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ふ[傅] (名)(1)たすけ。輔佐。看護者。お守役。(2)昔、東宮の職員。皇太子を輔導することをつかさどるもの。栄花、木綿四手「傅には閑院の右のおほい殿なり給ひぬ」
ぶあい[無愛] (名)前項に同じ。
ふくゐん…イン [幅員](名)はば。ひろさ。
ふくゑ…エ[服穢] (名)忌服のけがれ。
ふけ[深・更] (名)(1)深いこと。また、夜・月・年などのたけること。ふけること。千載集、十六、雑上「はかなくも我がよのふけを知らずしていさよふ月を待ちわたるかな」(「夜のふけ」と「齢(よ)のふけ」とをかけている)(2)深い田。
ふけう……キヨウ[不孝] (名)(1)親に孝行でないこと。宇津保、俊蔭「汝、不孝の子ならば、親に長き嘆きあらせよ」(2)不孝者として勘当すること。勘当。保元物語、一、新院御所門門固めの事「父、不孝をゆるして今度の御大事に召し具しけるなり」(為義が為朝を)
ぶけぎりものがたり[武家義理物語] (書名)井原西鶴の小説。六巻。元祿元年(一六八八)刊。武士の節義に関する種種の物語。西鶴晩年の作。
ふけだ[深田] (名)深い田。ふけ。
ふけひのうらフケイ……[深日の浦・吹飯の浦] (地名)和泉の国、大阪府泉南郡深日(ふけ)村の海浜の古称。新古今、十八、雑下「天つ風ふけひの浦にゐる鶴のなどか雲居にかへらざるなる」平家、九、六箇度合戦「和泉の国吹飯の浦にたてこもる」
ふけひのはまフケイ……[深日の浜、吹飯の浜] (地名)前項に同じ。万葉、十二の三二〇一「時つ風吹飯の浜に出でゐつつ贖(あが)ふ命は妹がためこそ」(「時つ風」は枕詞)
ふける[耽る] (動、四)深く思い入る。一事に熱中して他をかえりみない。おぼれる。こる。土佐日記「ふけりて詠める」
ふけゐのうらフケイ……[吹井の浦] (地名)未詳。紀伊の国の地名「吹飯の浦」の誤記か。大和物語「沖つ風ふけゐの浦に立つなみのなごりにさへやわれはしづまむ」⇒なごり。
ふい[巫医] (名)みこと医者と。また、一人でみこと医者とを兼ねた人。梧窓漫筆、下「朱注は皇疏衛■の説にて巫医ともなるべからずと解せり」
ふげん[普賢] (名)菩薩の一。文殊とともに釈迦仏の脇士(右方)として、諸菩薩の上位におり、仏の衆生済度を助成する。その像は、白象に乗るものと蓮台に座するものとの二種がある。枕草子、九「仏は…みろく・普賢」
ぶげん[分限] (名)(1)身のほど。分際。ぶんげん。謡曲、佐佐木「かほどのぶげんの者さへ馬を申す」(2)富んだ身分。かねもち。蒙求抄、五「ぶげんになれば旧友を忘る」
ふげんじふぐわん…ジユウガン[普賢十願] (名)仏経典の名、普賢菩薩の十大願の称で、礼敬諸仏・随喜功徳・恒順衆生・称賛如来・請転法輪・普皆回向・広修供養・請仏在世・懺悔業障・常随仏学の十願。枕草子、九「経は…普賢十願」
ふげんぼさつ[普賢菩薩] (名)「普賢」に同じ。
ふご[畚] (名)(1)竹や藁などで作り、籠の代用として物を入れて運ぶ具。夫木抄、春五「春の野にふご手にかけて行く賤のただなどやらむものあはれなる」(2)釣った魚を入れる籠。びく。
ふご[封戸] (名)昔、親王・諸王・諸臣に賜わった民戸。租は半を給し、庸・調は全給。へひと。
ぶこ[武庫] (名)兵器を納めるところ。兵庫。兵器庫。
ぶこつ[無骨] (名)(1)無風流。無作法。がさつ。平家、八、猫間「立ち居・ふるまひの無骨さ」(2)役に立たぬこと。不才。不敏。曾我物語、五「われ無骨なりといへども」(3)工合のわるいこと。都合のわるいこと。平治物語、一、信西南都落の事「興をさまし参らせむも無骨なれば」
ふさう…ソウ[扶桑] (名)(1)日の出る処。また、太陽。和漢朗詠集、蘭「扶桑あに影なからむや、浮雲掩つて忽ちくらし」(2)日の出る処にあるという神木の名。また、扶桑花。ぼさつ花。
ふさう…ソウ[扶桑] (地名)中国で、東方にあり、扶桑の木の多い土地の称。転じて、「日本」の意となる。祝詞、東文忌寸部献横刀時呪「東は扶桑に至り、西は虞淵に至り」奥の細道「松島は扶桑第一の好風にして、凡そ洞庭・西湖を恥ぢず」
ふい[布衣] (名)官位のない常人の称。匹夫。庶人。ほい。昔、中国で布の衣は庶人の服であったことから起った語。
ぶさう…ソウ[無双] (名)並ぶ者のないこと。比類のないこと。
ふさうぐも…ソウ…[ふさう雲] (名)不祥雲か。世に凶災などのある前兆にこの雲が出るという。枕草子、八「名おそろしきもの…はやち・ふさう雲・ほこ星・おほかみ」
ふさうしふえふしふフソウシユウヨウシユウ[扶桑拾葉集] (書名)詞文集。三十巻。徳川光圀の編。元祿二年(一六八九)刊行。古来の和文の序・跋・日記・物語・紀行・賀文・悼辞または贈答の文など、凡そ三百編、作者百余人にのぼる文集。
ふさうりやくきフソウリヤツキ[扶桑略記] (書名)雑史。三十巻。阿闍梨皇円の著。嘉保元年(一〇九四)成る。神武天皇から堀河天皇の寛治八年(一〇九四)三月に至る編年体史。仏寺関係の記載に重点を置く。現存のものは、神功皇后から寛治元年に至るまで。その残巻を集めたものに「扶桑略記残冊摘要」一巻がある。
ふさに (副)多く。しげく。さはに。蜻蛉日記「わりごやなにやとふさにあり」同「今は高き峰になむ昇り侍るべきなどふさに書きたり」
ふさぬ[総ぬ] (動、下二)たばねる。すべくくる。すべる。用明紀、元年正月「厩戸皇子…東宮にましまし、よろづのまつりごとを総ねかはりてみかどわざしたまふ」
ふさふフサウ (動、四)よくかなう。適合する。ふさわしい。古事記、上「その妹に、女を言(こと)に先だちてふさはずとのりたまひき」=その妻に、女が男に先だってことばをかけたのはふさわしくないとおっしゃった。
ふさやかなり (形動、ナリ)ふさふさしている。しげく多い。源氏、空蝉「髪は、いとふさやかにて」枕草子、三「木は…ゆづり葉の、いみじうふさやかにつやめきたるは」(これらの例は、副詞ではなく、この語の連用形である)
ふざんのくも[巫山の雲] (句)「巫山の夢」に同じ。雨月物語、二、浅茅が宿「巫山の雲、漢宮の幻にもあらざるやと、くりごと果てしぞなき」⇒かんきゆうのまぼろし。
ふざんのゆめ[巫山の夢] (句)男女が相会して情交のこまやかなこと。巫山は中国の湖北・四川両省の境にある山であるが、楚の襄王がかつて巫山の女と契った夢を見たことから出た語。「文選」の宋玉「高唐賦」にくわしい。「巫山の雲」ともいう。
ぶい[無異] (名)異状のないこと。無事。
ふし[柴] (名)「節」の義かという。「しば」の古語。古事記、上「天の逆手を、青ふし垣に打ちなして隠りましき」
ふじがは…ガワ[富士川] (地名)笛吹川・釜無川などが甲斐盆地の西南で合して富士川となり、富士山麓を流れて駿河湾に注ぐ。万葉、三の三一九「ふじがはと人の渡るも、その山の水のたぎちぞ、日の本の、やまとの国の鎮めとも、います神かも」更級日記「富士川といふは、富士の山より落ちたる水なり。その国の人の出でて語るやう」
ふしかへり……カエリ[臥し返り] (名)寝がえり。
ふしかへる……カエル[臥し返る] (動、四)寝がえりをうつ。
ふしぐろ[節黒] (名)(1)節を削らない所。宇治拾遺、六「ふしぐろなる箙(やなぐひ)、皮巻きたる弓持ちて」(2)節の下を漆で黒く塗った矢柄。
ふししば[ふし柴] (名)「ふし」も柴のこと。重ねて言った語。「柴」に同じ。千載集、十三、恋三「かねてより思ひしことよふししばのこるばかりなる嘆きせむとは」
ふしたけ[臥長] (名)臥した時のからだの長さ。うずまいている身の長さ。平家、八、をだまき「臥長五、六尺、あと枕辺は十四、五丈もあらむとおぼゆる大蛇」(「あと枕辺」は尾から首に至るまでの長さ)
ふじたにしげあや[富士谷成章] (人名)江戸時代の文法学者・歌人。京都の人。その文法論は、すこぶる卓見に富み、今日でも大いに参考になる。安永八年(一七七九)没、年四十一。主著、かざし抄・あゆひ抄。
ふじたにみつゑ……ミツエ[富士谷御杖] (人名)江戸時代の国学者。京都の人。成章の子。文政六年(一八二三)没、年六十五。主著、万葉集燈・土佐日記燈。
ふしづけ…ズケ[柴漬] (名)(1)寒中、湖・沼・池などに柴を束ねて沈め、その中に魚の入るのを捕る仕掛。(2)罪人を簀に巻いて、水中に投ずること。その様が、魚をとる柴漬に似ているのでいう。義経記、三、弁慶生まるる事「水の底にふしづけにもし、深山に磔(はりつけ)にもせよとぞ、のたまひける」
ふういう…ユウ[風猷] (名)「風」は風教、「猷」は道徳。風教道徳。古事記、序文「いにしへをかんがへて、風猷を既にくづれたるにただし」
ふしど[臥所] (名)夜臥す所。ねどころ。ねや。
ふじのしばやま[富士の柴山] (地名)富士の裾野の灌木地帯をいう。万葉、十四の三三五五「天の原富士の柴山木(こ)の暗(くれ)の時移りなば逢はずかもあらむ」
ふじのねの[富士の嶺の] (枕詞)胸中の「思ひ」を「火」を噴く富士の嶺にたとえて「燃ゆ」「思ひ」に冠する。古今集、十九、長歌「富士の嶺の燃ゆる思ひにあかずして」同、同、俳諧歌「富士の嶺のならぬおもひに燃えば燃え神だに消たぬ空し煙を」
ふしはかせ[節博士] (名)昔、謡い物の歌詞の傍に、その節の高低・長短をしるして示したもの。謡い物の曲節を示す譜。略して「博士」ともいう。博士の教えるものであるところからいうと。徒然草、二百二十七段「うづまさの善観坊という僧、節博士を定めて、声明(しやうみやう)になせり」(「声明」は経文に節をつけてうたうもの)
ふしまちのつき[臥待の月] (名)「寝待の月」に同じ。陰暦十九日の夜の月。⇒ねまちのつき。源氏、若菜、下「ふしまちの月、はつかにさし出でたる、心もとなしや」
ふしみのさと[伏見の里] (地名)(1)大和の国、奈良県生駒郡伏見村。大字菅原に菅原神社がある。古今集、十八、雑下「いざここに我が世は経なむ菅原や伏見の里のあれまくも惜し」(2)山城の国、京都府紀伊郡の地名。深草の里の南。宇治川に臨む地。今、京都市伏見区の主要部。方丈記「木幡山、伏見の里、鳥羽、はつかしを見る」(枕草子、三「里は…伏見の里」は、右の二地のいずれか未詳)
ふしやう……シヨウ[不請] (名)仏教の語。菩薩は衆生の請求がなくても、済度する大慈悲心を有するとの意。また、いやいやながら念仏を唱える場合にもいう。方丈記「かたはらに舌根をやとひて不請の阿弥陀仏両三遍申して止みぬ」(いやいやながら)
ふしやう……シヨウ[府生] (名)六衛府・検非違使の下役の称。宇津保、俊蔭「府生には白きひとへがさね賜ふ」
ふしやう……シヨウ[不祥] (名)よくない。めでたくない。不吉。
ふしやう……シヨウ[不詳] (名)つまびらかでない。よく分からない。
ふうえふわかしふ…ヨウ…シユウ[風葉和歌集] (書名)十八巻。編者未詳。文永八年(一二七一)成る。古今の物語本に存する和歌を春・夏・秋・冬・離別・恋などの部類別にして集めたもの。この種の歌集としては最初のもの。後深草天皇の御母后大宮院がお集めになったものをもととし、これを増補し整理したものという。二十巻のものらしいが、第十九、第二十の二巻は散逸。
ぶじゆん[拊循] (名)慰撫すること。駿台雑話、四、兵は詭道「兵を磨き、士を養ひ、日ごろ拊循して用ひしかば」
ふしよう[鳧鐘] (名)昔、中国の鳧氏が鐘を作ったことから、転じて「鐘」の義となる。謡曲、敦盛「鳧鐘をならし」
ふしん[不審] (名)(1)はっきりしないこと。(2)腑に落ちないこと。(3)嫌疑を受けること。また、転じて、勘当。曾我物語、十「伊豆次郎は御不審をかうぶり、奥州外の浜へ流されしが」
ふす[補す] (動、サ変)任ず。ほす。
ふす[賦す] (動、サ変)(1)詩などを作る。「一詩を賦す」(2)年貢などを割りつける。
ふずく[粉粥・粉熟] (名)米の粉などを蜜で練り、竹の筒に入れて押し出した、一種の菓子。ふんずく。宇津保、初秋「ふずくまゐり、おものなどまゐらせ給ふ」
ふすぶ[燻ぶ] (動、下二)(1)いぶす。くすぶらせる。くゆらせる。(2)火葬にする。荼毘に附す。蜻蛉日記「西の山辺のけぶりには、ふすぶることも絶えもせず」(3)嫉妬する。りんきする。やく。源氏、帚木「いと久しくまからざりしに、もののたよりに立ち寄りて侍れば…ふすぶるにやと、をこがましくも」
ふすぶる[燻る] (動、四)いぶる。くすぶる。また、すすけて黒ずむ。
ふすべ[燻] (名)「ふすぶ」の連用形が名詞に転じた語。くすぶらせること。いぶらせること。蜻蛉日記「藻塩焼くけぶりの空に立ちぬるはふすべやしつるくゆる思ひに」(後悔の意)
ふすべ[贅](名)瘤(こぶ)の古語。
ふすべかは…カワ[燻革] (名)松葉の煙で地を黒くいぶし、模様の部分を白く残した革。「ふすべ革の鎧」
ふうが[風雅] (名)みやびやかなこと。風流。
