてかへる」
ことにがし[事苦し] (形、ク)事が、にがにがしい。
ことにがる[事にがる] (動、四)興がさめる。古今著聞集、六、管絃歌舞「用枝(もちしげ)は乗るべからず。ことにがりなむず」
こどねり[小舎人] (名)蔵人所に属し、殿上人に使われるこども。こどねりわらは。
こうしよ[苟且] (名)かりそめ。なおざり。まにあわせ。駿台雑話、二「この心にては、たとひ学問しても苟且因循して行に敏きことあたはねば」(「因循」は「ぐずぐずすること」)
こどねりわらは…ワラワ[小舎人童] (名)前項に同じ。大鏡、一「小舎人童大犬丸ぞかし」
ことのかたりごと[事の語言] (句)上古、語部などが一つの物語を語り終った時、はやしことばのように言った語。古事記、上「いしたふや、あまはせづかひ、ことのかたりごとも、こをば」(「こをば」は「これが」の意)
ことのは[言の葉] (名)(1)ことば。竹取「まことかと聞きて見つればことの葉を飾れる玉の枝にぞありける」(2)「和歌」のこと。古今集、序「やまと歌は人の心を種として、よろづのことのはとぞなれりける」
ことのはぐさ[言の葉ぐさ](名)ものいうたね。いいぐさ。
ことのまま (神社名)遠江の国、静岡県小笠郡日坂町にある神社。枕草子、十「やしろは…ことのままの明神、いとたのもし」十六夜日記「二十四日、ひるになりて、佐野(さや)の中山越ゆ。ことのままとかやいふやしろのほど、紅葉いと盛りにおもしろし。山のかげにて、嵐も及ばぬなんめり」
ことはコトワ[事は] (句)同じことなら。なるべくは。赤染衛門集「沖中の水はいとどはぬるからむことはまな湯を人の汲めかし」
ことば[言葉] (名)意味を有する音声。言語。また、それを文字に書いたもの。
ことばがき[詞書] (名)(1)和歌・俳句などのまえがき。徒然草、百三十八段「古き歌の詞書に、枯れたる葵にさして遣はしけるとも侍り」(2)絵巻物などの説明文。(3)絵本の絵の中の人物の言うことばを書いた文。
ことはかり[事計り] (名)てだて。思慮。処置。計画。万葉、[4-756]「よそにゐて恋ふるは苦しわぎもこを継ぎて相見むことはかりせよ 大伴田村大嬢」
ことばだたかひ…ダタカイ[言葉戦い] (名)口で言う争い。言いあらそい。
ごとばてんわう…ノウ[後鳥羽天皇] (天皇名)第八十二代の天皇。高倉天皇の皇子。承久の変で隠岐に遷され、延応元年(1239)その地で崩御。御年、五十九。御在位十三年。和歌の道に秀でさせられ、「新古今集」に多くの御製が収められている。
こうず[困ず] (動、サ変)困る。悩む。苦しむ。疲れる。増鏡、二十、月草の花「夜も大殿ごもらぬ日数へて、さすがにいたう困じ給ひにけり」(おつかれになったこと)
ことばのたまのを…オ[詞の玉緒] (書名)本居宣長の著。六巻。安永八年(1779)成る。わが国の「てにをは」すなわち助詞の性質および用法をくわしく説明した書。
ことばのやちまた[詞の八衢] (書名)本居春庭の著。二巻。文化三年(1806)成る。主として、動詞の活用について研究した書。
ことひコトイ[特牛] (名)次項に同じ。うけらが花、五、恋「思ふことやまとのことひのくび木には堪へぬばかりに積もるとを知れ」(大和の牡牛のこと)
ことひうしコトイ…[特牛] (名)「ここた負ひうし」の略という。頑強な牡牛。ことひ。ことひのうし。
ことひうしのコトイ…[特牛の] (枕詞)強健な牡牛が租米を負うて屯倉(みやけ)に運ぶことから「三宅」に冠する。万葉、[9-1780]「ことひうしの三宅の埼に指し向かふ鹿島の埼に」
ことひのうしコトイ…[特牛] (名)「ことひうし」に同じ。万葉、[16-3838]「わぎもこが額(ひたひ)に生ふるすぐろくのことひのうしのくらの上の瘡(かさ)」
ことびと[異人] (名)別の人。他人。
ことぶき[寿] (名)(1)祝い。祝言。(2)いのち。年齢。(3)ながいき。長命。
ことぶく[寿く] (動、四)ことばで祝う。賀す。
ことほがひ…ホガイ (名)次項の延音。次項に同じ。
こ[鉤] (名)かぎ。御簾を巻き上げて懸けるかぎ。枕草子「御簾(みす)の帽額(もかう)のあげたるこのきはやかなるも、けざやかに見ゆ」
こうず[薨ず] (動、サ変)皇太子・親王・女御・大臣の死にいう。
ことほぎ[寿・言祝] (名)ことばで祝うこと。祝賀。ことぶき。ことほがひ。
ことほぐ[寿ぐ・言祝ぐ] (動、四)ことばで祝う。賀す。ことぶく。古事記、中「かれ、ことほぎて、かしこし、命のまにまに易へまつらむとまをしき」
ことひコトイ[特牛] (名)次項に同じ。うけらが花、五、恋「思ふことやまとのことひのくび木には堪へぬばかりに積もるとを知れ」(大和の牡牛のこと)
ことひうしコトイ…[特牛] (名)「ここた負ひうし」の略という。頑強な牡牛。ことひ。ことひのうし。
ことひうしのコトイ…[特牛の] (名)「ここた負ひうし」の略という。頑強な牡牛。ことひ。(枕詞)強健な牡牛が租米を負うて屯倉(みやけ)に運ぶことから「三宅」に冠する。万葉、[9-1780]「ことひうしの三宅の埼に指し向かふ鹿島の埼に」し。
ことひのうしコトイ…[特牛] (名)「ことひうし」に同じ。万葉、[16-3838]「わぎもこが額(ひたひ)に生ふるすぐろくのことひのうしのくらの上の瘡(かさ)」
ことびと[異人] (名)別の人。他人。
ことぶき[寿] (名)(1)祝い。祝言。(2)いのち。年齢。(3)ながいき。長命。
ことぶく[寿く] (動、四)ことばで祝う。賀す。
ことほがひ…ホガイ (名)次項の延音。次項に同じ。
こうせき[口跡] (名)ことばづかい。また、俳優のせりふ。
ことほぎ[寿・言祝] (名)ことばで祝うこと。祝賀。ことぶき。ことほがひ。
ことほぐ[寿ぐ・言祝ぐ] (動、四)ことばで祝う。賀す。ことぶく。古事記、中「かれ、ことほぎて、かしこし、命のまにまに易へまつらむとまをしき」
ことむく (動、下二)わが方へ向かしめる義。服従せしめる。古事記、上「いづれの神をつかはしてか、ことむけまし」万葉、[20-4465]「ちはやぶる神をことむけ、まつろはぬ人をも和(やは)し 大伴家持」
ことむけやはすコトムケヤワス (動、四)服従させて、やわらげる。古事記、上「かれ、たけみかづちの神、かへりまゐのぼりて、葦原の中つ国をことむけやはしつるさまをまをしたまひき」
こともの[異物] (名)(1)別の物。竹取「さればこそ、ことものの皮なりけり」(2)普通の物。源氏、鈴虫「ねびととのひ給へる御かたち、いよいよことものならず」
ことやう…ヨウ[異様] (名)普通でないさま。風変わり。徒然草、四十段「この女、ただ栗をのみ食ひて、さらに米(よね)のたぐひを食はざりければ、かかる異様のもの、人に見ゆべきにあらずとて、親許さざりけり」
ことやそまがつひのさき[言八十禍津日の埼] (地名)「あまかしのをか」と同じで、大和の国、奈良県高市郡飛鳥村豊浦の地。允恭天皇の御代、この地で「くかだち」を行った。古事記、下「あまかしのことやそまがつひのさきにくかへをすゑて、天の下の八十友の緒の氏・姓を定めたまひき」
ことゆく[事行く] (動、四)ことがすらすらとゆく。らちがあく。理由がよくわかる。竹取「おや・君と申すとも、かくつきなきことを仰せ給ふことと、ことゆかぬもの故、大納言をそしりあひたり」
ことよ[言よ] (名)「ことよし」の略。うまいことば。宇津保、国譲、中「あな、ことよや」
ことよう[異用] (名)他の用。他の費用。徒然草、六十段「かれこれ三万疋を芋がしらのあしと定めて、京なる人に預けおきて、十貫づつ取り寄せて、芋がしらをともしからずめしけるほどに、また異用に用ゐることなくて、そのあし皆になりにけり」
こうそ[貢租] (名)みつぎ。年貢米。
ことよさす[事寄さす] (句)「事寄す(1)」の敬語。依任したまう。命じたまう。古事記、上「このただよへる国を、つくりをさめ固め成せと、天のぬぼこを賜ひて、ことよさしたまひき」⇒す(助詞)。
ことよす[事寄す] (動、下二)(1)事を託す。命ずる。万葉、[4-546]「あめつちの神ことよせて」(2)事に託す。かこつける。後拾遺、十四、恋四「神無月よはの時雨にことよせてかたしく袖をほしぞわづらふ」
ことよす[言寄す] (動、下二)(1)言い寄る。言いかける。(2)ことずけする。伝言する。新古今、十二、恋二「忍びあまり天の河瀬にことよせむせめては秋を忘れだにすな」
ことりそ[古鳥蘇] (名)雅楽曲の名。「高麗調子曲」ともいう。六人で舞う。古今著聞集、十三、祝言「右大弁、笙を吹きけり。次に古鳥蘇、次に胡飲酒」謡曲、氷室「楽に引かれて古鳥蘇の、舞ひの袖こそゆるぐなれ」
ことわき[辞別] (副)ことばを改めて。とりわけ。祝詞、祈年祭「ことわき、伊勢にます天照大御神の太前にまをさく」
