- ひ -
ひ[妃] (名)きさき。皇后の次位にある後宮。
ひあやふし…アヤウシ[火危し] (句)昔、禁中などで、夜番の職員が巡行する時、人を警戒するために呼び歩いた語。今の「火の用心」に当たる。源氏、浮舟「あやしきをのこ声どもして、火あやふしなどいふも、心あわただしければ」
ひきめのばん[蟇目の番] (句)蟇目を射て妖魔を調伏するための番衆。平家、五、もののけ「昼五十人、夜百人の番衆を揃へ、蟇目の番と名づけて、蟇目を射させられけるに」
ひきもの[引き物] (名)(1)引出物のうち、特に膳部に添えて出す肴または菓子の類をいう。(2)戸などに付ける引き手。(3)とばり。帳帷。源平盛衰記、三十五、木曾惜二貴女遣一事「御運ははや尽き給ひにけりとて、引き物の前にて、これも腹切つて臥しにければ」
ひきもの[疋物] (名)一疋を単位とする織物。
ひきもの[弾き物] (名)弦楽器の総称。箏・琵琶・和琴の類。源氏、若菜「置き物の御厨子、ひきもの、ふきもの」
ひきもの[挽き物] (名)ろくろで挽き彫って造った器の総称。
ひきやく[飛脚] (名)昔、急用の事件・信書・荷物などを遠隔の地へ通ずる人夫の称。
ひきやる[引き破る] (動、四)ひきやぶる。ひっさく。
ひきやる[引き遣る] (動、四)ひきのける。おしやる。源氏、夕顔「見奉り送り給ふとおぼしく、御木丁ひきやりたれば」
ひきよう[比興] (名)(1)事を物に託して興ずること。また、おかしく興ずること。(2)「非興」の義。不都合なこと。古今著聞集、十一、画図「比興のことなりとて、それより供米の沙汰きびしくなりて、不法のことなかりけり」
ひきよく[秘曲] (名)容易に人に授けない秘伝の曲。琵琶の流泉・啄木、笙の太食調・入調曲の類。
ひいづヒイズ[秀づ] (動、下二)「穂出づ」の転。(1)穂が出る。ひづ。(2)ぬきんでる。すぐれている。まさる。
ひきよぐ[引き過ぐ] (動、上二)ひきたがえる。予定または予想と違う。増鏡、十三、今日のひかげ「おりゐの御門も御子あまたおはしませば、坊になど思しけるをひきよぎぬる、いと本意なし」=退位された天皇にも皇子がたくさんいられたので、一人は太子になどとお考えになっていられたのに、それがすべて予想に反したので、非常に残念である。
ひきり[火切・火鑽] (名)上代、枯れた檜などの板に孔をあけ、その孔に棒を当て、力を入れて、はげしく揉んで火を出すこと。
ひきりうす[火鑽臼] (名)火切に用いる台をいう。古事記、上「海布(め)の柄を刈りて、ひきりうすを作り」
ひきりぎね[火鑽杵] (名)火切に用いる棒をいう。古事記、上「海■(こも)の柄をひきりぎねに作りて、火を鑽り出でて」
ひきわた[引き綿] (名)綿入などの綿の切れないように、その上に薄く真綿をひきおおうこと。また、その真綿。
ひく[引く] (動、四)(1)抜く。引き抜く。「小松を引く」(2)引出物を授ける。駿台雑話、三、阿閉掃部「これをしるしにとて、腰の脇さしを抜いてひきける」(3)その他の意味は、現代語の意味と、だいたい同じである。
びく[比丘] (名)梵語Bhiksuの音写。男子の僧侶をいう。「比丘尼」の対。駿台雑話、一、釈寂室の秘訣「たとひ命を殞(おと)すとも、比丘の模範を失はじと、これ第一の覚悟なりとぞ」
びく (名)(1)釣などでとった魚を入れる籠。(2)耳たぶ。太平記、九、主上上皇御沈落事「耳のびくが薄くおはしけると欺いて」
ひくあみの [引く網の](枕詞)網の目、網のうきということから「目」「憂き」に冠する。続古今、十二、恋二「ひくあみの目にたまらぬは涙なりけり」玉葉集、十一、恋三「ひくあみの憂けくに人を恨みてぞ経る」
びくに[比丘尼] 梵語Bhiksuniの音写。女子の僧。あま。男子の僧を「比丘」というのに対する。
ひいづヒイズ[秀づ] (動、下二)「穂出づ」の転。(1)穂が出る。ひづ。(2)ぬきんでる。すぐれている。まさる。
ひくまの[引馬野] (地名)遠江の国、静岡県浜松市の西部の野原。三方原に接する。万葉、一の五七「引馬野ににほふ榛原(はりはら)入り乱り衣にほはせ旅のしるしに」
ひくまのしゆく[引馬の宿] (地名)今の浜松市の古称。十六夜日記「今宵は引馬の宿といふ所にとどまる。この所の大方の名をば浜松とぞいひし」
ひくらうど…クロウド[非蔵人] (名)蔵人所の下に属し、殿上に侍し、侍臣の駆使に供する職。六位の中から選ばれる。蔵人でないが、蔵人のように昇殿を許されるのでいう。やがて、蔵人になる身分である。
ひぐらし[日暮らし] (副)一日中。ひねもす。伊勢物語「暮れがたき夏のひぐらしながむればそこはかとなくものぞ悲しき」徒然草、序段「つれづれなるままに、日ぐらし硯に向かひて、心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ」=手持無沙汰で退屈なのにまかせて、一日中、机に向かって、筆をとって、何のあてどもなく書きつけていくと、自分ながらおかしいと思うほど、妙な、ものぐるわしい気持になって、いろいろの感興がわいて来ることである。
ひぐれのうまや[ひぐれの駅] (地名)未詳。金子元臣著「枕草子評釈」には「或は呉の駅か」としてある。枕草子、十「うまやは、梨原・ひぐれの駅」
ひくわん…カン[被官] (名)(1)被管の官の義かという、附属の官。省に管せられる寮・司などの称。(2)武家時代、大小名に隷属している武士の称。
ひげこ[鬚籠] (名)竹などを編み残した端が鬚のように出ている籠。どじょうかご。大和物語「鬚籠をあまたせさせ給ひて、とし子にいろいろに染めさせ給ひけり」(「とし子」は藤原千兼の妻の名)
ひけし(形、ク)気おくれがしているさまである。気がひけているさまである。大鏡、七、太政大臣道長「いささかひけし御心やはとほさせ給へりし」(古くは、形容詞の終止形をも体言に冠して用いた。「同じ折」の「同じ」の類)
ひけた[引田] (地名)「ひきた」の誤訓。本居宣長の誤訓である。⇒ひきた(引田)。
ひけとりの[引け鳥の] (枕詞)一羽が飛び立つのに引かれて、共に立つ鳥の意。一説、わたりどり。同音の「ひけ」に冠する。古事記、上「ひけとりの、わがひけいなば、なかじとは、なはいふとも」=私が多くの部下を引き連れて出て行ったら、泣きはしないと、そなたは言うが。
ひこじろふヒコジロウ (動、四)とやかくして引く。さまざまに引く。引きずる。ひっぱりあう。源氏、槿「やや久しくひこじろひ、あけて入り給ふ」紫式部日記「権中納言、すみの間の柱もとに寄りて、兵部のお許ひこじろひ、聞きにくき戯れ声も殿のたまはす」
ひいな[雛] (名)「ひひな」の音便。⇒ひひな。
ひこぢヒコジ [夫](名)「ひこ」は男子の美称。「おっと」の古語。古事記、上「ここに、そのみ妻(め)、むくの木の実と赤土(あかに)とを、そのひこぢに授けたまふ」
ひこづらふヒコヅラウ (動、四)ひっぱる。ひきずる。ひっぱりあう。ひこじろふ。古事記、上「ひこづらひ、わがたたせれば」=(しめてある戸を)引っぱって、私が立っていると。万葉、十三の三三〇〇「そほ舟に綱取りかけ、ひこづらひ、ありなみすれど」=朱ぬりの舟に綱をかけ、強く引っぱって、いやだと言いつづけるけれど。
ひこばえ[蘖] (名)「孫生え」の義という。伐った木の株から生じた芽。
ひこばえ[比古婆衣] (書名)考証。二十巻。伴信友の著。弘化四年(一八四七)に、一、二巻成り、漸次成る。「日本書紀」その他の史書および言語に関する考証を集録したもの。
ひごふ…ゴウ[非業] (名)仏教の語、前世の悪業でないこと。その罪でないこと。非命。「非業の最期を遂ぐ」
ひこぼし[彦星] (名)牽牛星。枕草子、十「星は…ひこぼし」
ひこみこ[彦御子] (名)男子の御子。皇子。
ひごんき[緋金錦] (名)金を織りつけた錦。「金襴」の類。宇津保、吹上、上「二、三十万疋の綾・緋金錦を数へ納めても、御飾りに乏しかるべしと急ぎ」源氏、梅枝「高麗人の奉れりけるあや・ひごんきなど、今の世の物に似ず」
ひざう…ゾウ[秘蔵] (名)大切にすること。秘めておくこと。珍重して養うこと。古今著聞集、十六、興言利口「沙金といひて、ならびなき美女ありけり。兵庫頭仲正なむ思ひてひざうしけり」同、十八、飲食「右府、柑子を箸にさして、桴(ばち)にして、ひざうの手を尽くして舞はれたりける」
ひざう…ゾウ[非常] (名)常でないこと。ひじょう。源氏、手習「これは人なり。更にひざうのけしからぬものにあらず」
ひいふつと (副)弓の弦を放れた矢が風を切って飛んで行き、物にあたる音にいう語。「ふっと」の上に「ひい」をつけ、「一い二っと」に通わせたもの。平家、十一、那須与一「扇の要ぎは一寸ばかり置いて、ひいふつとぞ射切つたる」
ひざうに…ゾウ…[非常に] (副)非常に。枕草子、七「なほこのことのたまへ。ひざうにをかしきこともこそあれといふを」
びさう…ゾウ[美相] (名)美しい相貌。源氏、帚木「びさうなき家刀自」
ひさうのはちまんごふ…ソウ…ゴウ[非想の八万劫] (句)非想非非想天に生まれた者の年齢が八万劫であること。次項参照。平家、灌頂、六道「非想の八万劫、なほ必滅の憂へに逢ひ」=非想非非想天に生まれて年齢が八万劫に達しても、やはり三界を出ないから必滅無常の憂えに逢い。
ひさうひひさうてん…ソウ……ソウ…[非想非非想天] (名)仏教で、三界二十八天中の最高の天。有頂天。すべての雑念・欲望から離れた境地で、ここに生まれた者は、年齢が八万劫に達するという。太平記、十六、宗応蔵主事「その声、天に響きて、非想非非想天までも聞えやすらむとおびただし」
ひさかたの[久方の] (枕詞)「日さす方」「久しく堅き方」「日さかる方」「ひさごがた」など諸説があるが。未詳。「天」「雨」「月」「空」「雲」「光」「都」などに冠する。「都」は「月の都」の略から、古事記、中「ひさかたのあめのかぐやま」万葉、四の五二〇「ひさかたの雨も降らぬか」同、十三の三二五二「ひさかたの都をおきて草枕旅ゆく君を」古今集、二、春下「ひさかたの光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ 紀友則」=このように、うらうらとのどかな春の日に、静かな心もないかのように、あわただしく、さくらの花が散っているよ。
ひさぎ[楸] (名)「きささげ」の別称。万葉、六の九二五「ぬばたまの夜のふけぬればひさぎ生ふる清き河原に千鳥しば鳴く」(「しばなく」は「しきりに鳴く」)
ひさく (名)「ひしゃく」のこと。徒然草、二百三十二段「古きひさくの柄ありやなどいふを見れば」
ひさぐ[鬻ぐ] (動、四)売る。販売する。徒然草、百三十七段「されば、棺をひさぐもの、作りてうち置く程なし」
ひざくりげ[膝栗毛] (名)自分の膝を栗毛の馬に代えてゆく意。徒歩で旅行すること。今日の「テクシー」に当たる語。
ひざくりげ[膝栗毛] (書名)⇒とうかいだうちゆうひざくりげ。
ひう (動、下二)ワ行下二段の語。「与える」の意。古事記、中「こなみが、なこはさば、たちそばの、みのなけくを、こしきひゑね」=年増が菜(食物)をくれといったら、立ち杣の木の実のないのを、たくさんやれ。(「ひきすう」の意に解し、「与えよ」と解すべきであろう)
ひさげ[提・提子] (名)酒などを入れて、物に注ぐ器。多くは曲げ物で、小さな桶のようにつくり、つるをつける。金属製のもある。枕草子、九「心にくきもの…ひさげの柄のたふれ伏すも、耳こそとどまれ」
ひさご (名)水などを汲む器。「ひさく」「ひしゃく」は、この語から出たもの。次項参照。更級日記「酒壺にさし渡したるひたえのひさごの、南風吹けば北になびき、北風吹けば南になびき」⇒ひたえ。
ひさご[瓢、瓠] (名)(1)ひょうたん・ゆうがおなどの総称。また、その果実。なりひさご。(2)水・酒などを汲む器。もと、瓢の実を割いて用いたことから起る名。のち、木を刳って作り、今のひしゃくに似て深いものをいう。また、ひしゃくのこと。前項参照。
