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な[字] (名)もじ。じ。「真字(まな)」「仮名(かな)」敏達紀、元年五月「高麗のたてまつれる表■(ふみ)鳥の羽に書けり。な、羽の黒き随(まま)に、すでに識(し)るひとなし。」天武紀、十一年三月「境部連石積(さかひべのむらじいはつみ)らにおほせて、更にはじめて新字(にひな)一部四十四巻を造らしむ」(「釈日本紀」に引用した「私記」によれば、その字体は梵字に似ていたという)
ないえん[内宴] (名)(1)内内に催す宴。(2)昔、正月二十一日に、禁中の仁寿殿に文人らを召し、詩を作らしめ、宴を賜わる会。古今著聞集、三、公事「内宴は公仁年中にはじまりけるが、長元より後、絶えて行はれず」
なかのを・・・オ[中の緒] (名)筝十三絃のうち、第六絃から第十絃までの称。源氏、明石「逢ふまでのかたみに契る中の緒の調べはことにかはらざらなむ」
なかのきみ[中の君] (名)姉妹のうちで、第二番目の人。中の姫君。落窪物語、一「大君(おほいきみ)・中の君には聟どりして、西の対、東の対に、はなばなしく住ませ奉り給ふ」
ながのし[長のし] (名)遠く飛ぶこと。駿台雑話、四、兵法の大事「ながのしする鷹の羽つがひゆるきが、毀析(きせき)することを聞かず」
なかのまつりごとのつかさ[中務省] (名)⇒なかつかさ。
なかのみかど[中の御門] (名)(1)大内裏の「侍賢門」の別称。万葉、十六の三八八六「ひむがしの中のみかどゆまゐりき来て、みこと受くれば」枕草子、一「中の御門のとじきみひき入るるほど、かしらどもひととことにまろびてあひて」平家、三、つじかぜ「風は中の御門、京極より起つて」(2)寝殿造りの中門(ちゅうもん)。
なかみやのつかさ[中宮職] (名)「ちゅうぐうしき」に同じ。
なかのものまうすつかさ・・・モウス・・・[中納言] (名)「ちゆうなごん」に同じ。
ながばかま[長袴] (名)裾が長く、足を包んで、一尺あまりもうしろへ引く袴。素袍・大紋・長裃などに用いる。古今著聞集、十二「盗人は長袴をや着たるらむ、そばを取りてぞ走り去りぬる」
ながはし[長橋] (名)(1)長い橋。「勢田の長橋」(2)清涼殿から紫宸殿へ通ずる長い廊。源氏、桐壺「結びつる心も深きもとゆひに濃きむらさきの色しあせすば、と奏してながはしより下りて舞踏し給ふ」
なかはず[中弭] (名)弓の中間で、矢と弦とのくいあう所の称。本弭・末弭の対。ただし、諸説があって明確でない。万葉、一の三「ゆふがりに、今たたすらし、みとらしの、梓の弓の奈加弭の、音すなり」(「加」は「利」の誤写かともいう)
ないがしろなり (形動、ナリ)(1)軽んじてあなどっていす。侮蔑している。宇津保、蔵開、中「たびたび文やりなどするは、いとないがしろにはあらぬなめり」(2)しどけなく、うちとけている。みだりがわしい。枕草子、十「ないがしろなるもの、女官どもの髪あげたる姿」同、七「碁をやむごとなき人のうつとて、紐うち解き、ないがしろなるけしきに」
ながはま[長浜] (名)長くつづく浜辺。万葉、八の一六一五「大の浦のその長浜に奇する浪寛(ゆた)けく君を思ふこのごろ」古今集、二十、神あそび歌「君が代はかぎりもあらじ長浜のまさごの数はよみつくすとも」(「よむ」は「かぞえる」)
ながはま[長浜] (地名)琵琶湖の北岸の地。その他、方方に同名の地がある。枕草子、九「はまは・・・長浜・打出の浜」(「打出の浜」とならべたところから見て、これは、琵琶湖の北岸の長浜を指すものと見てよかろう)
なかびと[中人] (名)媒介人。なこうど。古事記、下「すめらみこと、そのみ弟はやぶさわけの王(みこ)をなかびとととして、庶妹(ままいも)女鳥王(めどりのみこ)を乞ひたまひき」源氏、東屋「なかびとに謀られて言ふも、いとをこなり」(「をこ」は「ばかげたこと」)
ながひと[長人] (名)命の長い人。長命の人。古事記、下「たまきはるうちのあそ、なこそは、よのながひと、そらみつやまとのくにに、かりこむときくや 仁徳天皇」=氏の長者、武内宿禰よ、汝こそは世にも稀な長命者で、いろいろのことを聞き知っているであろうが、この日本国で雁が卵を産んだということを聞いたことがあるか。(「たまきはる」は「うち」の枕詞)
なかへ・・・エ[中重] (1)物と物との間にはさんで隔てとする物。また幾枚も重ねた紙の中間の紙など。古今著聞集、五.和歌「徳大寺右大臣、うちまかせては言ひ出でがたかりける女房のもとへ、獅子のかたちをつくりける茶碗の枕を奉るとて、薄様のなかへを破(や)りて、この歌を書きて」(「茶碗の枕」は「陶器の枕」)(2)襲の中間に重ねて着る衣服。
なかみかど[中御門] (名)「なかのみかど(1)」に同じ。方丈記、「治承四年卯月のころ、中御門・京極のほどより、おほきなるつじ風おこりて六条わたりまで吹けること侍りき」
ながみこと[汝が命] (代)対称代名詞。神に対する尊敬の意を含む。古事記、上「汝が命は高天原を知らせと事依さしたまひき」
ながみけのとほみけ・・・トオ・・・[長御食の遠御食] (句)「長」も「遠」も、いずれも「永久」の義。「供御」を祝っていう語。祝詞、大嘗祭「今年十一月、中の卯の日に、天つ御食の長御食の遠御食と、すめみまのみことの大嘗(おほにへ)きこしめさむための故に」
ながむ[長む] (動、下二)長くする。長く引きのばす。蹴鞠大概「あり声をながめて、やさしく乞ふなり」
ながむ[詠む] (動、下二)(1)声を長く引いて、詩歌などを吟ずる。口ずさむ。今昔物語、二十七「こぼれて匂う花桜かなと長めければ」古今著聞集、十七、変化「久安四年の夏のころ、法勝寺の塔の上に、夜ながめける歌、われ往なばたれまたここにかはりゑむあなさだめなの草の枕や、天狗などのながめ侍りけるにや」(2)詩歌をつくる。詠む。平家、二、卒都婆流し「柿本人麻呂は島がくれゆく身を思ひ、山部赤人は芦辺の田鶴をながめ給ふ」
ないき[内記] (名)(1)詔・勅・宣命を草し、また、宮中一切の記録をつかさどる職。うちのしるすつかさ。中務省に属する。「外記」の対。伊勢物語「内記の藤原敏行といふ人」徒然草、百一段「内記の持ちたる宣命を取らずして」(2)禅宗の僧職の一。
ながむ[眺む] (動、下二)(1)遠く見渡す。うっとりと見やる。ながめる。(2)物思いに沈んで、じっと見つめる。悲しみに沈む。更級日記「心も空にながめ暮らさる」同「いみじう心ぼそく、悲しくて、ながめ、あかしわびて、久しうおとづれぬ人に、しげりゆくよもぎが露にそぼちつつ人にとはれぬねをのみぞ泣く」
なかむかし[中昔] (名)上古と近古との間。中古。漠然とした時代区画であるが、だいたい、平安時代をさすようである。
ながめ[長雨] (名)「ながあめ」の約。(1)長い間つづけて降る雨。霖雨。(2)「さみだれ」の別称。
ながめ[眺め] (名)「長目」の義(1)眺めること。眺望。(2)眺望のよいこと。景色のよいこと。「春の眺めは、また格別」(3)物思いに沈んでじっと見つめること。古事記、中「ここに、すめらみこと、それ他嬢(あだしをみな)なることを知ろしめして、つねにながめを経しめ、また婚(め)しもせずて、ものおもはしためたまひき」古今集、二、春下「花の色はうつりにけりないたづらに我が身世にふるながめせしまに 小野小町」=美しかったさくらの花の色もあせてしまったことであるよ、ただその上に降りそそぐ長雨の間に(表面)。自分の美しかった容貌も、すっかり衰えてしまったことであるよ、ただただわが身のこの世に経て、物思いに沈んでいる間に(裏面)。
ながめ[詠め] (名)吟詠。口ずさみ。夫木抄、秋四「月の夜の声も細めに窓あけて心をやれるうたながめかな 信実」
ながめごと[詠め言] (名)舞の時、声を長く引いて唱えることば。古事記、下「次に弟(おと)?はむとする時に、ながめごとしつらく」播磨風土記、美■郡「いとみが新室(にいむろ)の宴(うたげ)に二子等(ふたみこたち)をして燭(ひもと)しめて、さてながめごとを挙げしめ」
ながめのさと[ながめのさと] (名)眺めのよい里。勝景の地。枕草子、三「里は、あふさかの里、ながめの里」(地名ではないであろう。男色大鑑、四「南は障りなく、浮雲も心ありげに、晴天の思ふままなるながめ里」などとある)
ながやかなり[長やかなり] (形動、ナリ)長い。かなり長い。宇治拾遺、一「薄らかなるかたなのながやかなるもたるが」源氏、澪標「うちかへし見給ひつつ、あはれとながやかにひとりごち給ふを」
なかやまただちか[中山忠親](人名)平安時代末期の国文学者・歴史家。本姓は藤原氏。花山院忠宗の三男。検非違使別当・内大臣に至る。建久六年(一一九五)没、年六十四。主著、水鏡・山槐記・貴嶺問答。
なかゆひ・・・ユイ[中結] (名)中程を結ぶこと。(1)包み物などの中程を紐などで結びくくること。また、その紐。(2)衣をかかげて、腰のあたりを帯で結ぶこと。また、その帯。裾の地につかないために行う。宇治拾遺、十四、寛朝僧正勇力の事「僧正、中ゆひうちして、高足駄はきて、ただ一人歩み来て」
なかゆふナカユウ[中結ふ] (動、四)中程を結ぶ。(1)包み物などの中程を紐などで結ぶ。(2)衣をかかげて、腰のあたりを帯で結ぶ。裾の地につかないために行う。宇治拾遺、四、石橋の下の蛇の事「二十あまり三十ばかりの女房、中ゆひて歩み行くが、石橋を踏みかへして過ぎぬるあとに」
ないぎ[内儀] (名)内内の評議。平家、二、西光被レ斬「そも、内議支度はさまざまなりしかども、擬勢ばかりで、この謀叛かなふべしとも見えざりければ」(「支度」は「用意」)
なから[半ら] (名)なかば。中ほど。半分。また、半ばすぎ。大半。過半。大鏡、七、太政大臣道真「高松殿の御夢にこそ、左の方の御ぐしを後ろをなからより剃りおとさせ給ふと御覧じけるを」落窪物語、「恐ろしかりけるけしきに、なからは死にけむ」
ながら[長柄] (地名)(1)上総の国の旧郡名。今、千葉県長生郡に属する。万葉、二十の四三五九の左「右の一首は長柄郡上丁若麻続部羊(わかをみべのひつじ)」(2)「長柄川」の略。摂津名所図会、豊島郡雉子啜「ものいはじ父は長柄の橋柱鳴かずば雉も射られざらまし」
ながら (接尾)(1)体言について「そのまま」の意の名詞を構成する。千載集、一、春上「ささなみや滋賀の都はあれにしを昔ながらの山ざくらかな」「神ながらの道」(2)体言について「そのままに」の意の副詞を構成する。万葉、一の三八「神ながらの神さびせすと」兼盛集、「一年(ひととせ)は春ながらにも暮れななむ花のさかりをあくまでも見む」(3)体言に付いて「ともに」「全部」などの意の副詞を構成する。源氏、竹河「御こども六人ながら引きつれて」古今集、四、秋上「萩のつゆ玉にぬかむと取れば消(け)ぬよし見む人は枝ながら見よ」枕草子、一「をりにつけつつ、ひととせながらをかし」(4)体言や活用語について「であるが」「けれども」などの反意を含む副詞を構成する。源氏、夕顔「わが心ながらかかる筋におほけなく」古今集、春上「日は照りながら雪の頭にかかりけるをよませ給ひける」伊勢物語「身はいやしながら母なむ宮なりける」更級日記「冬になりて月なく雪も降らずながら星の光に空さすがにくまなく」「残念ながら」「はばかりながら」「恥づかしながら」(5)反意の接続詞を構成する。「しかしながら「」さりながら」(口語では、接続助詞とするのが定説である。「歩きながら話す」「知っていながら言わない」)
なからぎ[半木] (神社名)「なからぎのみや」の略。「ながれぎのみや」ともいう。京都市左京区下鴨植物園内流木森にある、賀茂別雷神社の末社。天太王の命をまつる。宇治拾遺、四「或夜、下の御社につやしたる夜、夢に上へ参る間、なからぎのほとりにて行幸に逢ひ奉る」
ながらのはし[長柄の橋] (地名)摂津の国の淀川の下流の一支流である長柄川(のちの中津川)にかけた橋。人柱の伝説で名高い。古今集、序「長柄の橋もつくるなりと聞く人は、歌にのみぞ心をなぐさめける」同、十九、誹諧歌「難波なる長柄の橋もつくるなり今は我が身を何にたとへむ 伊勢」枕草子、三「橋は、あさむつのはし、長柄の橋」
ながらのはま[長柄の浜] (地名)長柄の宮近くの海辺か。今の大阪市の北端の地。新古今、十七、雑中「春の日のながらの浜に船とめていづれか橋と問へど答へぬ 恵慶法師」(「橋」は長柄の橋)をさすのであろう)
ながらのみや[長柄の宮] (地名)第三十六代、孝徳天皇の皇居。正しくは「難波長柄豊碕の宮」という。大化元年(六四五)ここに遷都された。諸説があるが、今の大阪市の北端、豊崎本庄の地であろうという。万葉、六の九二八「長柄の宮に、真木柱、太高敷(ふとたかし)きて、食す国を治め給へば」
ながらのやま[長等の山] (地名)近江の国、大津市の西方、三井寺(園城寺)の背後の山。園城寺の山号を「長等山」というのは、これによる。新古今。十六、雑上「見せばなや滋賀の唐崎ふもとなるながらの山の春のけしきを 大僧正慈円」
なからひナカライ (名)人と人との中。交際。間柄。徒然草、百九十段「よそながら時時かよひ住まむこそ、年月経ても絶えぬなからひともならめ」
ながらふナガラウ[流らふ] 動、下二)(1)続いて流れる。絶えず静かに降る。万葉、一の八二「うらさぶる情(こころ)さまねしひさかたの天(あめ)の時雨の流らふ見れば」(「さまねし」は「数の多い」義)(2)経て行く。伝わる。万葉、十九の四一六〇「あめつちの遠きはじめよ、よの中は常無きものと、語りつぎ、ながらへ来たれ」
ないぐ[内供] (名)「内供奉僧」の略。宮中の内道場に奉仕する僧職、枕草子、十「法師は、律師・内供」今昔物語、二十八「今は昔、池の尾といふところに、禅智内供といふ僧住みき」⇒ないだうぢやう。⇒いけのを。
ながらふナガラウ[長らふ] (動、下二)生きながらえる。ながいきする。万葉、八の一六六二「沫雪(あわゆき)の消(け)ぬべきものを今までにながらへ経るは妹に遇はむとぞ」更級日記「さすがに、命は憂きにも絶えず、ながらふめれど、のちの世も思ふにかなはずぞあらむかしとぞ、うしろめたきに」=さすがに、命は、つらい目にあっても死にもせず、生きながらえるようであるが、死んでから後の世のことも、思うままに極楽往生ができはしないであろうよと、気がかりであるが。
ながらへばナガラエバ[長らへば] (句)生き長らえていれば。新古今、十八、雑下「長らへばまたこのころやしのばれむ憂しと見し世ぞ今は恋ひき 藤原清輔」=このまま生き長らえて年月を経過すれば、その時はまた現在のこのころのことがなつかしく感じられることであろう。なぜかというと、あれほど悲しくつらいと思った昔の世のことが今から思うと恋いしくてならないのだから。
なからましかば (句)なかったであろうならば。「なし」の未然形「なから」に推量の助動詞「まし」の已然形「ましか」が続き、さらに規定の条件を示す接続助詞「ば」のついた句。徒然草、十一段「「かなたの庭に、大きなる柑子の木の、枝もたわわになりたるが、まはりをきびしくかこひたりしこそ、少しことさめて、この木なからましかばと覚えしか」
なかりせば (句)なかったならば。なかったなら。古今集、一、春上「「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし 在原業平」
ながる[流る] (動、下二)(1)流れる。(2)降る。落ちる。後撰集、三、春下「春雨の花の枝より流れこばなほこそぬれめ香もやうつると 藤原敏行」(3)浮いて行く。漂いながら行く。後撰集、八、冬「冬の池の水にながるるあしかもの浮き寝ながらに幾夜へぬらむ」(4)次第に移って行く。古今集、六、冬「きのふといひけふと暮らしてあすか川ながれて早き月日なりけり 春道列樹」(5)次第にひろまる。伝播する。(6)順次に次へ及ぶ。ずんながる。(7)生きながらえる。古今六帖、三「伊勢の海のをのの湊の流れ江のながれても見む人の心を」(上三句は「ながる」の序詞)