ことわざ[諺] (名)その社会に古くから言いなされている短句で、その中に風刺や教訓などを含むもの。俚諺。俚言。「格言」「故事成言」などに対する。「急がばまはれ」「石の上にも三年」の類。
ことわざ[事業] (名)為すべき業の意。いとなみ。古今集、序「世の中にある人、ことわざしげきものなれば」
ことわざ[異業] (名)(1)異なるわざ。他のしごと。宇津保、蔵開、下「琴をこそ教へざらめ。ことわざも、彼の侍従のすることは、えあらぬをや」(2)あだしごと。他に男をもつこと。他に女をもつこと。大和物語「人には知らせでやみ給ひて、ことわざをもし給ひてむ」
こなた[熟田・水田] (名)「こなし田」の義。開墾したての田。推古紀、十四年七月「天皇大いに喜びたまひて、播磨の国のこなた百町を皇太子におくりたまふ」
こなた[此方] (名)「このかた」の義。過去から現在への方。源氏、明石「別れ奉りにしこなた、さまざま悲しきことのみ多く」
こうたう…トウ[勾当] (名)(1)掌侍の首位の人。「勾当の内侍」(2)公卿の家で大小の雑務をつかさどる者の称。(3)真言宗でもっぱら寺務をとる職の称。(4)盲官の一。検校の下、座頭の上。
こなた[此方] (代)(1)方向を指す近称代名詞。こっち。こちら。こち。(2)自称代名詞。われ。狂言、宗論「こなたのことでござるか」(3)対称代名詞。そち。そなた。狂言記、聟貧「さては、こなたは聟殿でござるか」
こなみ (名)「着馴れ妻」の転かという。前妻。一夫多妻の上代においては、先にめとった妻。後世は死んだ妻。「うはなり」「後妻」に対する。古事記、中「こなみが、なこはさば」=年増(としま)が食物(な)を請うたなら。⇒うはなり。
こにきし (名)百済語の「こむきし」の転。「こむ」は「大」、「きし」は「君」の意。(1)百済王の称号。古事記、中「ここに、そのこにきし、おぢかしこみてまをしけらく」(2)百済王族の帰化した者に賜わった姓。続紀、二十七、天平神護二年六月「こにきし敬福薨ず」
こぬみのはま[不来見の浜] (地名)歌枕の一。駿河の国、静岡県庵原郡興津の海岸、岫崎(くきがさき)の辺という。万葉、[12-3195]「磐城山ただ越え来ませ磯崎のこぬみの浜にわれ立ち待たむ」(この「磐城山」は「薩?峠」を指すか)
こぬれ[木末] (名)こずえ。
こねりのかき[木練の柿] (句)木になっているまま。熟して甘くなる柿。こねり。こねりがき。きざわし。古今著聞集、十八、飲食「霜おけるこねりの柿はおのづから含めば消ゆる物にぞありける」
このかみ[兄] (名)「子の上」の義。(1)長子。長兄。(2)兄または姉。(3)自分より年の上の人。源氏、柏木「かの君は、五、六年のほどこのかみなりしかど、なほいと若やかに」(4)氏の長者。氏の上。(5)長立(をさだ)つ者。かしら。
このかみ[小腹] (名)したばら。こがみ。ほがみ。
このくれ[木の暗] (名)木の茂っている下の暗いところ。万葉、[10-1948]「木の暗のくらやみなるにほととぎすいづくを家と鳴き渡るらむ」
このくれの[木の暗の] (枕詞)「繁き」に冠する。万葉、[19-4187]「思ふどち、ますらをのこの木の暗の繁き思ひを」
こうだう…ドウ[公道] (名)万人に通ずる正しい道理。
このくれやま[木の暗山] (名)木の茂っている山。固有名詞ではない。枕草子、一「山は、小倉山・三笠山・このくれ山」
このくれやみ[木の暗闇] (枕詞)「卯月」に冠する。陰暦四月には木の葉が茂るからである。万葉、[19-4166]「木のくれやみうづきし立てば、夜陰りに鳴くほととぎす」
このしたやみ[木の下闇] (名)木が茂って、下の暗いこと。
このしろ (名)魚の名。「こはだ」の大きくなったもの。奥の細道「室の八島に詣づ。…このしろといふ魚を禁ず」■元抄、上「有馬の王子、下野の国に下りたまひ、富人の家に寓し、その女に通じて懐姙す。女はかねて常陸の国司に要(もと)められ、催促ありけれど、女は死したりとて喪葬の儀をなし、棺にこのしろを入れて焼く、その臭、人を焼くに似たればなり。その心を詠める、東路の室のやしまに立つ煙誰が子のしろにつなし焼くらむ。子の代に焼くと詠めり。それよりして、このしろといふなむ」(「つなし」が元の名という)
このしろ (名)利子。利息。持統紀、元年七月「詔して曰く、凡そもの借り負へる者は、乙酉の年(天武天皇十四年)よりさきの物は、このしろをとることなかれ」
このせ[此の瀬] (句)この際。平家、三、足摺「たとひ此の瀬にこそ漏れさせ給ふとも、つひには、などか赦免なくて候ふべきと、様様に慰めのたまへども」
このてがしは…ガシワ[児手柏] (名)(1)「ひのき」の属。その葉は裏表の区別がつかないので名高い。(2)「をとこへし」に同じ。
このはう…ホウ[此の方] (代)自称代名詞。われ。おのれ。
このはしぐれ[木の葉時雨] (名)木の葉が、しぐれのように散り乱れるさまをいう語。
このはな[木の花] (名)(1)一般に、諸木の花。(2)梅の花。仁徳天皇の御即位を祝って王仁が詠んだという歌「難波津に咲くやこの花冬ごもり今を春べと咲くやこの花」(3)桜の花。「木の花の咲くや姫」
こうたうのないし…トウ…[勾当の内侍] (名)掌侍四人の中、首位にいる者の称。もっぱら奉請・伝宣のことをつかさどる。一の内侍。長橋の局。長橋殿。太平記、十六、西国蜂起官軍進発事「そのころ天下第一の美人と聞えし勾当の内侍を内裏より賜はりたりけるに」
このはなのさくやひめ[木花之佐久夜毘売] (人名)大山■神の女。ににぎのみことの妃。「このはな」は「桜の花」の義。美しいが、生命の長くないことを意味する。
ごのまき[五の巻] (書名)法華経八巻のうちの第五の巻。堤婆達多品・勧持品・安楽行品・従地涌出品をいう。この巻を特に重んずるのは、女人成仏を説いた「堤婆達多品」があるからである。落窪物語「五の巻の捧物の日は、よろしき人より始め、消息を聞え給へりければ」この巻を読む日を「五の巻の日」という。
このまろどの[木の丸殿] (名)「きのまろどの」に同じ。
このみちのたくみ[木の道の匠] (名)大工。指物師。徒然草、二十二段「木の道の匠のつくれる美しきうつはものも、古代の姿こそをかしと見ゆれ」
このめはる[木の芽張る] (枕詞)木の芽から出る意から「春」に冠する。後撰集、九、恋一「このめはる春の山田をうちかへし思ひやみにし人ぞこひしき」
このもかのも[此の面彼の面] (句)こなたかなた。
このゑのみかどコノエ…[近衛の御門] (名)「陽明門」の別称。門内に左近衛府があるのでいう。枕草子、一「家は、近衛御門、二条・一条もよし」
このゑふコノエ…[近衛府] 昔、禁中を警固し、行幸の時には供奉し警備の任に当たる役所。左右両府があり、長官は大将。
こは[瓠巴・胡巴] (人名)中国、楚の人で琵琶の名手。平家、三、大臣流罪「胡巴、琴を弾ぜしかば、魚鱗躍り迸り」
ごはう…ホウ[五方] (名)東・西・南・北・中央の五方角をいう。祝詞、東文忌寸部献横刀時呪「五方五帝、四時四気」
こうちぎ[小袿] (名)平安時代の婦人の礼服。裳・唐衣などを着ない時に、上に打ち掛
けて着るもの。小袖に似て、袖の広いもの。蜻蛉日記「車寄せさせて乗るほどに、ゆく人はふたへの小袿なり」
ごばう…ボウ[御坊] (名)(1)僧侶の敬称。御出家。貴僧。源氏、手習「僧都の御坊に御覧ぜさせ奉らばや」(2)僧坊の敬称。(3)真宗で、本山の別院の称。「西山御坊」「浅草御坊」
こばかま[小袴] (名)(1)指貫の袴の別名。(2)武家で、素襖などの下に用いた、指貫に似た袴。(3)半袴の別称。
こばしり[粉走り] (名)物を篩にかけて漉す役の人。大嘗際の時、黒酒・白酒の薬灰を篩い漉し、御酒を篩にかけて滓を去り、また、籾がらを除いたり、搗いた米を篩にかけて糠を去ったりする役で、女が選ばれる。中臣寿詞「酒波・粉走り・灰焼き、薪とり」
こばしり[小走り] (名)(1)小股に急ぎ歩くこと。(2)昔、武家に仕へて雑用を達した下郎または下婢。
こはた[木幡] (地名)京都府宇治市木幡の地区。古くは、強田・巨幡・許波多などとも書いた。応神紀、十三年三月「道のしり、こはたをとめを」
こはたがは…ガワ[木幡川] (枕詞)同音を重ねて「こは誰が」に冠する。拾遺集、十二、恋二「木幡川こは誰がいひしことの葉ぞなき名すすがむ滝つ瀬もなし」
こはたのもり[木幡の森] (地名)宇治の木幡の森。枕草子、六「もりは、…こひの森、こはたの森」
こはたのやま[木幡の山] (地名)京都市伏見区桃山町の伏見山の東面の旧称。万葉、[11-2425]「山科の木幡の山を馬はあれど歩(かち)ゆ我が来し汝(な)を思ひかね」方丈記「遥かにふるさとの空をのぞみ、木幡山、伏見の里、鳥羽、はつかしを見る」徒然草、八十七段「木幡のほどにて、奈良法師の兵士あまた具して逢ひたるに」(この「木幡」は「木幡山」である。奈良街道は、ここを通る。古く木幡関を置いた)