ふすべかはすフスベカワス[燻べかはす] (動、四)互に後悔する。後悔しあう。蜻蛉日記「さかしらするまで、ふすべかはして」
ふすべがほ…ガオ[燻顔] (名)嫉妬顔。すねた顔。源氏、真木柱「ふすべ顔にて、ものし給ひけるかな」
ふすべぎん[燻銀] (名)いぶしをかけて黒くした銀。いぶし銀。
ふすぼる[燻る] (動、四)「ふすぶる」に同じ。
ふすま[衾] (名)「臥す間」に用いる義。夜具。古事記、上「ふはやがしたに、むしぶすま、にこやがしたに、たくぶすま」
ふすま[襖] (名)「臥す間」に立てまわす義。からかみ。
ふすまぢを…ジオ[衾道を] (枕詞)語義未詳。衾には紐をつけ、それを引いてひろげ被うので、「引き手」の地名に冠するというがうなずけない。とにかく「引き手」に冠する。万葉、二の二一二「衾道を引き手の山に妹を置きて山路を行けば生けりともなし」
ふすゐ…イ[臥す猪] (句)寝ている猪。猪は枯れ草(かるも)をかき集めて、その上に寝るというところから「臥す猪のかるも」「かるもかく臥す猪の床」などと和歌に詠ずる。
ふすゐのとこ……イ…[臥す猪の床] (句)寝いている猪の床。前項参照。八雲御抄「猪などいふ恐ろしきものをも、臥す猪の床といひつれば、やさしきなり」徒然草、十四段「恐ろしきゐのししも、臥す猪の床といへば、やさしくなりぬ」
ふぜい[風情] (名)(1)おもむき。情趣。方丈記「岡の屋に行きかふ船をながめて、満沙弥が風情をぬすみ」(2)容姿。身だしなみ。一代男、三「人の風情とて、毎朝髪ゆはするも」(3)接尾語のように用いて「のよう」の意をあらわす語。徒然草、五十四段「箱風情のものにしたため入れて、ならびの岡の便りよき所にうづみ置きて」(4)接尾語のように用いて、人をいやしめていう語。「のような奴」の意。「××風情が知ることかは」
ふうがわかしふ……シユウ[風雅和歌集] (書名)二十巻。二十一代集の一。また、十三代集の一。勅撰和歌集第十七番めのもの。花園天皇の御撰。正平元年(一三四六)成る。
ふせう……シヨウ[不肖] (名)「似ない」義。悪い方にいう。「不肖の子」
ふせう……シヨウ[不肖] (代)謙遜していう自称代名詞。
ふせご[伏せ籠・臥せ籠] (名)(1)炭火の上にかむせ、衣をあたためるに用いる籠。あぶりこ。大鏡、五、太政大臣兼通「伏せ籠うちおきて、褻(け)に着給ふ御衣をば暖かにてぞ着せ奉り給ふ」(2)衣に香をたきしめるに用いる籠。ひとりこ。(3)ふせてある籠。源氏、若紫「雀の子を、いぬきが逃がしつる、ふせごのうちにこめたりつるをとて、いとくちをしと思へり」(「いぬき」は使用している童の名)
ふせつ[符節](名)符。わりふ。
ふせどひ…ドイ[伏せ樋] (名)土中に埋めてある樋。暗渠。
ふせのうみ[布勢の海] (地名)越中の国、富山県氷見郡十二町村にある「十二町潟」の古称。今は、小さな潟となる。万葉、十七の三九九二「布勢の海の沖つ白波あり通ひいや年ごとに見つつしのばむ 大伴家持」
ふせのうら[布勢の浦] (地名)前項に同じ。
ふせや[伏せ屋] (名)屋根を地に伏せたような低い家。低くて小さい家。まずしい家。万葉、三の四三一「ふせや立て妻問ひしけむ、葛飾の真間の手児奈が奥津城を 山部赤人」
ふせや[布施屋] (名)昔、駅路のところどころに設けて、旅行者の接待や宿泊に供した家。官設のも私設のもあった。
ふせやたき[伏せ屋焼き] (枕詞)伏せ屋で火を焚くとすすけるので「すすし」に冠する。異説もある。万葉、九の一八〇九「ちのをとこ、うなひをとこの、ふせやたき、すすしきほひ」(「すすしきほふ」は「先を争う」「競争する」意)
ふせる[臥せる・伏せる] (動、四)寝る。伏す。伊勢物語「あばらなる板敷に、月のかたぶくまでふせりて」
ふうかん[諷諫] (名)それとなしにいさめること。
ふせんりよう[浮線綾] (名)浮き織りにした綾(あや)。増鏡、十二、老のなみ「春宮は色濃き御直衣、浮線綾の御指貫、紅のうちたる袷を奉れり」
ふぞく[風俗] (名)(1)「ふうぞく」に同じ。(2)「ふうぞくうた」に同じ。枕草子、十一「うたは…ふぞくよくうたひたる」
ふぞくご[附属語] (名)文法用語。単独では意味が明瞭でなく、他の語に付いて、はじめて意味の明らかになる単語。助動詞と助詞と。「自立語」の対。
ぶそん[蕪村] (人名)⇒たにぐちぶそん。
ぶそんくしふ……シユウ[蕪村句集] (書名)一巻。谷口蕪村の句を、門人几董が編集したもの。八百五十句を収む。天明四年(一七八四)刊。
ぶそんしちぶしふ……シユウ[蕪村七部集] (書名)二冊。文化六年(一八〇九)刊。谷口蕪村の七部の句集。其雪影・一夜四■・続四歌仙・明鴉・続明鴉・桃李・花鳥を合編したもの。
ぶそんぶんしふ……シユウ[蕪村文集] (書名)二冊。文化十三年(一八一六)刊。谷口蕪村の俳文を、其独亭忍雪・酔庵其成の二人で編集したもの。
ふたあゐ…アイ[二藍] (名)染色の名。藍と紅花とで染めたもので、藍色と紅色との中間の色。 枕草子、一「祭近くなりて、青朽葉・二藍などの物どもおしまきつつ、細櫃のふたに入れ」
ふだい[譜代・譜第] (名)(1)代代系図正しく官位乱れず、功のあること。神皇正統記、四「左相は普代の器なりければ」(藤原時平をさす)(2)代代、その家の臣下。江戸幕府では、代代徳川氏に臣属していた者の称。「外様」の対。
ぶだう…ドウ[無道] (名)人たる道に背くこと。非道。ひどいこと。むだう。「悪逆無道」
ふうくわ…カ[風化] (名)(1)政治や教育などにより、人人を善導し、よく化せしめること。(2)風や空気にさらされて変質すること。
ぶだう…ドウ[武道] (名)武士の守るべき道。武術に関する道。
ぶだうでんらいき…ドウ…[武道伝来記] (書名)八巻。井原西鶴の小説。貞享四年(一六八七)作。毎巻四話を収め。三十二話の諸国仇討談。好色物に比し、はるかに劣る。
ふたがみ[二上] (地名)「二上山」の略。次項参照。(1)大和の二上山。万葉、十の二一八五「大坂をわが越え来れば二上にもみぢ葉流る時雨降りつつ」(2)越中の二上山。万葉、十一の二六六八「二山の隠ろふ月の惜しけども妹が袂を離(か)るるこの頃」
ふたがみやま[二上山] (地名)前項参照。(1)奈良県北葛城郡と大阪府南河内郡との境にある山。万葉、二の一六五「現身(うつそみ)の人なるわれや明日よりは二上山をいろせとわが見む大来皇女」(2)富山県の射水・氷見二郡の境にある山。万葉、十七の三九八七「玉くしげ二上山に鳴く鳥の声の恋ひしき時は来にけり 大伴家持」
ふたがる[塞がる] (動、四)ふさがる。源氏、桐壺「御胸、つとふたがりて、つゆまどろまれず、明かしかねさせ給ふ」
ふたぐ[塞ぐ] (動、四)ふさぐ。古事記、上「このあが身の成り余れる処を、なが身の成り合はざる処に刺しふたぎて」
ふたぐ[塞ぐ] (動、下二)意は前項に同じ。源氏、松風「寝殿は、ふたげ給はず、時時わたり給ふ御休み所にして」
ふたごころ[二心] (名)あだしごころ。不信の念。男女の間にも君臣の間にもいう。源氏、若菜、下「色ごのみのふたごころある人にかかづらひたる女」金槐集、下「山は裂け海はあせなむ世なりとも君にふたごころ我があらめやも」
ふたさやの[二鞘の] (枕詞)語義未詳。とにかく「家」に冠する。また、「隔つ」に冠するとも考えられる。万葉、四の六八五「人言(ひとごと)を繁みや君が二鞘の家を隔てて恋ひつつをらむ」
ふたしへ…エ[ふたし重] (名)「し」は助詞。二重(ふたへ)に同じ。後撰集、九、恋一「いかでかく心一つをふたしへに憂くもつらくもなして見すらむ 伊勢」
ふ[符] (名)(1)わりふ。竹また木に、しるしとすべき文字を書き、これを割って彼我おのおの半分を所持し、他日事ある時、合わせて証拠とするもの。(2)神仏のまもり札。(3)加持の札。太平記、二十三、大森彦七事「さらば陰陽師に門を封ぜさせよと、符を書かせて門門に押せば」
ふうくわう…コウ[風光] (名)風景。景色。「風光明媚」
ふたつぎぬ[二つ衣] (名)(1)衵(あこめ)を二枚重ねて着ること。(2)衵に限らず、二枚重ねの衣。平家、九、小宰相「白袴練貫の二つ衣を着給へり」
ふたつのみち[二つの道] (句)(1)忠と孝との両道。(2)貧と富との両道。源氏、帚木「親ききつけて、さかづきもて出でて、わが二つのみちうたふを聞けとなむ、聞えごち侍りしかど」(白氏文集、秦中吟「我が両途を歌ふを聞け。富家の女は稼ぎ易し云々」による)
ふたつもじ[二つもじ] (名)平仮名の「こ」をいう。徒然草、六十二段「ふたつもじ牛の角もじすぐなもじゆがみもじとぞ君はおぼゆる」(こ・ひ・し・く)
ふたなみ[二並] (枕詞)次項の一訓。
ふたならぶ[二並] (枕詞)筑波山は頂上に男女二峰が相並ぶので「筑波」に冠する。「ふたなみ」の訓もある。万葉、九の一七五三「ころもでの常陸の国、ふたならぶ筑波の山を」(「ころもでの」は「常陸」の枕詞)
ふたふたと (副)ばたばたと。枕草子、二「にくきもの…扇ひきひろげて、ふたふたとうちつかひて、まかりたる」
ふたへ…エ[二重] (名)(1)二つまたは二枚など重なること。また、そのもの。にじゅう。(2)腰の折れかがまること。大和物語「この伯母、いといたう老いて、ふたへにてゐたり」(3)衣の表裏同色のこと。「ふたへの狩衣」
ふたへおりものフタエ……[二重織物] (名)綾の地の上に縫い模様を施し、または別の糸で模様を織り出したもの。平家、十二、六代「二重織物の直垂に、黒木の数珠手にぬき入れておはします」⇒くろき(黒木)。
ふたま[二間] (名)「間」は柱と柱との間で、約五尺。二間は約一丈。方二間の部屋。今の八畳に当たる。(1)清涼殿の廂の間の称。夜間、僧などの伺候する処。讃岐典侍日記「御行ひのついでに、二間にて立ちおはしまして」(2)職の御曹司。中宮の御座所。枕草子、五「五月の御さうじのほど、職におはしますに、ぬりごめの前、二間なる所にしつらひしたれば」(「さうじ」は「仏事の精進」)
ふたみのうら[二見の浦] (地名)(1)但馬の国、兵庫県城埼郡内川村字二見の辺の円山川(城崎川)の入江の称。古今集、九、覊旅「夕月夜おぼつかなきを玉くしげふたみの浦はあけてこそ見め」増鏡、十九、久米のさら山「野中の清水、ふたみの浦、高砂の松など、名ある所所御覧じわたさるるも」(2)伊勢の二見が浦。新古今、十三、恋三「あけがたきふた見の浦に寄る浪の袖のみ濡れておきつしま人」
ふうこつ[風骨] (名)風采骨骼。姿。様子。風采。
ふたみのみち[二見の道] (地名)三河の国、愛知県宝飯郡、御油(ごゆ)から本野原にかかり本坂越えをする道で、二見の里を通るのでいう。万葉、三の二七六「妹も我も一つなれかも三河なる二見の道ゆ別れかねつる」
ふたむらやま[二村山] (地名)尾張の国、愛知県愛知郡豊明村にある山。十六夜日記「二村山を越えて行くに、山も野もいと遠くて、日も暮れ果てぬ」
ふためく (動、四)(1)ばたばたと音を立てる。(2)あわてる。
ふたら[二荒] (地名)「日光山」に同じ。蜻蛉日記「下野やをけのふたらをあぢきなく影もうかばぬかがみとぞ見る」(「桶のふた」を鏡と見る意。それに、下野の「二荒山」をかけたもの)
ふだらく[補陀落] (地名)梵語Potalakaの音写。「海鳥山」と訳す。印度の南海岸にある地。また、中国の浙江省寧波府の海中にある舟山島の山。また、チベットの中部、拉薩の地などで、観音の住所という。新古今、十九、神祇「補陀落の南の岸に堂たてていまぞ栄えむ北の藤波」(「北の藤波」は「藤原北家」)
ふだらくじ[補陀落寺] (寺名)方方に同名の寺院があるが、「平家物語」にあるのは、京都から大原へ行く途中にあった寺で、清原深養父がいたという寺。平家、灌頂、大原御幸「鞍馬通りの御幸なりければかの清原深養父が補陀落寺、小野皇太后宮の旧跡、叡覧あつて」
ふだらくせかい[補陀洛世界] (地名)「ふだらく」に同じ。
ふだらくせん[補陀洛山] (地名)「ふだらく」に同じ。
ふたりしづか……シズカ[二人静] (名)「きつねぐさ」(草の名)の別称。
ふだんぎやう……ギヨウ[不断経] (名)日日平常に読む経。また、亡者の冥福・追善などのため、一七日・二七日・三七日など、昼夜間断なく大般若経・法華経・最勝王経などの経文を読むこと。更級日記「十月朔日ごろの、いと暗き夜、不断経に、声よき人人読むほどなりとて」
ふうさう…ソウ[風騒] (名)詩歌などをたしなむこと。風雅。風流。「詩経」の国風と離騒とから起った語。奥の細道「白川の関…この関は三関の一にして風騒の人、心をとどむ」
ふち[斑] (名)ぶち。まだら。古事記、上「あめのふちこまを逆剥ぎに剥ぎて、おとし入るる時に」
ふち[扶持] (名)(1)助けること。平家、一、額打論「忠仁公、幼主を扶持し給へり」(2)扶持料として給せられる米または金銭。「一人扶持」「里扶持」
ぶち[鞭] (名)「打ち」の義。「むち」に同じ。拾遺集、二十、哀傷「太子の乗り給へる馬、とどまりて行かず。ぶちをあげてうち給へど、しりへに退きてとどまる」