なかれ (形、ク、命令形)形容詞「なし」の命令形。禁止の意となる。あるな。するな。「つつが、なかれ」「見るなかれ」(この語を動詞と見るは誤りであろう。もし、この語が動詞なら、「民、安かれ」「心、正しかれ」の「安かれ」「正しかれ」なども動詞でなければならぬ筈であるが、そんなことをいう文法家はなかろう)
ながれてのものがたり[流れての物語] (句)後世の話題。更級日記「ながれてのものがたりともなりぬべきことやなど、はらからなる人は言ひ腹だてど」
ながれてのよ[流れての世] (句)移って行く世。次の時代。後世。琴後集、十一、厚顔抄補正序「ながれての世に、この道に名高き人人、いかでここに心をば用ひざりけむ」
ながれや[流れ矢] (名)ねらいからそれて、飛んで来た矢。「それや」ともいう。
ながゐのさと・・・イ・・・[長居の里] (地名)「八雲御抄」に「大和。摂津にもあるか」とあるほか、所在未詳。夫木抄、三十一、里「鳴きすてて急ぎなすぎそほととぎす長居の里の名をぞ頼まむ 法印覚寛」枕草子、三「「里は・・・ながゐの里」
ないぐぶそう[内供奉僧] (名)前項参照。
なかんづく・・・・・・ズク[就中] (接続)「中に就き「の音便転。その中で、とりわけて。ことに。
なぎ[水葱](名)「こなぎ」ともいう。水中に生ずる一年生草本。その大体の形は「みずあおい」に似ている。食用になる。万葉、十六の三八二九「われにな見せそなぎのあつもの」宇治拾遺、二、清徳聖きどくの事「京へ出づる道に、西の京になぎいと多く生ひたる所あり。この聖、困じて、物いと欲しければ、道すがら折りて食ふほどに、主の男出で来て見れば」
なぎ[那木・椰] (名)いちい科の常緑喬木。葉は竹に似て対生。種子は球形。その葉が前項の「なぎ」に似ているのでいうと。竹柏。なぎのき。ちからしば。保元物語、一、法皇熊野御参詣「切目の王子のなぎの葉、ももたびちたび翳さむとこそ思し召ししに」古今著聞集、十一、蹴鞠「いかで、かくばかりの事に纒頭まゐらせざらむとて、なぎの葉、一枚奉りけり。夢さめて見るに、まさしくなぎの葉、手にあり」
なきいさつ[泣きいさつ] (動、上二)「いさつ」は、足ずりしてなく。ひどく泣く。大いに泣く。古事記、上「はやすさのをのみこと、よさしたまへる国を知らさずして、やつかひげ胸さきに至るまで泣きいさちき」
なきがら (名)死骸。遺骸。しかばね。
なきことを・・・オ[無き事を] (枕詞)身に覚えのないことを「いはる」との意から」「いはれ」に冠する。拾遺集、十二、恋二「なきことを磐余(いはれ)の池の浮蓴(うきぬはな)くるしきものは世にこそありけれ(「浮蓴」は「じゅんさい」)
なぎさ[渚] (名)なみうちぎわ。みぎわ。
なぎさのゐん・・・イン[渚の院] (名)第五十五代文徳天皇の皇子惟喬(これたか)親王が交野(かたの)の地につくられた御殿。今の大阪府北河内郡牧野村大字渚の西雲寺が址であるという。古今集、一、春上「渚の院にて桜を見てよめる 在原業平」土佐日記「かくて舟引きのぼるに、なぎさの院といふ所を見つつ行く」⇒なかりせば。
なきすつ[鳴き捨つ] (動、下二)鳴き声を残して、その場を去る。⇒ながゐのさと。
なきずみ[名寸隅] (地名)播磨の国、兵庫県明石郡魚住の古称。明石市と高砂市との間で、播磨灘を隔てて淡路島を望む景勝の地。万葉、六の九三五「名寸隅の舟瀬ゆ身ゆる淡路島松帆の浦に朝なぎに、玉藻苅りつつ 笠金村」
なきたま[亡き魂] (名)死者の霊魂。源氏。東屋「あはれ、なきたまや宿りて見たまふらむ」
なきつむ[泣きつむ](動、下二)「つむ」は「つづける」「通す」意。泣き通す。大和物語「わたつみと人や見るらむ逢ふことの涙をふさに泣きつめつれば」(「ふさに」は「多く」の意であるが地名の「をぶさ」にかけていう)
ないけうばう・・・キョウボウ[内教坊] (名)昔、禁中で、舞伎を置き、女楽を教えた所。節会・踏歌などの時に奏せしめた。源氏、末摘花「内供坊・内侍所のほどに、かかる者どものあるはやとをかし」
なきな[無き名] (句)あとかたもない評判。根拠のない噂。
なぎなた[薙刀・長刀] (名)「薙ぎのかたな」の約であろう。薙ぎ払うに用いる武器。
なきなのみ[無き名のみ] (枕詞)「無き名のみ」立つの意から、「たつ」に、また、噂の高い意から「たか」に冠する。拾遺集、九、雑下「なきなのみ立田の山の」同、十二、恋二「「なきなのみ辰の市とは騒げども」同、九、雑下「なきなのみ高尾の山といひ立つる」
なきになす (句)無いも同然のものにする。人なみの数に入れないでおく。ないがしろにする。源氏、須磨「惜しげなき身はなきになしても」
なきになる (句)無いも同然なものになる。人なみの数に入らないものとなる。源氏、絵号「この世には身のほどおぼえず過ぎたり。中頃なきになりて沈みたりしうれへにかはりて、今までもながらふるなり」
なぎのかは・・・カワ[名木の川] (地名)山城の国、京都府久世郡の那紀にある川か。万葉、九の一六九六「名木の河にて作れる歌三首、衣手の名木の河辺を春雨にわれ立ちぬると家思ふらむか」
なきめ[泣女・哭女] (名)上古、葬送の列に加わり、哀れを催すために泣きつつ歩いた女。なきおんな。また、「雉」の異称。古事記。上「きざし(雉)をなきめとし」同、同「きざし、名はなきめをつかはしてむとまをす時に」
なぎやうへんかくくわつよう・・・ギヨウ・・・カツ・・・[ナ行変格活用] (名)文法用語。活用語の活用が「な・に・ぬ・ぬる・ぬれ・ね」となるものの称。動詞「死ぬ」「往ぬ」の二語、完了の助動詞「ぬ」の一語が、この活用に属する。
なく (句)否定の助動詞「ぬ」の未然形の古い形「な」に、名詞の資格を与える古い接尾語「く」を添えた句。「ないこと」の義。万葉、十五の三七四九「他国(ひとぐに)に君をいませていつまでかわが恋ひをらむ時の知らなく」
なぐ[和ぐ・凪ぐ] (動、上二)(1)やわらぐ。しずまる。万葉、四の七五三「相見てばしましく恋はなぎむかと思へどいよよ恋ひまさりけり」(「しましく」は「しばし」)(2)波風がおさまる。海上が無風状態になる。万葉、九の一七八一「海つ路(ぢ)のなぎなむ時も渡らなむ斯く立つ浪に船出すべしや」(3)空がよく晴れる。天気晴朗となる。古今集、十五、恋五「雲も泣くなぎたる朝のわれなれやいとはれてのみ世をば経ぬらむ 紀友則」
ないげてん[内外典] (名)内典と外典と。「内典」とは仏教の書をいい、「外典」とは仏教以外の書をいう。神皇正統紀、一「その道にたがはずば、内外典の学問も、ここに極まるべきにこそ」
なくこなす[泣く子なす] (句)「なす」は「のように」の意。泣く子供のように。万葉、三の四六〇「つれもなき佐保の山辺に、なくこなす慕ひ来まして」同、十三の三三〇二「里人の行きのつどひに、泣く児なす行き取りさぐり」(この語を枕詞と見るべきではない)
なぐさのはま[名草の浜] (地名)和歌山県の和歌の浦の南の浜。海草郡紀三井寺町大字毛見の海辺。崇神天皇の朝、、三年間ここに天照大御神をいつきまつった。新古今、十一、恋一「あまの苅るみるめを波にまがへつつ名草の浜を尋ねわびぬる」十六夜日記、「海近き所なれば、貝などひろふ折も名草の浜ならねば、なほなき心地して、などと書きて」
なぐさやま[名草山] (地名)前項参照。紀三井寺町と安原村との間にある山。名高い紀三井寺の背後に当たる。万葉、七の一二一三「名草山ことにしありけりわが恋ふる千重(ちへ)の一重(ひとへ)も慰めなくに」(「ことに」は「異に」の義か)
なくたづの・・・タズ・・・[鳴く田鶴の] (枕詞)鳴く鶴の「ね」の意から「ね」に、また、類音を重ねて「たづね」に冠する。万葉、四の五〇九「わぎもこに恋ひつつをれば、明けぐれの朝霧隠り、鳴くたづのねのみし泣かゆ」古今集、十七、雑上「君を思ひ沖つの浜になくたづの尋ね来ればありとだに聞く」
なくとりの[鳴く鳥の] (枕詞)鳥は常に鳴いているので「間なく時なし」に冠する。ただし、純粋の枕詞ではなく、「鳴く鳥のように」の意である。万葉、十二の三〇八八「恋ひごろろも着奈良(きなら)の山に鳴く鳥の間なく時なし我が恋ふらくは」
なくに (句)「なく」の句に、さらに接続助詞「に」を添えた句。ないものを。万葉、四の五〇六「わがせこは物な思ひそ事しあらば火にも水にもわれなけなくに あべのいらつめ」(私というものが無いわけではないものを)⇒なく。
なぐはしナグワシ[名ぐはし] (形、シク)「くはし」は「美しい」「よろしい」「妙なり」などの意。有名である。景勝の地として名高い。万葉、一の五二「名ぐはし吉野の山は」同、二の二二〇「名ぐはし狭岑(さみね)の島の」同、三の三〇三「名ぐはしき印南(いなみ)の海の沖つ浪千重(ちへ)に隠りぬ大和島根は」
なぐるさの[投ぐる箭の] (枕詞)「さ」は「矢」の古語。投げる矢の遠く飛ぶ意から「遠ざかる」に冠する。万葉、十三の三三三〇「投ぐるさの遠ざかりゐて、思ふそら安からなくに」
なげ[無げ] (名)(1)無いようす。無さそうなようす。古今著聞集、五「思うふ子となげに、寝給へるうたてさよ」(2)心のこもらないようす。なげやりのようす。ないがしろのようす。源氏、夕顔「なげの筆づかひにつけたる言の葉、あやしうらうらたげに」枕草子。十「なげのことばなれど、けにくきはくちをしきことなり」=平気で言い捨てたことばでも、にくらしい言い方は残念なことである。
なげうつ[投げうつ] (動、四)(1)投げてやる。投げつける。神代紀、上「いざなぎのみこと、すなはちその杖をなげうちて曰く」(2)惜しげもなく差し出す。捨ててかえりみない。放擲する。狂言、布施無い「後世の事ならば、身も命も惜しまず、財宝をなげうつて後世を願へといふことでござる」
ないし[内侍] (名)(1)内侍の司(ないしのつかさ)の女官の総称。(2)主として掌侍(ないしのじょう)の称。源氏、桐壺「内侍、宣旨うけたまはり伝つたへて」
なげうつ[投げ棄つ] (動、下二)投げ捨てる。古事記、上「いざなぎのみこと、黒御髪(くろみかづら)を取りてなげうてたまひしかば、すなはちえびかづらのみ生(な)りき」
なげき[嘆き] (名)「長息(ながいき)」の約。(1)ためいき。古事記、上「ほをりのみこと、その初めの事を思ほして、大きなるなげきひとつしたまふ」(2)なげくこと。嘆息。悲嘆。(3)情をうちあけて訴えること。嘆願。哀願。愁訴。
なげく[嘆く] (動、四)前項の語を活用せしめた動詞。(1)ためいきをつく。古事記、上「三年(みとせ)住みたまへども、つねはなげかすことも無かりしに、こよひ大きなるなげき一つしたまへるは」(2)悲しむ。悲嘆する。(3)嘆願する。哀願する。愁訴する。古今集、十七、雑上「世の中にさらぬ別れのなくもがな千代もとなげく人の子のため 在原業平」
なげけとて[嘆けとて] (句)憂え悲しめと言って。千載集、十五、恋五「なげけとて月やはものを思はするかこちがほなる我が涙かな 西行法師」=月を見て憂え悲しめと言って、月が人にものを思わせるのだろうか。いや、そうではない。それは自分の心に物思いがあるので、月を見ると物悲しくなるのだが、それを月にかこつけて、月を見るとこぼれる我が涙なのだわい。
なげし[長押] (名)「ながおし」の約。鴨居の上、または敷居の下に、横に長くわたす材。後世は、上のを「なげし」といい、下のを「下なげし」という。大鏡、七、太政大臣道長「立たせ給へとて長押下り上らせ給ふ御手をとらへつつ、たすけ申させ給ふ」(これは、下のなげし)
なご[名児] (地名)今の大阪市道頓堀の南、今宮・木津・難波などの辺の総称であろう。万葉、七の一一五三「すみのえの名児の浜辺のに馬立てて玉拾ひしく常忘らえず」(ここの「玉」は「貝」「真珠」などをいう)
なごし[夏越し] (名)「神を、なごす」義か。上古、陰暦六月・十二月の晦日に、朝廷または民間で行われた大祓いの称。人に「ちのわ」をくぐらせて祓いを行う。後世、十二月のはは廃せられた。従って、「なごし」と「六月祓」は同義語となる。拾遺集、後、賀「みなつきのなごしのはらへする人はちとせの命のぶといふなり」⇒ちのわ。
なごす[和す] (動、四)なごやかにする。おだやかにする。やすらかにする。なごむ。なごめる。
なこそのせき[勿来の関](地名)茨城県多田賀郡関本村と福島県勿来市との間の山路に置いた関所。古くは「きくたのせき」といった。「白河の関」と共に蝦夷に備えたもので、蝦夷はこの関を越して南へ「来るな」の意から命名したものであろう。枕草子、六「「関は・・・勿来の関」千載集、二、春下「吹く風をなこそのせきと思へども道もせに散る山桜かな 源義家」⇒もせに。
なこそのせき[勿来の関] (地名)茨城県多田賀郡関本村と福島県勿来市との間の山路に置いた関所。古くは「きくたのせき」といった。「白河の関」と共に蝦夷に備えたもので、蝦夷はこの関を越して南へ「来るな」の意から命名したものであろう。枕草子、六「「関は・・・勿来の関」千載集、二、春下「吹く風をなこそのせきと思へども道もせに散る山桜かな 源義家」⇒もせに。
なごのうみ[奈呉の海] (地名)歌枕の一。「なごのえ」「なごのうら」ともいう。越中の国、富山県射水郡新湊辺の海浜をいう。万葉、十八の四〇三四「奈呉の海にしほのはや干(ひ)ばあさりしに出でむと田鶴は今ぞ鳴くなる」
ないしどころ[内侍所] (名)(1)「かしこどころ」に同じ。(2)転じて、「八咫の鏡」の称。ないしのかみ
なごのうら[那古の浦] (地名)前項に同じ。奥の細道「くろべ四十八か瀬とかや、数知らぬ川を渡りて、那古といふ浦に出づ」
なごのわたり (名)「蜃気楼」の異称。伊勢の四日市辺の方言という。
なこひきこし・・・コイ・・・[な恋ひきこし] (句)そんなに恋いしがりなさいますな。「恋ひきこし」は「恋ふ」の敬語。古事記、上「あやに、なこひきこし、やちほこのかみのみこと」
なごむ[和ごむ] (動、四)なごやかになる。おだやかになる。なぐ。後拾遺、十七、雑三「すべらぎもあらひと神もなごむまで鳴きけるもりのほととぎすかな 素意法師」
なごむ[和ごむ] (動、下二)前項の他動。なごやかにする、やわらげる。なだめる。雨月物語、四、蛇性の婬「なごめつ、おどしつ、かはるがはる物うちいへど、ただ死に入りたるやうにて、夜明けぬ」
なごり (名)「波残り」の略という。海上に、風が吹きやんで、まだ、波のしずまらないこと。また、渚に打ち寄せた波が引いたのち、なお、あたりに残っている波の水。余波。万葉、四の五三三「難波潟潮干のなごり飽くまでに人の見む児を我しともしも」⇒ともし。
なごり[名残り] (名)前項の転。(1)ある事物の過ぎ去ったのち、なお、その雰囲気やおもかげの残ること。余韻。余情。徒然草、二十段「この世のほだしもたらぬ身に、ただ空のなごりのみぞ惜しき」(「四季の折折に移り行く空のけしき」の余韻)(2)残ること。のこり。残余。竹取「なごりなく燃とゆ知りせばかはごろもおもひの外におきて見ましを」(「思ひ」と「火」とをかけている)徒然草、二十五段「かばかりのなごりだになき所所は、おのづから礎(いしずゑ)ばかり残るはあれど」(3)子孫。後裔。あととり。栄花、様様の悦「尚侍、六の君などきこえし御なごりも見えきこえ給はぬに」(4)別れ。訣別。徒然草、五十三段「これも仁和寺の法師、わらはの法師にならむとするなごりとて、おのおの遊ぶことありけるに」「なごりを惜しむ」(5)最後。おわり。新古今、十六、雑上「馴れ馴れて見しはなごりの春ぞともしらかはの花の下かげ 藤原雅経」(「しらかは」に「知らず」をかけている)