こはちえふのくるま…ヨウ…[小八葉の車] (名)左右の側面の板に網代で八曜を作った車を「八葉の車」といい、その大きなのを「大八葉」、小さなのを「小八葉」という。四位・五位・僧侶などが用いた。平家、十、内裏女房「小八葉の車の前後の簾を揚げ、左右の物見を開く」
こはものやあり…ワ…[此は物やあり] (句)この中に物が入っているか。「あり」は「ある」の誤写か。枕草子、九「いとよく使ひかためたる筆を、あやしのやうに、水がちにさしぬらして、こはものやありと、仮名に細櫃の蓋などを書き散らして」=たいそうよく使いこんだ筆を、変な風に、水勝ちにぬらして、この中に物が入っているか、と仮名で細櫃の蓋などに書き散らして。
こうづ…ズ[古宇津] (地名)国府津(こふづ)の仮名の誤り。「国府津」に同じ。相模の国、神奈川県足柄下郡の地。相模湾に臨む。もと、相模の国府(中郡国府村)の港であったのでこの名がある。太平記、三十、薩?山合戦事「小山判官も宇都宮に力を合はせて、七百余騎、同日に古宇津に着きければ」
こはやコワヤ (感)これはまあ、驚きまたは注意をうながす時に発する声。古事記、中「こはや、みまきいりびこはや」
こばやしいつさ[小林一茶] (人名)江戸時代の俳人。通称は弥太郎。信濃の人。幼にして生母を失い、のち江戸へ出て、つぶさに辛酸をなめ、老境に入って郷里信濃の柏原へ帰った。その句は、口語や方言をも取り入れ、独特の飄逸味を有している。文政十年(1827)没、年六十四。主著、おらが春・七番日記・一茶句集。
こはらかなりコワラカナリ〔強らかなり〕 (形動、ナリ)無骨である。頑固である。無情である。平家、一、殿下乗合「片田舎の侍の、極めてこはらかなるが入道の仰せより外、世にまた恐ろしきことなしと思ふ者ども、難波、瀬尾を始めとして、都合六十余人召し寄せて」
ごはらみつ[五波羅密] (名)「波羅密」は彼岸に到る義。五つの波羅密。すなわち、常波羅密・我波羅密・浄波羅密・楽波羅密・般若波羅密。また、布施・持戒・忍辱・精進・禅定の五つの行。平家、六、慈心坊「一念信解(しんげ)の功徳は、五波羅密の行にも越え」
こはる[小春] (名)陰暦十月の異名。気候が春に似ているのでいう。徒然草、百五十五段「十月は小春の天気、草も青くなり、梅もつぼみぬ」
こばん[小番] (名)「小番衆」ともいう。室町時代、近習の称。
こばん[小判] (名)江戸時代の金貨の名。「一両」に当たる。「大判」の対。
ごび[語尾] (名)文法用語。活用語の末の音で、変化する部分、すなわち語幹以外の部分の称。「ゆく」「きよし」「しづかなり」「洋洋たり」「ごとし」の「く」「し」「なり」「たり」「し」の類。
こひかははるまちコイカワ…[恋川春町] (人名)江戸時代の戯作者。本名は倉橋格。駿河の人。黄表紙の創始者と目されている。寛政元年(1789)没、年四十五。主著、金金先生栄華夢。
こひぐちコイ…[鯉口] (名)刀の鞘の口。鯉が口を開いたような形であるのでいう。
こうとう[苟偸] (名)安逸をむさぼること。駿台雑話、二、天下の宝「なに事をするに
も苟偸にして」
こひごろもコイ…[恋衣] (名)恋する人の着ている着物。
こひごろもコイ…[恋衣] (枕詞)恋衣を着ならすという意から「きなら」に冠する。万葉、[12-3088]「恋衣着奈良の山に鳴く鳥の間無く時無し我が恋ふらくは」
こひぢ…ジ[泥] (名)どろ。更級日記「今は武蔵の国になりぬ。ことにをかしき所も見えず。浜も砂子白くなどもなく、こひぢのやうにて」
こびつく[媚びつく] (動、四)媚びて従いつく。おもねり従う。古事記、上「天のほひの神を遣はしつれば、やがて大国主の神に媚びつきて、三年になるまでかへりごとまをさざりき」
こびつく (動、四)こびりつく。
ごひつのげい[五筆の芸] (句)筆を口および左右の手と左右の足とに持ち、同時に文字を書く芸当。神皇正統記、四「弘法は…渡唐の時も、或は五筆の芸を施し」
こひと[故人] (名)死んだ人。故人(こじん)。古今著聞集、十六、興言利口「こひととは何ぞと問へば、さは切りてすて給ひしこひとがために、いかでかはここに素服きせざらむとて、服きせたるぞかしといひけり」(「素服」は「黒色の喪服」)
こひぬま (名)「こひぢぬま」の略。泥の多い沼。歌では、恋にかけていう。新撰六帖、六「こひぬまも水田の畦にひく芹の根にあらはれて袖ぬらしける 藤原為家」
こひぬまのいけ (名)前項に同じ。固有名詞ではない。枕草子、三「池は…こひぬまの池」
こひのもりコイ…[恋の森] (地名)歌枕の一。伊賀ともいい、山城ともいい、所在不明であるが、よく歌に詠まれる森である。夫木抄、雑四「嘆きのみ我が身一つにしげければ恋の森ともなりやしぬらむ」枕草子、六「森は…こひのもり」
こうにん[侯人] (名)(1)蔵人所に侯し、蔵人と同じく結番し、御膳に侍し、また宿直
する者。(2)門跡に召し使われる妻帯の僧。太平記、五、大塔宮熊野落事「一乗院の侯人按察法眼好専、いかにして聞きたりけむ 五百騎を率して」
ごびへんくわ…カ[語尾変化] (名)文法用語。「活用」に同じ。すなわち、ある単語の末の音が、用い方によって変化すること。「書く」という動詞が、「書か・書き・書く・書け」となる類。
こひやう…ヒヨウ[小兵] (名)(1)からだの小さいこと。「大兵」の対。平家、十一、那須与一「与一、鏑を取つて番ひ、よつ引いてひやうと放つ。小兵といふ条、十二束三伏、弓は強し」(2)弓勢(ゆんぜい)の弱いこと。「精兵」の対。
ごびやうのちすゐ…ヒヨウ…チスイ[五瓶の智水] (句)「五瓶」は、地・水・火・風・空を意味する青・黄・赤・白・黒の五つの瓶で、これに「智水」すなわち灌頂する香水を満たしたもの。平家、二、山門滅亡「天王寺へ御幸なつて、五智光院を建て、亀井の水を五瓶の智水と定め、仏法最初の霊地にてぞ、伝法灌頂をば遂げさせおはします」
こひやさんぷうコイ…[鯉屋杉風] (人名)江戸時代の俳人。杉山氏。江戸の人。魚問屋を営む。蕉門十哲の一人。享保十七年(1732)没、年八十五。主著、杉風句集、杉のしをり。奥の細道「松島の月まづ心にかかりて、住める方は人に譲り、杉風が別墅(べつしよ)に移る」
こふコウ[国府] (名)「国府(こくふ)」に同じ。義経記、七「越前の国こふにかかりて、平泉寺を拝み給うて熊坂へ出で」
ごふゴウ[劫] (名)仏教で、極めて長い「時」の称。永劫。宇津保、俊蔭「知る人もなき天の下に止め給ひて、劫のかはるまで訪れ給はぬを」曾我物語、一「八幡三郎が申しけるは、暫く劫を積みてみたまへ。いかでか空しからむとぞ申しける」
ごふゴウ[業] (名)(1)仏教で「行為」の称。(2)「罪業」の略。罪となる行為。また「罪」の意にもいう。宇津保、俊蔭「その業やうやう尽きにたり」
こぶかし[木深し] (形、ク)木が茂っている。こんもりしている。
こふく[鼓腹] (名)食が足り、心身を安んずること。はらつづみをうつこと。
ごふくわゴウカ[業火] (名)(1)仏教で、凡夫の悪業の力の烈しいことを火にたとえていう語。(2)烈しく怒ること。(3)前世の悪業によって、地獄で苦しめられる猛火。
こ[戸] (名)と。とびら。
こうばい[紅梅] (名)(1)「紅梅殿」の略。菅原道真の家とも、道真の子孫の家ともい
う。道真の流される時「こち吹かば匂おこせよ梅の花あるじなしとて春な忘れそ」と詠じた邸。京都五条坊門の北にあったという。枕草子、一「家は……小野の宮、紅梅、あがたの井戸」(2)八重咲きで花弁の紅色の梅。(3)染色の名。紅梅色。(4)襲の色目の名。表は紅、裏は紫。枕草子、二「すさまじきもの、昼ほゆる犬、春のあじろ、三、四月の紅梅のきぬ」
ごふしよゴウ…[劫初] (名)永遠なる「時」のはじめ。神皇正統記、一「天竺の説には、世のはじまりを劫初といふ」
こふどきいつぶん[古風記逸文] (名)奈良時代に成った風土記として比較的完全な形で残っているのは、出雲風土記・常陸風土記・播磨風土記・肥前風土記・豊後風土記の五つに過ぎないが、当時もっと多くの風土記が成ったことは疑う余地がなく、それらの断片的記事は後世の各書の注釈書の中などに引用されている。これらの断片を「古風土記逸文」といい、江戸時代では伴信友、明治時代では栗田寛などが、それらの逸文を集めて考証している。栗田寛の「纂訂古風土記逸文」「古風土記逸文考証」は、最も良書である。
こふのいしコウ…[劫の石] (名)劫の長さを、天人の羽衣で大石を撫で、それらが磨滅する長さにたとえたもの。後拾遺、七、賀「いとけなき衣の袖はせばくともこふの石をば撫でつくしてむ 前大納言公任」(後朱雀天皇の御出生を賀した歌)