ひさご (書名)俳書。一冊。浜田珍磧の編。元祿三年(一六九〇)成る。芭蕉が、この年の春、江戸から伊賀へ帰る途中、湖南に滞在中、珍磧の求めに応じて撰せしめた句集。「俳諧七部集」の一。
ひさつ[飛札] (名)飛脚に託した急用の手紙。
ひざつき[膝突・膝衝] (名)昔、宮中の公事などの際、地上にひざまづく時、下に敷く三尺四方ほどの布・うすべりなどの敷き物。徒然草、百二段「近衛殿、着陣し給ひける時、膝突を忘れて」
ひさめ[大雨] (名)「直雨(ひため)」の転かという。おおあめ。豪雨。万葉、二の二三〇「たまほこの、道来る人の、泣く涙、ひさめに降れば、白妙のころもひづちて、立ちとまり」
ひさめ[氷雨] (名)「雹(ひよう)」に同じ。ただし、「記紀」などにある「氷雨」「大氷雨」は、「雹」であるか「豪雨」であるか未詳。
ひさんぎ[非参議] (名)三位以上で参議とならない人。また、参議であった人がその任を辞したもの。また、四位で年功などにより参議に任ぜられる資格のある人。源氏、帚木「なまなまの上達部よりも、非参議の四位どもの、世のおぼえ口惜しからず」
ひじ[非時] (名)僧家で、正午すぎの食事をいう。
ひうち[火打・燧] (名)石と金とを打ち合わせて、火を発する具。古事記、中「その姨(みをば)やまと姫の命の賜へる御袋の口を解きあけて見給へば、そのうちに火打ぞありける」
ひじきも (名)海藻「ひじき」の古称。伊勢物語「昔、男ありけり。懸想じける女のもとに、ひじきもといふものをやるとて」
ひしきもの[引敷物] (名)「ひしき」ともいう。敷き物。しとね。伊勢物語「思ひあらば葎の宿に寝もしなむひしきものには袖をしつつも」(「ひしきもの」に「ひじきも」をかけている)
ひしぐ[拉ぐ] (動、四)しっかりおさえて折る。おしつぶす。また、勢いをくじく。古事記、上「若葦をとるが如くして、つかみひしぎ投げはなちたまへば、即ち逃げいにき」
ひしぐ[拉ぐ] (動、下二)前項の他動。しっかりおさえられてつぶれる。おしつぶされる。また、勢いをくじかれる。宇治拾遺、十一「草の葉の、蛙の上にかかりければ、蛙ひしげて死にたりけり」
ひしづめのまつりヒシズメ…[鎮火祭] (名)昔、陰暦の六月と十二月の晦に、宮城の四方の外角で、卜部が火を切って行う、火災を防ぐ祭。祝詞「ひしづめのまつり」
ひしと (副)(1)力強くおされて鳴るさまにいう語。みしみしと。万葉、十三の三二七〇「この床のひしと鳴るまで」(2)はげしく。つよく。きつく。ゆるみなく。「腕をひしと握り」
ひじに[干死に] (名)飢えて死ぬこと。うえじに。平家、三、頼豪「頼豪、つひに干死にに死ににけり」
ひしぬ[干死ぬ] (動、ナ変)飢えて死ぬ。餓死する。
ひしやうぐん…シヨウ…[裨将軍] (名)副将軍。副将。太平記、十、鎌倉合戦事「大島讃岐守守之を裨将軍として」
ひしやく[飛錫] (名)錫杖を飛ばし歩く義。僧の旅行。行脚。雲水。
ひうちいし[火打石・燧石] (名)前項に用いる石。石英の一種。
びしやもん[毘沙門] (仏神名)梵語Viasravanaの音写転。四天王の一。夜叉・羅刹を統領して北方を守護し、よく財宝を施与するという。毘沙門天王。毘沙門天。多聞天。
ひしゆ[匕首] (名)短い剣。懐剣。あいくち。
ひしゆ[■蒭] (名)梵語Bhiksuの音写。印度の芳草の名であるが、五徳を備えているというところから「比丘・僧侶」の意に用いる語。ひっすう。ひっしゅ。平家、四、南都返牒「かの唐家清涼、一山の■蒭、なほ武宗の官兵を返す」
びしゆかつま[毘須羯磨] (仏神名)梵語Visvakarmanの音写転。帝釈天の臣下で、よく仏像を刻むという神。平家、五、奈良炎上「毘須羯磨が栴檀を刻みしも、わづかに等身の御仏なり」
ひしよく[非職] (名)官にあって、勤めのないこと。また、現任でないこと。非役。
ひじり[聖] (名)「日のごとく知る」義という。(1)聖人。聖天子。古事記、下「かれ、その御世をたたへて、ひじりのみ世とまをす」(仁徳天皇の仁徳をたたえて、聖帝の御代という)(2)転じて、天皇の義。万葉、一の二九「かしはらのひじりの御代ゆ」(3)すべて、人にすぐれた人の称。古今集、序「柿本の人麻呂なむ、歌のひじりなりける」(4)高徳の僧の称。また、一般に僧の称。(5)清酒の異称。中国で、清酒を「聖人」、濁酒を「賢人」と言ったのにもとづく。万葉、三の三三九「酒の名をひじりと負(おほ)せしいにしへの大きひじりの言(こと)のよろしさ 大伴旅人」(下の「ひじり」は聖人)
ひじりごころ[聖心](名)(1)僧たる人の心。道心。(2)出家しようとする心。源氏、幻「御聖心の深くなり行くにつけても」
ひじりざま[聖様] (名)坊主くさいこと。
ひじりづか…ズカ[聖柄] (名)装飾のない、坊主頭に似た柄。平家、二、小松教訓「白き大口踏みくくみ、聖柄の刀押しくつろげてさすままに
ひじる (動、四)出家する。坊主くさくなる。
ひしろのみや[日代の宮] (名)大和の国、奈良県磯城郡纏向(まきむく)村にあった、景行天皇の皇居。古事記、下「まきむくのひしろのみやは、朝日の日照る宮、夕日の日輝(ひが)ける宮」
ひずかし(形、シク)心がねじけている。みだりがわしい。駿台雑話、五、雪は身のあや「中古までは、風俗淳素にして、賃利にひずかしからず」
ひうちがま[火打鎌] (名)火打に用いる金属。
ひずかしなり (形動、ナリ)意は前項に同じ。梅園叢書、下、善人悪人盛衰夭寿の解「いかにひずかしなる人とも、早く起きよと言ひしが忠と思ふべし」(「とも」は「なりとも」)
ひすまし[樋すまし](名)便所などの掃除をつかさどる下賤な女。「すまし」ともいう。「樋」は「■」の当て字で、便器のこと。増鏡、十八、むら時雨「女房の曹司曹司より、ひすましめく女(め)のわらはなど、我先にと走り出で」
ひずみ[歪] (名)ゆがみ。いびつ。
ひずむ[歪む] (動、四)ゆがむ。いびつになる。ねじれる。
ひぜんふどき[肥前風土記] (書名)古風土記の一。和銅の勅命によって撰進されたものであるが、成立年代未詳。肥前の国の国号の由来、各地の名称の由来、各地の伝説などをしるし、上代説話文学を含む文献として重要な位置を占めている。
ひそく[秘色] (名)中国、唐代の天子の用いたもので、民衆の用いることを禁じたことに起る名。(1)中国の越国産の青磁の磁器。源氏、末摘花「御だい、ひそくやうのもろこしのものなれど」琴後集、十「椎の葉も、ひそくの杯(つき)も、物を盛るには心ひとしく」(2)衣の染色。るり色。
ひそでら[比蘇寺・比曾寺] (寺名)大和の国、奈良県吉野郡大淀町大字比曾にあった寺。正しくは「世尊寺」。今、その地に遺跡がある。水鏡、中「御門、この木にて観音を作りて、ひそ寺になむ置き奉り給ひし」
ひそみ[顰] (名)眉のあたりに皺を寄せること。
ひそみにならふ……ナラウ[顰に倣ふ] (句)よしあしの区別なく、みだりに人の真似をする。
ひそむ[顰む](動、四)(1)悲しんで顔をしかめる。いやがって眉のあたりに皺を寄せる。(2)老いて頬の肉が落ち、口がゆがむ。
ひそめく (動、四)ひそひそと語る。ささやく。
ひた[引板] (名)「ひきいた」の約。「なるこ」のこと。
ひうちぶくろ[火打袋] (名)火打道具を入れて、刀につけて携帯する小さい袋。折り焚く柴の記、上、取繩の教訓「われ昔の職にありし程は、この物をひうち袋に入れて身に随へたりき」
ひた (接頭)「一(ひと)」の転かという。「ひとむきに、他の物をまじえない」「直接に」などの意を名詞に冠する語。「ひたくれなゐ」「ひたかぶと」「ひた柄」
びた[錏] (名)粗悪な銭の称。「びた一文なし」
ひたえ[ひた柄] (名)(1)その物を直接に柄にしたもの。更級日記「ひたえのひさご」⇒ひさご。(2)ぴたりと付いた柄。
ひたおもて[直面] (名)直接にさしむかうこと。無遠慮で露骨なこと。源氏、橋姫「明かうなりゆけば、さすがにひたおもてなるここちして」
ひたかぶと[直冑・混冑] (名)一同揃って甲冑に身をかためること。また、その人ども。平家、七、忠度都落「混冑七騎取つてかへし」(原文の「混甲」は用字の誤り)
ひたかみのくに[日高見の国] (地名)(1)上代の蝦夷の根拠地。北上川の流域、仙台平野一帯の称か。「きたかみ」も「ひたかみ」の転訛かと思われる。景行紀、二十七年二月「東夷の中、日高見の国あり」(2)大和の国(日本)の別称。世界の国の中央にある最高の国の義。祝詞、六月晦大祓「大倭(おほやまと)日高見の国を、安国(やすくに)と定めまつりて」
ひたき[火焚] (名)昔、家の内外を照らし、または警護するために、夜間に、篝火または庭火などを焚くこと。また、その人。古事記、中「ここに、その御ひたきのおきな、御歌をつぎて歌ひて曰く」
ひたきや[火焚屋](名)衛士などが、篝火や庭火を焚いて夜を守る小屋。また、公事などのある時、火を焚く小屋。枕草子、七「なほ世にめでたきもの…火焚屋よりさし出でて」
ひたくれなゐ[直紅] (名)みなくれない。全体にくれない。
ひたくろ[直黒] (名)まっくろ。竹取「十市の郡にある山寺の、びんづるの前なる鉢の、ひたくろに墨つきたるをとりて」(まっくろに、すすけたのを)
ひたす[養す] (動、四)養い育てる。古事記、上「その御子をひたしまつる縁(よし)によりて、そのいろと玉依姫につけて、歌をなもたてまつりける」
ひ[妣] (名)なくなった母。亡母。「考」の対。折り焚く柴の記、中、御遺書及御葬送「考妣に喪するがごとくなどいふことを聞きしことはあれど」(「考」は亡父)
ひえ[比叡・日枝] (地名)「比叡山」の略。古今集、二、春下「ひえに登りて帰りまうできて詠める 紀貫之」蕪村の句「うぐひすの日枝をうしろに高音かな」
ひたす[浸す・漬す] (動、四)(1)水に入れる。(2)しめらせる。ぬれされる。源氏、葵「汗におしひたして、額髪もいたう濡れ給へり」
ひたた (副)わずかに。斉明紀、三年九月「牟婁の湯に往きて…ひたたかのところを見るに、病おのづからのぞこりぬ」
ひたたく (動、下二)みだりがわしくある。つつましからぬさまである。源氏、須磨「人しげくひたたけたらむ住まひは、いと本意なかるべし」太平記、二十二、佐佐木信胤成二宮方一事「ひたぶるに、打ちひたたけて、あやにくなる里居のみまかでければ」
ひたたれ[直垂] (名)(1)もと、庶人の服。のち、礼服となる。方領で袖くくりがあり、組紐の菊綴・胸紐をつける。室町時代以後は、長袴をつけた。(2)「ひたたれぶすま」の略。今昔物語、二十六「入りて寝むとするに、そこに綿四、五寸ばかりあるひたたれあり」
ひたたれぶすま[ひたたれ衾] (名)襟と袖とをつけ、厚く綿を入れた夜具。ひたたれ。
ひたちおび[常陸帯] (名)昔、常陸の鹿島神社祭礼の際、男女が布の帯二本を用意し、一本には思う相手の名を書き、一本には自分の名を書いて神に供え、その帯を折り返して名を隠し、その端を神主に結ばせ、離れ離れに結ばれれば凶、まるく結ばれれば吉と占なうこと。源氏、竹河「みちのはてなるひたちおびのこと、手習ひにも、ことぐさにもするは、いかに思ふやうにかありけむ」
ひたちおびの[常陸帯の] (枕詞)前項参照。常陸帯を腰にまとう時に両端が互に別れるが、また相会うので「逢う」に冠する。新古今、十一、恋一「東路の道のはてなる常陸帯のかごとばかりも逢はむとぞ思ふ」続後拾遺、十三、恋三「結びおく契り朽ちずば常陸帯のまためぐり逢ふ末や待たまし」
ひたちふどき[常陸風土記] (書名)古風土記の一。和銅の勅命によって撰進されたもの。成立年代・編者未詳。■歌・羽衣伝説・大樹伝説または古代人の常世の国に関する概念など、説話文学の資料を多く含む。
ひたづかひ……ズカイ[ひた使ひ] (名)従者を連れない単独の使い。古事記、上「かれ、いま諺に、きぎしのひたづかひといふ」