なごろ (名)「波残り」の転。(1)「なごり(波残り)」に同じ。(2)風のために海の波が荒く立ち、また、潮のうねること。堀川院百首、雑、海路「手もたゆく浦づたひして漕ぐ舟は沖のなごろを怖づるなるべし」
なごん[納言] (名)(1)大・中・小納言の総称。(2)特に「中納言」の称。
なかさのうみ[浪逆の海] (地名)「なかさうら」ともいう。茨城県の南端、北浦と北利根との中間、潮来(いたこ)町の東方にあった湖水。今は干拓によって田地となる。万葉、十四の三三九七「常陸なるなかさのうみの玉藻こそ引けば絶えすれあどか絶えせむ」(「あど」は「どうして」の東国方言)
(名)食物。古事記、中「こなみが、なこさば・・・うはなりがなこさば」⇒こなみ。⇒うはなり。
ないしのかみ[尚侍] (名)内侍の司(ないしのつかさ)の長官。しやうじ。
なさけおくる[情おくる] (動、下二)情愛の念が薄い。薄情である。増鏡、九、北野の雪「この、おとど入道殿よりは少しなさけおくれ」
なさけなさけし[情情し] (形、シク)情愛の念が深いようである。なさけぶかいようである。源氏、帚木「あはれ知らるるばかり、なさけなさけしくのたまひつくすべかめれど」大鏡、六、右大臣道兼「かやうに人のためなさけなさけしき所おはしましけるに、など御末かれさせ給ひにけむ」
なさけなし[情なし] (形、ク)(1)同情心がない。慈悲心がない。(2)無愛想である。つれない。すげない。源氏、帚木「ことさらになさけなく、つれなきさまを見せて」(3)興がさめる。あさましい。あきれかえる。(4)情趣に乏しい。没趣味である。新六帖、六「なさけなき人に見せばやをりふしを過ぐさず咲ける常夏の花」(「とこなつの花」は「なでしこの花」)
なし[無し] (形、ク)(1)無い。存在しない。(2)生存しない。死んでしまった。徒然草、十九段「なき人の来る夜とて、魂祭るわざは」(3)家にいない。不在である。るすである。古今集、十七、雑上「老いらくの来むと知りせば門さしてなしと答へて逢はざらましを」(4)うつし心もない。正体もない。源氏、柏木「なかなか道さまたげにもこそとて、なきやうにおぼしほれたり」(「ほる」は「ぼける」)(5)またとない。無類である。十訓抄、下「麗景殿の女御の女房なり。なきすき者にて、朝夕琴をさしおくことなかりけり」
なじか (副)「何しか」の略転という。どうしてか。なぜか。何故に。三部抄「つたなからむ人のもどきをば、なじか少しもいたしとせむ」(「もどき」は「批評」「批判」「非難」)
なじかはナジカワ (副)前項に同じ。平家、灌頂、大原御幸「捨身の行に、なじかは御身を惜しませ給ひさらむらふべき」
なしつぼ[梨壺] (名)大内裏五舎の一。別名昭陽舎。庭に梨の木を植えてあるのでいう。附図参照。
なしつぼのごにん[梨壺の五人] (句)天暦五年(九五一)、禁中の梨壺で、「後撰集」を撰した五人の歌人、坂上望城・紀時文・大中臣能宣・清原元輔・源順の五人をいう。増鏡、一、おどろがした「梨壺の五人におほせられて、後撰集は集められけるとぞ」
なしはら[なし原] (地名)「内侍原」の略。昔、春日祭の時、勅使の着御した地で、今の奈良市の地内。枕草子、一「原は・・・なし原」
なしはら[梨原] (地名)近江の国、滋賀県栗本郡梨田にあった昔の宿駅。古今六帖「君ばかり覚ゆるものはなし原のうまや出でこむたぐひなきかな」枕草子、十「うまやは、梨原」
ないしのじよう[掌侍] (名)内侍の司(ないしのつかさ)の判官。一般に「内侍」と呼ばれる。
なしばら[なし腹] (名)産みの母。実母。狭衣、四、中「なしばらとのみ思ひきこえさせ給へるかひなく」
なしほのところナシオ・・・[魚塩の地] (句)天皇の御食物を作るために設けた地。まなしほのところ。仲哀紀。八年、正月「周芳の沙磨(さま)の浦にまゐ迎へて、なしほのところをたてまつる」(「周芳」は「周防」)
なしま[奈島] (地名)山城の国、京都府綴喜郡梨間村。宇治拾遺、四、永超僧都魚食ふ事「在京の間久しくなりて、魚を食はでくづれをれて下る間、なしまの丈六堂の辺にて、昼破子食ふに、弟子一人近辺の在家にて、魚を乞ひてすすめたりけり」
なしもとしふ・・・・・・シユウ[梨本集] (書名)歌論。五巻。江戸時代初期の歌人、戸田茂睡の著。元禄十一年(一六九八)成る。二条家歌学を痛烈に批判し、歌道革新を説いたもので、近世歌学の先鞭をつけた画期的な書。
なじる[詰る] (動、四)問いつめる。責めただす。詰問する。
なす[鳴す] (動、四)鳴らす。古事記、上「塩こをろこをろにかきなして」同、同「をとめのなすや板戸を」
なす[生す] (動、四)産む。竹取「おのがなさぬ子なれば、心にも従はずなむある」諺「七人の子をなすとも女に心ゆるすな」
なす[成す] (動、四)(1)造る。こしらえる。枕草子、一「ひむがしのかどは四つ足になして、それより御輿は入らせ給ふ」(2)仕上げる。なしとげる。はたす。神代紀、上「われらの造れる国、あによく成せりといはむや」(3)お成りを仰ぐ。保元物語、三、新院御経沈めの事「さらば清盛が許へ入れまゐらせよと仰せければ、西八条へ成し奉るに」
なす[為す] (動、四)(1)行う。する。(2)用いる。(3)変じさせる。こしらえる。つくる。古今集、十七、雑上「形こそみ山がくれの朽ち木なれ心は花になさばなりなむ」
なす[寝す] (動、四)(1)「寝る」の敬語。おやすみになる。万葉、十七の三九七八「我(あ)を待つとなすらむ妹を、逢ひて早見む」(2)寝かせる。万葉、五の八〇二「いづくより来たりしものぞ、まなかひにもとなかかりて安寝(やすい)しなさぬ」
ないしのすけ[典侍] (名)内侍の司(ないしのつかさ)の次官。てんじ。「ないし」と呼ばれることもある。「さぬきのないし」源氏、桐壺「ないしのすけの奏し給ひしを、もの思う給へ知らぬここちにも、げにこそいとしのびがたう侍りけれ」
なす[済す] (動、四)(1)義務を果たす。(2)返済する。
なす[如す] (接尾)名詞に付いて「のように」の意を含む副詞を構成する。のす。古事記、上「くらげなすただよへる時に」同、同「さばへなす皆わき」万葉、六の九八八「春草はのちは散りやすし巌(いはほ)なす常磐にいませたふときわが君」
なすの[那須野] (地名)下野の国、栃木県那須郡のほとんど全部を占める広野。金槐集「もののふの矢なみつくろふ小手の上に霰たばしる那須の篠原」奥の細道「那須野黒羽根といふ処に知人あれば」
なすのよいち[那須与一] (人名)鎌倉殿、源頼朝の御家人。名は宗高。下野の国、那須の人。平家追討の際、義経に従い、屋島で扇の的を射て名が高まる。戦後、薙髪し、伏見の即成院で寂す。「平家物語、十一、那須与一」にくわしい。奥の細道「それより八幡宮に詣づ。与一、扇の的を射し時、別しては我が国氏神正八幡宮と誓ひしも、この神社にて待ると聞けば、感応殊にしきりに覚えらる」
なずらひナズライ (名)比較。また、比較すべきもの。準ずべきもの。比類。源氏、桐壺「なぐさむやと、さるべき人人を参らせ給へど、なずらひにおぼさるるだに、いとかたき世なるかな」琴後集、十一、序、厚顔抄補正序「今世になずらひなきものしり人なるが」
なずらふナズラウ (動、四)比較する。類する。準ずる。なぞらふ。源氏、桐壺「女みこたち二所、この御腹におはしませど、なずらひ給ふべきだにぞなかりける」
なずらふナズラウ (動、下二)比較せしめる。準ぜしめる。なぞらふ。伊勢物語「秋の夜の千夜を一夜になずらへて八千夜し寝ばや飽く時のあらむ」
なずらへナズラエ (名)「なずらひ」に同じ。狭衣、一、上「しばしは、さりともなずらへなる人ありなむとたのもしくおぼされしを」
なずらへうたナズラエ・・・[なずらへ歌] (名)それとなく、ものにたとえた歌。隠喩体の歌。古今集、序「三つには、なずらへ歌。君にけさあしたの霜のおきていなば恋ひしきごとに消えやわたらむ、といへるなるべし」
なせ[汝兄・汝夫] (名)女から男または夫を親しんで呼ぶ語。「なにも」の対。古事記、上「うつくしき我がなせのみこと、入り来ませることかしこければ、かへりなむを」万葉、十六の三八八五「愛子(いとこ)なせの君、居り居りて、物にい行くとは」(これらの例は、すべて自分の夫をさしている)
ないしのつかさ[内侍司] (名)禁中の女官。後宮の雑事・奏請・伝宣のことなどをつかさどる。尚侍(ないしのかみ)・典侍(ないしのすけ)・掌侍(ないしのじょう)の三階級があり、女孺(にょうじゅ)・命婦(みやうぶ)・采女(うねめ)が。これに属する
な・・・そ (助詞)第四類、終助詞。その間に、動詞または動詞に助動詞の付いた語を挿んで禁止の意をあらわす。そして、「そ」の活用語への付き方は、一般の場合では連用形に、カ変・サ変の場合では未然形に付く。「あをな見給ひそ」「な笑はれそ」「な来(こ)そ」「な為(せ)そ」
なぞ (句)「何ぞ」の略。何であるか。何故であるか。源氏、東屋「なぞのことぞ、暗き程に急ぎ出づるはち目とどめさせ給ふ」拾遺集、十四、恋四「玉川にさらす手づくりさらさらに昔の人の恋ひしきやなぞ」(上二句は助詞)
なぞふナゾウ (動、下二)比較する。擬する。準ずる。なぞらふ。万葉、十一の二四六三「ひさかたの天照らす月の隠りなば何になぞへて妹を偲ばむ」
なそり[納蘇利] (名)⇒らくそん。
なぞへナゾエ (名)くらべるもの。準ずべきもの。比類。伊勢物語「おふなおふな思ひはすべしなぞへなく高きいやしき苦しかりけり」⇒おふなおふな。
なぞらふナゾラウ (動、四)「なずらふ」(四段)に同じ。
なぞらふナゾラウ (動、下二)前項に同じ。
なぞらふナゾラウ (動、下二)「なずらふ」(下二)に同じ。
なだ[灘] (名)波が荒く航海の困難な海。万葉、十七の三八九三「昨日こそ船出はせしかいさなとりひぢきの灘を今日見つるかも」⇒ひぢき。
なだいめん[名対面] (名)(1)禁中で夜の亥の刻に、宿直の侍臣・滝口などが、その姓名を問われて名のること。枕草子、三「殿上のなだいんめんこそ、なほをかしけれ」(2)姓名を名のりあうこと。源平盛衰記、十四、三日平氏「互に名対面して、散散に射る」
ないじゅ[内豎] (名)宮中に仕える少年。給仕のようなもので、良家の子弟から選ばれた。ちさひわらは。ちさわらは。
なだかのうら[名高の浦] (地名)紀伊の国、和歌の浦の南方、和歌山県海草郡海南市名高町の海浜。万葉、七の一三九二「むらさきの名高の浦のまなごぢに袖のみ触りて寝ずかなりなむ」(「まなごぢ」は「真砂道」で「砂の中の道」)枕草子、九「浦は・・・なだかの浦」
なたぐひ・・・・・・タグイ[名類] (名)その名のたぐい。同じような名前。土佐日記「昔、しばしばありし所の名たぐひにぞあなる」
なだたし[名立たし] (形、シク)名が立ちそうである。評判になりそうだ。外聞が悪い。落窪物語「あな、名だたし。人の見聞かむも、いといみじ」
なだたり[名立たり] (動、ラ変)その名が知れわたっている。有名である。評判が高い。宇津保、蔵開、下「世の中になだたり給ひつるあだ人」源氏、野分「名だたる春の御前の花園」琴後集、三、秋歌「舟とめて今宵はここにあかしがた名だたる海の月をこそ見め」(「明かし」と「明石潟」とをかける)
なだて[名立て] (名)不名誉。名折れ。新古今、一、春上「梅が枝にものうきほどに散る雪を花ともいはじ春の名だてに 源重之」
なだむ[宥だむ] (動、下二)(1)やわらげしずめる。なごめる。拾玉集、一「身の憂さを思ひなだむるかひもなくさわぎ出でぬる我が涙かな」(2)機嫌をとる。すかす。調停する。とりなす。十訓抄、上「その咎あまたたびに及ばば、なだむるに力及ぶべからず」
なだらかなり(形動、ナリ) (1)角だったところがない。平らかである。なめらかである。ゆるやかである。宇津保、祭使「なだらかなる石、かどある石」(2)平穏である。無事である。源氏、玉葛「響きの灘もなだらかに過ぎぬ」(3)ゆったりしている。のんきにしている。増鏡、十三、今日のひかげ「世を傾け給はむ御本意なり。さてなだらかにもおはしまさば、まさる事や出でまうで来む」(4)程よい。適当である。源氏、末摘花「いと深からずとも、なだらかなる程にあへしらはむ人もがなと見給ふ」
なだらむ(動、下二) なだらかにする、平穏にする。なだめる。源氏、常夏「よろづのことに、通はしなだらめて、ことごとしき故もつけじ」
なだる (動、下二)(1)斜に傾く。傾斜する。太平記、二十、八幡炎上事「西へなだれたる尾崎は、平地につづきたれば」(2)崩れる。崩れ落ちる。
なち[那智] (地名)(1)和歌山県東牟婁郡にあり、熊野街道に当たり海に臨む地。(2)「那智山」の略。太平記、五、大塔宮熊野落事「これは、三重の滝に七日うたれ、那智に千日こもつて、三十三所の巡礼のために罷り出でたる山伏共」
ないしんわう・・・ノウ[内親王] (名)天皇の姉妹および皇女。ただし、明治の「皇室典範」では、もっと範囲をひろげた。
なちさん[那智山] (地名)前項(1)の地にある山。熊野三山の一。山中に熊野那智神社がある。
なちのたき[那智の滝] (地名)那智山中にある多くの滝。特に、最も有名なのは「一の滝」で、これを通常「那智の滝」と呼ぶ。枕草子、三「たきは・・・なちのたきは熊野にあるがあはれなり」
なつかげ[夏かげ] (名)夏の、茂った木かげ。万葉、七の一二七八「夏かげの房(ねや)のもとに衣(きぬ)裁つわぎも」
なつかりの[夏刈りの] (枕詞)夏に多く刈るものの意から「芦」「笹」に冠する。続拾遺、三、夏「なつかりの芦屋の里の五月雨の頃」新続古今、三、夏「なつかりの猪名の笹原折り敷きて」
なづき・・・ズキ[名付] (名)自分の姓名をしるしつけた札。貴人に仕え、または対者に服従する証として、対者に送るもの。名簿(みやうぶ)。宇津保、藤原の君「宮仕へのはじめに侍るに、なづきをも奉らしめむと思はしむるをや」
なづきだ・・・ズキ・・・[なづき田] (名)御陵の周囲に靡き付いたようなさまにつづく田か。古事記、中「御陵を作りてそこのなづきだにはらばひもとほりて」
なづきのた・・・ズキ・・・[なづきの田] (名)前項に同じ。古事記、中「なづきのたのいながらに、いながらに、はひもとほろふ、ところづら」=御陵の周囲の田の稲の茎に、山の芋の葉が這って巻きついているように、私どもは悲しみのあまり、御陵にとりついて離れ去ることができない
なつくさの[夏草の] (枕詞)夏草は日に当たって萎えるので「しなえ」に、萎え臥すので、「寝」に、夏草の生えることから「野」に、茂って深いので「しげき」「深く」に、また、刈ることから「かりそめ」に冠する。万葉、二の一三一「夏草の思ひしなえて」古事記、下「夏草の相寝の浜の」万葉、三の二五〇「夏草の野島の崎に」新勅撰、十二「夏草のしげき思ひは」古今集、十四、恋四「夏草の深くも人のおもほゆるかな」新古今、五、秋下「夏草のかりそめにとて来しかども」
なつくずの[夏葛の] (枕詞)夏の葛の蔓は、どこまでも延びて行って絶えないということから「絶えぬ」に冠する。万葉、四の六四九「夏葛の絶えぬ使ひのよどめれば事しもある如(ごと)思ひつるかも」(「よどむ」は「中絶する」)
なつげ[夏毛] (名)鳥獣類の夏季に生ずる毛。越後兎が冬は白色であるが夏は褐色となる類。「冬毛」の対。特に夏季になって黄色となり、白い斑点のあざやかに出る頃の鹿の毛の称。その毛皮は行膝(むかばき)などに用いる。夫木抄、夏、三「里見ゆる夏毛の鹿のかくろへて富士の裾野に茂る高草」
ないせき[内戚] (名)父方の親戚。母方の親戚「外戚」の対。庭訓往来、六月「内戚・外戚一族」