ごぶのだいじようきやう…キヨウ[五部の大乗経] (書名)大方広仏華厳経・大方等大集経・大品般若経・妙法蓮華経・大般涅槃経の五仏典をいう。天台宗では、この五部を究竟の大乗法を説いた経文とする。太平記、三十六、仁木京兆参二南方一事「五部の大乗経を書きて、この国に納めたりき」
こふのはら[子負の原] (地名)福岡県糸島郡深江村大字深江にある原。神功皇后の三韓征伐の時、御懐胎中であったため、この原の二石を腰に挿み、凱旋後出産あるようにと祈られたという。万葉、[5-813-右]「筑前の国怡土郡深江村子負の原、海に臨める丘の上に二つの石あり云々」
ごふりきゴウ…[業力] (名)仏教で、果を生ずる業の力。すなわち善業には善果を、悪業には悪果を生ずる因縁の力。神皇正統記、一「業力に際限ありて、報い尽きなば退没すべし」
ごぶんしやう…シヨウ[御文章] (書名)仏教書。五巻。真宗本願寺の中興八代蓮如上人が、真宗の要義を信者に伝えようとして、通俗平易に書いた手紙文を、孫の円如が編した書。東本願寺では、「おふみさま」「おふみ」ともいう。
ごへん[御辺] (対称代名詞)同輩や父子の間などで用いる。そなた。おんみ。貴殿。貴公。
こほしコオシ[恋ほし] (形、シク)「恋ひし」に同じ。恋いしい。したわしい。万葉、[5-834]「梅の花いま盛りなり百鳥(ももとり)の声のこほしき春来たるらし」
こぼす (動、四)(1)もらす。あふれさせる。落し流す。伊勢物語「雪こぼすがごと降りて、ひねもすにやまず」(2)外にあらわす。枕草子、四「指貫いと濃う、直衣のあざやかにて、いろいろの衣(きぬ)どもこぼし出でたる人」(3)かこつ。「ぐちをこぼす」
こうひ[口碑] (名)口から口へと言い伝えられること。言いつたえ。石碑に刻んで伝えるように消滅しないことからいう。
こぼつ[毀つ・壊つ] (動、四)こわす。破壊する。竹取「せさせ給ふべきやうは、このあななひをこぼちて、人みな退きて、まめならむ人一人を荒籠にのせすゑて」
ごほふじん…ホウ…[護法神] (名)次項に同じ。義経記、七「葛城は十万の満山のごほふ神、奈良は七堂の大伽籃」
ごほふぜんしん…ホウ…[護法善神] (名)仏法を守護する諸天・鬼神の称。護法神。四天皇・帝釈などの類。謡曲、谷行「さりとも年月頼みをかくる大聖不動明王の威力、または山神護法善神」
こほめかす (動、四)ごぼごぼと音をたてる。枕草子、三「滝口の弓ならし、沓の音そそめき出づるに、蔵人のいと高くふみこほめかして」
こぼめかす (動、四)ごぼごぼと音をたてる。枕草子、三「滝口の弓ならし、沓の音そそめき出づるに、蔵人のいと高くふみこほめかして」
こほめく (動、四)ごぼごぼと音がする。
ごぼめく (動、四)前項に同じ。落窪物語「板の冷えのぼりて、腹ごほごほと鳴れば、翁、あなさがな、冷えこそ過ぎにけれといふに、しひてごぼめきて、びちびちと鳴る」
こぼる[毀る・壊る] (動、下二)こわれる。やぶれる。万葉、[11-2644]「小墾田(をはりだ)の板田の橋のこぼれなば桁(けた)より行かむな恋ひそわぎも」
ごま[護摩] (名)梵語Homaの音写で、「燃焼」の義。仏教で、ぬるでの木を焼いて仏に祈り、一切の悪事の根源を焼滅せしめようと願うこと。義経記、六「剃らで久しき御髪(おんぐし)、護摩の煙にふすぶる御けしき、なかなか尊くぞ見奉る」
ごまいかぶと[五枚兜] (名)しころの板の五枚あるかぶと。
こうぼふだいし…ボウ…[弘法大師] (人名)⇒くうかい(空海)
こまうどコモウド[高麗人] (名)「こまびと」の音便。高麗の国の人。源氏、桐壺「そのころ、こまうどのまゐれるがなかに、かしこき相人あるけるをきこしめして」
こまがへし…ガエシ[駒返し] (名)険岨な山路で乗馬のままでは進み得ないところ。また、地名ともする。奥の細道「けふは親しらず・子しらず・犬戻り・駒がへしなどいふ北国一の難処を越えてつかれ侍れば」(新潟県と富山県との境)
こまがへるコマガエル (動、四)若返る。蜻蛉日記「霜枯れの草のゆかりぞ哀れなるこまがへりてもなつけてしがな」和泉式部集「すさめぬにねたさもねたし菖蒲草引き返してもこまがへりなむ」
こまくら[木枕] (名)木で造った枕。万葉、[2-216]「家に来てわがやを見れば玉床の外に向きけり妹がこまくら」
こまけ[細分] (名)「こまわけ」の約。こまかにわけること。また、こまかい物。宇津保、吹上、上「北の方には、透箱よりはじめて若干(そこばく)のこまけの物、皆取らせ給ふ」
こまつくる[駒造る] (枕詞)土師(はし)氏の祖先の野見宿■が埴輪(はにわ)の駒などを造ったので、「はし」に冠する。万葉、[16-3845]「駒造る土師のしびまろ白くあればうべ欲しからむその黒色を 巨勢豊人」
こまつどの[小松殿] (人名)(1)藤原兼実の別称。(2)平重盛の別称。
こまつなぎ[駒繋ぎ] (名)(1)駒をつなぐこと。(2)荳科の亜灌木の名。夏は紅紫色または白色の小蝶形花を総状につける。古今著聞集、十六、興言利口「ある日、台盤所にて、女房侍を召して、こまつなぎ、きときとまゐらせよと仰せられけるを」
こまつのおとど[小松の大臣] (人名)平重盛の別称。
こまつのないふ[小松の内府] (人名)平重盛の別称。
こうめいちのしやうじ…シヨウジ[昆明池の障子] (名)清涼殿の弘廂に立てられた衝立障子。表に昆明池、裏に嵯峨の小鷹狩の図を描いたもの。「昆明池」は中国の漢の武帝が長安城の西に掘った池の称。こんめいちのしやうじ。
こまつのみかど[小松の帝] (天皇名)光孝天皇の御別称。
こまつぶり (名)独楽(こま)の古称。
こまつるぎ[高麗剣] (枕詞)高麗風の剣には柄の頭に大きな輪がつけてあるので「わ」の音に冠する。万葉、[2-199]「こまつるぎわざみが原のかりみやに」同、[12-2983]「こまつるぎわが心からよそのみに」
こまてのみゐ…ミイ[駒手の御井] (地名)昔、播磨の国の明石にあった泉。この泉の端に、仁徳天皇の御代、楠の大樹が生じたという大樹伝説で有名。播磨風土記、明石郡逸文「明石駅家、駒手の御井は、難波高津の宮のすめらみことの御世、楠、井の口に生ひたり。朝日には淡路島をおほひ、夕日には大倭島根をおほふ」
こまどり[細取・小間取] (名)技芸などをたたかわせる時、対座に居流れて、その相手の座席を、一を左にし、二を右にし、三を左にし、四を右にするように、入りちがいに列する方法。宇津保、菊の宴「少将良佐、殿の君だち十所を五所づつこまどりに取りて」
こまにしき[高麗錦] (枕詞)高麗から渡来した錦で、多く紐に作ったので「ひも」に冠する。万葉、[10-2090]「こまにしき紐ときかはし天人(あめびと)の妻問ふ宵ぞわれも偲ばむ」(七夕を詠んだもの)
こまの (地名)山城の国、京都府相楽郡狛山の裾野か。未詳。枕草子、九「野は…かた野・こま野」
こまののものがたり[こま野の物語] (書名)「枕草子」に二か所も出ているが、今伝わっていないので、どんな内容の物語か不明
こまやま[狛山] (地名)歌枕の一。山城の国、京都府相楽郡の泉川に臨む山。万葉、[6-1058]「狛山に鳴くほととぎす泉川渡りを遠みここに通はず」
こまよけ[駒除け] (名)牛馬の入るのを防ぐために設ける柵。
こうもんたてやぶる[鴻門楯破る] (句)鴻門の会において、樊?が楯で漢の高祖を保護した故事から、楯が破れて保護することのできない意にいう。次項参照。謡曲、安宅「鴻門楯破れ、都の外の旅衣、日もはるばるの越路の末」
こまよせ[駒寄せ] (名)(1)前項に同じ。(2)せいの低い柵の称。(3)駒を寄せ集めて、良種の子馬を得るために交尾せしめること。
ごみ[五味] (名)酸・苦・甘・辛・鹹。駿台雑話、一「五味を知るは口にありといへども、五味は物にあり」
こみら[韮] (名)「にら」の古称。
こむ[子む] (動、四)卵を産む。古事記、下「たまきはる、うちのあそ、なこそは、よのながひと、そらみつやまとのくにに、かりこむときくや 仁徳天皇」=わが尊敬する氏の長者(竹内宿禰)よ、汝こそは長寿者であるが、この大和の国に雁が卵を産むと聞かれた(ことがある)か。(「たまきはる」は「氏」の、「そらみつ」は「大和」の、それぞれ枕詞)万葉、[16-3882]「渋渓(しぶたに)の二上山(ふたがみやま)に鷲そこむとふ翳(ざしは)にも君が御為に鷲ぞこむとふ」
こむらご[濃叢濃] ((名)染色の名。紫の濃淡のある染色。平家、九、一二の懸け「こむらごの直垂に赤縅の鎧着て」
こむらさき[濃紫] (名)染色の名。濃くて黒ずんだほどの紫色の染色。三位以上の袍の色などに用いた。拾遺集、十八、雑賀「こむらさきたなびく雲をしるべにて位の山のみねをたづねむ 清原元輔」
こめかし[子めかし] (形、シク)子どもらしい。源氏、少女「十四になむおはしける。かたなりに見え給へど、いとこめかしう」