ふぢえだフジ…[藤枝] (地名)駿河の国、静岡県志太郡の南部にあり、旧東海道の宿駅。太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「島田・藤枝にかかりて、岡辺の真葛裏枯れて」
ふぢえのうらフジ…[藤江の浦] (地名)播磨の国、兵庫県明石郡林崎村・大久保村の海浜一帯の称。林崎村の大字に藤江の名をのこしている。万葉、三の二五二「あらたへの藤江の浦にすずき釣るあまとか見らむ旅行くわれを 柿本人麻呂」
ふぢごろもフジ…[藤衣] (名)(1)葛の繊維で織った衣。葛を古代では「ふぢ」と呼んだ。貧民の着るもの。(2)「喪服」の異称。蜻蛉日記「藤衣流す涙の川水はきしにもまさるものにぞありける」(「きし」に「着し」と「岸」とをかけている)
ふぢごろもフジ…[藤衣] (枕詞)藤衣は織り目があらいことから「間遠」に、衣のすぐに穢(な)れることから「なる」に、また、衣を織るということから「おれる心」に冠する。万葉、三の四一三「ふぢごろもま遠にしあれば未だ着なれず」同、十二の二九七一「大君の塩焼く海人(あま)のふぢごろもなるとはすれどいやめづらしも」古今集、十九、長歌「ちはやぶるかみの御代より…ふぢごろもおれるこころも」
ふぢしろフジ…[藤代] (地名)紀伊の国、和歌山市と和歌の浦との中間ほどにある地。旧熊野街道に当たり、今、藤白神社がある。万葉、九の一六七五「藤白のみ坂を越ゆと白妙の我が衣手はぬれにけるかも」太平記、五、大塔宮熊野落事「紀伊路の遠山渺渺と、藤代の松にかかれる磯の浪」
ふぢたとうこフジ…[藤田東湖] (人名)江戸時代末期の儒者。名は彪。水戸藩の人。彰考館総裁となる。大義を明らかにするため国事に奔走した。安政二年(一八五五)、地震のために江戸の藩邸(今の後楽園)で没、年四十九。主著、回天詩史・常陸帯。
ふぢつぼフジ…[藤壺] (名)禁中殿舎の一。本名、飛香舎。清涼殿・弘徽殿等の西北にあり、后・女御の御住所。南の庭に藤が植えてあるのでいう。更級日記「月のいとあかきに、藤壺の東の戸をおしあけて」
ふうさう…ソウ[風霜] (名)としつき。歳月。星霜。謡曲、雨月「松林のもとに住んで、久しく風霜を送る」
ふぢなみフジ…[藤波] (名)藤の花ぶさの靡き動くさまを波に見たてていう語。転じて、藤。万葉、三の三三〇「藤波の花はさかりになりにけり平城(なら)のみやこを思ほすや君」平家、灌頂、大原御幸「中島の松にかかれる藤波の、うらむらさきにさける色、青葉まじりのおそざくら」
ふぢなみのフジ…[藤波の] (枕詞)藤のつるが物にまつわることから「まつはり」に、波と同音の「並み」に、波の縁から「立つ」「よる」に冠する。また「ただ一目のみ」にも冠するが、これは接続未詳。万葉、十三の三二四八「藤浪の思ひまつはり、若草の思ひつきにし」古今集、十四、恋四「ふぢなみの並みに思はばわが恋ひめやは」他、例略。
ふぢばかまフジ…[藤袴] (名)秋の七草の一。きく科の多年草。高さは一メートル余に達する。葉は対生、三裂。秋、淡紫色の花を頭状花序に排列する。万葉、八の一五三八「萩が花尾花葛花なでしこの花女郎花また藤袴あさがほの花」
ふぢはらフジワラ[藤原] (地名)大和の国、奈良県高市郡大原村。持統・文武両天皇の皇居の地。万葉、十の二二八九「藤原の古りにし郷の秋萩は咲きて散りにき君待ちかねて」
ふぢはらせいくわフジワラセイカ[藤原惺窩] (人名)江戸時代初期の儒者。名は粛。播磨の人。朱子学をきわめ、家康に招かれて学を講じ、江戸時代文教の祖と仰がれる。元和五年(一六一九)没、年五十八。主著、四書大全頭集・惺窩文集。
ふぢはらのあきすけフジワラ……[藤原顕輔] (人名)平安時代末期の歌人。堀河・鳥羽・崇徳・近衛の四代に歴仕・崇徳上皇の命で「詞花和歌集」を撰す。久寿二年(一一五五)没、年六十五。
ふぢはらのあきひらフジワラ……[藤原明衡] (人名)平安時代の歌人・学者。後冷泉天皇の朝に仕え、文章博士・東宮学士となる。治暦二年(一〇六六)没、生年未詳。主著、本朝文粋・明衡往来・新猿楽記。
ふぢはらのいへたかフジワラ…イエ…[藤原家隆] (人名)鎌倉時代初期の歌人。俊成の弟子。定家らと共に「新古今和歌集」を撰す。嘉禎三年(一二三七)没、年七十九。
ふぢはらのうまかひフジワラ…カイ[藤原宇合] (人名)不比等の子。本名は馬養。高官であったが、文学に通じ、「万葉集」に六首を収む。天平九年(七三七)没、年四十三。
ふぢはらのかうぜいフジワラ…コウ…[藤原行成] (人名)「ゆきなり」のよみならわし。権大納言。能書家。小野道風・藤原佐理と共に「三蹟」と呼ばれる。万寿四年(一〇二七)没、年五十五。徒然草、二十五段「行成大納言の額、兼行が書ける扇、あざやかに見ゆるぞあはれなる」
ふうし[夫子] (名)(1)中国で、大夫(たいふ)以上の称。(2)長者・賢者・先生などを呼ぶ尊称。
ふぢはらのかねすけフジワラ……[藤原兼輔] (人名)歌人。従三位中納言。賀茂川堤に住んだので、世に「堤中納言」と呼ばれる。また、「堤中納言物語」の作者かといわれるが、疑わしい。承平三年(九三三)没、年五十六。
ふぢはらのきよすけフジワラ……[藤原清輔] (人名)歌人。歌学者。顕輔の子。俊成・西行と並び称せられた。治承元年(一一七七)没、生年未詳。主著、袋草子・奥儀抄・和歌顕林。
ふぢはらのきんたふフジワラ…トウ[藤原公任] (人名)歌人・学者。正二位大納言。四条に住み、世人「四条大納言」という。詩歌・管弦・書道に通じ、すこぶる博識。長久二年(一〇四一)没、年七十五。主著、和漢朗詠集・新撰髄脳。徒然草、八十八段「四条大納言撰ばれたるものを、道風書かむこと、時代やたがひ侍らむ、おぼつかなくこそ」(小野道風の死んだ年に、公任が生まれている)
ふぢはらのさだいへフジワラ…イエ[藤原定家] (人名)⇒ふぢはらのていか。
ふぢはらのさねさだフジワラ……[藤原実定] (人名)平安時代末期の歌人。左大臣に至る。祖父実能が徳大寺を建て、徳大寺左大臣と呼ばれたので、実定は後徳大寺左大臣と呼ばれた。和漢の書万巻を蔵したという。建久二年(一一九一)没、年五十二。主著、庭槐抄。
ふぢはらのさりフジワラ……[藤原佐理] (人名)平安時代における書家。「すけまさ」のよみならわし。小野道風・藤原行成と共に三蹟と称せられる。長徳四年(九九八)没、年五十四。徒然草、二百三十八段「横川の常行堂のうち、龍花院と書ける古き額あり。佐理・行成の間うたがひありて未だ決せずと申し伝へたりと、堂僧ことごとしく申し侍りしを」
ふぢはらのしゆんぜいフジワラ……[藤原俊成] (人名)平安時代末期の歌人。「としなり」のよみならわし。定家の父。五条に住んだので「五条の三位」という。清新温雅な幽玄体の歌風を樹立した。「千載和歌集」の撰者。元久元年(一二〇四)没、年九十。主著、古来風体鈔・長秋詠藻。平家、七、忠度都落「五条の三位俊成の卿の許におはして見給へば、門戸を閉ぢて開かず」
ふぢはらのすけともフジワラ……[藤原資朝] (人名)鎌倉時代の公卿かつ学者。日野大納言・壬生大納言と呼ばる。後醍醐天皇の時、北条氏討伐の謀計が洩れて佐渡へ流され、六年の後、元弘二年(一三三二)殺された。年四十二。一子阿新丸(くまわかまる)が復讐したことは「太平記、二、阿新殿事」にくわしい。徒然草、百五十二段「資朝卿これを見て、年の寄りたるに候ふと申されけり」
ふぢはらのためあきフジワラ……[藤原為明] (人名)吉野時代の公卿かつ歌人。後醍醐天皇と共に笠置に走り、捕らえられて土佐へ流され、のち、許されて京都へ帰った。「新拾遺和歌集」の撰者。正平十九年(一三六四)没、年六十九。主著、遊庭秘抄。
ふぢはらのためいへフジワラ…イエ[藤原為家] (人名)鎌倉時代の歌人。定家の子。阿仏尼の夫。歌学を父定家に受け、これを子孫に伝えて、二条家歌学の祖となる。「続後撰和歌集」「続古今和歌集」の撰者。建治元年(一二七五)没、年七十七。
ふうし[諷刺] (名)あてこすり。(当用漢字では「風刺」)
ふぢはらのためうぢフジワラ…ウジ[藤原為氏] (人名)歌人。前項の為家の子。「続拾遺和歌集」の撰者。弘安九年(一二八六)没、年六十四。主著、新和歌集。
ふぢはらのためかねフジワラ……[藤原為兼] (人名)鎌倉時代の公卿かつ歌人。京極為兼と呼ばる。北条氏のために、佐渡へ流され、許されたが、再び土佐へ流された。「玉葉和歌集」の撰者。晩年、剃髪して蓮覚と号す。元弘二年(一三三二)没、生年未詳。徒然草、百五十三段「為兼大納言入道、召しとられて武士どもうち囲みて六波羅へゐて行きければ、資朝卿、一条わたりにてこれを見て」
ふぢはらのためさだフジワラ……[藤原為定] (人名)吉野時代の歌人。「続後拾遺和歌集」および「新千載和歌集」の撰者。正平十五年(一三六〇)没、年六十七。
ふぢはらのためしげフジワラ……[藤原為重] (人名)吉野時代の歌人。また、書画をよくした。「新後拾遺和歌集」の撰者。元中二年(一三八五)没、年六十一。
ふぢはらのためよフジワラ……[藤原為世] (人名)鎌倉時代の歌人。為氏の子。京極為世と呼ばる。「新後撰和歌集」および「続千載和歌集」の撰者。延元三年(一三三八)没、年八十八。
ふぢはらのていかフジワラ……[藤原定家] (人名)鎌倉時代初期の歌人・歌学者。「さだいへ」のよみならわし。俊成の子。為家の父、父俊成の歌風を受けて幽玄体を完成し、これを有心体と称した「新古今和歌集」の撰者。その著「定家仮名遣」は、わが国における文法的研究の最初の書といわれている。仁治二年(一二四一)没、年七十九。主著、明月記・詠歌大概。
ふぢはらのとしなりフジワラ……[藤原俊成] (人名)⇒ふぢはらのしゆんぜい。
ふぢはらのとしゆきフジワラ……[藤原敏行] (人名)平安時代の歌人。三十六歌仙の一人。その歌は、「古今集」以下の勅撰集に収む。延喜七年(九〇七)没、生年未詳。一説、昌泰四年(九〇一)没。文集、敏行朝臣集。
ふぢはらのひでたふフジワラ…トウ[藤原秀能] (人名)鎌倉時代初期の歌人。後鳥羽上皇の北面の武士となり、歌才をもって和歌所の寄人となり、定家らと共に「新古今和歌集」を撰す。のち、承久の変に加わり、変後、熊野で出家し、如願(によぐわん)と号した。仁治元年(一二四〇)寂、年五十六。家集、如願法師集。
ふぢはらのひでよしフジワラ……[藤原秀能] (人名)前項の誤読。
ふうし[風姿] (名)すがた。なりふり。
ふぢはらのまさつねフジワラ……[藤原雅経] (人名)鎌倉時代初期の歌人。定家らと「新古今和歌集」を撰す。歌風は、俊成・定家の流を汲み、子孫にも多くの歌人を出した。飛鳥井家の祖。建保三年(一二一五)没、年四十五。家集、明日香井和歌集。
ふぢはらのみちつなのははフジワラ……[藤原道綱の母] (人名)本名未詳。藤原倫寧の女。摂政・太政大臣・関白となった兼家に嫁し、天暦九年(九五五)八月、道綱を産む。「蜻蛉日記」は夫兼家にはじめて会った時から、道綱の誕生のこと、およびその元服に至るまで二十一年間の日記である。道綱は、大納言兼右近衛大将東宮傅になった人。母の生没未詳。
ふぢはらのみちとしフジワラ……[藤原通俊] (人名)平安時代の歌人・学者。大江匡房・源経信らと才能を争った人。「後拾遺和歌集」を撰す。康和元年(一〇九七)没、年五十二。
ふぢはらのみちともフジワラ……[藤原通具] (人名)鎌倉時代初期の歌人。正二位大納言に至る。定家らと「新古今和歌集」を撰す。その歌は「新古今集」以下の勅撰集に収む。安貞元年(一二二七)没、年五十五。
ふぢはらのみつちかフジワラ……[藤原光親] (人名)鎌倉時代の公卿。後鳥羽上皇の寵を蒙り、権中納言に進む。承久三年(一二二一)、後鳥羽上皇北条氏討伐の際、鎌倉方に捕らえられて駿河で斬殺された。年四十五。徒然草、四十八段「光親卿、院の最勝講奉行してさぶらひけるを御前に召されて」
ふぢはらのみやフジワラ……[藤原の宮] (名)大和の国、奈良県高市郡大原村にあった皇居。持統天皇の朱鳥八年(六九四)十二月、この地に都を定め、文武天皇もまたこの地に都を定められ、和銅三年(七一〇)奈良に遷都するまで、その間凡そ十六年皇居となる。和銅四年焼失。
ふぢはらのもととしフジワラ……[藤原基俊] (人名)平安時代末期の歌人・学者。「万葉集」に訓点を施した。康治元年(一一四二)没、年八十七か。主著、新撰朗詠集・悦目抄・藤原基俊集。
ふぢはらのやすまさフジワラ……[藤原保昌] (人名)平安時代の歌人かつ武人。巨盗袴垂との物語や大江山鬼退治の物語などで名高い。長元九年(一〇三六)没、年七十八。
ふぢはらのゆきなりフジワラ……[藤原行成] (人名)⇒ふぢはらのかうぜい。
ふぢはらのよしつねフジワラ……[藤原良経] (人名)鎌倉時代初期の歌人。和歌を定家に学び、後鳥羽上皇に重用された。その歌は「新古今集」に収む。建永元年(一二〇六)没、年三十七。主著、殿記・月清集。