なつごろも[夏衣] (枕詞)夏の衣は薄いので「薄し」に、一重であるから「ひとへ」に、衣を裁つということから「立つ」に、また、衣の縁から「みもすそ川」「うたたね山」「をりはへ」などに冠する。古今集、十四、恋四「夏衣うすくや人のならむと思へば」金葉集、二、夏「夏衣ひとへに春を惜しむ身なれば」後拾遺、三、夏「夏衣立田河原の柳かげ」以下、例略。
なづさはるナズサワル (動、四)「なずさふ」の延音。なじむ。なつく。なれる。古今六帖、五「よもすがらなづさはりぬる妹が袖なごり恋ひしくおもほゆるかな」
なづさふナズサウ (動、四)(1)なじむ。なつく。馴れ添う。なづさはる。源氏、桐壺「常にまゐらまほしく、なづさひ見たてまつらばやとおぼえ給ふ」(2)水にただよう。水の上に浮かぶ。水の中に沈む。水を渡る。古事記、下「みへのこが、ささがせる、みづたまうきに、うきしあぶら、おちなづさひ、みなこをろこをろに、こしもあやにかしこし」=三重の采女なる私が捧げまつる美しい御盃の中に落ちて来ました木の葉は、あたかも水に浮いたあぶらのようにどろどろして固まらなかった国の始めを思い起させます。これは、まあ、何というめでたいことでございましょうか。
なつしよ[納所] (名)(1)年貢などを納めておく所。(2)禅寺で施物を納めておく所。また、それをつかさどる僧の称。
なつそひく[夏麻引く] (枕詞)夏麻を引く畝(うね)の意から、「うね」の転音「うな」に冠する。また、「命」にも冠するが、その意義は未詳。万葉、七の一一七六「夏麻引くうながみ潟の沖つ洲に」同、十四の三三八一「夏麻引く宇奈びを指して飛ぶ鳥の」(「うなび」は未詳。武蔵の国の地名かという。⇒うながみがた。
なつそり[納蘇利] (名)「なそり」ともいう。雅楽曲。高麗楽。狛壱越調曲。小曲。二人で舞うのが普通。大鏡、八「故女院の御賀に、この関白殿、陵王、春宮大夫殿、納蘇利舞はせ給へりし、めでたさはいかにぞ」
なずなナズナ[■] (名)あぶらな科の越年生草本。春の七種(ななくさ)の一。葉は食用となる。別名、さみせんぐさ。ぺんぺんぐさ。枕草子、三「草は・・・なづな」古今六帖、四「今はとて人のかれはて浅茅生にさればなづなの花ぞ咲きける」
なつの[夏野] (名)夏の野原。万葉、四の五〇二「夏野行く牡鹿の角の束の間も妹が心を忘れて思へや 柿本人麻呂」
なづのきナズ・・・[なづの木] (名)岩礁面を撫でる木の意からの命名であろう。海水に洗われる礁上に生えている木で、暖流に運ばれてきた南方の植物と思われる。古事記、下「ゆらのとの、となかの、いくりいに、ふれたつ、なづのきの、さやさや」=由良の港の中の岩礁に枝葉が触れ合って密生しているなづの木のように、さやさやと音がする。
なつびきの[夏引の] (枕詞)春蚕の繭を初夏の頃引き取ることから「いと」「いとほし」「いとことわり」「いとま」「いとかの山」などに冠する。新古今、序「夏引きの糸の一筋ならず」金葉集、七、恋上「夏引きのいとほしとだにいふと聞かばや」蜻蛉日記「夏引きのいとことわりや」同「夏引きのいとまやはなき」夫木抄、八「夏引きのいとかの山のほととぎす」
ないぜんし[内膳師] (名)略して内膳ともいう。昔、宮中の御膳のことをつかさどる職。宮内省の被官。うちのかしはでのつかさ。
なつみのかは・・・カワ[なつみの川] (地名)奈良県吉野郡の中荘村大字菜摘の附近を流れる。「吉野川」の称。万葉、三の三七五「吉野なるなつみの河の川淀に鴨ぞ鳴くなる山かげにして」
なづむナズム[泥む] (動、四)(1)とどこおる。行きなやむ。古事記、中「その海塩(うしほ)に入りて、なづみ行きましし時の御歌」土佐日記「来と来ては川の堀江の水を浅み舟も我が身もなづむけふかな」(2)なやみわずらう。源氏、横笛「まことにこの君なづみて泣きむつかり明かし給ひつ」(3)かかわる。拘泥する。未練である。徒然草、百十五段「死を軽くして少しもなづまる方のいさぎよく覚えて」
なつむし[夏虫] (名詞)夏の季節の虫。ほたる・せみ・蚊・蛾などの類。枕草子、三「虫は・・・夏虫いとをかしく、らうたげなり。火近うとりよせて、物語など見るに、草子のうへなどに飛びありく、いとをかし」(ここは「青蛾」)同、十一「指貫は・・・夏虫の色したるも涼しげなり」(ここは「蝉」)
なつむしの [夏虫の](枕詞)夏の夜、燭の火に飛び入る虫ということから「ひむし」(蛾)に冠する。仁徳紀、二十二年正月「なつむしの、ひむしのころも、ふたへきて、かくみやだりは、あによくもあらず」=寝床に敷くためのむしごろもを二枚もお重ねになって、このような御やどりは、決してよろしくございません。⇒むしごろも。
なつめせいび[夏目成美] (人名)江戸時代の俳人。名は、包嘉。通称は井筒屋八郎右衛門。江戸、浅草蔵前の人。一茶の友人。その俳風は雅醇で、当時、江戸俳壇の中心勢力であった。文化十三年、(一八一六)没、年六十七。主著、成美家集。
なで (句)完了の助動詞「ぬ」の未然形「な」に接続助詞「で」の付いた句。果てないで。終らないで。竹取「潮に濡れたる衣をだに脱ぎかへなでなむ、こちまうで来つる」
なでふナジヨウ (句)「何という」の約転。(1)何という。いかなる。竹取「こは、なでうことをのたまふぞ」枕草子、一「また、なでふことを言ひて、笑はれむとならむと仰せらるるも、いとをかし」(2)何として。どうして。いかで。多くは、下の語と共に反語をつくる。、宇津保、吹上、上「なでふさる物をばもておはする」
なでしこあはせ・・・アワセ (名)物合せの一。なでしこを合わせて、優劣を定め、次いで歌合せをするもの。古今著聞集、五、和歌「東三条の院、皇太后の宮と申しける時、七月七日は、撫子合せせさせ給ひけり」
なでん[南殿] (名)「なんでん」の略。「紫宸殿」の別称。源氏、桐壺「ひととせの春宮の御元服、なでんにありし儀式、よそほしかりし御ひびきにおとさせ給はず」
など (副)何故に。どうして。なぜ。古事記、上「いつのをたけび踏みたけび、待ち問ひたまはく、などのぼり来ませる」
ないぜんのかみ[内膳正] (名)前項の職の長官。うちのかしはでのかみ。
などか (副)何故にか。どうしてか。なぜか。竹取「などか翁の手におほし立てたらむものを、心にまかせざらむ」
などかも (副)前項に同じ。
などかはナドカワ (副)「などか」を、やや詠嘆的にいう語。
などころ [名所](名)(1)名と所。住所氏名。(2)器物の各部分の名目。「甲冑の名所」「刀の名所」(3)名所(めいしょ)。名高い所。謡曲、田村「花の名どころ多しといへども」
などて (副)何故に。どうして。何故。古事記、上「などてあめのうずめは楽(あそび)し、また、やほよろづの神もろもろわらふぞ」
なとてへば・・・・・・テエバ (句)何といへば。なぜかといえば。風俗歌、伊勢人「伊勢人は、あやしきものを。なとてへば、小舟に乗りて、波の上を漕ぐ、波のへを漕ぐ」
なとり[名取] (名)(1)評判の高いこと。また、その人。東海道名所記「二十九人の太夫あり。中にも名取衆は、高尾・唐崎・千歳とかや」(2)遊芸などで技がすぐれ、師匠から芸名を許されること。また、その人。「清元の名取」「常磐津の名取」
などり[和鳥] (名)おだやかな、なごやかな鳥。古事記、上「あがこころ、うらすのとりぞ。いまこそは、ちどりにあらめ。のちは、などりにあらむを」=わたくしの心は、浜辺に住む鳥と同じことでございます。今こそは千鳥のように胸がたち騒いでおちつきませんが、やがて、おだやかな平和な鳥のようにおちつきましょうから。
なとりがは・・・ガワ [名取川](地名)陸前の国、宮城県の南部にある川。名取平野を流れ、多くの支流を入れ、仙台湾に注ぐ。枕草子、三「川は・・・名取川も、いかなる名を取りたるにかと聞かまほし」奥の細道「往昔、むつのかみにて下りし人、この木を伐りて、名取川の橋杭にせられたることなどあればにや、松はこのたび跡もなしとは詠みたり」
などりがは・・・ガワ [名取川](枕詞)語を隔てて同音を重ね「なき名取りては」、また、川の縁から「うき名」「逢ふ瀬」などに冠する。古今集、十三、恋三「みちのくにありといふなる名取川なき名とりては苦しかりけり 壬生の忠岑」新千載集、十五「なとりがはうき名ばかりぞあらはれにける」続千載集、十二「なとりがは逢ふ瀬はよそに聞きわたるらむ」
ないぜんのつかさ[内膳司] (名)「ないぜんし」に同じ。
なとりのみゆ[名取の御湯] (地名)陸前の国、宮城県名取郡秋保温泉の古称であろう。大和物語「大空の雲の通ひ路見てしがなとりのみけばあとはかもなし」(「鳥のみ行けば」に「名取の御湯」を隠している)
ななくさ[七種・七草] (名)(1)七つの種類。(2)春の七種の菜。(3)秋の七草の花。(4)正月七日の称。ななくさ正月。(5)「ななくさのかゆ」の略。
ななくさのかゆ[七種の粥] (句)正月七日に、せり・なずな・ごぎょう・はこべ・ほとけのざ・すずな・すずしろの七種の菜を入れて炊いだかゆ。また、正月十五日に、米・大豆・粟・赤小豆などの七種のものを入れて炊いだかゆ。ななくさ。
ななくさのたから[七種の宝] (句)仏教でいう七種の珍重すべき宝。経文により、多生異なるが、たとえば法華経では、金・銀・瑠璃・??・瑪瑙・真珠・?瑰をいう。万葉、五の九〇四「世の人の、貴み願ふ、ななくさのたからも、我は何せむに」
ななくさのはな[七種の花] (句)秋の野に咲く七種の花。はぎ・おばな・くずばな・なでしこ・おみなえし・ふじばかま・あさがお。ただし、あさがおについては古来諸説があり、後世は、その代わりに「ききょう」を入れる。万葉、八の一五三七「秋の野に咲きたる花を指(をよび)折りかき数ふればななくさの花」同、同、一五三八「萩が花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴あさがほの花」(この二首、山上憶良の歌)⇒あきのななくさ。
ななくりのゆ[ななくりの湯] (地名)(1)伊勢の国、三重県一志郡七栗村にある温泉。夫木抄「一志なるななくりの湯も君がため恋ひしさやまずと聞くはものうし」(2)信濃の国、長野県上高井郡山田村にある、いわゆる山田温泉。「八雲御抄」に「七久里の湯。信濃、しなののみゆ」とあるのがこれであろう。堀川院百首「いかなれば七くりの湯の湧くがごと出づる泉の涼しかるらむ 俊基」(枕草子、六「湯は、ななくりのゆ」は伊勢か信濃か、この記事だけでは、未詳。古注は多く信濃とし、金子元臣などは伊勢と考えている)
ななせ[七瀬] (名)(1)七つの瀬。また、多くの瀬。(2)「七瀬の祓い」をする七か所の瀬。源氏、澪標「難波の御はらへなど、ことに七瀬によそほしうつかうまつる堀江のわたり」
ななせのはらへ・・・・・・ハラエ[七瀬の祓] (名)昔、朝廷で七か所の河海に臨んで行った祓いをいう。その七瀬は、難波・農太・河俣・大島・佐久那・谷・辛崎。また、河合・耳敏川・松崎・石影・東滝・西滝・大井川。また、川谷・一条・土御門・近衛・中衛門・大炊御門・二条の末。ななせのみそぎ。
ななせのみそぎ[七瀬の禊] (名)前項に同じ。
ななそ[七十] (数)しちじゅう。
な[菜] (名)もと、一般的な副食物の義。酒菜(肴)など。特に、葉・茎・根などを食う草本類の総称。のち、主として蔬菜の意に用いて、あぶらな科のあぶらな属の植物の称となる。青菜。万葉、一の一「籠(こ)もよ、みこもち、ふぐしもよ、みふぐしもち、この丘に、菜摘ます児、家聞かな」
ないだいじん[内大臣] (名)昔の官名。太政官の官。宮中の大小の事務や調度などのことをつかさどる職。もと、左右両大臣の上にあり、のち、左右両大臣の下におかれた。うちのおほおみ。うちのおとど。内府。内相府。
ななそぢ・・・ジ[七十] (数)(1)しちじゅう。(2)七十歳。竹取「翁、年ななそぢにあまりぬ。今日とも明日とも知らず。
ななたびまうで・・・・・・・モウデ[七度詣] (名)一日に七度、同じ社寺に参拝すること。ななたびまゐいり。枕草子、八「うらやましきもの・・・、まろは七度まうでし侍るぞ」
ななつ[七つ] (名)昔の時刻の名。(1)朝の七つ。午前四時。寅の刻。曽根崎心中、道行「あれ数ふれば、暁の七つの時が六つ鳴りて、残る一つが今生の、鐘の響きの聞き納め」(2)暮れの七つ。午後四時。申の刻。
ななつごの[七つごの] (枕詞)「七つ子」は「ななこざや」すなわち「ななこ織の紗綾(さや)の義で、その「さや」の音から「さやか」に冠する。古今六帖、五「逢ふことのかたなさしたるななつごのさやかに人の恋ひらるるかな」
ななつさがり[七つ下がり] (名)(1)暮れの七つを過ぎた時刻。午後四時過ぎ。(2)物の盛りを過ぎること。傾きかけること。古くなったこと。色のあせたこと。また、それらのもの。(3)うずらの鳴き声をいう。
ななつのたから[七つの宝] (句)「ななくさのたから」に同じ。
ななつのみち[七つの道] (句)「七道」に同じ。東海道・東山道・北陸道・山陰道・山陽道・南海道・西海道。琴後集、八、百二十首「君が代は七つの道の国人も三つの関をややすく越ゆらむ」⇒みつのせき。
ななのかしこきひと[七の賢き人] (句)次項に同じ。
ななのさかしきひと[七の賢しき人] (句)「竹林の七賢」のこと。中国、晉代の清談の徒。?康・阮籍・山濤・劉伶・阮咸・向秀・王戎の七人。万葉、三の三四〇「いにしへのななのさかしき人どもも欲りせしものは酒にしあるらし 大伴旅人」
ななのたから[七の宝] (句)「ななくさのたから」に同じ。
ないだうぢやう・・・ドウジョウ[内道場] (名)宮中で、仏を供養し、または仏道修行する所。宮中の勧解由使庁を内道場に当て、これを「真言院」ともいう。⇒ないぐ(内供)。
ななへやへナナエヤエ[七重八重] (句)多く重なること。また、多く重なって。後拾遺、十九、雑五「七重八重花は咲けども山吹のみのひとつだになきぞ悲しき 中務卿賢明親王」(太田道灌と少女との伝説で名高い)
ななめ (名)(1)一通り。世の常。曾我物語、三、母なげきし事「事のななめの時にこそ、恥も人目も包まるれ」(2)傾いていること。はすかい。はす。(3)時刻が半ばを過ぎていること。(4)月日が中天を過ぎていること。
ななめならず (句)(1)一通りでない。はなはだしい。源平盛衰記。三十四、東国兵馬汰沙「都にて狼藉ななめならず」(2)一通りでなく。はなはだしく。「ななめならずよろこび給ふ」
ななめに (副)前項に同じ。幸若、和田酒盛「虎、ななめによろこうで、十郎のかたへ使ひを立つる」
ななり (句)「なるなり」の略。(1)なのである。なのだ。なのです。宇津保、俊蔭「さればこそ、天狗ななり。(2)のである。のだ。のです。更科日記「さは、秋の夜はおぼし捨てつるななりな」=それでは、秋の夜は思い捨てられたのですな。
なにがし (数)不明の数にいう語。いくら。そこばく。若干。「なにがしかの金を与へたり」
なにがし (代)(1)人・事物・場所・方向、すべての不定称代名詞。徒然草、二十段「なにがしとかやいひし世捨人」枕草子、二「なにがしにて、その人のせし八講・経供養など言ひくらべ居たるほどに」(2)自称代名詞。それがし。拙者。源氏、若紫「なにがし、この寺にこもり侍るとは、しろしめしながら、忍びさせ給へるを、うれはしく思ひ給へてなむ」
なにがし (代)(1)人・事物・場所・方向、すべての不定称代名詞。徒然草、二十段「なにがしとかやいひし世捨人」枕草子、二「なにがしにて、その人のせし八講・経供養など言ひくらべ居たるほどに」(2)自称代名詞。それがし。拙者。源氏、若紫「なにがし、この寺にこもり侍るとは、しろしめしながら、忍びさせ給へるを、うれはしく思ひ給へてなむ」
なにがしくれがし (代)不定称の人称代名詞。だれそれ。某某。源氏、夕顔「なにがしくれがしとかぞへしは」
なにがしそれがし (代)前項に同じ。狭衣、一、下「何がしそれがしとどめて侍れば」