こめかしをけ…オケ[米浙桶] (名)米をとぐのに用いる桶。
こめく[子めく] (動、四)子どもらしい。源氏、帚木「ただ、ひたぶるに子めきて、やはらかならむ人を」
こめろ[小女郎] (名)「こめらう」の約。小娘。少女。
こうもんのくわい…カイ[鴻門の会] (句)中国、秦の末、劉邦は秦を討ってまず関に入り覇上に陣した。項羽は少しおくれて鴻門に至り、劉邦の先に入関したのを怒って、これを討とうとした。劉邦は項羽の怒りを解こうと、みづから百余騎を率いて鴻門に至り項羽に会して入関の事を謝した。時に項羽の臣范増が劉邦を切ろうとしたが、劉邦の臣樊?の勇によって事なきを得た。劉邦は、のちに漢の高祖となる。(史記)
こも[海?] (名)「小甘藻」の古称。古事記、上「こものからをひきりに杵に作りて」
こもごも (名)「小甘藻」の古称。古事記、上「こものからをひきりに杵に作りて」
こもだたみ[薦畳] (枕詞)畳を数えるに一重・二重というところから「へ」の音に冠する。万葉、[16-3843]「いづくぞ真朱(まそほ)ほる丘こもだたみ平群(へぐり)の朝臣(あそ)が鼻の上をほれ」(「真朱」は「赤い土」。朱色の顔料とする)
ごもち[御物] (名)「ごもつ」に同じ。古今著聞集、十六、興言利口「坊門院に年ごろ召し使ふ蒔絵師ありけり。…ただいまごもちを蒔きかけて候へば蒔き果て候ひて参り候ふべし」
こもちづき…ズキ[小望月] (名)望月の前の夜の月。すなわち陰暦十四日の夜の月。
ごもつ[御物] (名)皇室または貴人の御所蔵物。ぎよぶつ。ごもち。
こもの[小者] (名)(1)こども。(2)武家の召し使う下僕。(3)一般の家で使う下男。八犬伝、[2-4]「碗・家具さへも母屋より運ぶ小厮(こもの)が幾戻り、まことに足はすりこぎも出でて働く台所、もの大方に整へば、はやたそがれになりにけり」
こもの[籠物] (名)籠に入れた果物。木の枝につけて、献上または儀式の時などに用いる。源氏、桐壺「その日の御前の折櫃物・籠物など、右大弁なむ承りて仕うまつらせける」
こものこ[菰の子・薦の子] (名)まこもの若芽。こもづの。古今著聞集、十八、飲食「同じき卿のもとに盃酌ありけるに、たたみめにこものこを肴にしたりけるを見て」
こものなり[小物成] (名)武家時代の語で、「雑税」の称。
こうゆうそうづ…ズ[弘融僧都] (人名)伊賀の国(三重県)の仏性寺の遍照院に住んでいた僧で、吉田兼好と同時代の人であるというほか、伝未詳。徒然草、八十二段「弘融僧都が、ものを必ず一具にととのへむとするは拙き者のすることなり、不具なるこそよけれと言ひしも、いみじくおぼえしなり」
こもまくら[菰枕・薦枕] (枕詞)昔は、まこもを巻きたがねて枕としたので、「たか」に、また、枕を共にすることを古語で、「まく」と言ったので「相まく」に冠する。続後撰、十一「こもまくら高瀬の浜にさすさでの」万葉、[7-1414]「こもまくら相纒きし児もあらばこそ」
こもやかた[菰屋形] (名)こもむしろで仮りに造った船の屋形。苫屋形の類。蜻蛉日記「打出の浜に、死に帰りていたりければ、先立ちたりし人、舟に菰屋形ひきて設けたり」
こもりえ[隠江] (名)岬などに囲まれてこもった入江。また、芦などの茂ってこもった入江。伊勢物語「こもり江に思ふ心をいかでかは舟さす棹のさして知るべき」
こもりえの[隠江の] (枕詞)「こもりくの」の誤用。「隠口」を「隠江」と誤読して、「はつせ」に冠する。
こもりくの[隠口の] (枕詞)大和の初瀬の地は山に囲まれているので「こもりくに」の意で「はつせ」に冠する。ただし、異説が多い。古事記、下「こもりくの、はつせのやまの、おほをには、はたはりだて」=こもりくの初瀬の山の大丘には、畑を開墾したて。
こもりこふコモリコウ[籠り恋ふ] (動、四)家に籠っていて恋い慕う。万葉、[17-3973]「籠り恋ひ息づき渡り、下思ひに嘆かふわが兄(せ)」(この語を枕詞と見るのは当たらない)
こもりづの…ズ……[隠り水の] (枕詞)草間隠れに流れる水の意から「沢」「下」などに冠する。万葉、[11-2794]「こもりづの沢たづみなる石根ゆも通して思ふ君に逢はまくは」(「沢たづみ」は「沢を流れる水の中」)古事記、下「やまとへに、ゆくはたがつま、こもりづのしたよはへつつ、ゆくはたがつま」=大和の方へ行くのは誰の夫(おつと)であろう。隠り水のように、こっそりと隠れて行くのは、誰の夫であろう。)
こもりとくひと[子守徳人] (句)子を愛する、資産ある人。ただし、意義のはっきりしない句である。大鏡、三、太政大臣実頼「かの殿は、いみじきこもりとく人にぞおはします」
こもりぬの[隠り沼の] (枕詞)草木におおわれている隠り沼は、物の下に隠れて見えないので「下」に、また、「行方を知らず」に冠する。万葉、[11-2441]「隠り沼の下ゆ恋ふれば」同、[2-201]「隠り沼の行方も知らに舎人は惑ふ」
こもん[小紋] (名)染模様の名。小形の種種の模様を、織物の地一面に染め出したもの。源氏、横笛「白きうすものに、からの小紋の紅梅の御衣」
こうようにん[公用人] (名)江戸時代、各藩で公用に関することを弁じた役目。また、その人。
こや[蚕屋] (名)蚕を飼う家。詞花集、二、夏「わぎもこがこやの篠家の五月雨にいかでほすらむ夏引の糸」
こや[昆野] (地名)摂津の国、兵庫県川辺郡稲野村大字昆陽の辺に当たる。後拾遺、十二、恋二「津の国のこやとも人をいふべきにひまこそなけれ芦の八重ぶき 和泉式部」増鏡、二、新島もり「津の国のこやのひまなき政(まつりごと)を聞しめすにも、難波の芦の乱れざらむことをおぼしき」
ごや[五夜] (名)「五更」に同じ。午前四時ごろをいう。和漢朗詠集、七夕「二星たまたま逢うて未だ別緒依依の恨みを叙べざるに、五夜まさに明けむとして頻りに驚く涼風颯颯の声 小野美材」
こやさん[姑射山] (名)「はこやの山」に同じ。仙人の住むという山。転じて、上皇・法皇の御殿。仙洞御所。太平記、三十九、光厳院禅定法皇行脚御事「姑射山の雲を辞し、汾水陽の花を捨てて、なほ御身を軽く持たばやと思し召しけり」
こやす[臥す] (句)「こゆ」の敬語。おやすみになる。横臥し給う。古事記、上「このみ子を生みますにより、みほと焼かえて病みこやせり」⇒す(助詞)。」
こやすのかひ…カイ[子安の貝] (名)「たからがひ」の一種。からは黒くて、まるく白い模様がある。婦人が持つと安産の効があるというので名づける。こやすがひ。竹取「いそのかみの中納言には、つばくらめの持たる子安の貝、取りてたまへ」
こやつ[此奴] (代)対称および他称代名詞。いやしめて呼ぶ語。こいつ。このやつ。古事記、上「高天原にひぎ高しりてをれ、こやつよとのりたまひき」
こやの[昆陽野・小屋野] (地名)摂津の国、兵庫県川辺郡の地。宿駅であった。⇒こや。増鏡、十九、久米のさら山「中務の宮は昆陽野の宿におはすますほど、間近く聞き奉らせ給ふもいみじう哀れにかなし」
こやり[臥り] (名)「こやる」の連用形が名詞となったもの。寝ていること。臥していること。古事記、下「つくゆみの、こやるこやりも、あづさゆみ、たてりたてりも」=伏している槻弓も、立っている梓弓も。(「こやるこやり」は「こやりこやり」の誤写かも知れない)
こやる[臥る] (動、四)寝る。臥す。
こうらうでん…ロウ…[後涼殿] (名)禁中、清涼殿の西隣にある殿舎。陰明門と相対す。こうりやうでん。伊勢物語「昔、男、後涼殿のはざまを渡りければ」
こゆ[臥ゆ] (動、上二)臥す。ころぶ。万葉、[17-3962]「うつせみの世の人なれば、うちなびき、床にこいふし、痛けくの」古事記、上「そのみなとの蒲のはなを取りて、敷き散らして、その上にこいまろびてば、なが身もとの膚のごと必ずいえなむものぞとをしへたまひき」
こゆ[蹴ゆ] (動、下二)「蹴る」に同じ。
こゆ[此ゆ] (句)ここから。ここを通って。万葉、[10-1959]「雨はれし雲にたぐひてほととぎす春日を指してこゆ鳴き渡る」
こゆみ[小弓] (名)楊弓などのような戯れにもてあそぶ小さな弓。枕草子、九「あそびは…こゆみ・ゐんふたぎ・ご」
こゆるぎ[小余綾] (地名)「こよろぎ」ともいう。歌枕の一。相模の国、神奈川県中部の大磯・小磯一帯の海浜。風光明媚の地で、古くからあらわれている。太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「足柄山のたうげより大磯・小磯みおろして、袖にも波はこゆるぎの急ぐとしもはなけれども」
こゆるぎの[小余綾の] (枕詞)「こゆるぎのいそ」というので「急ぎ」に冠する。源氏、帚木「さかな求むとて、こゆるぎの急ぎありくほど」(前項も枕詞的に用いている)
こゆるぎのいそ[小余綾の磯] (地名)「こゆるぎ」に同じ。夫木抄、磯「こゆるぎのいそ山ざくら咲きしより沖の波間にとまる船人」