ふうじ[封事] (名)政治上の意見をしるし、密封して上司にたてまつる文書。折り焚く柴の記、中、大赦封事「二月二日に、大赦の事につきて、封事をたてまつりたりき」
ふぢはらのよりながフジワラ……[藤原頼長] (人名)平安時代末期の政治家・学者。宇治の左大臣または悪左府と呼ばれた。その日記を「台記」といい、十四冊の大部のものであり、当時の史料として重視される。崇徳上皇を擁して保元の乱を起し、敗れて流れ矢を受け、舌をかんで没す。時に保元元年(一一五六)、年三十六。徒然草、百五十六段「大臣の大饗は、さるべき所を申しうけて行ふ、常の事なり。宇治の左大臣殿は、東三条殿にて行はる」
ぶちみやう……ミヨウ[仏名] (名)「ぶつみやう」に同じ。宇津保、蔵開、中「それは、ぶちみやうすぐしてせむ」
ふぢやう……ジヨウ[不定] (名)定まらぬこと。定めのないこと。「老少不定」
ふちゆう[府中] (名)(1)政治を行う表むきの所。「宮中」の対。(2)「国府」に同じ。また、国府を置かれた地の称。
ふぢゐがはらフジイ……[藤井が原] (地名)「藤原の宮」の所在地。今も、その地に「藤原の御井」と称する井戸がのこっている。万葉、一の五二「あらたへの藤井が原に、大御門始め給ひて」
ふぢゐたかなほフジイ…ナオ[藤井高尚](人名)江戸時代の国学者。号は松斎・松廼舎・松屋。備中の人。本居宣長の門人。特に物語の研究にくわしい。天保十一年(一八四〇)没、年七十六。主著、伊勢物語新釈・紫式部日記釈・浅瀬のしるべ。
ふぢゐのうらフジイ……[藤井の浦] (地名)「藤江の浦」に同じ。その項を見よ。万葉、六の九三八「印南野の、大海(おほみ)の原の、あらたへの藤井の浦に、鮪(しび)釣ると 山部赤人」
ふつ[捨つ・棄つ] (動、下二)捨てる。大和物語「されは、この水、熱湯(あつゆ)にたぎりぬれば、湯ふてつ」
ふつ (動、下二)「不貞」を活用させた語か。ふてくされる。不平を起して、やけになる。恨み逆らう。太平記、十七、義貞軍事「よき敵にや遭ふと、ふてて仕り候ふを」
ぶつ[仏] (名)「仏陀」の略。(1)ほとけ。特に、仏教の開祖たる釈迦の称。(2)仏教。仏法。「仏典」「仏法」
ふつうざま[普通様] (名)普通の様子。世の常のさま。平家、十一、遠矢「普通ざまの精兵五百人すぐつて」
ふうす[諷す] (動、サ変)ほのめかす。あてこする。
ぶつかく[仏閣] (名)寺院の建物。堂宇。伽藍。寺院。てら。
ふつき[富貴] (名)富みかつ貴いこと。
ふづき…ズキ[文月] (名)陰暦七月の異称。ふみづき。
ぶつき[仏器] (名)仏事に用いる諸道具。仏への供物を盛る器。
ぶつぎ[物議] (名)世間の噂。世人の批評や議論。世論。
ぶつきやう……キヨウ[仏経] (名)(1)仏教の経典。(2)仏像と経典と。
ふづくフズク (動、四)ひどく怒る。いきどおる。神代紀、上「一書に曰く…次に素戔鳴尊を生みたまふ。この神、ひととなり性(さが)悪しくして、常に哭きふづくことを好む」
ふづくむフズクム (動、四)前項に同じ。易林本節用「恚フヅクム」
ぶつくわ…カ[仏果] (名)仏道修行の因によって到達する仏の果位。成仏。雨月物語、一、白峰「ひたぶるに隔生即忘して、仏果円満の位にのぼらせ給へと情を尽くして諌め奉る」
ふづくゑ……ズクエ[文机] (名)「ふみづくゑ」の略。書物を載せる机。
ふうず[封ず] (動、サ変)(1)封をする。封じる。(2)神仏の通力をもってとじこめる。封じこめる。源氏、若菜、下「もののけに向かひて物語りしたまはむも、かたはらいたければ、ふうじこめて」(3)禁止する。「他言を封ず」
ふつげう……ギヨウ[払暁] (名)夜明け方。あかつ
ぶつげん[仏眼] (名)(1)仏教で、諸法の真実性を照らす眼。悟った者の眼。(2)仏母尊の称。大日如来の変身という。枕草子、六「修法は、仏眼、真言など読み奉りたる」(仏眼の修法は、仏母尊に対して、息災・延命等を祈る法会)また、次項に同じ。
ぶつげんゑ…エ[仏眼会] (名)「開眼会」ともいう。新しく作った仏像の眼を開き、魂を入れるために行う法会。(前項の(2)もあるいは、これか)
ぶつこ[物故] (名)人の死をいう。「すでに物故す」
ぶつし[仏師] (名)仏像を彫刻し作る工人。仏工。
ぶつしやうゑ…シヨウエ[仏生会] (名)釈迦の誕生日を祝う儀式。灌仏会。四月八日に行う。
ぶつしやり[仏舎利](名)「舎利」は「骨」。釈迦の遺骨。
ぶつしよく[物色] (名)(1)物の色。景色。風物。(2)人や物を捜し求めること。「かれこれと物色す」
ぶつじんのほんえん[仏神の本縁](句)仏や神の由来・縁起。徒然草、二百二十五段「仏神の本縁を歌ふ」(源義経の妾、静御前が)
ぶつそくせき[仏足石] (名)仏の足の裏の形を彫りつけた石。釈迦入滅の後、摩掲陀国で足跡を石に印したというのに基づく。我が国では、奈良の薬師寺、長野の善光寺にあるものが名高い。
ぶつそくせきのうた[仏足石の歌] (句)奈良市西郊の薬師寺院内にある仏足石歌碑に刻んだ歌。すべて、仏石足を敬仰する二十一首の歌、五七五七七七の形式で、後世の和賛の源流をなすもの。
ぶつそらい[物徂徠] (人名)⇒をぎふそらい。
ふ[節] (名)「ふし」の義。(1)こもの編み目と編み目との間。万葉、十四の三五二四「真小薦(まをごも)のふの間近くて」(2)垣の結い目。古事記、下「おほきみの、みこのしばがき、やふじまり」=大君の御子の御殿の柴垣は、いよいよ結い目を固く縛り。(「や」は「いよいよ」の意)
ふうぞく[風俗] (名)(1)ならわし。しきたり。風習。(2)身なり。いでたち。ふう。姿。また、身ぶり。そぶり。(3)「風俗歌」の略。古今著聞集、十一、画図「蔵人孝時に、風俗・催馬楽の名、ならびにその歌の詞の中、さもありぬべからむは、注し申すべきよし勅定ありければ」
ぶつだ[仏陀] (名)梵語Buddhaの音写。⇒ぶつ(仏)。
ぶつちやう……チヨウ[仏頂] (人名)江戸時代の僧。常陸の国、鹿島郡の根本寺第二十五世の住職。芭蕉の参禅の師。奥の細道「当国雲岸寺の奥に、仏頂和尚山居の跡あり」
ぶつちやうづら…チヨウズラ[仏頂面] (名)釈迦如来の頭上から化現して、仏智の最勝なことをあらわす「仏頂尊」の恐ろしい顔つきから、転じて、むっとした顔の意となる。ふくれづら。
ふつつかなり[不束なり] (形動、ナリ)「太束(ふとつか)なり」の義。(1)太くて丈夫である。宇津保、蔵開、上「いと大きやかに、ふつつかに肥え給へるが」(2)転じて、不格好である。ぶきっちょである。下品である。源氏、夕顔「家鴨といふ鳥の、ふつつかに鳴くを聞き給ひて」(3)さらに転じて、思慮が浅い。つたない。徒然草、五段「不幸にうれへに沈める人の、かしらおろしなど、ふつつかに思ひとりたるにはあらで」=不幸のために悲しみに沈んでいる人が、いきなり頭を剃って仏門に入るなどという、そんな浅い考えで出家を決心したのではなく。(ここに挙げたのは、すべて、連用形の例)
ふつてい[払底] (名)底を払ふこと。少しも無いこと。物のひどく欠乏していること。
ふつと (副)絶えて。さらに。少しも。水鏡、中「問へども、ふつといらふることもなし」
ふつに (副)(1)前項に同じ。神代紀、上「ふつに見る所なし」(2)すべて。ことごとく。神武紀、即位前、戊午四月「ふつに、したがへる兵(つはもの)を起して、くさかの坂にさへぎりて、ともにあひたたかふ」敏達紀、元年五月「ふつにその字を写す」
ふつふつ (副)ぷっつり。断然。鬼鹿毛無佐志鎧「今よりしては、ふつふつたしなみましよ、やめませう」
ふつふつと (副)(1)ぷっつりと。断然。狂言、こんくわい「ふつふつと仲たがひでおぢやる」(2)物を断つ音にいう語。今昔物語、二十八「刀をもて荒巻の繩をふつふつと押し切りて」(3)鳥の羽ばたく音にいう語。沙石集、八「ふつふつと立つを見れば、鴛(をし)の雌なり」
ぶつぽうそう…ポウ…[仏法僧] (名)(1)仏教で、仏と法と僧との三つの宝をいう。三宝。(2)「このはづく」の異称。その鳴く声が「ブッ・ポウ・ソウ」と聞えるところからいうと。
ふうぞくうた[風俗歌] (名)略して「風俗」ともいう。平安時代に行われた歌謡の一種。各地の民謡が宮廷または貴人の間にとりあげられて、遊宴の席などでうたわれたもの。
ぶつみやう……ミヨウ[仏名] (名)「仏名会」の略。昔、十二月十五日から十七日、のちに十九日から二十一日までの三日間(主に、夜)過去・現在・未来三千の諸仏の名号を唱える仏名経を誦し、罪障を懺悔するという法会。「仏名懺悔」ともいう。「御仏名」といえば、宮中の、右の公事。蜻蛉日記、附録「仏名の朝(あした)に、雪の降りければ」徒然草、十九段「御仏名、荷前の使ひ立つなどぞ、あはれにやむごとなき」=(宮中では)御仏名会が行われ、荷前の勅使が出発するなど、しみじみと尊いことである。⇒のさきのつかひ。
ふづゑ…ズエ[文杖] (名)「ふみばさみ」の類。⇒ふみばさみ。
ふてきごと[不敵事] (名)大胆不敵な事。不都合な事。古今著聞集、十六、興言利口「年ごろ、ただ一人召し使ひつるに、ふてきごとどもして、安からず覚えしかども、勘当してはいかにせむぞと思ひ、念じ過ぎ侍りぬ」
ふでとどむ[筆とどむ] (動、下二)(1)筆をとめる。擱筆する。(2)筆をやわらかにつかう。文字をすらりと書く。大鏡、五、太政大臣伊尹「裏には御筆とどめて、草(さう)にめでたく書きて奉り給へりければ」
ふでのすさび[筆のすさび] (書名)(1)随筆。三巻。橘泰の著。文化三年(一八〇六)刊。一名、芝居随筆。論語のこと、沢庵の詩歌、如大禅師のことなど、百項ばかりの随筆。(2)随筆。四巻。菅茶山の著。安政四年(一八五七)刊。肥前の国に火降る、石分娩、珍書考など、百六十項ばかりの随筆。
ふてんのもと[普天の下] (句)あめがした。天下。平家、二、教訓「普天の下、王地にあらずといふことなし」(「詩経」の「普天の下、王土にあらざるはなく、率土の浜、王臣にあらざるはなし」によった語)
ふと[浮図・浮屠] (名)(1)梵語Buddhaの音写。仏。仏陀。ほとけ。(2)転じて、僧。僧侶。(3)梵語Stupaの音写。一般には「卒塔婆」と書く。塔。とうば。そとうば。
ふと (副)(1)不意に。思いがけなく。竹取「綱を釣り上げさせて、ふと子安の貝を取らせ給はむなむ、よかるべき」(2)たやすく。ちょっと。竹取「わが弓の力は、龍(たつ)あらば、ふと射殺して、首の玉は取りてむ」
ふと[太] (接頭)(1)「太く」「いかめしく」などの意を冠する動詞を構成する語。「宮柱ふと敷く」(2)貴い意を冠する名詞を構成する語。「ふとのりとごと」「ふとみてぐら」
ふどうげさ[不動袈裟] (名)山伏・修験者が頸から掛ける、輪袈裟。宇治拾遺、一「墨染の衣の短きに、不動袈裟といふ袈裟かけて」
ふうぞくぶんせん[風俗文選] (書名)俳文集。十巻。森川許六の編。宝永二年(一七〇五)成る。芭蕉・其角・嵐雪・支考・丈草・野坡・北枝・素堂・去来・凡兆・許六ら、俳人二十八人の俳文を集めたもの。巻首に、各俳人の略伝をかかげている。
ふどうそん[不動尊] (名)不動明王。また、略して「不動」ともいう。仏教で、明王の一。獰悪な相をなし、右手に降魔の剣を持ち、左手に捕縛の繩を握り、背に火焔を負う。一切の邪悪・障魔を降伏するという。枕草子、九「仏は…不動尊」
ふどき[風土記] (書名)国国の地名の由来、土地の肥痩、産物、古伝説などをしるして朝廷に奉らせた地誌。奈良時代の初め、和銅六年(七一三)に勅命を発して諸国から撰進させたが、現存するものは「常陸風土記」「出雲風土記」「播磨風土記」「肥前風土記」「豊後風土記」の五つに過ぎない。これを「古風土記」という。さらに、醍醐天皇の延長三年(九二五)に重ねて撰進の命が下っている。なお、「総国風土記」というものがあるが、これは後世の偽作である。⇒こふどきいつぶん。
ぶとくでん[武徳殿] (名)大内裏、豊楽院の北にあった殿舎。騎射・競馬などを天覧に供した御殿で、弓場殿・馬場殿・射場殿・馬埓殿などとも称した。古今著聞集、十、馬芸「武徳殿に御幸なりて、さまざまの馬芸をつくさる」
ふところがみ[懐紙] (名)畳んで懐に入れおき、歌などを書くのに用いる紙。懐紙(くわいし)。たたうがみ。はながみ。更級日記「懐紙に、思ふこと心にかなふ身なりせば秋の別れを深く知らましとばかり書かれたるをも、え見やられず」
ふとしく[太敷く] (動、四)「太」は美称。りっぱに構える。柱などをいかめしく立てる。祝詞、六月晦大祓「下つ磐根に宮柱太敷き立て」
ふとしも (副)すぐにも。落窪物語「ふとしも取り給はず」
ふとしる[太知る] (動、四)「太敷く」に同じ。古事記、上「底つ石根に宮柱ふとしりて、高天原にひぎ高しりてをれ、こやつよ」
ふとたまぐし[太玉串] (名)「太」は美称。みてぐらの一種。たまぐし。榊に木綿・紙などをつけて神に手向けるもの。祝詞、豊受宮神嘗祭「大中臣、太玉串に隠り侍りて」