ないぢん・・・ジン[内陣] (名)「外陣」の対。(1)寺院内で、本尊を安置し、法会の儀式を修する所。(2)神社の本殿の奥の、神体を奉安する所。
なにかは・・・ワ[何かは] (副)何故に。どうして。なじかは。竹取「むぐらはむ下にも年は経ぬる身のなにかは玉のうてなをも見む」古今集、三、夏「はちす葉の濁りにしまぬ心もてなにかは露を玉とあざむく 僧正偏昭」
なにくれ (名)あれやこれや、いろいろ。宇津保、俊蔭「染め草、なにくれのこと、庄庄の物ども」
なにくれ(代)だれそれ。なにがしくれがし。源氏、葵「山の座主、なにくれとやむごとなき僧ども」栄花、不見果夢「北の方の御せうとの、なにくれの守ども」
なにこそおへれ・・・・・・オエレ[名にこそ負へれ] (句)その名にふさわしい。有名である。徒然草、十九段「花たちばなは名にこそ負へれ」=たちばなの花は、昔から有名である。(古今集、三、夏「さつき待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」と言っているように)
なにしおふ・・・オウ[名にし負ふ] (句)「名に負ふ」に同じ。その名にそむかない。その名と実とが一致する。古今集、九、?旅「名にし負はばいざこととはむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと 在原業平」=都鳥という名にそむかないならば、きっと都のことを知っているはずである。では、聞いてみるが、いったい、私の思っている人は、都で達者でいるかどうかと。後撰集、十一、恋三「名にし負はば逢坂山のさねかづら人に知られでくるよしもがな 三条右大臣」=ひとに逢う山という、その名にそむかないなら、その逢坂山に生えているさねかずらのつるをくるように、人に知られないで、、あなたのところへくる方法があって欲しいものだ。」(詞書に「女の許に遣はしける」とある)
なにしに (副)なんで。どうして。竹取「なにしに悲しきに見送り奉らむ」
なにとかも (副)どういうわけで。まあ。古事記、上「いざなぎの大御神、はやすさのをの命にのりたまはく、なにとかも汝(みまし)はことよさせる国をしらさずて、泣きいさちる」
なにはナニワ[難波] (地名)摂津の国の古称。また、今の大阪の古称。神武紀、即位前、戌午年二月「はやき潮ありて、はなはだはやきに会ひぬ。よりて名づけて浪速(なみはや)の国とす。また、浪華(なみはな)といふ。今、難波(なには)といふは、訛(よこなま)れるなり」竹取「仕うまつるべき人人、みな難波まで御送りしける」
なにはえナニワ・・・・・・[難波江] (地名)難波の海面。今の大阪湾内の一部。なにはがた。千載集、十三、恋三「難波江の葦のかりねのひとよゆゑみをつくしてや恋ひわたるべき 皇嘉門院別当」=わずかに一夜のかりそめの契り故に一生の間あの人を深く恋い慕うべきであろうか。自分はいつまでも恋いしく思っている。(「刈り根」に「仮り寝」をかけ、「一節」に「一夜」をかけ、「澪標(みをつくし)」に「身を尽くし」をかけている)
ななはがたナニワ・・・・・・[難波潟] (地名)前項に同じ。新古今、十一、恋一「難波潟みじかき葦のふしのまもあはでこの世を過ぐしてよとや 伊勢」=難波潟に生えている背の短いあしの節と節との間ほどの極く短い間でも、思う人に逢わないでこの世を過ごせというのであろうか。私には、とてもそんなことはできない。どんな短い時間でも逢わずにはいられない。
なにはがたナニワ・・・・・・[難波潟] (枕詞)同意義の「難波の浦」の意から「うらむ」に、また、頭音を重ねて「なに」に冠する。古今集、十八、雑下「難波潟うらむべきまも思ほえず」後撰集、十五、雑一「「難波潟なににもあらずみをつくし」
ないてん[内典] (名)仏教の典籍。「外典」の対。水鏡、上「さては、この世のありさまのみならず、内典の方なども、うとくこそおはすらめ」
なにはずづナニワズ[難波津] (地名)「津」は「港」の義。今の大阪附近の港。また、漠然と今の大阪附近の地をもいう。なにはのつ。
なにはづナニワズ[難波津] (名)「なにはづのうた」の略。転じて、手習いの初歩。次項参照。源氏、若紫「まだ、なにはづをだにはかばかしく続け侍らざらめば、かひくなくなむ」
なにはづのうたナニワズ・・・[難波津の歌] (句)仁徳天皇の御即位を祝し王仁(わに)が詠んで奉ったという「なにはづくに咲くやこの花冬ごもり今を春べと咲くやこの花」の歌をいう。古事記、序「難波津の歌は帝のおほん始めなり」後世、この歌は「浅香山」の歌と共に、童幼の手習の初めにした。なにはづ。
なにはづのながれナニワズ[難波津の流れ] (句)前項の「古今集」の序文の意から、和歌の道、歌道をいう。新古今、序「難波津の流れを汲みて清(す)み濁れるを定め、浅香山の跡をたづねて深き浅きをわかりて」謡曲、芳野「難波津の流れは浅くして・・・浅香山の道はまた狭くして」
なにはなるナニワ・・・・・・[難波なる] (枕詞)「なる」は「にある」の意。難波にある御津の浜の音を借りて「見つ」に、また、難波にある「澪標(みをつくし)の音をかけて「身を尽くし」に冠する。古今集、十三、恋三「君が名もわが名も立てじなにはなる見つともいふな逢ひきともいはじ」後撰集、十三、恋五「わびぬれば今はた同じなにはなるみをつくしても逢はむとぞ思ふ 元良親王」⇒わびぬれば。
なにはにつけてナニワ・・・・・・[何はにつけて] (句)なにかにつけて。万事にわたって。方丈記「京のならひ、なにはにつけても、みなもとは田舎(ゐなか)をこそ頼めるに」
なにはのナニワ・・・ (句)「何はの」に「難波の」をかけていう語。(1)何やかやの。すべての。源氏、澪標「数ならでなにはのこともかひなきになどみをつくし思ひそめけむ」(2)何の。どんな。新続古今、雑上「ほととぎすなにはのことも語らはでみじかきあしのよはぞ更(ふ)けぬる」
なにはのあしのナニワ・・・・・・[難波の葦の] (序詞)その葉の乱れることから「乱る」の序とする。増鏡、二、新島もり「津の国のこやのひまなきまつりごとを聞し召すにも、難波の葦の乱れざらむことを思しき」(六音までは枕詞、七音からは序詞)
なにはのつナニワ・・・・・・[難波の津] (地名)「なにはづ」に同じ。
ないはのほりえナニワ・・・・・・[難波の堀江] (地名)仁徳天皇が難波の高津(たかつ)の宮を皇居とされ、その地の諸川の氾濫を防ぐために高津の宮の北部を掘り開かれた堀。今の天満川の川筋が、だいたいそれであろうという。古事記、下「難波の堀江を掘りて海を通し」
ないてんげてん[内典外典] (名)「ないげてん」に同じ。曾我物語、十二少将法問の事「されば、内典・外典に嫌はれたるところに、弥陀如来こそ、極重悪人無他方便と誓ひて、別にまた女人成仏の願を起し給ふ」
なにも[汝妹] (名)男から「妻」「姉妹」その他の女を親しんでいう語。「なせ」の対。古事記、上「いざなぎのみこと、のりたまはく、うつくしき我がなにものみことや、子のひとつけにかへつるかも」(ここでは「妻」)
なね (名)「な」は「汝」、「ね」は「あに・あね」などと同じ義。人を親しんで呼ぶ語。男女を通じて用いる。いろね。古事記、中「そのいろせの神八井耳の命にまをしたまはく、なね、ながみこと、つはものをとり入りて、たぎしみみを殺(し)せたまへ」(「つはもの」は「武器」)
なのめ (名)「ななめ」に同じ。(1)世の常。一通り。源氏、帚木「なのめなるまじき人のうしろみの方は」(2)はすかい。はす。傾斜。
なのめならず (句)「ななめならず」に同じ。平家、一、妓王「妹の妓女をも、世の人もてなすことなのめならず」曾我物語、二、若君の御事「佐殿、若君いで給ひしことをなのめならずよろこび思し召して、御名をば千鶴御前とぞつけ給ひける」
なのめに (副)(1)たいがいに。おおかたに。なおざりに。源氏、帚木「行く先ながく見えむと思はば、つらきことありとも、念じてなのめに思ひなりて」同、夢浮橋「かばかり聞きてなのめに思ひ過ぐすべくは侍らざりし人を」(2)「ななめならず」に同じ。謡曲、鳥帽子折「みかど、なのめに思し召し」
なのりそ (名)「なのりそも」に同じ。「ほんだわらわ」の古称。万葉、四の五〇九「荒磯(ありそ)の上に、打ち靡き、繁(しげ)に生ひたるなのりそが、何(な)どかも妹に、告(の)らずに来にけむ」催馬楽、伊勢の海「伊勢の海の、清き渚の、しほがひに、なのりそや摘まむ、貝や拾はむ、玉や拾はむ」
なのりその (枕詞)「なのりそ」は「ほんだわら」の古称。副音をとって「名」に冠する。万葉、三の三六二「なのりその名は告(の)らしてよ親は知るとも」同、六の九四六「なのりそのおのが名惜しみ」
なのりそのかは・・・カワ[なのりその川] (地名)所在未詳。枕草子、三「川は・・・なのりその川」
なのりそも (名)「ほんだわら」の古称。なのりそ。允恭紀、十一年三月「時の人、浜藻(はまも)をなづけてなのりそもといふ」
なばえ (名)木の切り株から新しく生えた芽。ひこばえ。またばえ。夫木抄、春、三「春雨はいやふりにけり河辺なるゐぐひの柳なばえするまで」⇒ゐぐひ。
ないとうぢやうさう・・・ジョウソウ[内藤丈草] (人名)江戸時代の俳人。通称は林右衛門。尾張の犬山藩士。芭蕉十哲の一人。その作「大原や蝶の出て舞ふおぼろ月」は人口に膾炙している。芭蕉の没後、近江の粟津の龍か岡に仏幻庵を結んで住んだ。宝永元年、(一七〇四)没、年四十二。
なはたぎナワ・・・[縄たぎ] (句)縄をたぐり。古今集、十八、雑下「思ひきやひなの別れにおおとろへて蜑(あま)の蝿たぎいさりせむとは 小野篁」(隠岐に流されたときの歌)
なはてナワテ[縄手・畷] (名)(1)手で扱う縄。後拾遺、恋三「碇おろす船の縄手は細くとも命の限り絶えじとぞ思ふ」(2)転じて縄を張ったような素直な長い道。(3)また、転じて田の間の道。太平記、七、山崎合戦の事「六波羅勢の跡を切らむと、縄手を伝ひ、道をよこぎつて打ち廻るを見て」
なはのとまり[那波の泊] (地名)土佐の国、高知県安芸郡奈半利村。土佐日記「つとめて、大湊より那波の泊を追はむと漕ぎいでけり」
なはのりナワ・・・ (名)「うみぞうめん」の別称。赤紫色の細長い海藻で、食用になる。万葉、十一の二七七九「海原(うなばら)の沖つなはのりうち靡き心もしのにほもゆるかな」
なはのりの[縄海苔の] (枕詞)頭音から「名」に、また、縄海苔は切れやすいので「引かば絶ゆ」に冠する。万葉、十二の三〇八〇「なはのりの名はかつて告(の)らじ恋ひは死ぬとも」同、十三の三三〇二「縄海苔の引かばや絶ゆとや」
なばり (名)隠れること。「なばる」の連用形から転じた名詞。
なばり[名張] (地名)伊賀の国(今の三重県の一部)の旧郡名。天武紀、元年三月「夜半に及びて、隠(なばり)の郡に至りて、隠(なばり)の駅家(うまや)を焚(や)く」
なばりのやま[名張の山] (地名)前項の郡にある山。万葉、一の四三「わがせこはいづく行くらむ沖つ藻の名張の山を今日か越ゆらむ たぎまの真人の妻」⇒おきつもの。
なばる[隠る] (動、四)「かくれる」の古語。⇒なばり。
なび[儺火] (名)「左義長」のこと。鬼疫を払うために焚く火。蜻蛉日記「正月にもなりぬ。・・・十五日なびあり。大夫の雑色のをのこども、なびすとて騒ぐを聞けば」
ないふ[内府] (名)「内大臣」の別称。「小松内府」
なぶ[並ぶ] (動、下二)並べる。千載集、十八、雑下「駒なべていざ見にゆかむ龍田川しら波寄する岸のあたりを」
なぶ[靡ぶ] (動、下二)なびかせる。万葉、十七の四〇一六「婦負(めひ)の野にすすき押しなべ降る雪に宿借る今日し悲しく思ほゆ 高市黒人」⇒めひのの。
なへ[甎] 腹が大きく、口のすぼまった土器。かめ。ほとぎ。仲哀紀、八月正月「柴島を割きて御なへとなし、逆見海を以ってしほどころとなさむ」(のちの「鍋」はこの語から来たもの)
なべ (接尾)上の語について「と共に」「と同時に」などの意を含む副詞を構成する。なべに。万葉、八の一五四〇「けさの朝け雁が音寒く聞きしなべ野辺の浅茅ぞ色づきにける」
なべて (副)おしなべて。すべて。一切。古今集、六、冬「梅の花それとも見えず久方のあまぎる雪のなべて降れれば」(「あまぎる」は「曇る」)
なべての (句)(1)すべての。あらゆる。後拾遺、六、冬「霜枯れの草の戸ざしは仇なれどなべての人をいるるものかは」(2)普通の。なみなみの。一般の。今鏡、藤波、下、「宮城野の秋の野中の女郎花なべての花にまじるべきかは」
なべに (接尾)上の語に付いて「と共に」「と同時に」の意を含む副詞を構成する。なべ。万葉、五の八四一「うぐひすのおと聞くなべに梅の花我家(わぎへ)の苑(その)に咲きて散る見ゆ」
なへん[ナ変](名)⇒なぎやうへんかくくわつよう。
なほナオ (名)[直](1)まっすぐなこと。万葉、七の一三九三「とよくにの企救(きく)の浜辺のまなごぢのまほなにしあらば何か嘆かむ」(「とよくに」は「豊前・豊後」)(2)世の常。平凡。伊勢物語「天の下の色好みの歌にては、なほぞありける」
なほナオ (副)(1)ちようど。あたかも。神代紀、上「開闢の初めに、くにつちの浮かび漂へること、たとへばなほ遊ぶ魚の水の上に浮かべるがごとし」(2)やはり。それでも。古今集、四、秋上「久方の月の桂も秋はなほもみぢすればや照りまさるらむ 壬生忠岑」
なほ (接続)その上に。更に。源氏、明石「なほこれより深き山を求めて、跡たえまなし」
ないべん[内弁] (名)即位および諸節会の時、承明門内で諸事を支配する職。上卿がこれに当たる。承明門外で支配する職「外弁」の対。徒然草、百一段「ある人、任大臣の節会の内弁を勤められけるに、内記のもちたる宣命を取らずして、堂上せられけり」(「堂上」は「御殿に上がること」)
なほあらじナオ・・・・・・ (句)むだではあるまい。そのままではあるまい。また、てれかくし。源氏、花宴「なほあらじに、弘徽殿の細殿に立ちより給へば」宇津保、楼上、上「なほあらじの御ことば」(これらの例は、てれかくし)
なほざりナオザリ (副)意にとめないこと。ゆるがせにすること。
なほざりがてらナオザリ・・・ (副)深く心にもとめず。なかば、じょうだんに。古今著聞集、二十、魚虫禽獣「まことに、なほざりがてら、その蛙放ちて、さらば聟にとらむ、と言ひかけたりけるとき、蛇、このぬしが顔をうち見て、のみかけたる蛙をはき出して、藪の中へはひ入りぬ」
なほざりごとナオザリ・・・[等閑言] (名)まことのこもらぬことば。
なほざりごとナオザリ・・・[等閑事] (名)なおざりにするわざ。
なほざりにナオザリニ[等閑に] (副)いいかげんに。
なほざるナオザル (動、四)おろそかにする。いいかげんに行う。
なほしノウシ[直衣] (名)天皇を始め、摂政・関白その他の貴人の平服。袍に似て、烏帽子・指貫を着ける。附図参照。源氏、帚木「白き御ぞどものなよよかなるに、直衣ばかりをしどけなく着なし給ひて」
なほしナオシ (名)返礼。土佐日記「かうやうの物もて来る人人、なほしもえあらで、いささかわざせさす物もなし」=かような物を贈って来た人人に対し、何の返礼もなし得ず、ほんの少し(いささけ)のことでもと思う物もない(気がひける)。
なほなほしナオナオシ[直直し] (形、シク)平凡である。なんのこともない。
ないらん[内覧] (名)(1)内内に見ること。内見。(2)摂政・関白または特に宣旨を蒙った大臣が、太政官の奉上する文書をまず内見すること。大鏡、七、太政大臣道長「五月十一日に、宮中の雑事、まづ内覧の関白の宣旨承り給ひて、栄えそめ給ひにしぞかし」
なほなほにナオナオニ (副)普通に。おだやかに。⇒なり。(業)。
なほびナオ・・・[直日] (名)斎み慎んでいたことを常の日のように直すこと。なほみ。祝詞、遷却崇神祭「神なほび大なほびに直し給ひて」