ひたつち[ひた土] (名)土に直接であること。地べた。万葉、五の八九二「ひたつちに藁解き敷きて」
ひえい[比叡] (地名)「比叡山」の略。源氏、夕顔「かの人の四十九日、しのびて比叡の法華堂にて」
ひたと (副)(1)ぴったりと。「ひたと添ふ」(2)ぱったりと。急に。蕪村の句「こがらしやひたとつまづく戻り馬」
ひだのほそえ[斐太の細江] (地名)大和の国、奈良県高市郡鴨公村大字飛騨の地にあった小さな入江か。万葉、十二の三〇九二「白檀弓(しらまゆみ)斐太の細江の菅鳥(すがどり)の妹に恋ふれや寝(い)を寝かねつも」
ひたぶる (名)一途。ひとすじ。ひたみち。徒然草、一段「ひたぶるの世捨人は、なかなかあらまほしき方もありなむ」=名利の念から離れた一途の遁世出家となると、かえって好ましく思われる点も、きっとあるであろう。
ひたぶるに (副)全く。ひたすら。ひとすじに。源氏、桐壺「灰になり給はむを見たてまつりて、今はなき人と、ひたぶるに思ひなりなむ」
ひたみち[ひた道] (名)一途。ひとすじ。ひたぶる。宇津保、俊蔭「ひたみちなるおこなひに思ひなりなむこし嬉そからめ」
ひたみちに[ひた道に] (副)一途に。ひとすじに。ひたすら。源氏、榊「よろづのあはれを思し捨てて、ひたみちに出で立ち給ふ」
ひため (名)大雨。ひさめ。垂仁紀、五年十月「朕今日夢むらく…ひため狭穂よりふりて面を濡らしつとみつる」
ひたもの (副)(1)いっぱい。あふれるほど。枕草子、四「大きなる折櫃など持たせて、これに白からむ所ひたもの入れて持て来(こ)」(「白からむ所」は「雪の白いところ」)(2)ひたすら。一途に。ただただ。狂言、居杭「ひたもの頭をはらせらるるが迷惑さに」
ひたもののぐ[直物具・混物具] (名)「ひたかぶと」に同じ。
ひたやごもり[ひた家籠り] (名)ひたすら家に籠ること。わけもなく、ただ隠れていること。宇津保、俊蔭「今日は御供に候ひつれば、ひたやごもりなりとて帰り給はむも便(びん)なかるべし」源氏、帚木「えんなる歌もよまず、けしきばめる消息もせで、いとひたやごもりに情なかりしかば、あへなきここちして」
ひえいざん[比叡山] (地名)「日枝山」「日吉山」ともいう。近江の国、日吉(ひえ)神社の裏山。平安城鎮護の寺、延暦寺のある山。略して単に「山」ともいう。「賀茂の祭」を単に「まつり」という類。
ひたらす[日足らす] (句)人となられる。成長される。一説、日の如く栄え給う。万葉、十三の三三二四「いつしかも、日足らしまして、もち月の、満(た)たはしけむと、わが思ふ皇子(みこ)のみことは」
ひだりての[左手の] (枕詞)左手は右手におくれるとの意から「おくの手」に冠する。一説、「奥の手」は「左手」に同じ。この意味ならば枕詞ではない。万葉、九の一七六六「わぎもこは釧(くしろ)にあらなむ左手の吾が奥の手にまきていなましを」
ひだりまへ…マエ[左前] (名)(1)着物の左袵を下にして着ること。(2)事のくいちがうこと。没落の運命をたどること。「近ごろ商売も左前にて」
ひぢヒジ[泥] (名)「どろ」の古語。万葉、十五の三七二七「ちりひぢの数にもあらぬわれ故に思ひわぶらむ妹が悲しさ」
ひぢがきヒジ…[泥掻] (名)田の泥を掻きならすのに用いる農具。柄をつけたもの。
ひぢがさヒジ…[肘笠] (名)(1)「袖笠」ともいう。肘をかざし、袖を笠の代わりとして雨をしのぐこと。(2)笠の一種。形状未詳。
ひぢがさあめヒジガサ…[肘笠雨] (名)前項(1)参照。にわか雨。肘笠でしのぐ雨の義。枕草子、八「名おそろしき物…ひぢがさ雨」
ひぢがさのあめヒジガサ…[肘笠の雨] (句)前項に同じ。催馬楽、妹が門「肘笠の雨もや降らむ」
ひぢきのなだヒジキ…[ひぢきの灘] (地名)「ひびきのなだ」の古称。播磨灘の一部。また、長門附近の、玄海灘に続く海面。万葉、十七の三八九三「昨日こそ船出はせしかいさなとりひぢきの灘を今日見つるかも」(この場合は、播磨灘の方。「いさなとり」は枕詞)
ひぢぢかにヒジジカ… (副)未詳。「泥近に」の意で、「土くさく」とする説、「肘近に」の意で、「手近く」「俗気を帯びて」とする説、「背の低く」「こづくりで」とする説など。とにかく、「近づきやすく」「さばけて」などの意があるようである。宇津保、蔵開、上「いと小さくひぢぢかに、ふくらかに愛敬づき給へり」源氏、澪標「かしらつき、けはひ、あてにけだかきものから、ひぢぢかに愛敬づき給へるけはひ」
ひえき[飛駅] (名)至急を要する時の駅使。駅伝の急飛脚。早打の使いの馬。折り焚く柴の記、中、武家旧儀「飛駅して、京より斑幔と兀子(こつし)とをとりよせて」(「斑幔」は、上下を横幅で綴り、中を縦幅で綴った幕。「兀子」は僧の用いる椅子)
ひぢまきヒジ…[臂巻] (名)「釧(くしろ)」に同じ。
ひちりき[篳篥] (名)笛に似て、表に七つ、裏に二つの孔があり、竪に吹く。長さ六寸の管の上端に芦舌(した)を嵌め、これを含んで奏する。枕草子、九「笛は…ひちりきは、いとむつかしう」更級日記「雪のふりつもり、光りあひたるに、篳篥のわななき出でたるは、春秋もみな忘れぬかし」
ひぢりこヒジリ…… (名)どろ。ひぢ。祝詞、祈年祭「向股(むかもも)にひぢりこかきよせて、取り作らむ奥つ御年」(「奥つ御年」は「稲」のこと)
ひぢをるヒジオル (動、四)「肘を折る」の義から、「直角に曲がる」意。枕草子、九「人の家につきづきしきもの…ひぢをりたる廊」
ひつ[弼] (名)弾正台の次官の称。「大弼」と「小弼」とがある。
ひづヒズ[漬づ・沾づ] (動、四)水につかる。ひたる。濡れる。万葉、三の三七四「雨降らば着むと思へる笠の山人にな着しめぬれはひづとも」源氏、桐壺「ただ涙にひぢて明かし暮らさせ給へば」
ひづヒズ[漬づ・沾づ] (動、上二)前項に同じ。「降り立てば裏までひづるたもとかな」
ひづヒズ[漬づ・沾づ] (動、下二)前前項・前項の他動。水につける。濡らせる。ひたす。土佐日記「手をひでて寒さも知らぬ泉にぞ汲むとはなしに日頃経にける」
ひづヒズ[秀づ] (動、下二)草が穂を出す。草が伸びる。「ひいづ」の約。万葉、七の一三五三「いそのかみ布留の早田(わさだ)をひでずとも繩だに延(は)へよ守(も)りつつをらむ」
ひついで[日次] (名)日の都合。日がら。日どり。源氏、藤袴「日ついでなむよろしからざりける」
ひえだのあれ[稗田阿礼] (人名)天武天皇の時の舎人。あめのうずめの命の裔という。記憶口誦にすぐれ、よく古伝説を記憶していたので、和銅四年(七一一)、元明天皇の勅命により、太安万侶にその口述を筆記させて「古事記」を編せしめた。「古事記」序文にくわしい。
ひつぎ[日嗣] (名)(1)日の神の位を嗣ぐ義。天皇の位。天位。あまつひつぎ。一説、古代、火を継ぎ絶やさぬことが、首長の神聖かつ重要な任務であったことから来た語。「火継」を「日嗣」と書くに至ったもの。(2)転じて、皇太子の位。ひつぎのみこ。応神紀、四十年正月「うぢのわきいらつこを立ててひつぎとなす」
ひつぎ[棺・柩] (名)死者の屍を納めて葬る箱。かん。
ひつじ[未] (名)十二支の第八位。附図参照。(1)方角の名。西南と南との間。南南西。(2)時刻の名。今の午後二時から午後四時までの間の二時間。
ひつしき[引敷] (名)(1)敷き物。(2)こしあて。(3)鎧の草摺の後腰にある板。太平記、三十三、京軍事「己が乗つたる馬、尻居にどうと倒れければ、馬は南部が引敷の下にありながら、二人引つ組んで伏したり」
ひつじさる[未申] (名)方角の名。西南。坤。附図参照。
ひつせい[畢生] (名)一生。生涯。終生。
ひつぢヒツジ[櫓] (名)稲を刈った株から生える芽。実を結ばない。古今集、五、秋下「刈れる田に生ふるひつぢのほに出ぬは世を今更にあき果てぬとや(か)」(上二句は「ほ」の序詞)
ひづつヒズツ[漬つ] (動、四)水につかる。ぬれる。ひたる。ひづ。万葉、二の二三〇「泣く涙ひさめに降れば、白妙のころもひづちて」同、三の四七五「こいまろび、ひづち泣けども、せむすべもなし」(衣をぬらして泣くけれど)
ひつぷ[匹夫] (名)身分の低い男。「匹夫匹婦」
ひつぷ[匹婦] (名)身分の低い女。「匹夫匹婦」
ひえのやま[比叡の山] (地名)「ひえいざん」に同じ。徒然草、四十七段「養ひ君の、比叡の山にちごにておはしますが、ただ今もや鼻ひ給はむと思へば、かく申すぞかし」(ここでは「延暦寺」を指す)
ひづらヒズラ (名)「ひたうら」の約転。表も裏も同じ色の衣。万葉、十六の三七九一「木綿肩衣、ひづらに縫ひ着」
びづらビズラ[角髪] (名)「みづら」に同じ。
ひてつくるま[ひてつ車] (句)「ひとつ車」の訛。「ひて」を「批点」「秘伝」などと説く注釈書もあるが、少し無理のようである。枕草子、十一「わろきものは…ひてつくるまになどいふ人もあり」=「ひとつ車に」と言うべきを「ひてつ車に」などと言う人もある。(すなわち、上に「ひとつくるまを」の語を省いたもの)
ひでんゐん…イン[悲田院] (名)もと老衰者・孤児・行路病者などを収容した施設で、古く光明皇后が奈良にお建てになったが、のち京都(今の上京区扇町大応寺の辺)に設けられ、さらにのち普通の寺院となった。徒然草、百四十一段「悲田院の堯蓮上人は、俗姓は三浦のなにがしとかや、さうなき武者なり」(「さうなき」は「並ぶ者もない」)
ひといはひ……イワイ[一斎] (名)一社。宇治拾遺、三「塚の上に、神の社をぞ一いはひすゑてあなる」
びとうにしう…ニシユウ[尾藤二洲] (人名)江戸時代の儒者。寛政の三博士の一人。名は孝肇。伊予の人。大阪へ出て片山北海に学び、のち朱子学を修め、寛政年間、幕府に招かれ、江戸へ出て、昌平黌の教官となった。文化十年(一八一三)没、年六十八。主著、国学指要・論孟講旨・称謂私語。
ひとがき[人垣] (名)(1)昔、儀式などの時、人を垣のように立ち並ばせたこと。(2)上古、貴人の陵墓に、多くの人を垣のように立ち並べて生埋めにすること。古事記、中「始めて陵に人垣を立つ」
ひとがた[人形](名)(1)にんぎょう。源氏、宿木「昔おぼゆるひとがたをも作り、絵にもかきとめて行ひ侍らむ」(2)祓の「かたしろ」に同じ。源氏、須磨「舟にことごとしきひとがた乗せて流す」(3)人相。人相書。
ひとがち[人勝ち] (名)人数の多いこと。大鏡、七、太政大臣道長「今宵こそいとむつかしげなる夜なめれ。かく人がちなるだに気色おぼゆ」=今夜は、特に気味の悪い恐ろしい夜のようだ。こんなに多くの人がいてさえ、気味の悪さが感じられる。
ひとぎき[人聞き] (名)人に聞かれること。世の噂。外聞。竹取「人ぎきはづかしくおぼえ給ふなりけり」源氏、桐壺「いと人ぎきうかるべし」
ひときざみ[一刻み] (名)(1)一階級。源氏、桐壺「いまひときざみの位をだにと、贈らせ給ふなりけり」(2)第一の列。第一位。源氏、若菜、下「御前の御遊びなどに、ひときざみにえらばるる人」
ひが[僻] (接頭)名詞に冠して、道理にたがう、事実でない、ひがんでいるなどの意をあらわす語。「ひがおぼえ」「ひがごと」「ひが耳」「ひが目」「ひが聞き」
ひとぐさ[人草] (名)人民。あをひとぐさ。支配者を「風」に比し、被支配者を「草」に比した語。古事記、上「みましの国の人草、一日(ひとひ)に千頭(ちかしら)絞り殺さむとまをしたまひき」
ひとくにやま[人国山] (地名)大和の国、吉野郡吉野にある山であろう。万葉、七の一三四五「常ならぬ人国山の秋津野のかきつばたをし夢(いめ)に見しかも」⇒あきつの。
ひとくま[人隈] (名)人のいない所。紫式部日記「誰もとりはづしては隠れなけれど、人くまをも用意するに、隠れてぞ侍るべし」(「とりはづし」は「間違って、あらを見られ」)