こゆるぎのいそならぬおんさかな[小余綾の磯ならぬ御肴] (句)酒の肴以外の物。余興などをいう。増鏡、十一、草まくら「女院、この御かはらけのいと心もとなく見え侍るめるに、こゆるぎのいそならぬ御さかなやあるべからむとのたまへば」
ごよく[五欲] (名)仏教で、色・声・香・味・触の欲望。また、色欲・食欲・名欲・利欲・眠欲。
こよなし (形、ク)(1)この上ない。かけはなれて、すぐれている。(2)比較して、いちじるしく違っている。宇津保、蔵開、中「年は我にこよなくこのかみにてぞおはせし」(3)かけはなれて、劣っている。宇津保、蔵開、下「限りなくめでたく見えし君だち、この今見ゆるにあはすればこよなく見ゆ」
こうらん[勾欄] (名)⇒かうらん(高欄)
こよひらいさうとコヨイ…ソウ… (句)「枕草子」巻九にある語句。諸説があるが、あるいは「こよひはさらりと」の誤写か。「いみじき御門を、こよひらいさうとあけひろげてと聞えごちて、あぢきなく暁にぞさすなる」=大事な御門を、今夜はからりとあけ広げて(無用心な)と聞えるようにつぶやいて、(お客の帰った後)つまらなそうな顔をして、朝方、門をしめるのである。
こよろぎのいそ[小余綾の磯] (地名)「こゆるぎ」に同じ。古今集、十七、雑上「たまだれの小瓶(をがめ)やいづらこよろぎのいその波わけ沖に出でにけり 壬生忠岑」
こら[子ら] (名)子の複数。また、児女を親しんで呼ぶ語。子ろ。古事記、中「みつみつし久米のこら」万葉、[3-284]「焼津辺にわが行きしかば駿河なる安倍の市道(いちぢ)に逢ひしこらはも」
こらがてを…オ[子らが手を] (枕詞)女の手を枕にする意から「まき」に冠する。万葉、[10-1815]「子らが手をまきむく山に春されば木の葉凌ぎて霞たなびく」
こり[垢離] (名)神仏に祈願する時、冷水を浴びて身心を清めること。古今著聞集、一、神祗「諸人が垢離の水を、一人と汲みければ」
ごりうせんせい…リユウ…[五柳先生] (人名)中国、晉の陶潜。字は淵明。家の庭に五本の柳を植え、みずから「五柳先生」と称した。太平記、三十七、持明院新帝自二江州一還幸事「糸を乱せる門前の柳、五柳先生が旧跡、七松居士が幽栖も、かくやとおぼえてものさびたり」
こりずまに[懲りずまに] (副)前の失敗を懲りずに。性懲りもなく。古今集、十三、恋三「こりずまにまたも無き名はたちぬべし人にくからぬ世にし住まへば」
こりずまのうら[こり須磨の浦] (地名)「こりずま」を「須磨」に言いかけた語。「須磨」のこと。源氏、須磨「こりずまの浦のみるめのゆかしきを塩焼くあまやいかが思はむ」枕草子、九「浦は…こりずまのうら・わかのうら」
こりずまのわたり[こり須磨の渡り] (地名)前項参照。須磨から淡路に渡る渡津。枕草子、一「わたりは、しかすがのわたり・みつはしのわたり・こりずまのわたり」
こりにかく[垢離に掻く] (句)「垢離を掻く」ともいう。垢離を行うこと。「掻く」は「垢を掻き落す」意。みそぎをする。太平記、二十五、自二伊勢一進二宝剣一事「大神宮へ千日参詣の志ありける間、毎日に潮を垢離にかいて」
こ[此] (代)事物を指す近称代名詞。これ。古事記、上「こもみこのかずに入れたまはず」
こうりやうでん…リヨウ…[後涼殿] (名)「こうらうでん」に同じ。源氏、桐壺「後涼殿にもとより侍ひ給ふ更衣の曹司をほかに移させ給ひて、うへ局に賜わす」
ごりん[五倫] (名)人のふみ行うべき五つのみち。君臣の義、父子の親、夫婦の別、長幼の序、朋友の信。
ごりん[五輪] (名)(1)仏教で、「五体」をいう。頭、左右の臂、左右の膝。すべて、丸いのでいう。(2)「五大」に同じ。地・水・火・風・空。(3)「五輪塔」の略。墳墓の上に建てる密教の卒都姿。太平記、二十六、執事兄弟奢侈事「当家の父祖代代この地に墳墓をしめて、五輪を立て」
ごりんたふ…トウ[五輪塔] (名)「五輪塔」の略。墳墓の上に建てる密教の卒都姿。太平記、二十六、執事兄弟奢侈事「当家の父祖代代この地に墳墓をしめて、五輪を立て」
こる[凝る] (動、四)(1)凝結する。古事記、序文「それ混元すでに凝り、気象未だあらはれず、名も無く、わざも無し」=いったい、やがて天地となるべき元気が、古くから凝り固まって、まだ有形・無形の気が発顕せず、(従って)宇宙間の万物に名もなく、また、はたらきもない。(2)寄り集まる。かたまる。宇治拾遺、一「誠に巳の時ばかりに、三十騎ばかりこりて来るあり」(3)そのことにだけ心を傾注する。「凝りたる意匠」「将棋に凝る」(4)「凍る」の古語。
こる[樵る・伐る] (動、四)木や薪などを伐る。
こる[懲る] (動、上二)失敗を深く悔いる。懲りる。
これ (代)(1)事物を指す近称代名詞。このもの。(2)自称代名詞。われ。わたくし。狂言、さくらあらそひ「これは、このあたりの者でござる」(3)対称または他称代名詞。そなた。かれ。
これ (感)(1)漢文または漢文調の文で、語調をととのえ、または強める語の訓読。古事記、序文「これすなはち邦家の経緯、王化の鴻基なり。かれ、これ帝紀を撰録し、旧辞を討覈し」(2)人に呼びかけて注意する時などに用いる語。こら。
ごれう…リヨウ[御料] (名)(1)使用する物または飲食物の敬語。(2)御ため。源氏、榊「初の日は先帝の御料、次の日は母后の御ため」(3)貴人を指していう語。曾我物語、五、朝妻の狩座の事「御れうは青竹おろしの館に入り給ひぬ」(「源頼朝」をさしている)
ごれうにん…リヨウ…[御料人] (名)人の息女または妻を指していう語。
こうろ[鴻臚] (名)次項の略。和漢朗詠集、餞別「前途程遠し、思ひを雁山の暮(ゆふ
べ)の雲に馳せ、後会期遥かなり、纓を鴻臚の暁の涙にうるほす 大江朝綱」
これかれ (代)これとかれと。この人とかの人と。めいめい。源氏、帚木「いみじう霙ふる夜、これかれまかりあかるる所にて」
これたかみのみこ[惟喬の皇子] (人名)惟喬親王。文徳天皇の皇子。小野の宮と称す。父帝、親王を御寵愛、また、在原業平も親王を帝位に即け奉ろうとしたが、藤原氏のために妨げられて果たさなかった。寛平九年(897)薨、御年五十三。古今集、九、?旅「惟喬のみこのともに狩りにまかりける時に」
これつぐのちゆうなごん[惟継の中納言] (人名)鎌倉時代末期の人。権中納言、平惟継。文章博士。晩年出家した。その歌は、「玉葉集」以下の勅撰集に収む。興国四年(一三四三)没、年七十六。
ころ[子ろ] (名)「子ら」に同じ。万葉、[14-3522]「昨夜(きぞ)こそはころとさ寝しか雲の上ゆ鳴きゆくたづの間遠く思ほゆ」(ここでは、女子の親称)
ころくでう…ジヨウ[小六条] (名)「小六条院」の略。「北院」ともいう。楊梅(やまもも)の北、鳥丸の西にあった邸。枕草子、一「家は…東三条・小六条・小一条」
ころほひ…オイ[頃・比] (名)(1)ころ。時節。伊勢物語「時はみなづきのつごもり、いと暑きころほひに」(2)階級。品等。源氏、帚木「品定まりたるなかにも、またきざみきざみありて、中の品のけしうはあらぬ、えり出でつべきころほひなり」
ころもがせき[衣が関] (地名)「ころものせき」とも「ころもがはのせき」ともいう。昔、安倍氏の設けた関。今、岩手県西磐井郡平泉村高館から西、膽沢郡衣川村上衣川に至る丘陵を「関山」という。この辺であろう。奥の細道「康衡らが旧跡は、衣が関を隔てて南部口をさしかため、夷をふせぐと見えたり」
ころもがは…ガワ[衣川] (地名)岩手県膽沢郡の南部を流れる川。上流の北股川・南股川の二流が、衣川村大字上衣川の辺で合して「衣川」となり、東流して北上川に入る。奥の細道「衣川は和泉が城をめぐりて、高館の下にて大河に落ち入る」
ころもがはのたて…ガワ…[衣川の館] (地名)「ころものたて」ともいう。陸中の国、岩手県膽沢郡衣川の南にあった館。安倍頼時・貞任らの居城。
ころもがへ…ガエ[衣替・更衣] (名)(1)衣を着替えること。源氏、葵「中将の君、鈍色の直衣・指貫、うすらかにころもがへして」(2)陰暦四月一日と十月一日とに衣をかへること。平家、四、還御「今日は卯月一日、衣更ということのあるぞかしとて」(3)男女が互に着物をとりかえて寝ること。
こうろくわん…カン[鴻臚館] (名)昔、外国使臣を接待した館。京都・難波・大宰府の三か所に設けた。鴻臚。源氏、桐壺「このみこを鴻臚館につかはしたり」(ここは、京都)
ころもで[衣手] (名)「袖」のこと。古今集、一、春上「君がため春の野にいでて若菜つむわが衣手に雪は降りつつ、仁和の帝」
ころもでの[衣手の] (枕詞)袖には「ひだ」が多いので「ひだち」の転「常陸」に、長い袖の意から、「たながみ」に、両手を真手というので「ま」に、また、袖はひるがえるので「かへる」などに冠する。万葉、[9-1753]「衣手の常陸の国、ふた並ぶ筑波の山を」同、[1-50]「衣手の田上山(たながみやま)の真木さく檜のつまでを」以下、例略。