なほびとナオ・・・[直人] (名)普通の家柄の人。ただびと。源氏、帚木「なほ人の上達部までなりのぼりたる、われは顔にて」
なほびのかみナオビ・・・・・・[直日神・直毘神] (神名)罪やけがれのある者をも、見直し聞き直す神。「まがつひのかみ」の対。
なほみナオ・・・[直日] (名)「なおび」に同じ。
なほものナオ・・・[直者] (名)すなおな人。また、賤しい人。蜻蛉日記「氷含(ひくく)みたる声にて、まろをのたまふるかといふを聞くにぞ、直者なりけりと思ひぬる」
なほらひナオライ[直会] 神事が終わってからの宴会。
なまいどむ[生挑む] (動、四)少し挑む。何ということなく挑む。大和物語「なまいどみて、時時物など言ひける人の許より」
なまうかび[生浮かび] (名)なまはんかに仏道に入ること。源氏、帚木「濁りに染(し)めるほどりよりも、なまうかびにては、かへりて悪しき道にもだたよひぬべくぞおぼゆる」(「悪しき道」は「三悪道」)
なまけしからぬ (句)何となくよくない。枕草子、十二「見ならひするもの、あくび、ちごども。、なまけしからぬえせ者」(「えせもの」は「賤しい者」)
ないり[泥犁・泥梨・奈利] (名)梵語。Nirayaの音写。地獄。奈落。平家、一、妓王「このたび泥梨に沈みなば、多生曠劫を隔つとも、浮かびあがらむことかたかるべし」(「多生曠劫」は、生まれては死に、死んでは生まれ、流転きわまりないこと)
なまごころ[生心] (名)(1)なまはんかな心。未熟な心。伊勢物語「昔、なま心ある女ありけり」(2)色情。春情。いろけ。
なまざぶらひ・・・ザブライ[生侍] (名)「なまざむらひ」ともいう。未熟な武士。大鏡、一「年はたちばかりなる生侍めきたるものの、切に近くに寄りて」
なまし[生し] (形、ク)(1)なまである。(2)未熟である。
なまし (句)かんりょうの助動詞「ぬ」の未然形「な」に推量の助動詞「まし」の付いた句。てしまうだろ。古今集、一、春上「けふ来ずばあすは雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや 在原業平」
なまじひナマジイ (名)いいかげんなこと。むだなこと。言わなくてもよいこと。平家、二、西光被レ斬「行綱、なまじひなる事申し出でて、証人にや引かれむずらむと恐ろしさに」
なまじひにナマジイニ (副)出来もしないことを強いて。かるはずみに。なまなかに。
なまとく[生徳] (名)(1)少し富んでいること。狭衣、一、上「「主計頭(かぞへのかみ)などいふ者の妻(め)にて、なまとくありけるが」(2)すこし徳の高いこと。今昔物語、二十九「下京辺に、なまとくある法師ありけり」
なまなかに (副)(1)なまはんかに。中途半途端に。なまじいに。(2)かえって。むしろ。
なまなま[生生] (名)中途半途なこと。未熟なこと。源氏、帚木「なまなまの上達部」同、同「なまなまのはかせはづかしく、すべて口あかすべくなむ侍らざりし」
なまなまに[生生に] (副)いやいやながら。しぶしぶ。心持のまだ熟さないうちに。古事記、中「その御琴を取りよせて、なまなまにひきいましけるに」
な[魚] (名)さかな。うお。まな。「酒菜」の義。酒の副食物として最も美味であったので、「魚」の意となり、「菜」のうちで最も上等であったので「真菜」というに至った。今「まな板」などに、その名が残っている。古事記、上「ほをりのみこと、海さちをもちて、な釣らすに、かつてひとつも得たまはず」
ないりそのふち[ないりその淵] (地名)河内の国、大阪府中河内郡にある淵の名。「ないりそ」は「入るな」との意。枕草子。一「ふちは・・・ないりその淵、誰にいかなる人の教へならむ」
なまにようばう・・・ニヨウボウ[生女房] (名)未熟な宮仕えの婦人。上﨟というほどの身分でない女官。増鏡、十九、久米のさら山「時時いひかはしけるなま女房のもとより」
なまばむ[生ばむ] (動、四)何となく怪しい。うさんくさい。太平記、三十三「飢人投レ身事「なまばうたる人のつかれ乞ひするは、夜射・強盗の案内見る者か」(「なまばうたる」は「なまばみたる」の音便)
なまはらだたし[生腹だたし] (形、シク)何となく腹立たしい。
なまふがう・・・ゴウ[生不学] (名)「なまふがく」の音便。学問の、未熟なこと。大鏡、二、左大臣時平「大学の衆どものなまふがうにいますかりしを」
なまふせがしげ[生防がしげ] (名)何となく、いやそうなさま。何となく邪魔にするようす。枕草子、八「大御門はさしつやなど問はすれば、まだ人のおはすればなど、なまふせがしげに思ひていらふるに」
なまみやづかへ・・・・・・ズカエ[生宮仕へ] (名)はかばかしくない宮仕え。伊勢物語「この男、なま宮づかへしければ、それを便りにて、衛府佐(ゑふのすけ)ども集まり来にけり」
なまむつかし (形、シク)何となく、むずかしい。小うるさい。大鏡、三、左大臣師尹「陣に左大臣殿の御車や御前どものあるを、なまむつかしと思しめせど」
なまめかし[生めかし] (形、シク)(1)わかわかしい。みずみずしい。源氏、若菜「いと若く清らにて、かく御賀などいふことは、ひが数へにやと覚ゆるさまのなまめかしく」(2)優美である。みやびやかである。上品である。徒然草、一段「その子、うまごまでは、はふれにたれど、なほなまめかし」=その子や孫たちまでは、たとえ落ち目になってはいても、まだどことなく、上品で奥ゆかしい。(3)いろめいている。あだっぽい。紫式部日記「けさうなどのたゆみなく、なまめかしき人にて」
なまめく[生めく] (動、四)(1)わかわかしくある。わかわかしく見える。(2)優美に見える。上品に見える。(3)いろめく。あだっぽくある。伊勢物語「この車を女車と見て、寄り来て、とかくなまめく間に」
なまゆふぐれ・・・ユウ・・・[生夕暮れ] (名)夕暮れに近いころ。たそがれ。今昔物語、二十八「大きなる蝦蟇(がま)一つありて、生夕暮れになりぬれば出で来て」
ないをん・・・オン[泥?] (名)梵語。Nirvanaの音写。「ねはん」に同じ。
なまよみの (枕詞)未詳。語義ついては諸説があるが、いずれにも従いがたい。とにかく「甲斐」に冠する。万葉、三の三一九「なまよみの甲斐の国、うちよする駿河の国と」
なまる[隠る] (動、四)「なばる」に同じ。「隠れる」の古語。万葉、十六の三八八六「おしてるや難波の小江に廬(いほ)作り、なまりて居る葦蟹を、おほきみ召すと」
なまわろし[生悪し] (形、シク)何となく悪い。やや悪い。宇津保、楼上、下「人のはらからなまわろくても侍らむからに」
なまわろなり[生悪なり] (形動、ナリ)何となく悪い。源氏、帚木「無才の人、なまわろならむふるまひなどに見えむに、はづかしくなむ見え侍りし」
なまをんな・・・・・・オンナ[生女] (名)世になれない女。未熟な女。また、身分の低い女。蜻蛉日記「例の人は案内するたより、もしはなま女などして、言はすることこそあれ」
なみきるひれ[波切るひれ] (名)波を静かならしめるひれか。上古、あめのひぼこが持って来た宝の一つ。「古事記、中間」にある語。
なみくもの[波雲の] (枕詞)諸説があるが、波のような形の雲の美しいことから「うつくし」に冠するとする説が妥当であろう。万葉、十三の三二七六「ももたらず山田の道を、なみくもの愛(うつく)し妻と、語らはず、別れし来れば」
なみす[蔑す] (動、サ変)「無みす」の義。あれども、無きがごときに見る。あなどる。みくびる。軽蔑する。源平盛衰記、二十六、忠盛婦人「君をもなみし奉り」
なみだがは・・・ガワ[涙川] (名)涙の多く流れるのを川にたとえていう語。なみだの川。土佐日記「ゆく人もとまるも袖のなみだ川みぎはのみこそぬれまさりけれ」
なみだのかは・・・カワ[涙の川] (名)前項に同じ。
ないをんさうじゆ・・・オンソウ・・・[泥?双樹] (名)「泥?」は前項参照。「双樹」は「沙羅双樹」。釈迦が涅槃した時の沙羅双樹の林。謡曲、舎利「泥?双樹の苔の庭、遺跡を聞いて腸を断つ」
なみのほの[波の穂の] (枕詞)波の先の荒れるこというとから「甚だしく荒れる」の古語。「いたぶらし」に冠する。万葉、十四の三五五〇「押して否と稲はつかねど波の穂の甚振(いたぶ)らしもよ昨夜(きぞ)ひとり寝て」
なみはやのくに[浪速の国] (地名)⇒なには。
なみふるひれ[浪振るひれ] (名)波を起させるひれか。上古、あめのひぼこが持って来た宝の一つ。「古事記、中間」にある語。
なみまくら[波枕] (名)波の上、船の中に寝ること。船路の旅。「草枕」の対。
なみゐるナミイル[並み居る] (動、上一)並んでいる。宇津保、嵯峨院「よろづの人、皆すのこになみゐ給へり」
なむ[並む] (動、四)ならぶ。つらなる。前項を見よ。
なむ[並む] (動、下二)前項の他動。並べる。つらねる。古事記、中「船なめて、船腹乾さず」万葉、六の九四八「友なめて遊ばむものを、馬なめて往かまし里を」
なむ[祈む] (動、四)祈る。のむ。万葉、三の三七九「かくだにも、われは、こひなむ、君に逢はじかも 大伴坂上郎女」
なむ[靡む] (動、四)なびく。万葉、二の一六二「沖つ藻のなみたる波に」
なむ (助詞)(1)第三類、副助詞。係り助詞。強く指示する語。「ぞ」「こそ」に類する。体言にも活用語にも付く。この語を受けて文を結ぶ活用語は連体形である。「これなむそれなる」「宣命よむなむ悲しきことなりける」「よくなむ見ゆる」「無きなむまされる」「言はでなむやみぬる」(2)第四類、終助詞。願望の意をあらわす。動詞・助動詞の未然形に付く。「われも行かなむ」「人に信じられなむ」
なうノウ (感)人を呼びかける声。もし。謡曲、羽衣「なう、その衣はこなたのにて候ふ。何しに召され候ふぞ」
なむ (句)完了の助動詞。「ぬ」の未然形「な」に推量の助動詞「む」の付いた句。連用形を受け、未来の想像をあらわす。であろう。「立田山いつか越えなむ」「道に臥してや命過ぎなむ」なむぢナムジ[汝]「なんぢ」に同じ。
なめ[滑] (名)なめらかな液体。古事記、中「さなかづらの根をうすにつき、その汁のなめを取り」
なめ[無礼] (名)礼の無いこと。増鏡、六、煙の末末「御返し、弁の内侍承りて申すべしと聞き侍りしを、なめなりといふことにて」
なめげ[無礼げ] (名)礼を知らぬさま。竹取「心づよく承らずなりしこと、なめげなるものに思し召し」
なめし(形、ク)無礼である。無作法である。ゐやなし。源氏、桐壺「なめしとおぼさで、らうたくし給へ」枕草子、二「にくきもの・・・文(ふみ)ことばなめき人こそ、いとにくけれ」
なめり (句)「なるめり」の略。なんめり。であろう。であるようだ。であるらしい。宇津保、俊蔭「これこそ限りなめれ」源氏、桐壺「坊にも、ようせずば、このみこのゐ給ふなめりと、一のみこの女御はおぼし疑へり」(「坊」は「東宮坊」)
なも (助動)「らむ」の東国方言。であろう。だろう。万葉、十四の三四七六「諾児汝(うべこな)はわれに恋ふなも立と月の流(のなが)へ行けば恋ふしかるなも」⇒らむ。
なも(助詞) 「なむ」に同じ。(1)第三類、副助詞。係り助詞。強く支持する。古事記、上「ここをもて、一日に必ず千人死に、一日に必ず千五百人なも生まるる」(2)第四類、終助詞。未然形につき、願望の意をあらわす。万葉、十四の三四〇五「かみつけのをどのたどりが川路にも児らは逢はなも一人のみして」(「かみつけのをどのたどり」は地名)
なやらひ・・・・・・ヤライ (名)「つゐな」に同じ。紫式部日記「滝口も、なやらひ果てけるままに、皆まかでてけり」
なやらふナヤラウ (動、四)「つゐな」を行う。「おにやらひ」をする。源氏、紅葉賀「なやらふとて、犬君がこれを毀ち侍りにければ」
なゆ[萎ゆ] (動、下二)(1)力が失せて、くたくたになる。竹取「手に力もなくなりて、なえかがりたる中に」(2)衣服などが、くたくたになる。枕草子、一「わらべの頭ばかり洗ひつくろひて、なりは皆なえほころび」(3)しおれる。しなびる。枕草子、九「見る物は・・・葵かづらも、うちなえて見ゆ」
なうなうノウニウ (感)ひとを呼びかける声。もしもし。謡曲、安宅「なうなう、客僧たち、これは関にて候ふ」
なゆたけの[なゆ竹の] (枕詞)しなやかな竹のたわむことから「とをよる」(たわみ寄る)に冠する。万葉、三の四二〇「なゆ竹のとをよる皇子(みこ)、さにづらふわが大君は」
なよし (名)魚の名。「いな」の異名。出雲風土記、秋鹿郡「南は入海、春は鯔魚(なよし)・すずき・ちに・えび等、大小雑魚あり」土佐日記「元日・・・今日は京のみぞ思ひやらるる。九重の門のしりくめ縄のなよしの頭、ひひらぎやいかにとぞ言ひあへる」
なよたけ[なよ竹] (名)細くしなやかな竹。わか竹。なゆたけ。宇津保、田鶴村鳥「なよ竹の茂れる宿にまとゐして」
なよたけの[なよ竹の] (枕詞)なよ竹は、たわんで起き伏すので「とをよる」「起きふし」に、また竹の縁から「よ」「ふし」に冠する。万葉、二の二一七「秋山のしたぶる妹、なよ竹のとをよる子らは」古今著聞集、八、好色「なよ竹のおきふしわぶる恋ぞくるしき」同、同「なよ竹のひとよふたよのあだのふしをば」
なよなよと (副)萎えて、よわよわしく。しなやかに。なよやかに。源氏、桐壺「まみなども、いとたゆげにて、いとどなよなよと、われかのけしきにて臥したれば」
なよびかなり (形動、ナリ)やさしい。しなやかである。やわらかである。源氏、帚木「「なよびかにをかしきことはなくて、交野の小将には笑はれ給ひけむかし」同、朝顔「青にびの紙のなよびかなる」
なよぶ (動、四)しなやかなさまである。やわらかである。源氏、帚木「とかくになびきて、なよびゆき」同、明石「いといたうなよびたる薄やうに」
なよめかし (形、シク)なよなよと見える。紫式部日記「「いとらうたげに、なよめかし」ななよやかなり(形動、ナリ)次項に同じ。堤中納言物語「薄色のなよやかなるが、いとしみ深くなつかしきほどなるを」
なよよかなり (形動、ナリ)萎えている。なよなよとしている。やわらかい。宇津保、楼上、上「いとなよよかなる袿(うちぎ)に」源氏。帚木「白き御ぞどものなよよかなるに、直衣ばかりを、しどけなく着なし給ひて」
なよらかなり (形動、ナリ)前項に同じ。枕草子、一「大納言殿、桜の直衣のすこしなよらかなるに、濃き紫の指貫」
なうれんノウ・・・[暖簾] (名)のうれん。のれん。蕪村の句、「なうれんにこち吹く伊勢の出店かな」
ならえん[那羅延] (名)梵語。Narayanaの音写。仏教で天上の力士の名。その力は象の百万倍という。太平記、十八、高野と根来不和の事「その身磐石の如くにして、那羅延が力にても動かしがたく」
ならく[奈落] (名)梵語。Narakaの音写。仏教で、地獄の称。曾我物語、三「奈落に沈む、極重の罪人」
ならく (接尾)動詞の連体形に付いて「には」の意をふくむ副詞を構成する。「聞くならく」「いふならく」「見るならく」
ならざか[奈良坂] (地名)大和から山城へ出る坂道。奈良時代には生駒郡平城村から山城へ出る「歌姫坂」をいったが、のち、奈良の北にある「般若坂」のことをいう。更科日記「奈良坂にて人にとられなば、いかがせむ」
ならし (句)「なるらし」の略。であるらしい。
ならじだい[奈良時代] (名)元明天王の和銅三年(七一〇)から恒武天皇の延暦二年(七三八)まで、奈良に都のあった時代をいう。文学・美術・宗教などのさかんであった時代。
ならしのをか・・・・・・オカ[ならしの丘] (地名)奈良県生駒郡龍田町の龍田川の東岸、磐瀬の森の北にあり、かむなび山に対する山。「ならしの山」ともいう。万葉、八の一四六六「かむなびの磐瀬のもりのほととぎすならしのをかにいつか来鳴かむ」