ふどの[文殿] (名)書物を納めて置く所。文庫。ふみどの。源氏、榊「殿にも、ふどのあけさせ給ひて」
ふとのりと[太祝詞] (名)「太」は美称。のりと。のりとごと。神代紀、上「一書に曰く…乃ち天児屋命をして、その解除(はらへ)のふとのりとを掌りてのらしむ」
ふうたい[風帯] (名)(1)几帳の上から垂れる細長い布。(2)掛軸の表具に、上から垂れる二条の布製または紙製のもの。(3)旗の横上につけてある緒。
ふとのりとごと[太祝詞] (名)前項に同じ。祝詞、六月晦大祓「天つ祝詞のふとのりとごとをのれ」
ふとまに[太占・大兆] (名)「太」は美称。「まに」は「うらない」。上古においては、鹿の肩胛骨を焼き、その割れ目によって占なった。古事記、上「ふとまにうらへて、のりたまひつらく、女を言(こと)に先だちしによりてふさはず」
ふとまへ…マエ[太前] (名)「太」は美称。神の御前。大前。広前。祝詞、祈年祭「天照大御神の太前にまをさく」
ふとゐがは…イガワ[太井川] (地名)今の千葉県と東京都との境を流れる江戸川の古称。更級日記「しもつさの国と武蔵との境にてある太井川といふがかみの瀬、まつさとのわたりの津にとまりて」=下総の国と武蔵の国との境である太井川という川の上流の渡り瀬、まつさと(松戸)の渡し場の舟着き場に泊まって。
ふとん[蒲団] (名)昔、蒲(がま)の葉で編んだ円座。のち、布を用いて、綿などを入れた方形の敷き物または寝具。これも、やはり「蒲団」と書く。「布団」は非。なぜなら、「団」は「炭団」などの「団」で、丸い義であるから、今日の方形のものは「布角」とでも書くべきで、「団」を用いるなら、伝統に従い「蒲団」と書くのがよい。
ふなあまり[ふな余り] (枕詞)語義未詳。恐らく「ふな」は「舟」の義ではなく「柩」の義であり、「あまり」は「残り付く」義であって、柩に残り付いて魂魄が島から帰って来る意から「かへり来る」に冠するのであろう。松岡静雄氏の説であるが、「古事記伝」その他の説「舟に乗る人が多くて、乗り得ないで、しばらく帰り来る」などの説よりは、一歩を進めた解釈である。ただし、まだ、しっくりしない。古事記、下「おほきみを、しまにはふらば、ふなあまりいがへりこむぞ」=大君(最高貴人)である自分を島に追放し葬るならば、魂魄は柩(ふね)に残り付いて、大和へ帰って来るであろうぞ。(允恭紀、二十四年六月の条にある歌も同義)
ふなぎみ[舟君] (名)船客中の主客に対する敬称。土佐日記「十四日…舟君節忌(せちみ)す」(ここの「舟君」は貫之。十四日は六斎日であるから精進潔斎したのである)
ふなこ[舟子] (名)舟をあやつる人。ふなのり。かこ。水夫。せんどう。土佐日記「ふなこ・かぢとりは船歌うたひて」
ふなさかやま[船坂山] (地名)「船坂峠」ともいう。播磨(兵庫県)と備前(岡山県)との境にある山。昔、山陽道は、この峠にかかった。太平記、四、備後三郎高徳事「船坂山のいただきに隠れ伏し、今や今やとぞ待ちたりける」(後醍醐天皇の御通りを)
ふなずゑ…ズエ[船ずゑ] (名)船を据えておく所。港。祝詞、遣唐使時奉幣「船ずゑ作り給へれば、よろこびうれしみ」
ふうぢん…ジン[風塵] (名)(1)風と塵。また、風で起った塵。(2)極めて軽いものの比喩。(3)世上の雑事。
ふなせ[船瀬] (地名)船が風波を避けて碇泊する所の義の固有名詞。播磨の国、兵庫県明石郡にある地。ふなせのはま。万葉、六の九三五「なきずみの船瀬ゆ見ゆる淡路島、松帆の浦に、朝なぎに、玉藻苅りつつ」⇒なきずみ。
ふなせのはま[船瀬の浜] (地名)前項に同じ。万葉、六の九三七「ゆきめぐり見とも飽かめやなきずみの船瀬の浜にしきる白浪」⇒なきずみ。
ふなだな[舟棚・舟■] (名)船の両舷に、家の縁側のように板を並べて打ちつけてある所。舟子が艪櫂をあやつる所。これのないのが「たななしをぶね」である。万葉、十七の三九五六「なごのあまの釣する船は今こそはふなだな打ちてあへて漕ぎ出め」
ふなだま[船霊] (神名)船の神。航海の安全をまもる神。
ふなづつみ……ズツミ[舟包み] (名)「布施」の別称。金銭を包んで仏前または僧に供えるもの。琴後集、二、夏歌「もろ人のけふのためしの舟づつみつどふや法(のり)のみなとたるらむ」
ふなて[船手] (名)(1)水軍。船隊。(2)船を支配する役人。(3)舟の通う路。航路。
ふなどのかみ[岐神] (神名)「さへのかみ」に同じ
ふなのへ[船の舳] (名)船の頭。へさき。祝詞、祈年祭「ふなのへの至りとどまるきはみ」(大海の果てまでの意)
ふなのへ[船■] (名)「ふなだな」に同じ。神代紀、下「海の中に、八重蒼柴籬(やへあをふしがき)を造りて、ふなのへを踏んで避りぬ」-海中に、柴の八重垣を造り、その中で船を踏み傾け、顕世を隔てて去られた。⇒あをふしがき。
ふなばた[船端・舷] (名)ふなべり。ふなだな。平家、十一、那須与一「沖には平家、ふなばたをたたいて感じたり」
ふうはく[風伯] (名)風の神。風神。太平記、十一、諸将被レ進二早馬於船上一事「雨師道を清め、風伯塵を払ふ」
ふなもよひ……モヨイ[船催ひ] (名)船出の準備。ふたよそひ。一字御抄、四「今宵ぞと星の逢ふ瀬の安川や月の御舟も舟もよひして」
ふなやかた[船屋形] (名)船の屋根。屋形。土佐日記「かくうたふに、舟屋形の塵も散り、空ゆく雲もただよひぬとぞいふなる」
ふなよそひ……ヨソイ[船装ひ] (名)船出の準備。ふなもよひ。万葉、二十の四三六五「おしてるや難波の津より船装ひ吾(あれ)は漕ぎぬと妹に告ぎこそ 防人の歌」(妻に告げよとの意)
ふなゑひ…エイ[船酔ひ] (名)船にゆられて、酔ったように、苦しくなること。ふなよい。土佐日記「かの舟酔ひの淡路島のおほいこ、みやこ近くなりぬといふを喜びて」
ふなをか…オカ[船岡] (地名)京都市上京区北大路の南千本通りの東にある一丘陵。平安時代ごろは、遊覧の勝地。のち、火葬場となる。枕草子、十「岡は船岡・片岡」徒然草、百三十七段「鳥部野・舟岡、さらぬ野山にも、送る数多かる日はあれど、送らぬ日はなし」(死者を)
ふなをさ…オサ[船長] (名)水夫の頭。せんちょう。ふねのつかさ。欽明紀、十四年七月「王辰爾(わうしんに)を船長となし」
ふねさし[船さし] (名)棹をさして船を進める人。ふなこ。船頭。増鏡、六、煙のすゑずゑ「御ふねさし、いろいろの狩襖(かりあを)にて、八人づつさまざまなり」⇒かりあを。
ふねにきだつく[船にきだつく] (句)「きだ」は「刻み」。船に刻みをつける。旧慣を墨守する。「呂氏春秋」に「楚人、江を渉る者あり。其の剣、舟中より水に落つ。遂に其の舟に刻みていはく、これ吾が剣の落ちし所なりと。舟、止まりて、その刻めるところより水に入りてこれを求む云々」とあり、船は走っているのだから、川へ入っても落した剣の求められる筈がない。「株(くひぜ)を守りて兎を待つ」の類。琴後集、十五、祭二芳宣園大人墓一文「くひぜを守り、舟にきだつくるともがら、かれになづみ、これにひかれて、なほあやしみとがむるたぐひは多く」
ぶねん[無念・不念] (名)気づかないこと。不注意。おこたり。狂言、末ひろがり「不念なことを致した」
ふばこ[文箱] (名)昔、手紙を運ぶとき、手紙を入れる小さい細長い箱。状箱。ふみばこ。
ふうらい[風来] (名)風に吹き寄せられたように、どこからともなく来ること。また、その人。風来者。浮浪人。国姓爺合戦、千里竹「身が生国は大日本、風来とは舌長し」
ふばさみ[文挟み] (名)昔、貴人に文書を捧げる時に使用した具。五尺ばかりの白木の杖の端に、鳥口という金具をつけ、これに文書を挟む。ふみばさみ。ふづゑ。竹取「一人の男、ふばさみに文をはさみて申す」
ふはのせきフワ…[不破の関] (地名)昔、美濃の国にあった関所。今、岐阜県不破郡関か原大字松尾の大木戸坂の上に、その址がある。鈴鹿・愛発(あらち)と共に、古三関の一。新古今、十七、雑中「人住まぬ不破の関屋の板びさし荒れにし後はただ秋の風太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「不破の関屋は荒れ果てて、なほもるものは秋の雨の」
ふはのやまのいでゆフワ…[不破の山の温泉] (地名)「温泉」ではなくて「醴泉」などの意。美濃の養老の滝をいう。水鏡、中「元正天皇…美濃の国の不破の山のいでゆにみゆきありき。その湯をあみし人、白髪かへり黒くなりき」
ふぢはらのいへたかフジワラ…イエ…[藤原家隆] (人名)鎌倉時代初期の歌人。俊成の弟子。定家らと共に「新古今和歌集」を撰す。嘉禎三年(一二三七)没、年七十九。
ふぢはらのうまかひフジワラ…カイ[藤原宇合] (人名)不比等の子。本名は馬養。高官であったが、文学に通じ、「万葉集」に六首を収む。天平九年(七三七)没、年四十三。
ふぢはらのかうぜいフジワラ…コウ…[藤原行成] (人名)「ゆきなり」のよみならわし。権大納言。能書家。小野道風・藤原佐理と共に「三蹟」と呼ばれる。万寿四年(一〇二七)没、年五十五。徒然草、二十五段「行成大納言の額、兼行が書ける扇、あざやかに見ゆるぞあはれなる」
ふぢはらのかねすけフジワラ……[藤原兼輔] (人名)歌人。従三位中納言。賀茂川堤に住んだので、世に「堤中納言」と呼ばれる。また、「堤中納言物語」の作者かといわれるが、疑わしい。承平三年(九三三)没、年五十六。
ふぢはらのきよすけフジワラ……[藤原清輔] (人名)歌人。歌学者。顕輔の子。俊成・西行と並び称せられた。治承元年(一一七七)没、生年未詳。主著、袋草子・奥儀抄・和歌顕林。
ふぢはらのきんたふフジワラ…トウ[藤原公任] (人名)歌人・学者。正二位大納言。四条に住み、世人「四条大納言」という。詩歌・管弦・書道に通じ、すこぶる博識。長久二年(一〇四一)没、年七十五。主著、和漢朗詠集・新撰髄脳。徒然草、八十八段「四条大納言撰ばれたるものを、道風書かむこと、時代やたがひ侍らむ、おぼつかなくこそ」(小野道風の死んだ年に、公任が生まれている)
ふぢはらのさだいへフジワラ…イエ[藤原定家] (人名)⇒ふぢはらのていか。
ふうらいさんじん[風来山人] (人名)平賀源内の号の一。⇒ひらがげんない。
ふぢはらのさねさだフジワラ……[藤原実定] (人名)平安時代末期の歌人。左大臣に至る。祖父実能が徳大寺を建て、徳大寺左大臣と呼ばれたので、実定は後徳大寺左大臣と呼ばれた。和漢の書万巻を蔵したという。建久二年(一一九一)没、年五十二。主著、庭槐抄。
ふぢはらのさりフジワラ……[藤原佐理] (人名)平安時代における書家。「すけまさ」のよみならわし。小野道風・藤原行成と共に三蹟と称せられる。長徳四年(九九八)没、年五十四。徒然草、二百三十八段「横川の常行堂のうち、龍花院と書ける古き額あり。佐理・行成の間うたがひありて未だ決せずと申し伝へたりと、堂僧ことごとしく申し侍りしを」
ふぢはらのしゆんぜいフジワラ……[藤原俊成] (人名)平安時代末期の歌人。「としなり」のよみならわし。定家の父。五条に住んだので「五条の三位」という。清新温雅な幽玄体の歌風を樹立した。「千載和歌集」の撰者。元久元年(一二〇四)没、年九十。主著、古来風体鈔・長秋詠藻。平家、七、忠度都落「五条の三位俊成の卿の許におはして見給へば、門戸を閉ぢて開かず」
ふぢはらのすけともフジワラ……[藤原資朝] (人名)鎌倉時代の公卿かつ学者。日野大納言・壬生大納言と呼ばる。後醍醐天皇の時、北条氏討伐の謀計が洩れて佐渡へ流され、六年の後、元弘二年(一三三二)殺された。年四十二。一子阿新丸(くまわかまる)が復讐したことは「太平記、二、阿新殿事」にくわしい。徒然草、百五十二段「資朝卿これを見て、年の寄りたるに候ふと申されけり」
ふぢはらのためあきフジワラ……[藤原為明] (人名)吉野時代の公卿かつ歌人。後醍醐天皇と共に笠置に走り、捕らえられて土佐へ流され、のち、許されて京都へ帰った。「新拾遺和歌集」の撰者。正平十九年(一三六四)没、年六十九。主著、遊庭秘抄。
ふぢはらのためいへフジワラ…イエ[藤原為家] (人名)鎌倉時代の歌人。定家の子。阿仏尼の夫。歌学を父定家に受け、これを子孫に伝えて、二条家歌学の祖となる。「続後撰和歌集」「続古今和歌集」の撰者。建治元年(一二七五)没、年七十七。
ふぢはらのためうぢフジワラ…ウジ[藤原為氏] (人名)歌人。前項の為家の子。「続拾遺和歌集」の撰者。弘安九年(一二八六)没、年六十四。主著、新和歌集。
ふぢはらのためかねフジワラ……[藤原為兼] (人名)鎌倉時代の公卿かつ歌人。京極為兼と呼ばる。北条氏のために、佐渡へ流され、許されたが、再び土佐へ流された。「玉葉和歌集」の撰者。晩年、剃髪して蓮覚と号す。元弘二年(一三三二)没、生年未詳。徒然草、百五十三段「為兼大納言入道、召しとられて武士どもうち囲みて六波羅へゐて行きければ、資朝卿、一条わたりにてこれを見て」
ふぢはらのためさだフジワラ……[藤原為定] (人名)吉野時代の歌人。「続後拾遺和歌集」および「新千載和歌集」の撰者。正平十五年(一三六〇)没、年六十七。