ひとげ[人気] (名)(1)人のいる様子。(2)普通の人間らしいこと。源氏、桐壺「よろづにかたじけなきに、人げなき恥ぢをかくしつつまじらひ給ふめりつるを、人のそねみ深くつもり」
ひとごころ[人心] (枕詞)人の心の荒し・憂し・浅し・薄しなどのことから「嵐」「丑三つ」「宇治」「浅香」「浅沢水」「うす花染」などに冠する。例を略す。
ひとことぬしのかみ[一言主の神] (神名)葛城の神。よい事も、わるい事も、ただ一言で言いはなつ神の義。古事記、下「あは、まがごとも一言、よごとも一言に言ひはなつ神、葛城の一言主の大神なり」
ひとしなみに[等しなみに] (副)同等に。同列に。一葉に。源氏、玉葛「ひとしなみにはしはべりなむや」
ひとしほ…シオ[一入] (名)染物を染汁に一度入れ浸すこと。はつしほ。
ひとしほ…シオ[一入] (副)一層。一段と。
ひとせかい[一世界] (名)あたりかいわい。宇治拾遺、一、尼地蔵見奉る事「地蔵見奉らむとて、一世界惑ひ歩くに」
ひかう…コウ[被講] (名)(詩歌などを)開いて読み上げること。
ひとだつ[人立つ] (動、四)おとならしくなる。成人する。源氏、玉葛「人だち給ひなば、おとどの君もたづね聞え給ひなむ」
ひとだのめ[人頼め] (名)人に頼もしく思わせて、実はそうでないこと。人をだますこと。古今集、八、離別「かつ越えて別れもゆくか逢坂は人だのめなる名にこそありけれ 紀貫之」(「逢ふ坂」という名が、実に反して「別れる坂」であることをいう)
ひとだま[人魂] (名)(1)夜間、空中を飛ぶ燐火。それを人の魂と見ての語。(2)「流星」の俗称。日本紀略、一、昌泰二年二月一日「流星、空中より出づ…観る者奇怪とし、これを人魂といふ」
ひとだまの[人魂の] (枕詞)人魂は青色をしているので「さを(青)」に冠する。万葉、十六の三八八九「人魂のさをなる君がただひとり逢へりし雨夜は久しく思ほゆ」
ひとだまひ……ダマイ[人給ひ] (名)(1)人人に賜わること。また、その物。宇津保、初秋「いかで人だまひならむ御几帳まゐらむに、いかに里へとりに遣はするなむ」(2)随行者の乗る車。副車。後車。枕草子、九「人給ひつづきて多く来る」増鏡、六、煙のすゑずゑ「人だまひ二輛」
ひとづて…ズテ[人伝] (名)「ひとづたへ」の約。ことつて。伝言。後拾遺、十三、恋三「今はただ思ひ絶えなむとばかりを人づてならでいふよしもがな 左京大夫道雅」=今はもう、貴女のことを思い切ろうと死ぬばかりの思いでいるということを、せめて伝言でなく、直接に言う方法が欲しいものである。(このように、二人の間を、さかれては、生きている心地もしない)
ひとつび[一つ火] (名)一本の木、一本の竹、一筋の燈心などに点じた火。古来、これを忌む。幾本か幾筋かを束ねて火を点ずるのがよいとされる。古事記、上「ゆつつま櫛の男柱一つ取り欠きて、一つ火ともして入り見ます時に、うじたかれとろろぎて」
ひとつぶて[人礫] (名)人を捕らえて、軽軽と投げること。
ひとつばし[一つ橋] (名)一本橋。枕草子、三「橋は…ひとつ橋」(固有名詞ではないであろう)
ひとつまつ[一つ松] (名)ただ一本、ぽつんと生えている松。古事記、中「をはりに、ただにむかへる、をつのさきなる、ひとつまつ、あせを」=尾張の国の方へまっすぐに向いている、この尾津の崎にある一本松よ、なつかしい一本松よ。⇒あせを。
ひがき[檜垣] (名)檜の薄板を網代のように斜に編んで張った垣。宇治拾遺、二、厚行死人を家より出す事「下人ども呼びて、中の檜垣をただこぼちに毀ちて、それよりぞ出させける」枕草子、八「小檜垣など新しくし、車やどりに車ひきたて」
ひとづまのさと…ズマ…[人妻の里] (地名)所在未詳。「人の妻」という名がおもしろい。枕草子、三「里は…人づまのさと」
ひとつや[一つ家] (名)(1)一軒家。(2)同じ家。同じ処。奥の細道「一つ家に遊女も寝たり萩と月」(遊女を萩に、芭蕉自身を月に比し、互の境涯は天地ほど異なる月と萩が、たまたまめぐりあって、一つ処に夜を明かしたことよとの意)
ひととなり (名)うまれつき。もちまえ。たち。性質。資性。
ひどの[■殿・樋殿] (名)便所。
ひとのくに[人の国] (句)(1)他国。異国。外国。(2)都以外の地方。田舎。地方。源氏、帚木「受領といひて、人の国のことにかかづらひ営みて」枕草子、二「すさまじきもの…ひとの国よりおこせたる文(ふみ)の物なき」=地方からよこした手紙に、添えた贈り物のない(のは、つまらない)。
ひとのつままく[人の妻纏く] (句)人の妻を姦する。宇治拾遺、九、くうすけが仏供養の事「法師こそこそとして入り来るままに、目をいからかして、人の妻まく者あり、やうやうをうをうと言ひて、太刀を抜きて、仏師を斬らむとて走りかかりければ」(「やうやうをうをう」は、かけ声)
ひとのみかど[人の御門] (句)他国の朝廷。異朝。源氏、桐壺「ひとのみかどのためしまで引き出で、ささめき嘆きけり」(中国の玄宗皇帝の例などを引いて)
ひとばしら[人柱] (名)昔、橋・堤防などを築く時、川の神への生贄として、水の底や土の底に生きた人を埋めること。⇒ながら(長柄)。
ひとはた[一杯] (名・副]器物に一杯になること。いっぱい。宇治拾遺、三、雀恩を報ゆる事「怪しけれども、切りあけてみれば、物ひとはた入りたり」
ひとばへ…バエ[人ばへ] (名)「人そばへ」の「そ」の脱した語か。図に乗って甘えること。「そばふ」は「甘える」である。枕草子、八「人ばへするもの」⇒そばふ。
ひがきのご[檜垣の御] (人名)平安時代、筑紫の国の名高い遊女の名。大和物語「筑紫にありける檜垣の御といひけるは、いと労あり。をかしくて世を経けるものになむありける」(「労あり」は、世なれている)
ひとびとし[人人し] (形、シク)ひとなみである。一人前である。人間らしい。枕草子、三「虫は…蠅こそ、にくきもののうちに入れつべけれ。愛敬なく、にくきものは、人人しう書き出づべきもののやうにあらねど」
ひとへやま…エ……[一重山] (名)かさなっていない、ただ一つの山。万葉、六の一〇三八「ふるさとは遠くもあらず一重山越ゆるが故(から)に思ひぞ我がせし」
ひとま[一間] (名)(1)一室。(2)柱と柱との間。六尺ぐらい。いっけん。更級日記「勢田の橋を一間ばかりこぼちて」
ひとま[人間] (名)(1)人の見ないあいだ。人の居ないあいだ。人の注意しないあいだ。竹取「ともすれば、ひとまにも月を見ては、いみじく泣き給ふ」更級日記「ひとまにみそかに入りつつ」=人の見ない時をえらんで、こっそり入って。(2)人と人との交わりの絶えること。うとくなること。謡曲、女郎花「少し契りのさはりある、人間をまことと思ひけるか」
ひとます[人枡] (名)城の外にある桝形の一郭。ここで、軍勢の人数をはかった。
ひとまろ[人麻呂] (人名)⇒かきのもとのひとまろ。
ひとまど (副)ひとまず。一応。太平記、二、阿新殿事「もしやと、ひとまど落ちてみばやと思ひかへし」
ひとまども (副)ひとまずも。一応は。太平記、二、主上臨幸依レ非二実事一山門変議事「ひとまども落ち延びて、君の行くへをも承らばやと思し召されければ」
ひとみごくう[人身御供] (名)神に供えた、人の生贄。「人柱」の類。また、強力な欲望の犠牲に供せられること。
ひとみのをか…オカ[人見の丘] (地名)京都市の嵯峨にある丘陵。住吉物語「手もふれでけふはよそにて帰りなむ人見のをかの松のつらさよ」(子の日によむ)枕草子、十「をかは…人見のをか」
ひ[婢] (名)めしつかいの女。女中。
ひかげ[日蔭] (名)⇒ひかげのかづら。
ひとめ (書名)平安時代に存した物語の名。今は伝わっていない。内容もわからない。枕草子、九「物語は…人め・国ゆづり」
ひとめかし[人めかし] (形、シク)人らしい。人なみである。源氏、横笛「入道の宮も、この世の人めかしき方は、かけはなれ給ひぬれば」
ひとめかす[人めかす] (動、四)人らしくする。人なみらしく取り扱う。枕草子、三「草の花は…わざと取り立てて、人めかすべきにもあらぬさまなれど、かまつかの花、らうたげなり」(「かまつかの花」は「葉鶏頭」のことであろう)
ひとや[人屋・獄] (名)牢屋。獄屋。古事記、中「その人を捕らへてひとやに入れむとすれば」
ひとやり[人遣り] (名)(1)人を追いやること。新六帖、五「月影はまだ夜深しとやすらへばはやひとやりの鶏(かけ)は鳴くなり」(2)人がさせること。自分の心からでなく、他から余儀なくさせられること。増鏡、十九、久米のさら山「いとせめてうき人やりの道ながら同じとまりに聞くぞうれしき」
ひとよづま…ズマ[一夜妻] (名)(1)ただ一夜だけ契った女。(2)「織女星」の異称。(3)「遊女」の異称。うかれめ。
ひとり[火取] (名)(1)香炉の類。和泉式部日記「御火取など召すほどに」(2)火を入れて他に移すのに用いる金属製の具。
ひとりがみ[独神] (名)一柱だけ単独に、あらわれた神。男女■生の神に対する語。古事記、上「この三柱の神は、みなひとり神なりまして、御身を隠したまひき」
ひとりごつ[独語つ] (動、四)ひとりごとを言う。
ひとわき[人別] (名)人によって区別を立てること。源氏、末摘花「人わきしけると、ねたう思ふ」
ひがけるみや[ひがける宮] (句)日光のあまねく照らす宮。古事記、下「まむきくの、ひしろのみやは、あさひのひでるみや、ゆふひのひがけるみや」=纏向の日代の宮は、朝日の光の美しく照らす宮、夕日のあまねく照らす宮。⇒まきむくのひしろのみや。
ひとわたり (名・副)(1)ひとたび。一回。一応。源氏、東屋「ひとわたりはつらしと思はれ、人には少しそしらるとも」(2)一曲を奏し終ること。枕草子、四「いとおもしろうひとわたり遊びて、琵琶ひきやみたるほどに」
ひとわらはれ…ワラワレ[人笑はれ] (名)人に笑われること。ものわらい。世の笑い草。源氏、紅葉賀「人笑はれにやとおぼし」
ひとわらへ…ワラエ[人笑へ] (名)前項の約。人に笑われること。ものわらい。源氏、葵「世の人聞きも、人笑へにならむこととおぼす」
ひとわろし[人わろし] (形、ク)外聞がわるい。人目がわるい。源氏、帚木「いづ方につけても、人わろく、はしたなかりけるみ物語かな」=どっちにしても、外聞の悪い、ばかばかしい体験談ですわい。
ひとをさ…オサ[人長] (名)神楽を舞う人の長。にんぢやう。琴後集、七、題画歌「わざをぎの音おぼえてひとをさが立ち舞ふ袖も神さびにけり」
ひな[鄙] (名)(1)都の外の地。いなか。辺鄙。万葉、一の二九「いかさまに、おもほしめせか、あまざかるひなにはあれど」古事記、下「しづえは、ひなをおへり」=下の枝は西の村を覆っています。(2)えびす。えみし。蝦夷。崇神紀、十一年四月「四道の将軍ら、ひなを平(む)けたる状(かたち)を奏す」
ひなぐもり (枕詞)「な」は「の」に同じ。「日の曇り」の義から「薄日」の同音「碓氷」に冠する。万葉、二十の四四〇七「ひなぐもり碓氷(うすひ)の坂を越えしだに妹が恋ひしく忘らえぬかも」
びなげ (名)「便無げ」の義。たよりなげ。かわいそう。蜻蛉日記「今日だにのどかにと思ひつるを、びなげなりつれば」
ひなざかる[鄙離る] (句)都から離れている地方の義。万葉、十三の三二九一「ひなざかる国治めにと、むら鳥の朝立ち行かば」(一本に「あまざかる」とある。意は同じ)
びなし (形、ク)「便なし」の略。「びんなし」に同じ。落窪物語「あやしう、びなしと聞きしほどよりはとおぼす」和泉式部日記「女、いとびなき心地すれど」
ひかげのいと[日蔭の糸] (名)大嘗会の時、冠の笄にかける飾りの糸。ひかげのかづら。
ひなのみやこ[鄙の都] (句)地方の都会。すなわち、諸国の国府の称。万葉、十八の四〇八二「あまざかる比奈之都夜故に」(「都」を「美」の誤りと見る場合)次項参照。