ならしば[なら芝] (名)「平芝」の義で芝生のことであろう。枕草子、三「草は・・・ならしば、いとをかし」
ならしばの[楢柴の] (枕詞)「楢柴」は楢の枝。同音を重ねて「馴る」に冠する。万葉集、十二の三〇四八「御狩りする雁羽の小野のならしばの馴れはまさらず恋こそまされ」
ならす[放屁す] (動、四)「鳴らす」の義。放屁する。大鏡、二、左大臣時平「いと高やかにならして侍りけるに」
なえなえと (副)くたくたに弱るさまにいう語。なよなよと。宇治拾遺、三、虎の鰐とりたる事「のけざまになりて、ふためく頤(おとがひ)の下を躍りかかりて食ひて、二度、三度ばかりうち振りて、なえなえとなして、肩にうちかけて」
ならてう・・・・・・チョウ[奈良朝] (名)「奈良時代」に同じ。
ならのみかど[奈良の帝] (天皇名)(1)第四十三代、元明天皇の御別称。琴後集、十一、序、旧蹟遺聞書「国郡のあるかたち、山河もろもろの跡をたづねて、書に載せられたることは、ならのみかどの御時、はじめて国国におほせごとたまはりて、しるさせ給ひ」(2)第四十五代、聖武天皇の御別称。平家、一、我身栄花「昔、奈良の御門の御時、神亀五年朝家に中衛の大将を始めて置かせらる」(3)第五十一代、平城天皇の御別称。平城の読みからいったものであろう。(4)すべて、奈良時代の天皇の御別称。何天皇にかぎらない。大和物語「昔、平城(なら)の帝につかうまつる采女ありけり」鶉衣、前編。、上、奈良団賛「青によし奈良の帝の御時、いかなる叡慮にあづかりてか、この地の名産とはなれりけむ」
ならのをがは・・・・・・オガワ[楢の小川] (地名)京都の上賀茂神社の御手洗川(みたらしがは)。新勅撰集、夏「風そよぐならの小川の夕暮れはみそぎぞ夏のしるしなりける 藤原家隆」=そよそよと風のそよぐならの小川の夕方は、もう秋のけはいではあるが、その川辺でみそぎをしているということが、まだ夏だということを示している。(「みそぎ」は六月晦日に行われる。昔は、七月から秋に入る)
ならはかすナラワカス[習はかす] (動、四)習わせる。
ならはすナラワス[習わす] (動、四)(1)学ばせる。習わせる。(2)慣れさせる。習慣づける。竹取「かくたいだしくやは、ならはすべき」(3)懲りさせる。ひどい目にあわせてやる。義経記、三、書写山炎上の事「咎むる者をばならはして、恥を雪ぎて出でばやと思ひて」
ならび[並び] (名)(1)並ぶこと。(2)隣。曾我物語、三「並びの国の市に、宝の数を売るなり」(3)比類。「ならびなし」
ならびがをか・・・オカ[雙が岡] (地名)次項に同じ。
ならびのをか・・・オカ[雙が岡] (地名)京都市右京区花園の西、御室(仁和寺)の南方にある低い丘で、三つの丘が南北に並んでいるのでいう。吉田兼好が、この地で「徒然草」を草したので名高い。更級日記「南は、ならびの丘の松風、いと耳近う心細う聞えて」徒然草、五十四段「雙の岡の便りよき所に埋み置きて」
ならやま[奈良山] (地名)奈良市の北に長く横たわる丘陵。佐保山・黒髪山・阿保山などを含む。万葉、一の二十九「「あをによし奈良山を越え、いかさまにおもほしめせか」
ならんだじ[那蘭陀寺] (寺名)梵語。Nalandaの音写。昔、中印度の摩竭陀国の王舎城の北にあった大寺院の称。唐の玄奘が印度に渡ったころ印度仏教の中心として仰がれていたもの。ただし、「徒然草、百七十九段」および「同、二百三十八段」に見えている同寺は、今の京都市東山区五条大橋に近い六波羅に建てた寺院である。
なえばむ[萎えばむ] (動、四)しわくちゃになる。くたくたになる。源氏、橋姫「なほしのなえばめるを着給ひて、しどけなき御さま」
なり[業] (名)生業(なりはひ)。多くは農業をいう。万葉、五の八〇一「ひさかたの天道(あまぢ)は遠しなほなほに家に帰りてなりを為(し)まさに 山上憶良」(「しまさに」は「なさいよ」)
なり[奈利](名)「ないり」に同じ。
なり (助動)(1)断定する。だ。です。のだ。のです。体言、活用語の連体形、助詞に付く。「机なり」「あるなり」「美しきなり」「堂堂たるなり」「行かざるなり」「泣くばかりなり」(2)連体形は「にある」意に用いる。「春日なる三笠の山」(3)連体形は「という」意に用いる。「顔回なる者あり」(4)終止形に付いて伝聞・推定・詠嘆の意などをあらわす。万葉、一の七六「ますらをの鞆(とも)の音すなりもののふのおほまへつぎ楯立つらしも」古今集、四、秋上「秋の野に人まつ虫の声すなりわれかと行きていざとぶらはむ」
なりあふナリアウ[成り合ふ] (動、四)(1)できあがる。完成する。古事記、上「あが身は成り成りて、成り合はざるところひとところあり」(2)一つになる。なれあう。親しくなる。太平記、十五、建武二年正月十六日合戦事「御方の者共が敵と成り合ひて、後ろ矢を射るよと思はれければ」
なりいづナリイズ[生り出づ] (動、下二)生まれ出る。成長する。神代紀、下「煙の末に生り出づる子」万葉、五の九〇四「いつしかも、人となり出でて」
なりいづナリイズ[成り出づ] (動、下二)成りあがって世に出る。出世する。立身する。時めく。落窪物語「只今なり出で給ひなむと人人誉(ほ)む」大和物語「故右京大夫宗于(むねゆき)の君、なりいづべきほどに、我が身のえなりいでぬことを思ひ給ひけるころほひ」
なりおとる[成り劣る] (動、四)次第に劣って行く。「成り上がる」の対。源氏、薄雲「故大納言の今一きざみなりおとり給ひて」
なりかぶら[鳴鏑] (名)「かぶらや」に同じ。なるかぶら。古事記、上「鳴鏑を大野の中に射入れて」
なりせいせむ・・・・・・セン[鳴り制せむ] (句)「声が高い、静かにさせよう」などの意であろう。宇治拾遺、二、業村強力の学士に逢ふ事「この相撲どもの過ぐるを通さじとて、なりせいせむ、なりたかしと言ひて」
なりどころ[なり所] (名)生産の地と住宅地。田宅。また、別荘。別邸。仁徳紀、十一年、四月「横しまなる源を決(さく)りて海に通し、逆しまなる流れを塞ぎて、田宅(なりどころ)を全うせしめよ」持統紀、六年八月「己卯、飛鳥の皇女の田荘(なりどころ)に幸したまふ」
なりのぼる[成りもぼる] (動、四)成りあがる。立身する。出世する。源氏、帚木「なりのぼれども、もとよりさるべきすぢならぬは、世の人への思へることも、さはいへど、なほことなり」
ながあめ[長雨] (名)降りつづく雨。ながめ。霖雨。源氏、須磨「やうやう、事しづまり行くに。長雨の比になりて」
なりはひナリワイ[生業] (名)「五穀の生るようにつとめるわざ」の義。(1)農業。農作。万葉、十八の四一二二「作りたる、そのなりはひを、雨降らず、日の重なれば、植ゑし田も蒔きし畑も」(2)転じて、世渡りの仕事。家業。職業。渡世」
なりひさご[生瓢・成瓢] ひさご。ひょうたん。「生る瓢」の義で、「鳴るひさご」の意ではない。徒然草十八段「なりひさごといふものを、人の得させたりければ」
なるまさる[成りまさる] (動、四)次第にまさって行く。竹取「このちご養ふほどに、すくすくと大きになりまさる」
なる[萎る] (動、四)「萎ゆ」に同じ。源氏、若紫「白ききぬ、やまぶきなどのなれたるを着て、走り来たる女ご」
なる (助動)「なり」の連体形。地名に続けて「にある」の意をあらわし、人名に続けて「という」の意をあらわす。「駿河なる富士」「顔回なる者」⇒なり(助詞)。
なるいた[鳴る板] (名)踏むと鳴るようにしてある板。清涼伝の孫廂の南端にある板。参候人のあることを、主上が知られるためのもの。増鏡、、十六、秋のみ山「笛・篳篥など、殿上人ども、なる板のほどに候ひて仕うまつる」
なるかみ[鳴る神] (名)「かみなり」のこと。「かみ」は「雷」で、「鳴る雷」もやはり「かみなり」である。竹取「龍(たつ)は、なるかみの類にてこそありけれ」
なるかみの[鳴る神の] (枕詞)「音」に冠し、また、「光りをる」の義の「ひかをる」に冠する。万葉、七の一〇九二「鳴る神の、音のみ聞きしまきむくの檜原の山をけふ見つるかも」同、十三の三二二三「なるかみのひかをる空の」(この「なるかみ」は「かむとけの」とも読む)
なると[鳴る戸] (名)昔、宮中にあった開閉の際音高く鳴った扉。後撰集、十、恋二「春宮に、なるとといふ戸のもとに」
なると[鳴門] (地名)瀬戸の潮の差し引きに、海水の鳴りひびく所の称。阿波の鳴門、大島の鳴門の類。大島の鳴門は、山口県の大島郡、屋代島と本土との海峡。万葉、十五の三六三八「これやこの名に負ふ鳴門の渦潮(うづしほ)に玉藻刈るとふ海女少女(あまをとめ)ども」(これは、大島の鳴門)
ながい[長寝] (名)「い」は眠ること。長く眠ること。ながね。神武紀、即位前、戌午年六月「時に天皇、よく寐(みね)ませり。たちまちにして寤(さ)めてのたまはく、われ何ぞかくながいしつるや」
なるとちゆうじやうものがたり・・・ジヨウ・・・・・・[鳴門中将物語] (書名)一巻。作者未詳。鎌倉時代に成る。後嵯峨天皇が一少女を見、その身元をたずねると少将の妻であった。少将は妻を天皇に奉り、のち中将になる。世人、鳴戸中将と呼ぶ。それは阿波の鳴門から産する若布(わかめ)を若女(わかめ)にかけて、それを奉ったという意を寓したもの。こんな物語である。
なるなしの[生る梨の] (枕詞)類音から「なり」に冠する。古今集、二十、東歌「をふの浦に片枝さし覆ひ生る梨のなりもならずも寝て語らはむ」⇒をふのうら。
なるはじかみ (名)山椒の一種。蜀椒。あさくらはじかみ。出雲風土記、秋鹿郡「なるはじかみ」
なるはたきのみづ・・・ワ・・・ミズ[鳴るは滝の水] (句)昔僧侶の行った延年舞の歌の一句。「絶えずどうどうと鳴るのは滝の水」の意。平家、一、額打論「うれしや水、鳴るは滝の水、日は照るとも絶えずとうたりと、はやしつつ」
なるべし[奈留別志] (書名)五巻。荻生徂徠の著。文政十一年(一八二八)弟子たちの手で刊行。漢字の音訓または事物の名称の由来などについて考証し、各条の末に「なるべし」と言って断言しないのをとって書名としたもの。
なるみ[鳴海] (地名)次項に同じ。平家、十、海道下り「不破の関屋の板廂、いかに鳴海の汐千鳥」
なるみがた[鳴海潟] (地名)尾張の国、愛知県愛知郡鳴海町の西方の海辺の称。なるみ。なるみのうみ。なるみのうら。太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「潮干(しほひ)に今や鳴海潟」
なるみのうみ (地名)前項に同じ。
なるみのうら (地名)前項に同じ。
なれ (句)零落した果て。おちぶれの極み。なれるはて。
な[儺] (名)(1)「つゐな」に同じ。中務省式「およそ年の終りになを行うは」(2)追儺の時に追い払う疫鬼の称。夫木抄、冬「古年(ふるとし)といなをやらふ音高み春をいとふと人や聞くらむ
ながうた[長歌] (名)(1)和歌の一体。五音・七音の句を三回もしくはそれより多くくりかえし、最後に七音一句をすえて調子をおちつかせるもの。だから、五七、五七、五七、七が最も短い長歌の形式である。ちやうか。諸書に「最後を七音二句で結ぶ」とあるのは誤解を生じやすい。五七、五七、七の短歌に対する語。(2)長唄。江戸時代の初期から起こった歌謡の一。小唄・端唄に比して歌詞のやや長いものの称。また、特に「江戸長唄」の略。歌舞伎踊歌から生まれて、杵屋一門によって宝永・正徳年間頃に成立した三味線楽の一種。多くは、歌舞伎芝居の所作事の地として用いられるが、芝居から独立しても演奏される。また、「大薩摩」「めりやす」の類をもいう。
なれるいし[成れる石] (名)化石。うけらが花、七、長歌「勿来の関の桜木のなれる石を賜ひけるが」
なれるいはほ・・・・・・イワオ[成れる巌] (名)前項に同じ。うけらが花、七、長歌「さくら木の、このなれるいはほこそ」
なれるはて (句)「なれのはて」同じ。謡曲、鉢の木「これこそ、佐野源左衛門の尉常世がなれる果てにて候ふ」
なわのしやう・・・・・・シヨウ[那和の庄] (地名)上野の国、群馬県佐波郡、利根川沿岸一帯の古称。太平記、三十、薩?山合戦「利根川をうち渡つて、那和の庄に着きにけり」
なゐナイ (名)(1)「地」の古語。允恭紀、五年七月「なゐ震る」方丈記「おびただしく大なゐふること侍りき」(2)転じて「地震」の称。方丈記「おそるべかりけるは、ただなゐなりけりとこそ覚え侍りしか」
なゐふるナイフル[地震る] (動、四)地がゆり動く。地震が起る。前項参照。
なをながす・・・オ・・・・・・[名を流す] (句)名を世に流布する。評判になる。竹取「汝ら、君の使ひと名を流しつ」源氏、帚木「末の世にも聞き伝へて、かろびたる名をや流さむと、しのび給ひけるかくろへごとをさへ語り伝へけむ人の、ものいひさがなさよ」
なをり・・・オリ[波折り] (名)波の高く立つこと。また、その所。一説、波の折り返すこと。また、その所。古事記、下「しほせの、なをりをみれば、あそびくる、しびがはたでに、つまたてりてみゆ」=沖の潮の流れる所に立つ波を見ると、そこに遊び寄る鮪のひれのところに(志毘の臣の袖のところに)、自分の愛する少女の立っているのが見える。
なをり・・・オリ[名折り] (名)名折れ。不名誉。駿台雑和、二、仁は心のいのち「もし射損じなば、みかたの名をりたるべし」
なんぐゐ・・・グエ[南華] (書名)「荘子」の別称。南華真経。南華経。なんげ。玄宗皇帝が、荘子に「南華真人」の号を贈ったのでいう。徒然草、十三段「白氏文集、老子のことば、南華の篇」
なんげ[南華]前項に同じ。
ながえ[轅] (名)「長柄」の義。車の軸につけて前方にさし出た二本の長い棒。牛・馬に付けてひかせるためのもの。枕草子、二「すさまじきもの・・・車やどりに入りて、轅ほうとうちおろす」
なんごかう・・・・・・コウ[難語考] (書名)語学書。三巻。橘守部の著。天保二年(一八三一)成る。「古事記」その他の古典の難語、二百二十語を集めて考証し解釈したもの。正称は山彦冊子。
なんざん[南山] (地名)「吉野山」の別称。古事記、序文「然れども、天の時未だいたらず、南山に蝉のごとく蛻(もぬけ)け給ひ、人事共にあまねくして東国に虎のごとく歩み給ひき」
なんせんぶしう・・・・・・シユウ[南瞻部州] (地名)仏教で、済弥山南方の■海中にあるという大洲。この世を指す。なんえんぶだい。太平記、十二、千種殿「何事ぞと見れば、南瞻部洲扶桑国洛陽辺に解脱房といふ一人のひじり出で来て」
なんそうさとみはつけんでん[南総里見八犬伝] (書名)九輯五十三巻、百六冊。滝沢馬琴の作。文化十一年(一八四一)から天保十二年(一八四一)の二十八年間にわたって刊行。室町時代の末期、南総の武将里見義実の女伏姫が八房という犬の精に感じて、仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八徳の権化たる八犬士を生じ、この八勇士が零落した里見家を再興するという筋。全編、勧善懲悪主義によって貫ぬかれている。構想の雄大なる点において日本文学中の白眉。
なんたち[汝達] 「なんぢたち」の略。なんぢら。おまえたち。水鏡、上、神功皇后「ひとへになんたちにまかす」
なんてい[南庭] (名)南方にある庭。紫宸殿の前庭。保元物語、一、官軍方方手分の事「彼らを南庭に召されて」
なんてう・・・・・・チヨウ[南朝] (名)「吉野朝」に同じ。
なんでう・・・・・・ジヨウ[何条] (句)次項の当て字。何として。何で。どうして。平治物語、二、義朝敗北の事「なんでう只今さることの候ふべき」
なんでふ・・・・・・ジヨウ (句)「なでふ」に同じ。(1)何という。枕草子、二「にくきもの・・・なんでふことなき人の、すずろにえがちに物いたう言ひたる」(2)何として。どうして。竹取「なんでふさることか、し侍らむ」