ころもでを…オ[衣手を] (枕詞)袖を折ることから「をり」に、打つということから「うつ」に、寄せたぐることから「たぐる」の約転「たか」に、また、袖を敷くことから「敷津」などに冠する。万葉、[17、3962]「門により立ち、衣手を折りかへしつつ」同、[4-589]「衣手をうちたむの里にあるわれを」以下、例略。
ころものせき[衣の関] (地名)「ころもがせき」に同じ。枕草子、六「せきは…しら川のせき・衣の関」
ころものたて[衣の館] (地名)「ころもがはのたて」に同じ。源義家の呼びかけ「ころものたてはほころびにけり」安倍貞任の返し「年を経し糸の乱れのくるしさに」
ころろく (動、四)声がかれて、のどがころころと鳴る。
こわき[小脇] (名)「脇」に同じ。「小脇に挟む」
こわざし[声差し] (名)ものをいうさま。もののいいぶり。こわざし。源氏、常夏「あはつけきこわざまにのたまひ出づることばこはごはしく」
こわざま[声様] (名)ものをいうさま。もののいいぶり。こわざし。源氏、常夏「あはつけきこわざまにのたまひ出づることばこはごはしく」
こわだえ[声絶え] (名)声の絶えること。堀河百首、春「答へぬになにと夜すがら呼子鳥こわだえもせず鳴くにかあるらむ」
ごうん[五蘊] (名)仏教の語。「蘊」は「積みたくわえる」義。色蘊(有形の物資)、
受蘊(事物を受入れる心の作用)、想蘊(想像の作用)、行蘊(善悪に関する心の作用)、識蘊(識別の作用)の五つをいう。謡曲、生田敦盛「五蘊もとよりこれ皆空、何によつて平生この身を愛せむ」
こわだか[声高] (名)声の高いこと。高声。竹取「かぐや姫のいはく、こわだかになのたまひそ。屋の上に居る人どもの聞くに、いとまさなし」
こわづかひ…ズカイ[声づかひ] (名)「こわざま」に同じ。源氏、若紫「御こゑのいと若うあてなるに、うち出でむこわづかひも恥づかしければ」
こわづくり…ズクリ[声づくり] (名)せきばらい。宇津保、国譲、中「御とのごもりするほどに、うちこわづくりして」
こわづくるコワツクル[声づくる] (動、四)(1)ことさらに、声をつくろっていう。つくり声をする。源氏、榊「ただ、ここにしも、とのゐ申しさぶらふとこわづくるなり」(2)せきばらいをする。増鏡、十七、春のわかれ「春宮はいつ帰り給ひぬるぞとのたまふに、うち声づくりて近く参り給へれば」
こわづくろひ…ズクロイ[声づくろひ] (名)「こわづくり」に同じ。
こわね[声音] (名)声のようす。音声。こわいろ。
こわぶり[声振り] (名)歌うさま。歌う声の調子。
こわまね[声真似] (名)口まね。
ごゐ…イ[五位] (名)(1)位の名。四位の下、六位の上。(2)「五位鷺」のこと。芭蕉の句「稲妻や闇のかた行く五位の声」
ごゐさぎゴイ…[五位鷺] (名)「鷺」の異名。醍醐天皇(延喜の帝)が神泉苑へ行幸されて、池の汀に鷺のいたのを六位に命じて捕らえさせ、その鷺を五位にされたということに起る。(平家物語、五、朝敵揃事)
ごおん[呉音] (名)漢字音の一。中国南方の音が日本に伝えられたもの。応神天皇の朝
に漢籍が伝えられたのは、朝鮮からであるが、当時朝鮮には中国南方の字音が伝わっていたので、日本にもその字音が伝えられた。当時、中国の南方の地を一般に呉と呼んでいたので、その字音を呉音というのである。例えば「明・清・京」を「ミョウ・ショウ・キョウ」のように読む類で、今日でも仏教の経典などは一般に呉音で読まれる。のち、漢音・唐音・支那音などが入って来た。⇒かんおん(漢音)。
こをりのえきコオリ…[桑折の駅] (地名)今の福島県伊達郡の中部の地、桑折町、昔の伊達(だて)郷の地にあった宿駅。奥の細道「馬借りて桑折の駅に出づ」
こをろこをろにコオロコオロ… (副)潮水などがくるくるまわりつつ次第に凝結するさまにいう語。古事記、上「そのぬぼこをさしおろしてかきたまへば、しほこをろこをろにかきなして」
こん[艮] (名)うしとらの方。東北。
ごん[権] (名)正官に副える官の名。「権大納言」の類。
こんがうづゑ…ゴウズエ[金剛杖] (名)山伏などの用いる杖。木で四角または八角に造る。金剛堅固の信念を表わすという。謡曲、安宅「金剛杖にすがり、足痛げなる強力にて、よろよろとして歩み給ふ御有様ぞいたはしき」
こんがうどうじ…ゴウ…[金剛童子] (名)金剛手院三十三尊の一。天魔が降伏するという忿怒童形の神。平家、二、康頼祝詞「南無権現金剛童子、願はくは憐れみを垂れさせおはしまし、我らを今一度故郷へかへし入れさせ給ひて、妻子をも見せしめ給へとぞ祈りける」
こんがうのしよ…ゴウ…[金剛の杵] (名)古代印度の武器。密教で煩悩打破の法具。金剛杖。太平記、十八、高野興二根来一不和事「その身、磐石のごとくにして、那羅延が力にても動かしがたく、金剛の杖も砕きがたくぞ見えたりける」
こんがうやしや…ゴウ…[金剛夜叉] (名)三面六臂または一面四臂の忿怒の相をなす明王。一切の悪魔を摧伏するという。金剛夜叉明王。栄花物語、玉の台「金剛夜叉は、釈迦仏と聞き奉るに、第十六我釈迦牟尼仏とのたまはせたる」
こんがうりきし…ゴウ…[金剛力士] (名)金剛の杵を執り、仏法を守護する金剛密迹天・那羅延天の二神。金剛神。二王。
こんがうれい…ゴウ…[金剛鈴] (名)金剛杵の一端につけた鈴。
こかい[巨海] (名)大きな海。義経記、五「浮木に乗りてこかいを渡る」
こんかき[紺掻き] (名)紺屋。こうかき。
ごんげ[権化] (名)(1)神仏が衆生済度のために、仮りに姿を変じてこの世に現れること。また、その化身。(2)ある特性をいちじるしく発揮した人。。
こんげん[混元] (名)(1)天地開闢以前の状態。万物生成のもと。古事記、序文「これ混元すでに凝り、気象未だあらはれず」(2)転じて、事物の大本。おおもと。
こんげん[坤元] (名)(1)つち。(2)万物を生成する地の徳。
こんげん[権現] (名)(1)「権化(1)」に同じ。(2)「神」に同じ。本地垂迹の説により、諸神は、仏菩提の仮りに姿を変えて現れたものとする。平家、一、鱸「平家、かやうに繁昌せられけることは、ひとへに熊野権現の御利生とぞ聞えし」(3)特に、徳川家康の死後の称。
こんげんろくのびやうぶ…ビヨウ…[坤元録の屏風] (名)内裏の調度で、名物の屏風の一。中国の地理書「坤元録」に載せた山河を描き、その山河に関する詩を書いた屏風。枕草子、十一「きらきらしきもの…こんげんろくの御屏風こそををしうおぼゆる名なれ」
ごんごだうだん…ドウ…[言語道断] (名)ことばに表わす道の断える義。(1)奥深い真理を賛嘆し礼賛すること。ことばの及ばぬこと。平家、一、鵜川合戦「時時刻刻の法施・祈念、言語道断のことどもにてぞ候ひける」(2)転じて、悪い方の意にいう語。以ての外のこと。聞くに耐えないこと。謡曲、安宅「や、言語道断、判官殿に似申したる強力めは一期の思ひ出な」
こんこんと (副)(1)混混と。滾滾と。水の湧き流れて尽きないさまにいう語。太平記、十四、箱根竹下合戦事「互に討ちつ討たれつ、馬の蹄を浸す血は、混混として洪河の流るるがごとくなり」(2)懇懇と。ねんごろに。「こんこんとさとす」
ごんざ[権者] (名)「ごんじや」に同じ。
こんざんのたま[崑山の玉] (名)中国の崑■山から出る名玉。めったにない貴ぶべき物または人にたとえる。雨月物語、五、貧福論「崑山の璧も乱れたる世には瓦礫にひとし」
ごかい[五戒] (名)仏教で、在家の人の守るべき五つの戒。不殺生戒・不偸盗戒・不邪
淫戒・不妄語戒・不飲酒戒の称。平家、二、教訓「内には五戒を保つて慈悲を先とし」
ごんじや[権者] (名)神仏が衆生済度のために、仮りに人と化して出現したと信じられる者。ごんざ。ごんげ。徒然草、七十三段「かくはいへど、仏神の奇特、権者の伝記、さのみ信ぜざるべきにもあらず」
こんじやくものがたり[今昔物語] (書名)平安時代末期に成った説話集。三十一巻。うち、巻八、十八、二十八の三巻を欠く。またの名を「宇治大納言物語」という。宇治大納言源隆国の編と見られている。天竺・震旦・本朝の三部から成り、各説話の冒頭に「今は昔」とあるので、この書名が生じた。説話文学集として世界に誇るに足るものであり、後世の文学に多くの影響を与えている。たとえば、芥川龍之介の作品「鼻」「龍」「芋粥」などは、みなこの書に材料を求めたものである。
こんじやう…ジヨウ[今生] (名)この世に生きている間。現世。曾根崎心中、道行「あれ数ふれば暁の、七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響きの聞き納め、寂滅為楽と響くなり」