ひなのやつこ[鄙の奴] (句)いなかに住む奴僕。越中にいる大伴家持が卑下して自分を称した語。万葉、十八の四〇八二「あまざかる比奈之都夜故に」(「都夜」は誤って倒さに置かれたもので、「夜都」となるべきだと見る場合。この方がうなずける)
ひなぶ[鄙ぶ] (動、上二)いなかじみる。いなか風である。「みやぶ」の対。伊勢物語「歌さへぞ、ひなびたりける」方丈記「都の手ぶり忽ちに改まりて、ただひなびたる武士に異ならず」
ひなぶり[夷振・夷曲] (名)(1)昔、雅楽寮で教習した大歌の曲の一。歌詞の中に「ひな」の語があるのでいう。「ぶり」は「曲」の義。「田舎風」の意ではない。神代記、下「あまさかる、ひなつめの、いわたらすせと」の歌によって名づけたもの。古事記、上「この歌は、ひなぶりなり」(2)「狂歌」の異称。へなぶり。たはれうた。
ひなみ[日並・日次] (名)(1)日ごとにすること。(2)日記などにしるす日の順序。日日の次第。(3)日のよしあし。日がら。狂言、薩摩守「今日はひなみもようござるほどに」
びなんかづら……カズラ[美男葛] (名)「さねかづら」に同じ。
ひねずみ[火鼠] (名)中国における想像上の動物。南方の果ての火山にいる長い毛を有する鼠。その毛で織った布は火に入れても焼けないという。その布を「火浣布(くわくわんぷ)」という。
ひねずみのかはぎぬ…カワ…[火鼠の裘] (句)「ひねずみのかはごろも」ともいう。前項の「火浣布」で製した衣。竹取「今一人には、もろこしにある火鼠のかはぎぬを賜へ」
ひねもす[終日] (副)朝から晩まで。一日中。ひめもす。ひもすがら。蕪村の句「春の海ひねもすのたりのたりかな」
ひねもすに[終日に] (副)前項に同じ。万葉、九の一七五五「ほととぎす…ひねもすに鳴けど聞きよし」
ひかげのかづら……カズラ[日蔭の葛] (名)しだ科の植物。杉の葉に似た葉を有し、茎は長く、地に這う。略して「ひかげ」ともいう。古事記、上「あめのうずめのみこと、天のかぐ山の天のひかげをたすきにかけて」
ひねりいだす[捻り出だす] (動、四)いろいろと案出する。苦心して和歌などをよむのにいう。土佐日記「辛くして、あやしき歌ひねり出だせり」
ひねりぶみ[捻り文] (名)(1)数枚の細長い紙に、おのおの事をしるして捻り、くじにして探り当てて、事を占なうもの。もみくじ。斉明紀、四年十一月「或本に云ふ、有間皇子、蘇我臣赤兄・塩屋連小代・守君大石・坂合部連薬と、ひねりぶみを取りて謀反の事をうらなふ」(2)「たてぶみ」に同じ。
ひのえ[丙] (名)十干の第三位。⇒じつかんじふにし。
ひのえうま[丙午] (名)陰陽道で災年として忌む年。また、この年に生まれた女は男を殺すという迷信があった。
ひのおまし[昼の御座] (名)清涼殿にある御座。主上が昼おいでになるところ。ひのござ。讃岐典侍日記「日の御座の方に、こぼこぼと物とりはなす音して、人人の声あまたすなり」
ひのかは…カワ[簸の川] (地名)今「斐伊川」という。出雲の国、島根県簸川郡を流れる川。宍道湖(しんぢこ)に注ぐ。古事記、上「かれ、やらはえて出雲の国のひのかはかみなる鳥髪(とりかみ)のところに降りましき」(すさのおのみことが)
ひのくち[樋の口] (名)水門。
ひのくま[日前] (地名)紀伊の国、和歌山市秋月にある地。この地に、神鏡をまつった日前神社がある。水鏡、上「また、鏡三あり。一は太神宮におはします。一は日前におはします。一は内裏におはします。内侍所にこそはおはしますめれ」
ひのくまがは…ガワ[檜の隈川] (地名)大和の国、奈良県高市郡の檜の隈を流れる川。高取山に発源し、久米に至って久米川といい、蘇我に至って蘇我川と称し、広瀬川に入る。万葉、七の一一〇九「さ檜のくま檜の隈川の瀬をはやみ君が手取らばよらむ言(こと)かも」(「さ檜のくま」の「さ」は接頭語。「檜のくま」郷をいう)
ひのけしき[日の気色] (句)(1)物忌などの日。(2)空模様。源氏、帚木「からうじて、けふは日の気色もなほれり」
ひかげのかづら……カズラ[日蔭の葛] (名)大嘗会などの時、冠の笄の左右にかけて垂らした飾り。もとは、日蔭の葛を用いたが、のち、白糸や青糸などを組んで作った。ひかげのいと。
ひのさうぞく…ソウ…[緋の装束] (名)束帯の時の緋色の装束。四位は深緋、五位は浅緋。大鏡、三、太政大臣実頼「ひの装束して、やがて神の御前にて書き給ふ」
ひのした[日の下] (名)あめのした。天下。世界。
ひのしたかいさん[日の下開山] (名)武芸・遊芸などで、天下の開祖または天下に敵なき者の称。
ひのと[丁](名)十干の第四位。⇒じつかんじふにし。
ひのはかま[緋の袴] (名)紅の精好で製した袴。官女の料。
ひのみかげ[日の御蔭] (名)(1)屋根。転じて殿舎。「あめのみかげ」と同じく天日を覆い、かげをつくるところからの名。祝詞、祈年祭「すめみまのみことの瑞(みづ)の御舎(みあらか)を仕へまつりて、天の御蔭、日の御蔭と隠りまして」万葉、一の五二「高しるや、天の御蔭、あめしるや、日の御影の、水こそは常にあらめ、御井の清水」(2)日の神の御神徳。新古今、十九、神祇「宮柱したつ岩ねにしきたててつゆも曇らぬ日のみかげかな 西行法師」
ひのみかど[日の御門] (名)御所。内裏。禁中。皇居。朝廷。古事記、下「まきさく、ひのみかど」(「まきさく」は「檜」に、転じて「日」にかかる枕詞)万葉、五の八九四「高光る、日のみかど」
ひのみこ[日の皇子](名)(1)天皇。万葉、一の五二「やすみしし、わご大君、高照らす日のみこ」(2)皇太子。また、皇族。古事記、中「かれ、みやず姫、御歌に答へて、うたひけらく、たかひかる、ひのみこ」(やまとたけるのみことを指す)
ひのもとの[日の本の] (枕詞)「やまと」に冠する。この「やまと」は「日本」の意。万葉、三の三一九「ひのもとの、やまとの国の、鎮めとも、いますかみかも、宝とも、なれる山かも、駿河なる、ふじのたかねは、見れど飽かぬかも」
ひのやま[日野山] (地名)京都の伏見(旧名、宇治郡醍醐村日野)にある山。方丈記「いま日野山の奥に跡を隠して」
ひのよそひ……ヨソイ[昼の装ひ] (名)「昼の装束」ともいう。束帯の装束をすること。衣冠や直衣の装いを「とのゐ装ひ」というのに対する。源氏、胡蝶「やがてまかで給はで、休み所とりつつ、ひの御よそひにかへ給ふ人人も多かり」
びは…ワ[琵琶] (名)雅楽に用いる四弦・四柱の楽器。抱いて、ばちで弾く。よつのを。平家琵琶などは、これから変化したもの。枕草子、九「引くものは、琵琶、さうのこと」
ひがごと[僻事] (名)道理に反する事。まちがった事。あやまり。枕草子、一「いかでなほ少しおぼめかしく、ひがごと見つけてをやまむと、ねたきまで思しける」=(帝は)何とかして、やはり少しでも不分明なまちがった所を見つけて、それでやめようと、(皇后定子の御記憶のよいのに)くやしいほどにおぼしめされた。
ひはう[日蝕う] (動、下二)日が蝕する。日蝕する。舒明紀、八年正月「日蝕ゑたり」
ひはかち[樋放ち] (名)天つ罪の一。水を塞きとめて貯え置く板を取り放ち、必要のない時に水を田に溢れさせ、必要の時に用をなさないようにする悪事。神代紀、上「春は則ちひはかちおよびみぞうめ・あはなち…すべて、この悪しきことかつてやむ時なし」
ひはぎ[引剥] (名)「ひきはぎ」の略。おいはぎ。宇治拾遺、十四、寛朝僧正勇力の事「御房、ひはぎに逢はせ給ひたり」
ひはだ[檜皮] (名)(1)檜の皮。(2)「ひはだぶき」の略。方丈記「ひはだ・葺板のたぐひ、冬の木の葉の風に乱るるがごとし」(3)「ひはだいろ」の略。宇津保、嵯峨院「ひはだのからぎぬ」(4)襲の色の名。表は蘇芳の黒みがかった色、裏は縹色。一説、表は紫色、裏は萌葱。
ひはだいろ[檜皮色] (名)蘇芳の黒みがかった色。ひはだ。平家、十、高野巻「檜皮色の御衣を参らせ給ふに」
ひはだぶき[檜皮葺] (名)檜の皮で屋根を葺くこと。また、その屋根。ひはだ。
ひはだや[檜皮屋] (名)檜皮葺の家。枕草子、五「なまめかしきもの…いたく古りてもなきひはだ屋に、菖蒲うるはしく葺きわたしたる」
ひはづなりヒワズナリ (形動、ナリ)よわよわしげである。細くて弱そうだ。宇治拾遺、十、海賊発心出家の事「二十ばかりにてひはづなる僧の、経袋くびにかけて夜昼読みつるを、取りて海にうち入れつ」源氏、真木柱「常の御なやみに痩せ衰へ、ひはづにて」
びはどのビワ…[枇杷殿] (名)京都近衛の南、室町の北、または鷹司の南、東洞院西一町にあった藤原基経の邸。のち、道長もここにいた。大鏡、七、太政大臣道長「このころは、この御母宮を皇太后宮と申して、枇杷殿におはします」次次項参照。
ひはなち[樋放ち] (名)「ひはかち」に同じ。祝詞、六月晦大祓「天つ罪と、あはなち・みぞうめ・ひはなち」
ひがごとしらべ[僻事調] (書名)江戸時代の歌人、戸田茂睡の著。元祿十年(一六九七)刊。茂睡の歌学上の意見を述べたもので、二条家歌学を排し、自由に歌い上げようとする革新的な意見が見られる。
びはのくわうたいこうぐうビワノコウタイ……[枇杷の皇太后宮] (人名)第六十七代三条天皇の皇后。御名は妍子。藤原道長の女。枇杷殿に住まったので申し上げる。前前項参照。徒然草、百三十八段「枇杷の皇太后宮かくれ給ひて後、ふるき御帳のうちに、菖蒲・薬玉などの枯れたるが侍りけるを見て」
ひはのやま[ひはの山] (地名)「ひえの山」(比叡山)の誤写か。枕草子、一「山は…ひはのやま」
ひばのやま[比婆の山] (地名)いざなみのみことの陵墓の地。出雲の国と伯耆の国との境にある山。その陵墓の地は、諸説があるが、いずれも確証がない。古事記、上「かむさりしいざなみの神は、出雲の国と伯伎の国との堺比婆の山にかくしまつりき」
ひはぼそヒワ…[ひは細] (名)細くて、かよわいこと。古事記、中「ひさかたの、あめのかぐやま、とかまに、さわたるくひ、ひはぼそ、たわやがひなを、まかむとは、あれはすれど」=天の香具山に生えている細い木は、鋭利な鎌に触れると、たちまち刈り取られるが、そのように細くて弱弱しい、そなたの細いやわらかな腕(たわやがひな)を枕として寝たいと、私は思うけれど。
びはほふしビワホウシ[琵琶法師] (名)(1)琵琶を弾く僧。源氏、明石「入道、琵琶法師となりて」(2)平家物語をうたいつつ琵琶を弾く盲人。徒然草、二百三十二段「また、ある人の許にて、琵琶法師の物語を聞かむとて」
ひはやかなりヒワヤカナリ (形動、ナリ)ひよわい。かよわい。細くて、弱弱しそうである。栄花、本雫「いみじうをかしう、ひはやかに美しげにおはします」
ひはら[檜原] (名)檜の生えている原。檜の林。万葉、七の一〇九五「御室斎(みもろつ)く三輪山見ればこもりくのはつせの檜原おもほゆるかも」
ひはらのやま[檜原の山] (地名)大和の国、奈良県磯城郡纏向(まきむく)村にある山。檜の多く生えているところから生じた名。万葉、七の一〇九二「鳴る神の音のみ聞きしまきむくの檜原の山をけふ見つるかも 柿本人麻呂」(「鳴る神の」は「音」の枕詞)
ひばり[雲雀] (名)古事記、下「ひばりは、あめにかける、たかゆくや、はやぶさわけ、さざきとらさね 女鳥王」=あの小さな雲雀でさえ、勢いよく天に翔りますものを、あなたは大空高く飛びゆく隼でありますから、いっそのこと、みそさざいをお弑しなさいな」(「さざき」は「大さざきのみこと」仁徳天皇、「はやぶさわけ」は天皇の御弟の名)
ひはりどヒワリ…… (名)ひびの入った戸。裂けた戸。一説、ひわりど。⇒ひわりど。
ひがしさかもと[東坂本] (地名)比叡山の東麓の称。今の滋賀県滋賀郡坂本村・下坂本村の辺。京都側の西麓を「西坂本」というのに対する。平家、七、主上都落「木曾すでに北国より五万余騎で攻め上り、天台山・東坂本にみちみちて候ふ」(「天台山」は「比叡山」)
ひばりやま[雲雀山] (地名)大和と紀伊との境にあるという、伝説的な地名。中将姫が父に捨てられ、この地で苦行したという。謡曲、雲雀山「雲雀山にて失ひ申せとの仰せにて候ふほどに」