ふぢはらのためしげフジワラ……[藤原為重] (人名)吉野時代の歌人。また、書画をよくした。「新後拾遺和歌集」の撰者。元中二年(一三八五)没、年六十一。
ふうりん[風輪] (名)仏教で、金輪・水輪・空輪・風輪の四輪の一。風輪は、この世界を支持する最下底の地層をいう。水鏡、上「かくて、第二十の刧に火いできて、しも風輪とて、風吹きはりたる所の上より梵天まで、山川も何もかもなく焼け失せぬ」(ここでは、地上に起る風をいう)
ふぢはらのためよフジワラ……[藤原為世] (人名)鎌倉時代の歌人。為氏の子。京極為世と呼ばる。「新後撰和歌集」および「続千載和歌集」の撰者。延元三年(一三三八)没、年八十八。
ふぢはらのていかフジワラ……[藤原定家] (人名)鎌倉時代初期の歌人・歌学者。「さだいへ」のよみならわし。俊成の子。為家の父、父俊成の歌風を受けて幽玄体を完成し、これを有心体と称した「新古今和歌集」の撰者。その著「定家仮名遣」は、わが国における文法的研究の最初の書といわれている。仁治二年(一二四一)没、年七十九。主著、明月記・詠歌大概。
ふぢはらのときひらフジワラ……[藤原時平] (人名)平安時代の政治家。左大臣の時、右大臣菅原道真をざんげんして筑紫に左遷せしめた。「延喜式」「三代実録」の撰者の一人。延喜九年(九〇九)没、年三十八。
ふぢはらのとしなりフジワラ……[藤原俊成] (人名)⇒ふぢはらのしゆんぜい。
ふぢはらのとしゆきフジワラ……[藤原敏行] (人名)平安時代の歌人。三十六歌仙の一人。その歌は、「古今集」以下の勅撰集に収む。延喜七年(九〇七)没、生年未詳。一説、昌泰四年(九〇一)没。文集、敏行朝臣集。
ふぢはらのひでたふフジワラ…トウ[藤原秀能] (人名)鎌倉時代初期の歌人。後鳥羽上皇の北面の武士となり、歌才をもって和歌所の寄人となり、定家らと共に「新古今和歌集」を撰す。のち、承久の変に加わり、変後、熊野で出家し、如願(によぐわん)と号した。仁治元年(一二四〇)寂、年五十六。家集、如願法師集。
ふぢはらのひでよしフジワラ……[藤原秀能] (人名)前項の誤読。
ふぢはらのまさつねフジワラ……[藤原雅経] (人名)鎌倉時代初期の歌人。定家らと「新古今和歌集」を撰す。歌風は、俊成・定家の流を汲み、子孫にも多くの歌人を出した。飛鳥井家の祖。建保三年(一二一五)没、年四十五。家集、明日香井和歌集。
ふぢはらのみちつなのははフジワラ……[藤原道綱の母] (人名)本名未詳。藤原倫寧の女。摂政・太政大臣・関白となった兼家に嫁し、天暦九年(九五五)八月、道綱を産む。「蜻蛉日記」は夫兼家にはじめて会った時から、道綱の誕生のこと、およびその元服に至るまで二十一年間の日記である。道綱は、大納言兼右近衛大将東宮傅になった人。母の生没未詳。
ふぢはらのみちとしフジワラ……[藤原通俊] (人名)平安時代の歌人・学者。大江匡房・源経信らと才能を争った人。「後拾遺和歌集」を撰す。康和元年(一〇九七)没、年五十二。
ふうゐん…イン[風韻] (名)(1)すぐれた風采。(2)風雅な味わい。風趣。雅致。(3)風のひびき。
ふうん[浮雲](名)空に浮かんでいる雲。転じて、危かしいこと。
ふぢはらのみちともフジワラ……[藤原通具] (人名)鎌倉時代初期の歌人。正二位大納言に至る。定家らと「新古今和歌集」を撰す。その歌は「新古今集」以下の勅撰集に収む。安貞元年(一二二七)没、年五十五。
ふぢはらのみつちかフジワラ……[藤原光親] (人名)鎌倉時代の公卿。後鳥羽上皇の寵を蒙り、権中納言に進む。承久三年(一二二一)、後鳥羽上皇北条氏討伐の際、鎌倉方に捕らえられて駿河で斬殺された。年四十五。徒然草、四十八段「光親卿、院の最勝講奉行してさぶらひけるを御前に召されて」
ふぢはらのみやフジワラ……[藤原の宮] (名)大和の国、奈良県高市郡大原村にあった皇居。持統天皇の朱鳥八年(六九四)十二月、この地に都を定め、文武天皇もまたこの地に都を定められ、和銅三年(七一〇)奈良に遷都するまで、その間凡そ十六年皇居となる。和銅四年焼失。
ふぢはらのもととしフジワラ……[藤原基俊] (人名)平安時代末期の歌人・学者。「万葉集」に訓点を施した。康治元年(一一四二)没、年八十七か。主著、新撰朗詠集・悦目抄・藤原基俊集。
ふぢはらのやすまさフジワラ……[藤原保昌] (人名)平安時代の歌人かつ武人。巨盗袴垂との物語や大江山鬼退治の物語などで名高い。長元九年(一〇三六)没、年七十八。
ふぢはらのゆきなりフジワラ……[藤原行成] (人名)⇒ふぢはらのかうぜい。
ふぢはらのよしつねフジワラ……[藤原良経] (人名)鎌倉時代初期の歌人。和歌を定家に学び、後鳥羽上皇に重用された。その歌は「新古今集」に収む。建永元年(一二〇六)没、年三十七。主著、殿記・月清集。
ふぢはらのよりながフジワラ……[藤原頼長] (人名)平安時代末期の政治家・学者。宇治の左大臣または悪左府と呼ばれた。その日記を「台記」といい、十四冊の大部のものであり、当時の史料として重視される。崇徳上皇を擁して保元の乱を起し、敗れて流れ矢を受け、舌をかんで没す。時に保元元年(一一五六)、年三十六。徒然草、百五十六段「大臣の大饗は、さるべき所を申しうけて行ふ、常の事なり。宇治の左大臣殿は、東三条殿にて行はる」
ぶちみやう……ミヨウ[仏名] (名)「ぶつみやう」に同じ。宇津保、蔵開、中「それは、ぶちみやうすぐしてせむ」
ふぢやう……ジヨウ[不定] (名)定まらぬこと。定めのないこと。「老少不定」
ふ[編] (名)畳・こも・むしろなどの、編んだ緒。また、編むかず。袖中抄、十四「みちのくの十ふのすがごも七ふには君を寝させて三ふにわれ寝む」
ふうん[浮雲] (名)空に浮かんでいる雲。転じて、危かしいこと。
ふちゆう[府中] (名)(1)政治を行う表むきの所。「宮中」の対。(2)「国府」に同じ。また、国府を置かれた地の称。
ふぢゐがはらフジイ……[藤井が原] (地名)「藤原の宮」の所在地。今も、その地に「藤原の御井」と称する井戸がのこっている。万葉、一の五二「あらたへの藤井が原に、大御門始め給ひて」
ふぢゐたかなほフジイ…ナオ[藤井高尚](人名)江戸時代の国学者。号は松斎・松廼舎・松屋。備中の人。本居宣長の門人。特に物語の研究にくわしい。天保十一年(一八四〇)没、年七十六。主著、伊勢物語新釈・紫式部日記釈・浅瀬のしるべ。
ふぢゐのうらフジイ……[藤井の浦] (地名)「藤江の浦」に同じ。その項を見よ。万葉、六の九三八「印南野の、大海(おほみ)の原の、あらたへの藤井の浦に、鮪(しび)釣ると 山部赤人」
ふつ[捨つ・棄つ](動、下二)捨てる。大和物語「されは、この水、熱湯(あつゆ)にたぎりぬれば、湯ふてつ」
ふつ (動、下二)「不貞」を活用させた語か。ふてくされる。不平を起して、やけになる。恨み逆らう。太平記、十七、義貞軍事「よき敵にや遭ふと、ふてて仕り候ふを」
ぶつ[仏] (名)「仏陀」の略。(1)ほとけ。特に、仏教の開祖たる釈迦の称。(2)仏教。仏法。「仏典」「仏法」
ふつうざま[普通様] (名)普通の様子。世の常のさま。平家、十一、遠矢「普通ざまの精兵五百人すぐつて」
ぶつかく[仏閣] (名)寺院の建物。堂宇。伽藍。寺院。てら。
ふつき[富貴] (名)富みかつ貴いこと。
ふづき…ズキ[文月] (名)陰暦七月の異称。ふみづき。
ぶつき[仏器] (名)仏事に用いる諸道具。仏への供物を盛る器。
ふかうてうフコウチヨウ[風香調] (名)正しくは「ふうかうてう」である。「ふかうてう」は、その略。「風江調」とも書く。雅楽における琵琶の調子の一。枕草子、九「しらべは、風香調」更級日記「琵琶の風香調ゆるやかにひきならしたる」=琵琶を、風香調でゆるやかにひきならしているのは。
ぶつぎ[物議] (名)世間の噂。世人の批評や議論。世論。
ぶつきやう……キヨウ[仏経] (名)(1)仏教の経典。(2)仏像と経典と。
ふづくフズク (動、四)ひどく怒る。いきどおる。神代紀、上「一書に曰く…次に素戔鳴尊を生みたまふ。この神、ひととなり性(さが)悪しくして、常に哭きふづくことを好む」
ふづくむフズクム (動、四)前項に同じ。易林本節用「恚フヅクム」
ぶつくわ…カ[仏果] (名)仏道修行の因によって到達する仏の果位。成仏。雨月物語、一、白峰「ひたぶるに隔生即忘して、仏果円満の位にのぼらせ給へと情を尽くして諌め奉る」
ふづくゑ……ズクエ [文机](名)「ふみづくゑ」の略。書物を載せる机。
ふつげう……ギヨウ[払暁] (名)夜明け方。あかつき。
ぶつげん[仏眼] (名)(1)仏教で、諸法の真実性を照らす眼。悟った者の眼。(2)仏母尊の称。大日如来の変身という。枕草子、六「修法は、仏眼、真言など読み奉りたる」(仏眼の修法は、仏母尊に対して、息災・延命等を祈る法会)また、次項に同じ。
ぶつげんゑ…エ[仏眼会] (名)「開眼会」ともいう。新しく作った仏像の眼を開き、魂を入れるために行う法会。(前項の(2)もあるいは、これか)
ぶつこ[物故] (名)人の死をいう。「すでに物故す」
ふかく[不覚] (名)(1)ものも覚えぬさまであること。人事不省におちいること。(2)油断して失策すること。(3)覚悟の足りないこと。転じて、卑怯なこと。平家、一、鵜川合戦「目代、大いに怒つて、先生の目代は、皆不覚でこそいやしまれたれ」(4)思わず知らずに行われること。恥ずかしい意味を含む。謡曲、大原御幸「かひなき命ながらへ、ふたたび龍顔に逢ひ奉り、不覚の涙に袖をしぼるぞ恥づかしき」
ぶつし[仏師] (名)仏像を彫刻し作る工人。仏工。
ぶつしやうゑ…シヨウエ[仏生会] (名)釈迦の誕生日を祝う儀式。灌仏会。四月八日に行う。
ぶつしやり[仏舎利](名)「舎利」は「骨」。釈迦の遺骨。
ぶつしよく[物色] (名)(1)物の色。景色。風物。(2)人や物を捜し求めること。「かれこれと物色す」
ぶつじんのほんえん[仏神の本縁](句)仏や神の由来・縁起。徒然草、二百二十五段「仏神の本縁を歌ふ」(源義経の妾、静御前が)
ぶつそくせき[仏足石] (名)仏の足の裏の形を彫りつけた石。釈迦入滅の後、摩掲陀国で足跡を石に印したというのに基づく。我が国では、奈良の薬師寺、長野の善光寺にあるものが名高い。
ぶつそくせきのうた[仏足石の歌](句)奈良市西郊の薬師寺院内にある仏足石歌碑に刻んだ歌。すべて、仏石足を敬仰する二十一首の歌、五七五七七七の形式で、後世の和賛の源流をなすもの。
ぶつそらい[物徂徠] (人名)⇒をぎふそらい。
ぶつちやう……チヨウ[仏頂] (人名)江戸時代の僧。常陸の国、鹿島郡の根本寺第二十五世の住職。芭蕉の参禅の師。奥の細道「当国雲岸寺の奥に、仏頂和尚山居の跡あり」
ぶつちやうづら…チヨウズラ[仏頂面] (名)釈迦如来の頭上から化現して、仏智の最勝なことをあらわす「仏頂尊」の恐ろしい顔つきから、転じて、むっとした顔の意となる。ふくれづら。
ふつつかなり[不束なり] (形動、ナリ)「太束(ふとつか)なり」の義。(1)太くて丈夫である。宇津保、蔵開、上「いと大きやかに、ふつつかに肥え給へるが」(2)転じて、不格好である。ぶきっちょである。下品である。源氏、夕顔「家鴨といふ鳥の、ふつつかに鳴くを聞き給ひて」(3)さらに転じて、思慮が浅い。つたない。徒然草、五段「不幸にうれへに沈める人の、かしらおろしなど、ふつつかに思ひとりたるにはあらで」=不幸のために悲しみに沈んでいる人が、いきなり頭を剃って仏門に入るなどという、そんな浅い考えで出家を決心したのではなく。(ここに挙げたのは、すべて、連用形の例)
ふつてい[払底] (名)底を払ふこと。少しも無いこと。物のひどく欠乏していること。
ふつと (副)絶えて。さらに。少しも。水鏡、中「問へども、ふつといらふることもなし」
ぶがく[舞楽] (名)舞踊を伴う雅楽。古く、印度・中国・朝鮮などから伝来したもの、およびこれらに模してわが国で作ったもの。今日では、宮中または特殊の神社に保存されているに過ぎない。謡曲、鶴亀「鶴亀を舞はせられ、そののち、月宮殿にて舞楽を奏せられうずるにて候ふ」
ふかくさのさと[深草の里](地名)今の京都市伏見区の北部一帯の地に当たる。東山連峰の南端である稲荷山の西南麓で、往時、貴紳の別荘地があり、月や鶉の名所として名高かった。古今集、十八、雑下「深草の里に住み侍りて京へまうでくとて、そこなりける人によみておくりける 在原業平」新古今、四、秋上「ふかくさの里の月かげさびしさもすみこしままの野辺の秋風 右衛門督通具」
ふつに (副)(1)前項に同じ。神代紀、上「ふつに見る所なし」(2)すべて。ことごとく。神武紀、即位前、戊午四月「ふつに、したがへる兵(つはもの)を起して、くさかの坂にさへぎりて、ともにあひたたかふ」敏達紀、元年五月「ふつにその字を写す」
ふつふつ (副)ぷっつり。断然。鬼鹿毛無佐志鎧「今よりしては、ふつふつたしなみましよ、やめませう」