なんでん[南殿] (名)「紫宸殿」の別称。なでん。
ながえ[長柄] (名)(1)長い柄。(2)柄の長い武器の称。特に「槍」の称。(3)柄の長い傘。貴人のうしろからかざすもの。(4)柄の長い銚子。
なんと[南都] (地名)「奈良」の称。「京都」に対していう。
なんと[南都] (寺名)奈良にある「興福寺」の称。延暦寺を「北嶺」というのに対する。古今著聞集、十二、偸盗「南都に、ある人五部大乗経を書きて、春日の宝前にて供養せむと思ひ」
なんなんとす (句)「なりなんとす」の音便。もう少しでなろうとする。(単語の動詞ではない)
なんば[難波] (地名)「なには」の転。催馬楽、なんばの海「なんばの海、漕ぎもてのぼる、小舟大舟」
なんばん[南蛮] (名)中国語では「南方の夷」の意。わが国では、室町時代から江戸時代にかけて、南洋諸島の称。また、それらの地を経て来航したポルトガル人・イスパニア人・オランダ人などの称。南蛮人。
なんばんげきぜつ[南蛮鴃舌] (名)外国人のことばを卑しめていう語。「げき」は声のわるい鳥。
なんばんてつ[南蛮鉄](名)昔、舶来の、精錬した鉄の称
なんぶ[南部] (地名)昔の南部氏の領内をいう。盛岡市およびその北の地方。特に盛岡市をいう。奥の細道「泰衡らが旧跡は、衣が関を隔てて南部口をさしかため」
なんめり (句)「なるめり」の音便。であるらしい。であるようだ。なめり。
なんめんのそん[南面の尊] (名)天子の位。天子は南面して、尊いのでいう。古今著聞集、二、釈教「推古天皇の御宇、廐戸豊耳皇子、東?の位にそはなり、南面の尊にかはりて、専ら万機の政教をたれ」(「東?」は「皇太子」)
なんやうけんのきくすゐ・・・ヨウ・・・スイ[南陽県の菊水] (地名)中国、河南省の南陽県にある川。その川の上流の谷に菊花が流れ落ち、その水を飲むと人が長寿を保つといわれる。太平記、二、俊基朝臣再関東下向事「昔は南陽県の菊水、下流を汲んで齢を延べ、今は東海道の菊河、西岸に宿つて命を終ふ」
なかえとうじゆ[中江藤樹] (人名)江戸時代の儒者。通称は与右衛門。近江の人。近江聖人と仰がれた。はじめ朱子学を修め、のち、陽明学を信奉し、学問の実践躬行をおもんじ「致良知」の説を唱えた。伊予の大洲加藤侯に仕え、のち、郷里に帰り藤樹書院を開いて郷人の徳化につとめた。慶安元年(一六四八)没、年四十。主著、江西文集・翁問答・論語解・大学解。
なんれう・・・・・・リヨウ[何鐐] (名)質のよい、美しい銀。義経記、六、静若宮八幡へ参詣の事「なんれうをもつてつづりたる」
なんゑんだう・・・エンドウ[南円堂] (名)奈良の興福寺にある八角の仏堂。藤原冬嗣が建てたもの。国宝である。大鏡、七、太政大臣道真「それに、このおとどなむ南円堂を建てて、丈六の不空羅索観音をすゑ奉り給ふ」⇒ふくうけんざくくわんおん。
なかがき[中垣] (名)隣家との隔ての垣。土佐日記「中垣こそあれ、一つ家のやうなれば」源氏、夕顔「時時、中垣の垣間見しはべるに」
なかがはおついう・・・ガワ・・・ユウ[中川乙由] (人名)江戸時代の俳人。梅我・麦林舎などとも号す。伊勢の人。芭蕉晩年の門人。元文三年、(一七三八)没、年未詳。
ながかみしも[長裃] (名)武家の礼服。肩衣に長袴を着用すること。上下とも同じ染料を用いる。附図参照。
ながからむこころ・・・ラン・・・[長からむ心] (句)長く変わらないであろう心。千載集、十三、恋三「長からむ心もしらず黒髪の乱れて今朝はものをこそ思へ 侍賢門院堀河」=男の心がいつまでも変わらないであろうということは知らないが、朝起きて男と別れた後で、髪が乱れているように、あれこれと不安な気持になり、けさはいろいろとものを思うことであるよ。
ながぐろ[中黒] (名)矢羽の名。上下が白く、中の黒いもの。附図参照。保元物語、二、白河殿義朝夜討の事「二十四さしたる中黒の矢、頭高に負ひなし」
ながくゑにち・・・エ・・・・・・[長凶会日] (名)長く続く凶会日。⇒くゑにち。宇治拾遺、五、仮字暦あつらへたる事「ながくゑにちのやうに、はこすべからずすべからずと続き書きたれば」(「はこ」は「大便」)
な[汝] (代)おまえ。なんぢ。なれ。古事記、上「その妹いざなみのみことに、ながみはいかに成れると問ひたまえば」万葉。三の二六六「あふみの海(み)夕浪千鳥なが鳴けば心もしのにいにしへえ思ほゆ 柿本人麻呂」⇒しのに。
ながけし[長けし] (形、ク)「長し」に同じ。大和物語「ながけくもたのみけるかな世の中を袖に涙のかかる身をもて」
なかご[中子] (名)(1)物の中心。しん。(2)刀身。こみ。(3)瓜やみかんなどの実のやわらかなところ。(4)斎宮の忌詞で「仏」をいう。
なかごと[中言] (名)かげぐち。中傷。万葉、四の六六〇「汝(な)をと我(あ)をひとぞ離(さ)くなるいで我が君ひとの中言聞きたつなゆめ 大友坂上郎女」
なかざし[中差] (名)箙に盛った尖り矢。上差の鏑の次にさすのでいう。平家、十一、弓流し「与一、今度は中差をとって番ひ、よつぴいてひやうと放つ」
なかさだ (名)上手でも下手でもない、中くらいのこと。一説に、上代風でも現代風でもない、中世の姿のこと。源氏、末摘花「御手はさすがに文字づよう、中さだのすぢにて、上下ひとしく書い給へり」
なかさだむ[仲定む] (動、四)仲を決定する。古事記、下「なかさだめる、おもひづまあはれ」(「ながさだめる」ではない。「那加佐陀売流」である。古代には「さだむ」という四段活用の動詞があったのであろう。あるいは「さだめる」という下一段活用とも考えられる)
なかざはだうじ・・・ザワドウ・・・[中沢道二] (人名)一説「だうに」と。江戸時代の心学者。名は義道。通称は亀屋久兵衛。京都の人。手島堵庵の門に入り心学を学び、のち、江戸へ出て心学を講じた。享和三年(一八〇三)没、年七十八。主著、道二翁道話。
なかさまく[泣かさまく] (句)お泣きになるであろう。古事記、上「なかじとは、なはいふとも・・・うなかぶし、ながなかさまく、あさあめの、さぎりに、たたむぞ」=決して泣かないと、そなたはおっしゃるが・・・うなだれて、そなたはお泣きになるであろう。霧のように?る朝の雨こそ、夫恋いしくて泣くそなたの涙と似ているであろうよ。
なかじまひろたり[中島広足] (人名)江戸時代の国学者・歌人。通称は太郎。橿園(かしその)と号す。熊本藩士。国学の造詣深く、歌人としても一家を成した。元治元年(一八六四)没、年七十二。主著、橿園家集。
ながす[流す] (動、四)(1)盃をめぐらす。宇津保、菊の宴「きんだちみなかはらけ取り給ひ、まうち君たえず流しなどす」(2)流罪にする。左遷する。(3)流布する。ひろめる。竹取「汝ら、君の使ひと名を流しつつ」(4)聞きながす。(5)流産させる。(6)いつづけをする。浮世床、一、上「長くゐなさんな、息子株ぢやああるめえし、流せばとつてもほどがあらあな」
(感)(1)感嘆の意をあらわしたり、注意を促したり、念を押したりする時に発する声。浮世風呂、二、下「どうぞ、あしたも眠てえ時分に、な、それ、ちょいと湯屋ころび」同、四、上「な、わかりましたか」(2)「なるほど」の意に用いる感動詞。浮世風呂、四、上「な、な、へい、へい、作用でござりませうて」
ながすのはま[長洲の浜] (地名)摂津の国の名所。宇津保、嵯峨院「しほたるることこそまされ世の中を思ひながすの浜はかひなく」(「思いながす」から「長洲の浜」にかけ、「甲斐「と「貝」をかけている」
ながすびつ[長炭櫃] (名)長い形のいろり。枕草子、九「心にくきもの・・・おほとなぶらは参らで、長炭櫃いと多くおこしたる、火の光に、御几帳の紐のいとつややかに見え」
なかせんだう・・・・・・ドウ[中仙道、中山道] (名)略して「仙道」ともいう。京都から関東地方へ通ずる主要な街道。近江から美濃を経て、木曾谷を通り、信濃に入り、碓氷峠を越えて関東平野へ出、江戸の板橋駅につく。この間に約七十の宿駅を置く。
ながそで[長袖] (名)(1)たけの長い袖。大袖。太平記、二十一、天下時勢粧事「延尉・北面、路次に行きあひたるを見ても、あはや例のながそで垂れたる魚板烏帽子(まないたゑぼし)よと言ひ」(2)公卿・僧侶・医者・学者らの称。常に長い袖をひらめかし、袖くくりをしないことから起こった語。長袖者流。
なかぞら[中空] (名)(1)空の中ほど。中天。伊勢物語「なかぞらに立ちちゐる雲のあともなく身のはかなくもなりにけるかな」(2)心が落ちつかないで、うわのそらであること。古今集、十一、恋一「初雁のはつかに声を聞きしよりなかぞらにのみ物を思ふかな 凡河内躬恒」(3)中途はんぱなこと。後撰集、十一、恋三「かつらぎや久米路の橋にあらばこそ思ふ心をなかぞらにせめ」⇒かつらぎのかみ。(4)どちらつかずのこと。どうとも決まらぬこと。源氏、柏木「いづかたにも寄らず、中ぞらに憂き御すくせなりければ」(5)おろそか。なおざり。疎略。徒然草、百九十段「いかなる女なりとも、明け暮れ添ひ見むには、いと心づきなく、憎かりなむ。女のためもなかぞらにこそならめ」
ながた[長田] (名)長い田。一説、「長」も「狭」も美称で、天上にある大御神の御営田をいう(平田篤胤)。神代紀、上「一書に曰く・・・その稲種を以って初めて天の狭田(さなた)および長田に殖(う)う」
なかだち[仲立・中立](名)(1)媒介。仲介。源氏、東屋「中だちの、かくことよくいみじきに、女はましてすかされたるにやあらむ」(2)内応すること。うらぎり。天武紀、元年六月「われ詐りて高市の皇子となのりて、数十騎を率ゐて飛鳥寺の北路より出でて営に臨まむ。すなはち汝なかだちせよ」
ながたのくに[長田の国] (地名)摂津の国の長田の地。神功紀、仲哀天皇十年二月「事代主尊をしへまつりて曰く、吾を御心長田の国にまつれ」(「御心長く」から「長田」にかける)
なかち[仲子] (名)兄弟の仲に位するもの。なかちこ。欽明紀、元年正月「長(このかみ)を箭田珠勝大兄皇子と曰ふ。仲(なかち)を訳語田渟中倉太珠敷尊と曰ふ」
ながぢ・・・ジ[長道] (名)道程の長い道。遠い道。長途。万葉、三の二五五「あまざかるひなの長道ゆ恋ひ来れば明石の門(と)より大和島見ゆ」⇒あかしのと
なかちこ[中子] 「なかち」に同じ。
(動詞、未然形)完了の助動詞「ぬ」の未然形。古今集、一、、春上「今日こずは明日は雪とぞ降りなまし消えずはありとも花と見ましや 在原業平」(降ってしまうであろう)
なかつえ[中つ杖] (名)「つ」は「の」に同じ。木の中ほどにある枝。古事記、中「なかつえの、ほつもり、あからをとめを、いざささば、よしらな」=中の枝にだけ残って赤くなっている果実のような紅顔の美少女を、さあおいでとお誘いになったら、よろしいでしょう。
なかつかさ[中務省] (名)宮中の政務を統括する省。八省のうち、最も重い省。なかのまつりごとのつかさ。
なかつかさ[中務] (人名)平安時代の女流歌人。三十六歌仙の一人。醍醐天皇の御弟中務卿敦慶親王の王女。「後撰集」およびそれ以後の歌集に、多くの歌が収められている。また、「中務集」の家集もある。生没年未詳。
ながつき[長月] (名)陰暦九月の称。語義未詳。夜の長い月というのも信じがたい。また、稲熟月(いなあがりづき)の約に至っては、なお信じがたい。古今集、十四,恋四「今こむといひしばかりに、長月の有明の月を待ちいでつるかな 素性法師」=思う人が、すぐに来ると言ってよこしたばかりに、それをまに受けて待っていたら、とうとう九月の有明月の遅い月の出をみてしまったことであるよ。
なかつに[中つ土] (名)「つ」は「の」に同じ。中ほどにある土。まんなかの土。古事記、中「そのなかつにを」
ながつぼね[長局] (名)「つぼねまち」に同じ。女官の住むつぼねの長くつづいているところの称。長く一棟に造って、幾つにも仕切った女官の住居。
ながて[長道] (名)「ながぢ」に同じ。万葉、四の七八一「ぬばたまの昨夜(きそ)は還しつ今夜(こよひ)さへわれを還すな路のながてを 大伴家持」
ながとこ[長床] (名)板敷の上に座を一段高くして、長く畳を敷いた処。栄花、本雫「寺房のながとこのやうに」
ながとのうら[長門の浦] (地名)安芸の国、広島県安芸郡倉橋島の南、今の本浦をいう。万葉、十三の三二四三「をとめらが麻?(をけ)に垂れたる、績麻(うみを)なす、長門の浦に」
ながとのしま[長門の島] (地名)前項の「倉橋島」をいう。万葉、十五の三六一七、詞書「安芸の国、長門の島にて舶を磯辺に泊(は)てて作れる歌五首」
(助詞)(1)第一類、格助詞。「の」に同じ。万葉、二十の四三八五「行先(ゆこさき)に浪な音(と)動(ゑら)ひ」(2)第四類、終助詞。(1)一般の動詞には終止形に、ラ変の動詞には連体形について禁止の意を示す。家に帰り来(く)な。ゆめ忘るな。卑怯にてあるな。(2)活用語の終止形に付いて、感動・詠嘆、などの意を示す。せみの声聞けば悲しな。花の色はうつりにけりな。(3)活用語の未然形に付いて、自己の希望の意を示す。い出でて行かな。救ひ給はな。袖は降りてな。(4)念を押すに用いる。かぐや姫に住み給ふとな。
なかとみのよごと[中臣の寿詞] (名)天皇践祚の日、中臣氏が大御代をことほぎ奉るために奏することば。祝詞に類する。(「中臣」は神と君との間をとりもちやわらげる意から起る氏の名。天孫啓降臨に従って来たあめのこやねのみことを祖とし、常に祭祀をつかさどり、天業を輔翼氏、鎌足に至って藤原氏となる)
なかとり[中取] (名)食器その他、祿の物などを載せる時に用いる器。なかとりのつくゑ。宇津保、俊蔭「蘇枋の脚つけたるなかとり五つに練絹積みて、御前に舁(か)き出でて」
なかなか (副)(1)かえって。むしろ。結局。源氏、桐壺「いと引き越さまほしうおぼせど、御うしろみすべき人もなく、また世のうけひくまじきことなれば、なかなかあやふくおぼし憚りて」(2)すこぶる。ことのほか。「なかなか足も疲れ侍り」(3)容易に。とても。「なかなか人にうちあけず」
なかなか (感)はい。さよう。もちろん。その通り。肯定の返事にいう語。狂言、吟婿「かうさへ申すれば、ようござりますか。なかなか」
なかなかでもない (句)とほうもない。けしからない。とんでもない。狂言、さくらあらそひ「歌などにも、さくらとは詠まれたれども、はなとは詠まれませぬ。なかなかでもないことを言いをる。その歌を詠うで聞かせい」
なかなかなる (連体詞)反対な。あやにくな。源氏、桐壺「わが身は、か弱くものはかなきありさまにて、なかなかなるもの思ひぞし給ふ」
なかなかに (副)かえって。むしろ。万葉、三の三四三「なかなかに人とあらずは酒壺になりにてしかも酒に染(し)みなむ 大伴旅人」拾遺集、十一、恋、一「逢ふことのたえてしなくばなかなかに人をも身をも恨みざらまし 中納言朝忠」=逢うことが絶えてないならば、かえって、あの人をも自分をも恨むことがないであろう。稀に逢うことがあるので、かえって心の苦しみが増すことであるよ。
なかなかのこと(句)もちろんのこと。いうまでもないこと。謡曲、安宅「さては、われらをも是にて誅せられ候はむずるな。なかなかのこと」
ながなきどり[長鳴鳥] (名)「鶏」の異称。声を長く引いて鳴く鳥の義。⇒とこよのながなきどり。」
ながなきのとり[長鳴きの鳥] (名)前項に同じ。夫木抄、冬三「庭火たき常世にありしながなきの鳥のね聞けば明けぬこの夜は」
なかについて[中に就いて] (句)多くの中に取りわきて。特に。なかんづく。なかにつき。なかにつきて。源氏、帚木「なかについても、女のすくせは、うかびたるなむあはれに侍るなどきこえさす」

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