ひばん[非番] (名)宿直に当たらないこと。
ひばん[日番] (名)日中の当番。昼間の勤務。
ひびきごと[響きごと] (名)世の中に響きわたるような音。人を驚かすような騒ぎ。大鏡、三、左大臣師尹「上達部・殿上人ひき具せさせ給へれば、いとこちたく、ひびきごとにておはしますを」(「こちたく」は「仰仰しく」)
ひひこ[曾孫] (名)孫の子。ひまご。ひこ。垂仁紀、八十八年七月「天日槍のひひこ清彦に詔してたてまつらしむ」
ひひし[菱] (名)「ひし」のこと。頭音を重ねていうことは、「ひこ」を「ひひこ」、「ひな」を「ひひな」、「きじ」を、「きぎし」というように多くの例がある。古事記、中「ひひしなす、いちゐの、わにさのにを」=菱のような形をした櫟井(いちゐ)の埴谷(わにさ)の土を。
びびし[美美し] (形、シク)美しい。はなやかである。
ひびつ[火櫃] (名)火鉢。
ひひなヒイナ[雛] (名)「ひな」に同じ。頭音を重ねていうことは、「菱」を「ひひし」、「きじ」を「きぎし」というように、多くの例がある。もとは「ヒヒナ」と発音した。鳥の子の意であるが、小さい人形の意となる。
ひひなあそびヒイナ……[雛遊び] (名)雛人形に、いろいろの調度などを添えて飾り遊ぶこと。女児の遊び。枕草子、二「過ぎにしかた恋ひしきもの…ひひなあそびの調度」
ひがしさんでうどの…ジヨウ…[東三条殿] (名)京都三条の北、鳥丸の東、東洞院の西にあった里内裏の称。はじめ白河法皇の仙洞。のち、後白河上皇が高松殿から移御。
ひひめく (動、四)ひひと声を立てて鳴く。平家、四、■「■(ぬえ)、鏑の音に驚いて、虚空にしばしぞひひめいたる」
ひひらぎヒイラギ[柊] (名)今は節分に飾るが、昔は正月元日に用いた。厄災をよけるという。土佐日記「元日…今日はみやこのみぞ思ひやらるる。九重の門(かど)のしりくめ繩の鯔(なよし)のかしら、ひひらぎらいかにとぞ、言ひあへる」
ひひらぐ(動、四) (1)弁じたてる。しゃべりつづける。源氏、帚木「馬の頭(かみ)、ものさだめのはかせになりて、ひひらぎ居たり」(2)馬がなく。いななく。(3)ひりひり痛む。うずく。ひいらぐ。
ひひる[蛾] (名)(1)火取虫の総称。(2)蚕のさなぎの羽化したもの。
ひひる (動、四)ひらひらと飛びあがる。高く舞いあがる。欽明紀、七年七月「龍のごとくひひりて」
ひふ[■蜉] (名)大蟻。駿台雑話、五、壬子試筆の詞「ひとへに■蜉の樹を撼(うご)かし、精衛が海を埴(うづ)めむに似たるべし」(「精衛」は「小鳥」)
びふく[微服] (名)人の目にふれないように、やつした服装。太平記、四、備後三郎高徳事「微服潜行して時分を伺ひけれども、然るべき隙(すき)もなかりければ」
びふくもん[美福門] (名)大内裏正面外郭門の一。朱雀門の東にある。一に、「壬生門」ともいう。
びふくもんゐん…イン[美福門院] (人名)第七十四代鳥羽天皇の皇后。第七十六代近衛天皇の御母。御名は得子。藤原長実の御女。保元の乱は、実に、このお方に起る。永暦元年(一一六〇)崩、御年四十三。
ひぶん[非分] (名)(1)分際に過ぎたこと。身分以上のこと。(2)道理に合わぬこと。織留、三「我が非分とはわきまひながら」
ひがしさんでうどの…ジヨウ…[東三条殿] (人名)藤原兼家の別称。宇治拾遺、三、一条摂政歌の事「今は昔、一条摂政とは東三条殿の兄におはします」(「一条摂政」は「藤原伊尹」)
ひへぎ[引倍木] (名)「ひきへぎ」に同じ。太平記、二十四、天龍寺供養事「くれなゐのひへぎ、はえばえしくぞ見えし」
ひぼ[紐] (名)ひも。浜松中納言物語、一「唐組のひぼ」
ひぼろぎ(名) 「ひもろぎ」に同じ。
ひまぜ[日交] (名)一日おき。隔日。十六夜日記「わらはやみにや、ひまぜにおこること、二たびになりぬ」
ひまなご[日真名子] (名)「日」は敬称。親愛し給う御子。祝詞、出雲国造神賀詞「いざなぎの日真名子」
ひまゆくこま[隙行く駒] (句)「隙」は壁のすきま、「駒」は太陽の光線。「白駒、隙を過ぐ」の訳で、時の過ぎゆくことの速いのに譬えたことば。千載集、十七、雑中「いかで我が隙行く駒をひきとめて昔にかへる道をたづねむ 一条院内侍参河」
ひみづ…ミズ[氷水] (名)氷をとかした水。源氏、常夏「大御酒まゐりてひみづ召して」
ひむがし[東] (名)ひがし。ひんがし。万葉、一の四八「ひむがしの野にかぎろひの立つ見えてかへりみすれば月かたぶきぬ 柿本人麻呂」⇒かぎろひ。
ひむし[火虫・蛾] (名)「火取虫」の異名。蛾。一説、「ひひるむし」の義で、「蚕」のことと。(古事記、上「ひむしの皮を内剥ぎに剥ぎて衣服として、より来る神あり」の「ひむし」は「鵝」の字をよんだものであるが、「鵝」は「■」の草体を誤ったもので、「■」は「雀」であるから「さざき」と読むべきである。同じ条を「書紀」では「鷦鷯」としていて、小鳥でなければならない)
ひむしのころも[火虫の衣] (句)蛾の翅のような薄い衣。一説、「ひ」は接頭語で、「むしのころも」は「むしぶすま」の義。この説がうなずける。仁徳紀、二十二年正月「なつむしの、ひむしのころも、ふたへきて、かくみやたりは、あによくもあらず 皇后」=寝床に敷くむしごろもを二枚も重ねて、このような御やどりはよろしゅうございませぬ。(「なつむしの」は「ひ」にかかる枕詞。「みやたり」は「みやどり」)
ひ[梭] (名)機(はた)の具。横糸を巻いた管を入れるもの。縦糸の中をくぐらせて、布の端から端へ遣り通す。古事記、上巻「天の衣織女(みそおりめ)見驚きて、梭にほとをつきてみうせにき」
ひ[■](名)水を受ける物で、今の「樋」に類する。古事記、下「■をもちて、その漏る雨を受けて漏らざる処にうつり避けたまひき」
ひがしやま[東山] (地名)京都市の賀茂川の東に横たわる南北に長い丘陵。北は如意が岳から南は稲荷山に至り、古来「東山三十六峰」と称せられ、三十六の峰があるという。服部嵐雪の句「ふとん着て寝たる姿や東山」
ひむろ[氷室] (名)昔、冬の氷を夏まで貯えて置く処。山かげなどに穴を掘り、厚氷をその中に入れてかこい、陰暦六月一日に、その氷を禁中に献じた。仁徳紀、六十二年五月「その野中にあるは何窟(なにむろ)ぞ。啓して曰く。氷室なり」謡曲、氷室「この所の人を待ち、氷室のいはれをくはしく尋ねばやと存じ候ふ」
ひむろやま[氷室山] (名)昔、氷室の設けられた山。固有名詞ではない。千載集、三、夏「あたりさへ涼しかりけり氷室山まかせし水の凍るのみかは」謡曲、氷室「都に近き丹波路や、氷室山にも着きにけり」
ひめ[姫・媛] (名)(1)女子の美称。「彦」の対。(2)天皇・皇族・高貴の人などの令嬢の称。ひめみや。ひめぎみ。(3)「遊女」の異称。
ひめ[■■] (名)(1)釜に水を入れて柔らかく炊いだ飯。今日の飯。昔は、こしきを用いて蒸した強飯を、ただ「飯」といったのに対する語。和名抄、十六「■■=比米=煮レ米多レ水也」(2)「ひめのり」の略。柔かく炊いだ飯に水を加えて、ひきつぶした糊。「枕草子」に「御衣、ひめに濡れたる」とあるのは、「ひめのり」の義であろう。
ひめ[姫] (接頭)名詞に冠して、小さく愛らしい意をあらわす語。「姫百合」「姫小松」「姫島」「姫垣」
ひめい[非命](名)(1)天命でないこと。(2)横死。
ひめがき[姫垣] (名)丈の低い垣。小さい垣。方丈記「あばらなるひめがきを囲ひて囲ひとす」
ひめぎみ[姫君] (名)(1)貴人の令嬢の敬称。源氏、帚木「わが妹のひめぎみは、この定めにかなひ給へり」(2)江戸時代、将軍の女で、大名などに嫁した者の称。
ひめごぜ[姫御前] (名)「御前」は婦人の敬称。(1)「姫君」に同じ。(2)若い女の敬称。丹波与作、上「高いもひくいも、姫御前は大事のもの」
ひめこまつ[姫小松] (名)(1)小さい松。姫松。子の日に引くのは、これである。古今集、二十、東歌「ちはやぶる賀茂のやしろの姫小松よろづよ経(ふ)とも色はかはらじ 藤原敏行」(2)五葉松の一種。(3)「からまつ」を移し植えたもの。京都でいう。
ひめとね[姫刀禰] (名)(1)「命婦」に同じ。仁徳紀、四十年二月「酒(おほみき)を内外のひめとねたちに賜ふ」(2)「宮人」に同じ。中務省式「宮人、訓曰二比売刀禰一」
ひがしやま[東山] (地名)京都市、賀茂川の東、東山の麓の辺一帯の称。徒然草、五十段「その頃、東山より安居院(あぐゐ)の辺へまかり侍りしに、四条より上(かみ)ざまの人、みな北をさして走る」
ひめはじめ[姫始め] (名)(1)暦の語。正月「■■」を供し始める日。⇒ひめ(■■)。一説、飛馬(ひめ)始め。馬の乗りそめの日。また、一説、婦人が衣を縫い始める日。犬子集「口を開いて笑ふ正月、暦にも奥には見えぬ姫始め」(2)その年、始めて男女が情をかわす日。大経師昔暦「湯殿始めに身を清め、新枕せし姫始め」
ひめまつ[姫松] (名)(1)小さい松。姫小松。躬恒集「この春ぞ枝さしそむる行く末の千歳をこめて生ふる姫松」(2)雌松。(3)姫まうちぎみ。あづまわらは。公事根源、三、女叙位「あづまわらはといふは、内侍司の被官にあるものにて、行幸の時、姫松とて、をかしき馬に乗りて供奉する、これがことなり」
ひめもす (副)「ひねもす」に同じ。終日。一日中。古今著聞集、十六、興言利口「ひめもす遊びありきて、夕べに帰り参じたりければ」
ひめもすに (副)前項に同じ。推古紀、十二年四月「皇太子みづから憲法十七条を作りたまふ。…八に曰く、群卿百寮、とくまゐりておそくまかでよ。おほやけごと、いとまなし。ひめもすにも尽くしがたし」宇治拾遺、十五「中門の脇に、ひめもすにかがみ居たりつる」
ひめや[氷目矢・茹矢] (名)「嵌め矢」の義かという。昔、木を割る時、その割れ目に挟むくさび。古事記、上「大樹を切り伏せ、茹矢をその木に打ち立て、その中に入らしめて、すなはち、その氷目矢を打ち離ちて、うち殺しき」
ひもかがみ[氷面鏡] (名)氷の面が鏡のように光ることにいう。多くは「紐」または「解く」にかけていう。藻塩草、五「影清み岩間の水のひもかがみとけても春に向かふけふかな」
ひもかがみ[紐鏡] (名)裏面の台に紐をつけた鏡。また、「秘め鏡」の義かともいう。
ひもかがみ[紐鏡] (枕詞)つづきがら未詳。一説、鏡の裏につけてある紐は、常に台についていて解かないので、「なときそ」から「のとかの」の音に通わせて、地名の「のとかの山」に冠すると。万葉、十一の二四二四「紐鏡能登香の山は誰ゆゑぞ君来ませるに紐とかず寝む」(「のとかの山」は美作の国、岡山県英田郡粟井村の二子山に二つの祠があり、その西北にあるのを能等香神というから、その附近の山かと思われる)
ひもがたな[紐刀] (名)刃の走り抜けるのを防ぐために、柄や鞘を紐でまとい、懐中にする小刀。匕首。一説、懐中に入れて下帯(したひも)に差す小刀の義と。また、「秘め刀」の義と。古事記、上「あめのうずめのみこと、こ(海鼠)にいひけらく、この口や答へせぬ口と、ひもがたなもちて、そ口をさきき」
びもく[眉目] (名)(1)眉と目。転じて、容貌。みめ。容姿。(2)面目。名誉。ほまれ。折り焚く柴の記、中、大名課役奏議「昔より度しげくたてまつることは、その家家の眉目ともし侍るなり」
ひかず[日数] (名)「中陰」のこと。すなわち、人の死後、四十九日間。増鏡、十四、つげの小櫛「御日数のほどは、伏見殿に、宮たち遊義門院などおはします」
ひもとく[紐解く] (動、四)(1)下紐を解く。多くは男女の交情にいう。万葉、十の二〇九〇「こまにしき紐解きかはし天人(あめびと)の妻問ふ宵ぞわれも偲ばむ」(七夕)(2)つぼみが開く。ほころびる。源氏、初音「御前の梅やうやうひもときて」
ひもとく[繙く] (動、四)書物の巻物を結んである紐を解く義。転じて、書物を開いて読む。