ふつふつと(副) (1)ぷっつりと。断然。狂言、こんくわい「ふつふつと仲たがひでおぢやる」(2)物を断つ音にいう語。今昔物語、二十八「刀をもて荒巻の繩をふつふつと押し切りて」(3)鳥の羽ばたく音にいう語。沙石集、八「ふつふつと立つを見れば、鴛(をし)の雌なり」
ぶつぽうそう…ポウ…[仏法僧] (名)(1)仏教で、仏と法と僧との三つの宝をいう。三宝。(2)「このはづく」の異称。その鳴く声が「ブッ・ポウ・ソウ」と聞えるところからいうと。
ぶつみやう……ミヨウ[仏名] (名)「仏名会」の略。昔、十二月十五日から十七日、のちに十九日から二十一日までの三日間(主に、夜)過去・現在・未来三千の諸仏の名号を唱える仏名経を誦し、罪障を懺悔するという法会。「仏名懺悔」ともいう。「御仏名」といえば、宮中の、右の公事。蜻蛉日記、附録「仏名の朝(あした)に、雪の降りければ」徒然草、十九段「御仏名、荷前の使ひ立つなどぞ、あはれにやむごとなき」=(宮中では)御仏名会が行われ、荷前の勅使が出発するなど、しみじみと尊いことである。⇒のさきのつかひ。
ふづゑ…ズエ[文杖] (名)「ふみばさみ」の類。⇒ふみばさみ。
ふてきごと[不敵事] (名)大胆不敵な事。不都合な事。古今著聞集、十六、興言利口「年ごろ、ただ一人召し使ひつるに、ふてきごとどもして、安からず覚えしかども、勘当してはいかにせむぞと思ひ、念じ過ぎ侍りぬ」
ふでとどむ[筆とどむ] (動、下二)(1)筆をとめる。擱筆する。(2)筆をやわらかにつかう。文字をすらりと書く。大鏡、五、太政大臣伊尹「裏には御筆とどめて、草(さう)にめでたく書きて奉り給へりければ」
ふでのすさび[筆のすさび] (書名)(1)随筆。三巻。橘泰の著。文化三年(一八〇六)刊。一名、芝居随筆。論語のこと、沢庵の詩歌、如大禅師のことなど、百項ばかりの随筆。(2)随筆。四巻。菅茶山の著。安政四年(一八五七)刊。肥前の国に火降る、石分娩、珍書考など、百六十項ばかりの随筆。
ふてんのもと[普天の下] (句)あめがした。天下。平家、二、教訓「普天の下、王地にあらずといふことなし」(「詩経」の「普天の下、王土にあらざるはなく、率土の浜、王臣にあらざるはなし」によった語)
ふかくさのみかど[深草の帝] (天皇名)第五十四代、仁明天皇の御別称。御陵が深草の里にあるところからの称。伊勢物語「昔、男ありけり。…深草の帝になむ仕うまつりける」
ふと[浮図・浮屠] (名)(1)梵語Buddhaの音写。仏。仏陀。ほとけ。(2)転じて、僧。僧侶。(3)梵語Stupaの音写。一般には「卒塔婆」と書く。塔。とうば。そとうば。
ふと (副)(1)不意に。思いがけなく。竹取「綱を釣り上げさせて、ふと子安の貝を取らせ給はむなむ、よかるべき」(2)たやすく。ちょっと。竹取「わが弓の力は、龍(たつ)あらば、ふと射殺して、首の玉は取りてむ」
ふと ふと[太](接頭)(1)「太く」「いかめしく」などの意を冠する動詞を構成する語。「宮柱ふと敷く」(2)貴い意を冠する名詞を構成する語。「ふとのりとごと」「ふとみてぐら」
ふどうげさ[不動袈裟] (名)山伏・修験者が頸から掛ける、輪袈裟。宇治拾遺、一「墨染の衣の短きに、不動袈裟といふ袈裟かけて」
ふどうそん[不動尊] (名)不動明王。また、略して「不動」ともいう。仏教で、明王の一。獰悪な相をなし、右手に降魔の剣を持ち、左手に捕縛の繩を握り、背に火焔を負う。一切の邪悪・障魔を降伏するという。枕草子、九「仏は…不動尊」
ふどき[風土記] (書名)国国の地名の由来、土地の肥痩、産物、古伝説などをしるして朝廷に奉らせた地誌。奈良時代の初め、和銅六年(七一三)に勅命を発して諸国から撰進させたが、現存するものは「常陸風土記」「出雲風土記」「播磨風土記」「肥前風土記」「豊後風土記」の五つに過ぎない。これを「古風土記」という。さらに、醍醐天皇の延長三年(九二五)に重ねて撰進の命が下っている。なお、「総国風土記」というものがあるが、これは後世の偽作である。⇒こふどきいつぶん。
ぶとくでん[武徳殿] (名)大内裏、豊楽院の北にあった殿舎。騎射・競馬などを天覧に供した御殿で、弓場殿・馬場殿・射場殿・馬埓殿などとも称した。古今著聞集、十、馬芸「武徳殿に御幸なりて、さまざまの馬芸をつくさる」
ぶとくでん[武徳殿] (名)大内裏、豊楽院の北にあった殿舎。騎射・競馬などを天覧に供した御殿で、弓場殿・馬場殿・射場殿・馬埓殿などとも称した。古今著聞集、十、馬芸「武徳殿に御幸なりて、さまざまの馬芸をつくさる」
ふところがみ[懐紙] (名)畳んで懐に入れおき、歌などを書くのに用いる紙。懐紙(くわいし)。たたうがみ。はながみ。更級日記「懐紙に、思ふこと心にかなふ身なりせば秋の別れを深く知らましとばかり書かれたるをも、え見やられず」
ふとしく[太敷く] (動、四)「太」は美称。りっぱに構える。柱などをいかめしく立てる。祝詞、六月晦大祓「下つ磐根に宮柱太敷き立て」
ふかくじん[不覚人・不覚仁] (名)「ふかくにん」とも読むか。覚悟の足りない人。卑怯者。油断して失策する人。心のあさはかな人。不器量人。未練者。平家、十二、六代被レ斬「文覚房の返事に、これは一向に底もなき不覚仁にて候ふぞ。御心安く思し召され候へと申されけれども」義経記、六「さては聞くには似ず、おのれは不覚人なりけるや」曾我扇八景、十番斬「もつたいなくも、我が君の所領をつひやす不覚人」
ふとしも (副)すぐにも。落窪物語「ふとしも取り給はず」
ふとしる[太知る] (動、四)「太敷く」に同じ。古事記、上「底つ石根に宮柱ふとしりて、高天原にひぎ高しりてをれ、こやつよ」
ふとたまぐし[太玉串] (名)「太」は美称。みてぐらの一種。たまぐし。榊に木綿・紙などをつけて神に手向けるもの。祝詞、豊受宮神嘗祭「大中臣、太玉串に隠り侍りて」
ふどの[文殿](名)書物を納めて置く所。文庫。ふみどの。源氏、榊「殿にも、ふどのあけさせ給ひて」
ふとのりと[太祝詞] (名)「太」は美称。のりと。のりとごと。神代紀、上「一書に曰く…乃ち天児屋命をして、その解除(はらへ)のふとのりとを掌りてのらしむ」
ふとのりとごと[太祝詞] (名)前項に同じ。祝詞、六月晦大祓「天つ祝詞のふとのりとごとをのれ」
ふとまに[太占・大兆](名)「太」は美称。「まに」は「うらない」。上古においては、鹿の肩胛骨を焼き、その割れ目によって占なった。古事記、上「ふとまにうらへて、のりたまひつらく、女を言(こと)に先だちしによりてふさはず」
ふとまへ…マエ[太前] (名)「太」は美称。神の御前。大前。広前。祝詞、祈年祭「天照大御神の太前にまをさく」
ふとゐがは…イガワ[太井川] (地名)今の千葉県と東京都との境を流れる江戸川の古称。更級日記「しもつさの国と武蔵との境にてある太井川といふがかみの瀬、まつさとのわたりの津にとまりて」=下総の国と武蔵の国との境である太井川という川の上流の渡り瀬、まつさと(松戸)の渡し場の舟着き場に泊まって。
ふとん[蒲団] (名)昔、蒲(がま)の葉で編んだ円座。のち、布を用いて、綿などを入れた方形の敷き物または寝具。これも、やはり「蒲団」と書く。「布団」は非。なぜなら、「団」は「炭団」などの「団」で、丸い義であるから、今日の方形のものは「布角」とでも書くべきで、「団」を用いるなら、伝統に従い「蒲団」と書くのがよい。
ふなあまり[ふな余り] (枕詞)語義未詳。恐らく「ふな」は「舟」の義ではなく「柩」の義であり、「あまり」は「残り付く」義であって、柩に残り付いて魂魄が島から帰って来る意から「かへり来る」に冠するのであろう。松岡静雄氏の説であるが、「古事記伝」その他の説「舟に乗る人が多くて、乗り得ないで、しばらく帰り来る」などの説よりは、一歩を進めた解釈である。ただし、まだ、しっくりしない。古事記、下「おほきみを、しまにはふらば、ふなあまりいがへりこむぞ」=大君(最高貴人)である自分を島に追放し葬るならば、魂魄は柩(ふね)に残り付いて、大和へ帰って来るであろうぞ。(允恭紀、二十四年六月の条にある歌も同義)
ふなぎみ[舟君] (名)船客中の主客に対する敬称。土佐日記「十四日…舟君節忌(せちみ)す」(ここの「舟君」は貫之。十四日は六斎日であるから精進潔斎したのである)
ふかで[深手] (名)重傷。いたで。「浅手」の対。
ふなこ[舟子] (名)舟をあやつる人。ふなのり。かこ。水夫。せんどう。土佐日記「ふなこ・かぢとりは船歌うたひて」
ふなさかやま[船坂山] (地名)「船坂峠」ともいう。播磨(兵庫県)と備前(岡山県)との境にある山。昔、山陽道は、この峠にかかった。太平記、四、備後三郎高徳事「船坂山のいただきに隠れ伏し、今や今やとぞ待ちたりける」(後醍醐天皇の御通りを)
ふなずゑ…ズエ[船ずゑ] (名)船を据えておく所。港。祝詞、遣唐使時奉幣「船ずゑ作り給へれば、よろこびうれしみ」
ふなせ[船瀬] (地名)船が風波を避けて碇泊する所の義の固有名詞。播磨の国、兵庫県明石郡にある地。ふなせのはま。万葉、六の九三五「なきずみの船瀬ゆ見ゆる淡路島、松帆の浦に、朝なぎに、玉藻苅りつつ」⇒なきずみ。
ふなせのはま[船瀬の浜] (地名)前項に同じ。万葉、六の九三七「ゆきめぐり見とも飽かめやなきずみの船瀬の浜にしきる白浪」⇒なきずみ。
ふなだな[舟棚・舟■] (名)船の両舷に、家の縁側のように板を並べて打ちつけてある所。舟子が艪櫂をあやつる所。これのないのが「たななしをぶね」である。万葉、十七の三九五六「なごのあまの釣する船は今こそはふなだな打ちてあへて漕ぎ出め」
ふなだま[船霊] (神名)船の神。航海の安全をまもる神。
ふなづつみ……ズツミ[舟包み] (名)「布施」の別称。金銭を包んで仏前または僧に供えるもの。琴後集、二、夏歌「もろ人のけふのためしの舟づつみつどふや法(のり)のみなとたるらむ」
ふなどのかみ[岐神] (神名)「さへのかみ」に同じ。
ふなて[船手] (名)(1)水軍。船隊。(2)船を支配する役人。(3)舟の通う路。航路。
ふがふ…ゴウ[符合] (名)割符の相合すること。転じて、物の寸分もたがわぬこと。古今著聞集、二、釈教「勢至菩薩の化身といふこと、これより符合するところなり」
ふなのへ[船の舳] (名)船の頭。へさき。祝詞、祈年祭「ふなのへの至りとどまるきはみ」(大海の果てまでの意)
ふなのへ[船■] (名)「ふなだな」に同じ。神代紀、下「海の中に、八重蒼柴籬(やへあをふしがき)を造りて、ふなのへを踏んで避りぬ」-海中に、柴の八重垣を造り、その中で船を踏み傾け、顕世を隔てて去られた。⇒あをふしがき。
ふなばた[船端・舷] (名)ふなべり。ふなだな。平家、十一、那須与一「沖には平家、ふなばたをたたいて感じたり」
ふなもよひ……モヨイ[船催ひ] (名)船出の準備。ふたよそひ。一字御抄、四「今宵ぞと星の逢ふ瀬の安川や月の御舟も舟もよひして」
ふなよそひ……ヨソイ[船装ひ] (名)船出の準備。ふなもよひ。万葉、二十の四三六五「おしてるや難波の津より船装ひ吾(あれ)は漕ぎぬと妹に告ぎこそ 防人の歌」(妻に告げよとの意)
ふなをか…オカ[船岡] (地名)京都市上京区北大路の南千本通りの東にある一丘陵。平安時代ごろは、遊覧の勝地。のち、火葬場となる。枕草子、十「岡は船岡・片岡」徒然草、百三十七段「鳥部野・舟岡、さらぬ野山にも、送る数多かる日はあれど、送らぬ日はなし」(死者を)
ふなをさ…オサ[船長] (名)水夫の頭。せんちょう。ふねのつかさ。欽明紀、十四年七月「王辰爾(わうしんに)を船長となし」
ふねさし[船さし] (名)棹をさして船を進める人。ふなこ。船頭。増鏡、六、煙のすゑずゑ「御ふねさし、いろいろの狩襖(かりあを)にて、八人づつさまざまなり」⇒かりあを。
ふねにきだつく[船にきだつく] (句)「きだ」は「刻み」。船に刻みをつける。旧慣を墨守する。「呂氏春秋」に「楚人、江を渉る者あり。其の剣、舟中より水に落つ。遂に其の舟に刻みていはく、これ吾が剣の落ちし所なりと。舟、止まりて、その刻めるところより水に入りてこれを求む云々」とあり、船は走っているのだから、川へ入っても落した剣の求められる筈がない。「株(くひぜ)を守りて兎を待つ」の類。琴後集、十五、祭二芳宣園大人墓一文「くひぜを守り、舟にきだつくるともがら、かれになづみ、これにひかれて、なほあやしみとがむるたぐひは多く」
ぶねん[無念・不念] (名)気づかないこと。不注意。おこたり。狂言、末ひろがり「不念なことを致した」
ふかみぐさ[深見草] (名)「牡丹」の異名。謡曲、雲雀山「いづれ深百合・深見草、御心寄せに召され候へよ」
ふばこ[文箱] (名)昔、手紙を運ぶとき、手紙を入れる小さい細長い箱。状箱。ふみばこ。
ふばさみ[文挟み] (名)昔、貴人に文書を捧げる時に使用した具。五尺ばかりの白木の杖の端に、鳥口という金具をつけ、これに文書を挟む。ふみばさみ。ふづゑ。竹取「一人の男、ふばさみに文をはさみて申す」