こんぢく…ジク[坤軸] (名)仏教で、大地の中心にあるという軸。太平記、三、笠置軍事「大山も崩れて海に入り、坤軸も折れて忽ち地に沈むかとぞ覚えし」
こんてい[昆弟] (名)兄弟。あにおとうと。
こんでい[健児] (名)健児(こんげい)の訛。古語の「ちからびと」。昔、衛士の類で、兵部省に属し、郡司の子弟などから選んで、諸国の守備に任じた者。後の中間・足軽の類。
こんでいわらは…ワラワ[健児童] (名)前項に同じ。平家、一、鵜川合戦「成景は京の者、宿根賤しき下■なり。こんでい童、もしは恪勤者(かくごしや)などにてもやありけむ」
こんにつた (句)「こんにちは」の約転。謡曲・狂言などで、特に用いる語。謡曲、猩猩「こんにつた潯陽の江に出でて」
こんぱく[魂魄] (名)たましい。霊魂。
こんぴら[金毘羅] (名)梵語。Kumbhiraの音写。「わに」にである。海神として船人らの尊崇するところとなる。
ごかう…コウ[五更] (名)(1)一夜。一晩中。「更」は「ふける」義。一夜を五つの更に分け、一更(午後八時)、二更(午後十時)、三更(午後十二時)、四更(午前二時)、五更(午前四時)とした。また、これを甲夜・乙夜・丙夜・丁夜・戌夜とも称した。(2)第五更の時刻の称。今の午前四時から午前六時までの二時間。寅の刻。雨月物語、浅茅が宿「五更のそら明けゆくころほひ、うつつなき心にもすずろに寒かりければ、衾かづかむとさぐる手に」
こんぽんか[混本歌] (名)日本詩歌の歌体の一。五七七の三句からなるもの、すなわち旋頭歌の半分と見る説、また、四句からなるとする説。また、旋頭歌と同じとする説などがあって、はっきりしない。
こんぽんちゆうだう…ドウ[根本中堂] (寺名)延暦寺の本堂をいう。延暦七年(788)、伝教大師の建立。大師は三堂を建て、中を中堂、北を文殊堂、南を一切経蔵と名づけた。平家、二、座主流し「根本中堂におはします十二神将」
こんめいちのしやうじ…シヨウジ[昆明池の障子] (名)⇒こうめいちのしやうじ。
こんらうのみうら…ロウ…[軒廊の御占] (名)昔、大嘗祭の時に、紫宸殿の軒廊において御占によって国郡ト定の儀を行うこと。太平記、二十五、持明院殿御即位事「ト部宿禰兼前、軒廊の御占を奉り、国郡をト定あって、抜穂の使ひを丹波の国へ下さる」
こんりふ…リユウ[建立] (名)造り建てること。多くは寺院などにいう。保元物語、一、将軍塚鳴動「弘法大師は高野山を建立して、真言の秘法を修行して、専ら天下の護持を致す」
こんりんざい[金輪際] (名)(1)仏教で、大地の最下底をいう。大地の下、百六十万由旬を隔てて金輪がある、その所。無限の底。平家、七、竹生島詣「或経の文にいはく、閻浮堤の内に湖あり、その中に金輪際より生ひ出でたる水精輪の山あり」(2)転じて、事物の極限。
こんりんざい[金輪際] (副)どこまでも。底の底まで。「こんりんざい他言致さず」
こんりよう[袞龍] (名)天子の御礼服の称。御即位・大嘗祭などの大礼に用いられる。上衣と裳とから成り、上衣・裳とも赤地の綾で、上衣には日・月・星・山・龍・虫・火などの刺繍をなす。太平記、二、師賢登山事「師賢法勝寺の前より、袞龍の御衣を着して、■輿(えうよ)に乗り替へて、山門の西塔院へ登り給ふ」
こんゑふ…エ…[近衛府] (名)「このゑふ」に同じ。
ごかう…コウ[御幸] (名)上皇・法皇・女御などのおでまし。「行幸」「行啓」に対する語。平家、灌頂、大原御幸「法皇、夜をこめて大原の奥へ御幸なる」
こかく[狐貉] (名)狐や貉(たぬき)の毛皮で作った、りっぱな衣服。駿台雑話、二、
不レ?不レ求「やぶれたる?袍を着て狐貉を着たるものと並び立ちて恥ぢざる」
こ[来] (動、カ変の命令形)竹取「みやつこまろ、まうでこ」
こがく[古学] (名)(1)わが国の古典を研究して、古代精神を明らかにしようとする学
問またはその学派。荷田春満・僧契沖・賀茂真淵・本居宣長などはその代表である。(2)漢・唐の訓詁学、宋・明の性理学を排し、経書の本文または古注によって直ちに孔孟の真意を理解しようとする学問またはその学派。江戸時代の儒学の一派で、伊藤仁斎・萩生徂徠らはその代表である。
こがくる[木隠る] (動、下二)木のかげに隠れる。伊勢集「こがくれて五月(さつき)
待つ間のほととぎすまだしきほどの声を聞かばや」
こがくれ[木隠れ] (名)木のかげに隠れること。また、木のかげの小暗いところ。万葉、
[10-1875]「春さればこがくれ多き夕月夜おぼつかなしも山かげにして」(一つの訓)
こがせいり[古賀精里] (人名)江戸時代の儒者。名は樸。通称は弥助。佐賀の人。朱子
学を奉じ、昌平黌の教官となる。柴野栗山・尾藤二洲と共に寛政の三博士と呼ばれた。文化十四年(1817)没、年六十七。主著、四書集釈・近思録集説。
こがなはて…ナワテ[久我畷] (地名)「くがなはて」の訛。京都府乙訓郡山崎から久我に至る桂川右岸の堤防上にある街道。これから桂川を渡れば京都に至る。「畷」はたんぼの間の真直な道のこと。徒然草、百九十五段「ある人、こがなはてを通りけるに、小袖に大口着たる人、木作りの地蔵を田の中の水にひたして、ねんごろに洗ひけり」
こがねづくり…ズクリ[黄金作り] (名)「黄金」または「きんめっき」の金具で装飾すること。また、それで装飾されたもの。「黄金作りの太刀」「黄金作りの車」
こがねのみね[黄金の峰] (地名)「きんぷさん」の別称。
こがねはなさく[黄金花咲く] (句)黄金の産するのを、花にたとえていう語。奥の細道
「こがね花咲くとよみて奉りたる金花山、海上に見わたし」(この歌は、万葉、[18-4097]「すめろぎの御代栄えむとあづまなるみちのく山にくがね花咲く 大伴家持」をいう)
ごかのあもう[呉下の阿蒙] (句)相変わらず、元のままの無学の意。中国、呉の阿蒙が
孫権に学を進められて直ちに学問に精励した。魯粛が阿蒙の進歩の速いのに驚いて、「昔はただ武略があっただけだが、今は学識がひろくなった。また呉下の阿蒙ではない。」と言ったことに基づく。(三国志江表伝)駿台雑話、五、年にはづかし「諸弟子久しく師門に遊び候へども、今に呉下の阿蒙にて、昔に変はることもなく」
こがのしやうこく…シヨウ…[久我の相国] (人名)鎌倉時代の歌人。太政大臣源通光。宝治二年(1248)没、年六十一。主著、歌仙落書。徒然草、百段「久我の相国は、殿上にて水をめしける時、主殿司、土器を奉りければ」
こ[小] (接頭)(1)「小さい」「細かい」「わずかな」などの意をあらわす。小山。小人。小形。(2)「少し」「いささか」などの意をあらわす。小高し。小暗し。(3)やや卑しめる意をあらわす。こざかし。こづらにくし。
こかは…カワ[粉河] (寺名)「粉河寺」の略。紀伊の国、和歌山県那賀郡粉河にある寺。西国三十三所第三番。紀州最古の寺。枕草子、九「寺は…石山、こかは、滋賀」
こがひ…ガイ[蚕飼] (名)蚕を飼うこと。養蚕。また、その人。養蚕家。拾遺集、十、神楽歌「年もよしこがひも得たりおほ国の里たのもしく思ほゆるかな」
こがひ…ガイ[子養・子飼] (名)(1)鳥獣などの子を飼うこと。枕草子、二「心と  きめきしするもの、雀のこがひ」(2)こどもの時から養い育てること。また、その育てられたこども。昔の工商の家の年季の徒弟など。
こがらしのもり[木枯の森] (地名)歌枕の一。駿河の国、静岡県安倍郡服織村藁科川中の磧にある丘上八幡祠の森。新古今、十四、恋四「消えわびぬうつろふ人の秋の色に身をこがらしの森の下露 藤原定家」枕草子、六「もりは…ここひのもり、こがらしのもり・しのだのもり」
ごかん[語幹] (名)文法用語。活用語において、活用しない部分。「語尾」の対。「ありく」「わろし」「あざやかなり」「堂堂たり」「たし」の「あり」「わろ」「あざやか」「堂堂」「た」の類。
こき[国忌] (名)皇考・皇妣・先帝・母后などの御忌日。持統紀、二年二月「詔して曰く、今より以後、国忌の日にあたらむ毎に、必ず斎(をがみ)すべし」
こき[古稀] (名)七十歳の称。中国、唐時代の詩人杜甫の曲江詩「朝回日日典二春夜一、毎レ到二江頭一尽レ酔婦、酒債尋常行処有、人生七十古来稀」に基づく。
こき[古記] (名)ふるい書き物。旧記。双生隅田川、三「家家の名記・古記をたづねてもこれぞといふべき例もなく」
ごき[御器・盒器] (名)食物を盛る器物。木製・金属製・土器など。後世は特に椀の称。落窪物語「御盒器をだに聞えとりたまひき」讃岐典侍日記「いと黒らかなる御器ならで土器(かはらけ)にてあるぞ、見ならはぬ心地す」
こきう…キユウ[故旧] (名)長い間の知り人。古いなじみ。旧知。旧友。太平記、十一、五大院右衛門宗繁■二相模太郎一事「故旧多しといへども、一飯を与ふる人なくて」

Page Top