ひものを…オ[紐の緒] (名)衣につけた紐。また、下紐の称。万葉、九の一七五三「うれしみと、紐の緒解きて、家のごと、解けてぞ遊ぶ」(男女の自由な交情をいう)
ひものをの……オ…[紐の緒の] (枕詞)紐の緒を組み入れて結ぶことから「心に入り」に、つなぐということから「いつがり」に冠する。万葉、十二の二九七七「紐の緒の心に入りて恋ひしきものを」同、十八の四一〇六「紐の緒のいつがり合ひて」(「いつがり合ふ」は、つながって仲の切れない意)
ひもろぎ[神籬] (名)神樹を建てめぐらし、それをかりに神の御室(みむろ)として祭る処の称。のちには、ひろく神社の称となる。ひぼろぎ。崇神紀、六年「神籬、此云二比莽呂岐一」万葉、十一の二六五七「かむなびにひもろぎ立てていはへども人の心は守り敢(あ)へぬもの」
ひもろぎ[胙] (名)「神籬」即ち「神」に奉る供物の称。
ひもん[秘文] (名)秘密の呪文。
ひや[火矢・火箭] (名)(1)火をつけて射放つ矢。太平記、六、赤坂合戦事「いづくに水あるべしとも見えぬに、火矢を射れば、水はじきにて打ち消し候ふ」(2)火薬を仕掛けて発射する火器。室町時代の末から起る。石火矢・棒火矢・団子火矢の類。
ひやうぐヒヨウ……[兵具] (名)(1)兵器。武器。(2)鎧。具足。
ひやうごヒヨウ……[兵庫] (名)(1)兵器を納めて置く庫。武器庫。(2)「兵庫寮」の略。
ひかた[日方] (名)西南から吹いて来る風。一説、東南から吹いて来る風。万葉、七の一二三一「天霧(あまぎ)らひ日方吹くらし水茎の岡のみなとに波立ちわたる」⇒みづぐき。
ひやうごれうヒヨウゴリヨウ[兵庫寮] (名)衛府に属した寮で、兵庫の儀仗、兵器の出納・保存・修理などをつかさどる役所。つはもののくらのつかさ。
びやうざビヨウ……[病者] (名)「ばうざ」ともいう。病人。宇津保、嵯峨院「ほとほとしきびやうざをなむもて侍りて、かしこくしんらうし侍るなり」=死期の迫った重い病人がいますので、ひどく心配しているのでございます。
ひやうぢやうヒヨウジヨウ[兵仗] (名)(1)儀衛の武器。太刀・弓箭の類。随身がこれを持つ。文官で随身を召し連れることを許されることを「兵仗宣下」という。平家、二、小松教訓「兵仗を帯したりけるつはものども、みな舌をふつて恐れおののく」(2)転じて、随身または内舎人の称。増鏡、十一、草まくら「世を背かむのまうけにて、尊号をもかへし奉らせ給へば、兵仗をもとどめむとて」
ひやうぢやうしゆうヒヨウジヨウ…[評定衆] (名)鎌倉・室町両幕府の職名。鎌倉幕府では執権と共に政所に列席して公事を評定し、吏務を執行し、政所執事・問注所執事・引附頭人などをも兼ねた。室町幕府も、ほぼこれに準じた。
ひやうぢやうしよヒヨウジヨウ…[評定所] (名)鎌倉幕府では、評定衆の詰所。江戸幕府では、最高の裁判所。
びやうどうゐんビヨウ…イン[平等院] (寺名)山城の国、宇治にある名刹。天台宗寺門派に属する。永承七年(一〇五二)、藤原頼通の建立。今は鳳凰堂と釣殿と鐘楼だけがのこっている。
びやうのやなぎビヨウ……[未央の柳] (句)「未央宮の柳」の意。未央(みあう)宮は、中国の長安にあった漢の宮殿の名。その庭にあった柳。美人の眉にたとえられる語。源氏、桐壺「太液の芙蓉、未央の柳も、げ(け)にかよひたりしかたちを」(白楽天の長恨歌「太液芙蓉未央柳、芙蓉如レ面柳如レ眉、対レ此如何涙不レ垂」)(正しくは「みあうのやなぎ」)
ひやうはふヒヨウホウ[兵法] (名)(1)兵法(へいはふ)に同じ。(2)もっぱら、「剣術」をいう。
ひやうぶきやうヒヨウブキヨウ[兵部卿] (名)(1)兵部省の長官。源氏、桐壺「御せうとの兵部卿の親王(みこ)」(2)香の名。特に匂袋に入れて用いるもの。また、おしろいの名。一代男、一「兵部卿袖に焼きかけ」五人女、四「肌につけし兵部卿のかをり、何とやらゆかしくて」
ひやうぶしやうヒヨウブシヨウ[兵部省] (名)八省の一。諸国の兵士、軍旅、兵監、兵器、軍備一般のことをつかさどる役所。つはもののつかさ。
ひかのをさか……オサカ[ひかの小坂] (地名)大和の国、奈良県南葛城郡葛城村大字朝妻の辺にある小さな坂。仁徳紀、二十二年正月「あさづまの、ひかのをさかを、かたなきに、みちゆくものも、たぐひてぞよき」=朝妻のひかの小坂を泣きながらひとりで行く人も連(つれ)があった方がよい。(仁徳天皇が皇后に示された御製)
ひやうもんヒヨウ……[狂紋・平文] (名)「経文」と混ずるので「ひやうもん」と読むという。種種の色をまぜて彩った模様。平家、三、御産巻「狂紋の狩衣に帯剣したる者どもが」
ひやうゑふヒヨウエ…[兵衛府] (名)皇城の各門を守り、儀仗に備え、行幸に供奉して前後を守る、京都地区を巡検する武官の府。左右兵衛に分かれ、督・佐・尉・志および医師・番長、兵衛などの職員を置く。つはもののとねりのつかさ。ゆげひのつかさ。
びやくがう…ゴウ[白毫] (名)次項に同じ。宇治拾遺、十三、念仏の僧魔往生の事「さまざまの花を降らし、白毫の光、身を照らす」
びやくがうさう…ゴウソウ[白毫相] (名)多くは略して「白毫」という。仏の眉間にあるという白毛。常に光明を放つという。
びやくさん[白散] (名)昔、正月一、二、三日に、酒に入れて飲むもの。屠蘇散に類する。白朮(びやくじゆつ)・桔梗・鳥頭(うづ)附子(ぶす)・細辛の五味を調合するのを普通とする。一年の邪気を払うという。土佐日記「大湊にとまれり。くすし、ふりはへて、屠蘇・白散・酒加へて持てきたり」(「ふりはへて」は「わざわざ」)
ひやくにちせんぽふ…ポウ[百日懺法] (名)懺悔滅罪のため、百日の間、天台大師の著「法華懺悔」を誦すること。宇治拾遺、十一、空入水したる僧の事「これも今は昔、桂川に身投げむずる聖とて、まづ祇陀林寺(きだりんじ)にして百日懺法行ひければ」(「祇陀林寺」は、天台宗の寺で、京都にあった寺)
ひやくにんいつしゆ[百人一首] (名)「小倉山百人一首」の略。⇒をぐらやまひやくにんいつしゆ。
ひやくまんべん[百万遍] (名)京都北白河の知恩寺で修する仏事。大数珠をまわしつつ南無阿弥陀仏を百万遍唱える。これによって、極楽往生ができるという。また、一般の俗間でも行う。
ひやくものがたり[百物語] (名)昔、夜、数人集まって、交互に種種の妖怪談を行うこと。燈心を百筋ともし、物語一つ終るごとに一筋ずつ消し、ついに闇に至るという。
びやくらいにん[白癩人] (名)しらはだの人。白色の癩病患者。俗にいう「しろこ・しらこ」。宇治拾遺、四、智海法印癩人と法談の事「いかなる人の誦するならむと思ひて、近う寄りてみれば、白癩人なり」
ひがひがし[僻僻し] (形、シク)はなはだ僻んでいるさまである。すなおでないさまである。もののあわれを知らぬさまである。源氏、末摘花「君のかくまめやかにのたまふに、聞き入れざらむもひがひがしかるべし」徒然草、三十一段「この雪いかが見ると、一筆のたまはせぬほどの、ひがひがしからむ人の仰せらるること、聞き入るべきかは」
びやくれん[白蓮] (名)(1)白色の蓮華の称。(2)心事の清浄無垢なことをいう。(3)「白蓮社」の略。徒然草、百八段「謝霊運は法華の筆受なりしかども、心常に風雲の思ひを観ぜしかば、慧遠(ゑをん)、白蓮のまじはりを許さざりき」=中国の謝霊運という人は、法華経の翻訳者の口述を受けて文を綴ったほどの仏教信者ではあったが、心が常に立身功名にあったので、慧遠法師は、謝霊運の白蓮社への加盟を承諾しなかった(その俗物をにくんだのである)。
びやくれんしや[白蓮社] (名)前項(3)参照。くわしくは「白蓮華社」という。また、略して「白蓮」「蓮社」ともいう。中国、東晉時代、慧遠法師が廬山の虎溪東林寺に於て、名僧・名儒百二十三人を集め、阿弥陀仏像の尊前に誓いをなし、西方極楽往生の浄行を修した一種の結社の称。その堂前の池に白蓮華のあったことから名づけたとも、蓮邦を願求したことから名づけたともいう。
ひようかい[氷解] (名)(1)氷の溶けること。(2)疑問が全く解けること。
ひようたん[氷炭] (名)「炭」は「炭火」の義。氷と火とは性質が全く相反するので、性質のひどく相反する物の比喩に用いる語。「氷炭相いれず」
ひようたんくんいう…ユウ[氷炭薫蕕] (名)「氷炭」は前項参照。「薫」は、かおりのよい草、「蕕」は、臭気のある草。全体で「善悪正邪」の意。駿台雑話、四、つれづれ草「伊勢・源氏は…冗長にして醜悪なるものぞかし。然るを、聖人垂教の書に比していふは、まことに氷炭薫蕕をひとしうするなるべし」
ひようりん[氷輪] (名)「冷たくて丸い」義。「月」の異称。雨月物語、菊花のちぎり「銀河影消え消えに、氷輪われのみを照らしてさびしきに、軒守(も)る犬の吼ゆる声すみわたり」
ひよく[肥沃] (名)土地の肥えていること。
ひよく[比翼] (名)(1)「比翼の鳥」の略。謡曲、楊貴妃「比翼の友を恋ひ」(2)「比翼連理」に同じ。芭蕉の句「末楽し比翼の中は花に鳥」(3)和服を、外見は二枚重ねのようにし、袖口・襟・裾まわしを重ね、胴を一枚仕立てにしたもの。浮世風呂、三「あひ着は、ずつと茶返しの比翼で、緋縮緬の襦袢」
ひよくづか…ズカ[比翼塚] (名)次項参照。男女を一所に葬り築いた塚。めをとづか。主に、情死者などの場合に築く。
ひよくのとり[比翼の鳥] (名)中国で、想像上の鳥。雌雄おのおの一目・一翼で、常に一体になって飛ぶという。むつまじい男女の比喩に用いる語。平家、六、小督「天に栖(す)まば比翼の鳥、地にあらば連理の枝とならむと」
ひかふヒカウ[控ふ] (動、下二)(1)進むことを停止する。準備して待っている。(2)ひきとめる。狭衣物語「いと恥づかしくて下りなむとすれば、ひかへて、などいらへをだにし給はぬ…とまれとはのたまひなまし」(3)うちばにする。節する。一杯にしない。(4)やめておく。見合わせておく。落窪物語「いかで阿漕起さむとのたまへば、少将ひかへむとのたまふ」(5)近くにある。手許に書きとめておく。「山をひかふ」「帳簿にひかふ」
ひよくれんり[比翼連理] (名)「比翼の鳥、連理の枝」の略。おのおのの項を見よ。謡曲、楊貴妃「君とかはせしむつごとの、比翼連理の言の葉も」
ひよしのやしろ[日吉の社] (神社名)近江の国、滋賀県滋賀郡坂本村にある名高い神社。ひえじんじや。「おほやまくひの神」と「おほなむちの神」とを祀る。例祭は四月十四日。増鏡、二、新島もり「日吉の社に、しのびて詣でさせ給へり」
ひよつとこ (名)(1)「火男」の転訛。少年が火吹竹で火を吹くために、一方の目を小さくし、口を徳利の先のように突き出した顔に似せて作った仮面。また、その仮面をかむった者の称。また、その仮面をかむった踊りの称。ひょっとこおどり。(2)男の子の俗称。(3)人をののしっていう語。「このひよつとこめ」
ひよみ[日読み] (名)「読む」は「数える」義。(1)「こよみ」に同じ。(2)「十二支」に同じ。十訓抄、中「ひよみの午の頭を出すは牛なり」
ひよわし[ひ弱し] (形、ク)「ひ」は接頭語。よわい。かよわい。
ひら[平] (名)(1)たいらなこと。ひらたいこと。方丈記「ある武士のひとり子の、六つ七つばかりに侍りしが…俄かに崩れ埋められて、あとかたなく平にうちひさがれて」(2)普通。なみ。尋常。「平殿上人」「ひら侍」(3)「ひらわん」の略。
ひら[比良] (地名)近江の国、滋賀県滋賀郡、比良の山の東麓、琵琶湖の畔にあった荘の名。のち、南北比良に分かれ、北比良は小松村に入り、南比良は木戸村に入る。
ひらあしだ[平足駄] (名)ひらたい足駄。ひより足駄。「高足駄」の対。古今著聞集、十六、興言利口「あるひらあしだ名僧ありけり」(常に平足駄をはいて歩くので名高い僧のことか)
ひらいずみ……イズミ[平泉・平和泉] (地名)陸中の国、岩手県西磐井郡の北部にある地。北上川の右岸。平安時代、藤原清衡以下四代の館があり、栄華をきわめた処。中尊寺はその一部が現存して、往時の文化の一斑をしのばせている。今、東北本線の一駅。奥の細道「十二日、平和泉と心ざし」