ふはのせきフワ…[不破の関] (地名)昔、美濃の国にあった関所。今、岐阜県不破郡関か原大字松尾の大木戸坂の上に、その址がある。鈴鹿・愛発(あらち)と共に、古三関の一。新古今、十七、雑中「人住まぬ不破の関屋の板びさし荒れにし後はただ秋の風太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「不破の関屋は荒れ果てて、なほもるものは秋の雨の」
ふかみるの[深海松の] (枕詞)海底深く生えた「みる」のこと。同音を重ねて「深む」「見」に冠する。万葉、二の一三五「ふかみるの深めて思(も)へど、さ寝し夜は、幾だもあらず」同、六の九四六「ふかみるの見まく欲しけど、なのりその、己が名惜しみ」
ふ[経] (動、下二)(1)経過する。古事記、序文「今の時に当たりて、その失を改めずば、未だいくばくの年を経ずして、その旨ほろびなむとす」(2)経歴する。平家、一、鱸「左右を経ずして、内大臣より太政大臣従一位に至り」
ふかん[不堪] (名)(1)芸に堪能でないこと。古今著聞集、十、馬芸「久清は上手なり。敦文は不堪のものなりければ」(2)耕種に耐えないようになった荒廃の田地。
ふきあげ[吹上] (名)(1)噴水。(2)風に吹き上げられて出来た海辺の小高い砂地。砂丘。うけらが花、七、文詞「あるは吹上にたてる白菊を、浪の寄するかとうたがひ」
ふきあげ[吹上] (地名)「吹上の浦」「吹上の浜」の略。太平記、大塔宮熊野落事「和歌・吹上をよそに見て」
ふきあげのうら[吹上の浦] (地名)次項に同じ。謡曲、淡路「紀の海や、波吹上の浦風に、あと遠ざかる沖つ舟」
ふきあげのはま[吹上の浜] (地名)歌枕の一。和歌山市、紀の川口の左岸、湊から雑賀の西浜に至る一帯の地をいう。ふきあげのうら。ふきあげ。枕草子、九「はまは、そとのはま・ふきあげのはま」(ただし、ただ風の吹き上げる浜を、この吹上の浜にかけてよんだ和歌も多い)
ふきいた[葺き板] (名)屋根を葺くに用いた板。方丈記「檜皮・葺き板のたぐひ、冬の木の風に乱るるがごとし」
ふきがたり[吹き語り] (名)自分のことを自慢して言うこと。ふいちょう。じまんばなし。枕草子、十一「かかることなどを、みづからいふは、ふきがたりにもあり」
ふきがへし……ガエシ[吹き返し] (名)兜の肩庇の左右に、耳のように、後ろへそって、出ている所の名。太平記、三十一、八幡合戦事「袖の菱縫、ふきがへしに立つところの矢少少折りかけて、御山の陣へぞ帰られける」
ふきしく[吹きしく] (動、四)(1)吹き敷く。風に吹かれて、木の葉などが散り敷く。由佳里の梅、初上「軒に吹きしく群れ落ち葉」(2)吹き頻く。しきりに吹く。烈しく吹く。後撰集、六、秋中「白露に風の吹きしく秋の野はつらぬきとめぬ玉ぞ散りける 文屋朝康」=秋の野一面に茂っている草の上に、しっとりと置いた白露に、秋風がしきりに吹いて、ちょうど緒につらぬきとめておかない白い玉が飛び散るように、露の玉が散らばっていることであるよ。
ふきながしのいろ[吹き流しの色] (句)風まかせに、どちらへでも靡くような、多情な恋愛。妹背鳥、後下「さそふ風すらあらば、いづかたへも靡くといふ、吹き流しの色」
ふ[綜] (動、下二)糸を引き延(は)える。たて糸を引き延えて機(はた)にかける。古今集、十、物名「白露を玉にぬくとやささがにの花にも葉にも糸をみなへし 紀友則」
ぶぎやう……ギヨウ[奉行] (名)(1)命を奉じて事を行う義。すべて、命によって直接事に当たること。また、その人。(2)武家の職名。鎌倉時代から江戸時代まであった。種種の職の長の称。寺社奉行・勘定奉行・町奉行など。
ふきよう[不興] (名)(1)興のさめること。座のしらけること。春花五大力「最前より、よしなことで座敷の不興」(2)機嫌を損すること。怒ること。重井筒、上「いふ顔の不興なれば」(3)勘当。勘気。謡曲、小袖曾我「時致(ときむね)は不興の身なれば、物の隙より」
ふく[振く] (動、四)振る。古事記、上「十拳剣(とつかつるぎ)を抜きて、後手(しりへで)にふきつつ逃げ来ませるを」
ふく[深く・更く] (動、下二)(1)深くなる。多くなる。新古今、四、秋上「秋の月しのに宿かるかげたけて小笹が原に露ふけにけり」(2)深夜になる。源氏、桐壺「夜、いたうふけぬれば、こよひ過ぐさず御返り奏せむ」(3)年齢が多くなる。としをとる。拾遺集、八、雑上「有明の月のひかりを待つほどにわがよのいたくふけにけるかな 藤原仲文」(「夜のふける」と「齢(よ)のふける」とをかけたもの)
ふく[化く](動、下二)(1)蒸(む)れて、古くなって、形を変える。「米ふく」(2)空気にさらされて、とけて、粉となる。風化する。「石灰ふく」
ふぐ[不具] (名)(1)そなわらないこと。(2)かたわ。(3)意の尽きないこと。手紙の末尾などにつける語。不尽。不備。
ふぐ[不虞] (名)思いがけないこと。予期しないこと。
ぶく[服] (名)(1)喪服。源氏、夕顔「ぶく、いと黒うして」(2)喪にこもること。また、その期間。喪中。大和物語「御ぶく、果て給ひにけるころ」
ふくいくたり[馥郁たり] (形動、タリ)芳香がさかんにただよう。よいにおいがする。
ふくうけんさくくわんおん…カンノン[不空羂索観音] (名)生死の大海に妙法蓮華の餌をまき散らし、心念不空の繩で衆生という魚を釣り上げ、菩提の彼岸に送るという観世音菩薩。大鏡、七、太政大臣道長「このおとどなむ南円堂を建てて、丈六の不空羂索観音をすゑ奉り給ふ」
ふくかぜの[吹く風の] (枕詞)吹く風は目に見えないので「見えぬ」「目に見ぬ」に、また、風のたよりということから、「たより」に冠する。万葉、十五の三六二五「ゆく水のかへらぬごとく、吹く風の見えぬがごとく」古今集、十一、恋一「ふくかぜの目に見ぬ人も恋ひしかりけり」後撰集、十七、雑三「ふくかぜのたよりうれしきあまの釣り舟」
ぶ[夫] (名)使役される人夫。大鏡、七、太政大臣道長「この御堂の夫をしきりに召す事は、人は堪へかたげに申すめれ」
ふくかぜを…オ[吹く風を] (句)千載集、二、春下「吹く風をなこその関と思へども道もせに散るやまざくらかな 源義家」=吹く風に「来るな」という名のついた「勿来の関」と思うのに、やはり春風がさかんに吹いて来て、道も狭くなるほど、山桜花が散り敷いていることであるよ。⇒なこそのせき。
ふくかぜを…オ[吹く風を] (枕詞)吹く風が枝を鳴らすということから「ならしの山」に冠する。他の説もある。後撰集、二、春中「吹く風をならしの山の桜花のどけくぞ見る散らじと思へば」⇒ならしのをか。
ふくからに[吹くからに] (句)吹くにつれて。古今集、五、秋下「吹くからに秋の草木のしをるればむべ山風を嵐といふらむ 文屋康秀」=風が吹くにつれて、秋の草木が荒らされてしおれてしまうのだから、なるほど、山風を「荒らし」といい、また「嵐」と書くわけなのだろう。(ことばと文字とに関するしゃれである)
ふくけんさくくわんおん…カンノン[不空羂索観音] (名)「ふくうけんさくくわんおん」に同じ。
ふくし[副使](名)正使を補佐し、正使の事故ある時には、その代理をなす使者。「正使」「大使」の対。「遣唐副使」
ふくし[副詞] (名)文法用語。品詞の一。活用しない自立語で、主として用言を修飾する単語の称。ただし、他の副詞を修飾し、まれに、時・方向などを示す名詞を修飾するものもある。また、連用修飾節・連体修飾節・述語節をも修飾する。(「早く起く」「静かに語る」「馥郁とかおる」などの傍線を引いた語は、活用する自立語であるから副詞ではなく、形容詞や形容動詞の連用形である。従来の辞典類の多くは誤っている)
ふぐし (名)「掘り串」の義。竹または木で作り、先を尖らせ、土を掘る具。金属製のものは「かなふぐし」という。万葉、一の一「籠(こ)もよ、み籠持ち、ふぐしもよ、みふぐし持ち、この丘に菜摘ます児、家聞かな、名のらさね」=籠とふぐしとを持って、この丘で菜を摘んでいられる少女よ、家をも名をも告げなさい、聞きたいね。
ふくしもの[服し物] (名)「食べる物」の義。「肴」のこと。和名抄「肴=佐加奈、布久之毛乃」
ふくしよく[服飾] (名)衣服と装飾と。衣服のかざり。みなり。
ふくしよく[復飾] (名)僧が再び俗人となること。「飾」は「髪」。
ふくしんさうが…ソウ…[腹心爪牙] (名)「腹心」は我と心を一にすること、「爪牙」は我の爪となり牙となって、我を助けること。全体で、「信用のできる輔弼」の義。雨月物語、菊花のちぎり「経久…智を用ふるに狐疑の心多くして、腹心爪牙の家の子なし」
(接尾語)そのさまである意をあらわす動詞を構成する。上二段活用。「大人ぶ」「翁ぶ」「鄙ぶ」「ことさらぶ」
ぶくす[服す] (動、サ変)(1)喪にこもる。喪にふくす。赤染衛門集「娘のなくなりたるに、ぶくすとて」(2)飲む。食う。ふくす。源氏、帚木「ごくねちのさうやくをぶくして、いと臭きによりなむ、え対面たまはらぬ」(「極熱の草薬」は「にんにく」のこと)
ふくだむ (動、四)そそけ乱れる。けばだつ。枕草子、二「鬢の少しふくだみたれば、烏帽子の押し入れられたるけしきも、しどけなく見ゆ」
ふくだむ (動下、二)前項の他動。そそけ乱れさせる。けばだたせる。しわくちゃにする。枕草子、二「すさまじきもの…ありつる文の結びたるも、たて文も、いときたなげに持ちなしふくだめて」
ふくつけし (形、ク)貪欲である。欲ばりである。枕草子、九「したりがほなるもの…碁をうつに、さばかりと知らで、ふくつけきは、またことどころにかかぐりありくに」=碁をうつのに、それほどに取られる所があるとも知らず、欲ばった人は、また、外の所にひっかかってまわるに。
ふくてつ[覆轍] (名)車のくつがえった跡。転じて、事を仕損じた後。
ふくでん[福田] (名)(1)仏教の語。仏・法・僧の三宝をうやまえば、田が物を生ずるように福徳を得るとの義。(2)転じて、福徳の出る根原。神皇正統記、五「この国は三種の正体をもちて眼目とし、福田とすることなれば」(三種の神器の本質)(3)さらに転じて、「幸福」の義。梅園叢書、上、酒食欲の誡「富四海をたもてども、長生を欲し、福田を求めて身を労し」
ふくとみさうし……ソウシ[福富草子] (書名)御伽草子。一巻。作者未詳。吉野時代の末期または室町時代初期に成るか。福留織部という放屁の名人が、その放屁の芸によって富み栄えたのを、隣家の藤太が真似て失敗するという、ものうらやみの、下品な説話。江戸時代に、この物語を絵巻物とした「福富草子」などがあらわれている。
ふくはら[福原] (地名)今の神戸市内の西部地方の旧称。平家、五、都うつり「治承四年六月三日の日、福原へ御幸なるべしと聞ゆ」
ふくふくし[肺] (名)「肺」の古称。和名抄、三「肺=布久不久之」
ふくべ (名)「ふぐ」の古称。和名抄、十九「■■=一云二布久閉一」
ふあい[不愛] (名)あいそのないこと。大鏡、四、右大臣師輔「されど、なほ我ながらふあいのものにて覚えさぶらふにや」
ふくべ (名)ひさご。なりひさご。ひょうたん。
ふくやかなり[脹やかなり] (形動、ナリ)次項に同じ。宇治拾遺、十三、優婆■多弟子の事「手のいと白く、ふくやかにて、いとよかりければ、この手を放しえず」
ふくよかなり[脹よかなり] (形動、ナリ)肥えて肉づきがよい。ふっくりしている。ふくやかなり。ふくらかなり。源氏、若紫「いと若けれど、おひさき見えて、ふくよかに」宇治拾遺、五、実子にあらざる人実子のよししたる事「綿ふくよかなるきぬ一つ脱ぎて賜びて」
ふくらかなり[脹らかなり] (形動、ナリ)前項に同じ。紫式部日記「たけだちよきほどに、ふくらかなる人」(背丈がほどよく、肉づきのよい人)
ふくりん[覆輪] (名)(1)刀の鞘や鍔または鞍や鎧などの縁を金・銀・錫などで覆い飾るもの。「金覆輪の鞍」(2)衣服その他を縁取ること。宇治拾遺、十七、変化「身にはやうやうの物のかたをゑり入れたり。まはりにふくりんをかけたり」(裸体の変化(へんげ)をいう)
ふぐるま[文車] (名)書架の一種。下に車がついていて、移動に便ならしめるもの。徒然草、七十二段「多くて見ぐるしからぬは、ふぐるまのふみ、塵塚の塵」(「ふみ」は「書物」)
ふくろさうし……ソウシ[袋草子] (書名)歌学書。四巻。平安時代末期の歌人、藤原清輔の著。成立年代未詳。和歌会の作法、六帖歌数のこと、難解の歌詞の注釈などを書き集めたもの。
ふくろづの…ズノ[袋角] (名)夏季、鹿の角が落ちて後、新しく生じた角。その形が袋に似ているからとも、また、基の方が一面に袋のような皮におおわれているからともいう。
ふくろもち[袋持] (名)貴人または主人の外出の時、袋を持って後に従ふ者。のち、ただ「従者」の義となる。
ふくわい…カイ[附会] (名)こじつけること。「牽強附会」

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