びらうビロウ[蒲葵] (名)「檳榔」の誤用か。木の名。古名「あぢまさ」。しゅろに似て、葉は長大。高さ一丈余に及ぶ。葉も四、五尺に至る。熱帯地の原産。わが国でも、四国・九州などには野生する。ことに、宮崎県の青島には、うっそうと繁茂している。その葉を種種の編み物に利用する。ことに、笠・団扇に用いる。
ひがみみ[僻耳] (名)聞きちがい。聞きそこない。源氏、若紫「あやし、ひがみみにや」
びらうげビロウ……[檳榔毛] (名)「檳榔毛の車」の略。枕草子、二「檳榔毛は、のどやかにやりたる。急ぎたるは、かろがろしく見ゆ。あじろは、走らせたる」
びらうげのくるまビロウ……[檳榔毛の車] (名)牛車の一。晒した蒲葵の葉を細く裂いて、屋形の上および左右を覆ったもの。また、菅の葉を代用したものをもいう。上皇、親王以下四位以上の公卿、女房、高僧などの乗用したもの。びらうげ。びらうのくるま。附図参照。枕草子、一「檳榔毛の車などは、門ちひさければ、さはりてえ入らねば、例の筵道敷きておるるに」
ひらか[平瓮] (名)ひらたい土器の皿。古事記、上「くしやたまの神、鵜になりて、海の底に入りて、底のはに(埴)をくひ出でて、あめのやそひらかを作り」
ひらがげんない[平賀源内] (人名)江戸時代の博物学者・物理学者・滑稽本作者・浄瑠璃作者。別号、福内鬼外・風来山人・鳩溪・森羅万象、その他。讃岐の人。江戸へ出て儒医を業とした。学は和漢蘭に通じ、薬草・薬石を採集し、物理学に長じ、昭和の初年にすでにエレキテル(電気)を発見したほどであるが、その性格から世にいれられず、ついに戯作に志し、滑稽本・洒落本・浄瑠璃などに筆をふるった。安永八年(一七七九)没、年五十六。主著、神霊矢口渡・金毘羅利生記・風来六六部集。
ひらがさ[平笠] (名)ひらたい浅い笠。古今著聞集、十一、蹴鞠「法師はまた、平笠を着たるほどの心地にて候ひつるぞと申しける」(気軽な気持、平気だということ)
ひらがる[平がる] (動、四)ひらたく伏す。宇治拾遺、三、虎の鰐とりたる事「水にひたして、ひらがりをるを」
ひらしきのおまし[平敷の御座] (名)天皇・皇后・東宮などのお着きになる平敷の座の称。紫式部日記「うへは、平敷の御座に、おものまゐりすゑたり」⇒ひらしきのざ。
ひらしきのござ[平敷の御座] (名)前項に同じ。
ひらしきのざ[平敷の座] (名)「ひらざ」ともいう。着座の時、帳台・兀子などを用いずに、床に畳または敷き物などを敷いて座すること。また、その座。⇒ひらしきのおまし。
ひらたあつたね[平田篤胤] (人名)江戸時代の国学者。出羽の秋田の人。本居宣長没後の門人。全くの独学で古道を研究し、儒・仏・俗神道に対して極めて強烈な攻撃を加え、復古神道を唱えた。世に、春満・真淵・宣長と共に国学の四大人と称せられる。天保十四年(一八四三)没、年六十七。主著、古史徴・古史伝。
ひがむ[僻む] (動、四)ゆがむ。ねじける。かたよる。正しくない。源氏、須磨「鹿を馬といひけむ人のひがめるやうに」
ひらで[葉盤・比羅伝] (名)物を盛り、神に供する器の一。上古、柏の葉を合わせて、竹製の針で刺しとじ、ひらたく作ったもの。古事記、中「また、箸とひらでとをさはに作りて」神武紀、前紀、戊午年十一月「ひらで八枚を作(な)して、食らひつものを盛りて饗(あ)ふ」
ひらに[平に] (副)(1)切に。ひたすら。(2)たやすく。やすやすと。古今著聞集、二、釈教「しばらく念誦の間に、ひらに生まれにけり」
ひらぬき[平ぬき] (名)「ひらきぬ」すなわち「平絹」の誤写であろう。綾のない絹織物。へいけん。枕草子、五「ねたきもの…これ、ただ今とみのもりなり。誰も誰も集まりて時かはさず縫ひて参らせよとて、ひらぬきの御衣をたまはせたれば」
ひらの[平野] (神社名)「平野神社」の略。京都市上京区平野宮本町にある。歴代皇室の御尊崇があつかった。例祭、四月二日。祭神は今木神・久度神・古開神。相殿は比売神。枕草子、十一「神は…平野は、いたづらなる屋ありしを」徒然草、二十四段「ことにをかしきは、伊勢・賀茂・春日・平野・住吉・三輪」
ひらのたかね[比良の高嶺] (地名)「比良の山」に同じ。新古今、六、冬「さざなみや志賀のから崎風さえて比良の高嶺にあられふるなり 藤原道長」
ひらのみなと[比良の港] (地名)滋賀県滋賀郡小松村大字北比良の琵琶湖畔をいう。万葉、三の二七四「わが船は比良のみなとにこぎ泊(は)てむ沖へな放(さか)りさ夜ふけにけり」
ひらのやま[比良の山] (地名)滋賀県滋賀郡の北部、朽木谷と琵琶湖との間に、ほぼ南北に連なる山。南端の打見山・蓬莱山から北端の武奈が岳まで約十四キロにわたる。山嶺の暮雪は「比良の暮雪」といい、近江八景の一。枕草子、一「山は…ひらのやま」新古今、二、春下「花さそふ比良の山風吹きにけり漕ぎゆく舟のあと見ゆるまで 宮内卿」
ひらば[平場] (名)たいらな土地。平地。太平記、八、山徒寄二京都一事「平場の合戦かなはじとや思ひけむ」
ひらばり[平張り] (名)(1)たいらに張って天井とする幕。日光をおおうための幕。「揚げ張り」の対。大和物語「生田川のつらに、平張りをうちて居にけり」(2)御遊びなどの時、庭に幕を張りめぐらして、楽人の居る所の称。
ひらぶがひ…ガイ[ひらぶ貝] (名)未詳。今の「月日貝」の類かという。古事記、上「さるだびこの神、あざかにいましける時に、すなどりして、ひらぶ貝にその手をくひ合はされて」
ひらむ[平む](動、四)(1)ひらたくなる。竹取「手をささげて、さぐりたまふに、手にひらめるものさはる時に」(2)ひれふす。平伏する。古今著聞集、十、相撲強力「馬はやがて、足を損じてひらみふしにけり」
ひがむ[僻む] (動、下二)前項の他動。曲げる。ゆがめる。源氏、若紫「聞こしめしひがめたることなどや侍らむと、つつましうなむ」
ひらむ[平む] (動、下二)前項の他動。たいらにする。ひらたくする。ひしゃげる。徒然草、五十三段「鼻をおしひらめて顔をさし入れて、舞ひ出でたるに」
ひらもとゆひ…モトユイ[平元結] (名)たけなが紙を用いて元結とするもの。婦人の専用。たけなが。一代男、三「平もとゆひ太く、すべらかしに結びさげ」
ひらを…オ[平緒] (名)束帯の時、正面に、帯から袴の上に垂らす幅三寸ばかりの平組の紐。ひねり糸で組み、色糸で種種の模様をあらわす。もと、太刀の緒の結びあまりを腰に垂らしたのが、のち、装飾化したもの。徒然草、二十八段「諒闇の年…みな人の装束・太刀・平緒まで、ことやうなるぞゆゆしき」(「ゆゆし」は「忌忌し」で「不吉に思われる」意)
ひらをか…オカ[枚岡] (神社名)「枚岡神社」の略。河内の国、大阪府中河内郡枚岡村大字雲井にある神社。祭神は天児屋根命・比売神・武甕槌命・斎主命。例祭は二月一日。祝詞、春日祭「枚岡にます、あめのこやねの命」
びらん[糜爛] (名)ただれること。また、人民の血肉をただらせることで、国を疲弊させること。「孟子、尽心下」に用いた語。
びらん[■嵐] (名)梵語Velambaの音写。「■嵐風」の略。速力極めて速く、猛烈な暴風で、すべてを破壊散乱せしめるという。太平記、十九、青野原軍事「互に一足もひかず、命を涯(きは)に相戦ふ。■嵐断えて、大地たちまちに無間獄に堕ち」
ひりかけす[放りかけす] (動、サ変)糞をひりかける。便をまき散らす。落窪物語「かくて、遣戸のもとによりて、ひりかけしていぬれば、よも、まうで来じ。おほとのごもりね」
ひりふヒリウ[拾ふ] (動、四)「ひろふ」の古語。ひろう。古事記、上「えびかづらの実生りき。こをひりひ食む間に逃げいでますを、なほ追ひしかば」万葉、十五の三六一四「帰るさに妹に見せむにわたつみの沖つ白玉ひりひて行かな」
びりやう……リヨウ[檳榔] (名)「びらう」の転訛。宇治拾遺、二、柿の木に仏現ずる事「昼(ひ)の装束うるはしくして、びりやうの車に乗りて」⇒びらうげのくるま。
ひりん[鄙吝] (名)けち。りんしょく。
ひ[樋] (名)竹や木の長い管で、水を導いて他へ流しやる物。これに「かけひ」「下樋」「埋み樋」「受け樋」などの種類がある。
ひがめ[僻目] (名)(1)ひとみの正しくない目。へんな目つき。(2)見ちがい。見そこない。
ひりん[比倫] (名)たぐい。仲間。類。
ひりん[比隣] (名)となり。近隣。あたり。
ひりん[飛輪] (名)「太陽」の異称。日輪。
ひる[蒜] (名)(1)上古では、にら・にんにく・のびる・らっきょうの類の総称であったと思われる。古事記、中「いざこども、のびるつみに、ひるつみに」(すなわち、「のびる」も「ひる」も同一である)万葉、十六の三八二九「醤酢(ひしほす)に蒜搗きかてて鯛願ふわれにな見せそ水葱(なぎ)のあつもの」(2)のち、「にんにく」の意となる。おほひる。後拾遺、二十、雑六、誹諧歌「ひるくひて侍りける人、今は香もうせぬらむと思ひて、人の許にまかりたりけるに、名残りの侍りけるにや」
ひる[放る] (動、四)体中から外へ放つ。落窪物語「かくて、遣戸のもとによりて、ひりかけしていぬれば、よも、まうで来じ」⇒ひりかけす。「魚、卵をひる」「屁ひる」
ひる[簸る] (動、上一)箕で穀物などをあおり振り、屑を除き去る。古今著聞集、十六、興言利口「あまり供米の不法にて、ただ糠のみ多く候へば、それをひさせむとて」
ひる[嚔嚏] (動、上一)くさめをする。はなひる。万葉、十一の二六三七「うちはなひ鼻をぞひつる剣たち身に副ふ妹し思ひけらしも」(今日でも、このように信ずる民俗がある)
ひるがこじま[蛭が小島] (地名)源頼朝流謫の地。伊豆の国、静岡県田方郡韮山町大字寺家。韮山の西麓にあり、もとこの地は狩野川に挟まれた小島のような地であったという。増鏡、二、新島もり「伊豆の国、蛭が小島に流されし兵衛佐頼朝は、清和の御門より八代のながれ」
ひるご[蛭子] (神名)いざなぎ・いざなみ両神の最初の子。蛭のように、ひょろひょろして、足なども立たなかったのでいうと。いま、俗に七福神の一の恵比須として商家でまつるのは、この神であるという。西宮市の西宮神社に祀り、西宮えびすという。古事記、上「くみどにおこして、み子ひるごを生みたまひき。このみ子は葦船に入れて流し捨てたまひつ」⇒くみどにおこす。
びるしやな[毘盧遮那] (名)梵語Vairocanaの音写。仏の真身の尊称。仏の身光・和光があまねく法界を照らす意で、「光明遍照」と訳される。びるしやな如来。びるしやな仏。
ひがもの[僻者] (名)心のねじけた者。かわりもの。変人。
ひるまき[蛭巻] (名)槍・薙刀の柄、または刀の鞘などを、籐や銀などで、蛭が巻きついたように、間隔をおいて巻いたもの。平家、二、教訓「しろがねの蛭巻したる小長刀」
ひるむしろ[蛭席・蛇床子] (名)水草の名。(1)ひるも。水葱。(2)はまぜり。和名抄、二十「蛇床子=比流牟之呂」本草和名、上「蛇床子=和名比留无之呂、一名波末世利」枕草子、三「草は…ひるむしろ」
ひるめ (名)「こんぶ」の異称。
ひるめ[日■・日霊] (神名)「昼女」の義。天つ日をしろしめす女神の御名。日の女神。天照大御神の御名。おほひるめのみこと。おほひるめのむち。万葉、二の一六七「あまてらす、ひるめのみこと」神楽歌、明星、昼女歌「いかばかりよきわざしてか天照るやひるめの神をしばしとどめむ」
ひれ[領巾] (名)薄くて、ひらひらするものの義。魚の「ひれ」なども同様。上代、男女がくびから肩にかけ垂らして装飾とした布。絹・紗・羅などを用いた。古事記、下「ももしきの、おほみやびとは、うづらとり、ひれとりかけて」(鶉の肩から胸にかけて白い斑の毛のあるのを領巾に見立てて、「ひれ」にかけていったのである)祝詞、六月晦大祓「すめらがみかどに仕へまつる、ひれかくる伴の男」肥前風土記、松浦郡「ひれふる峰…弟日姫子、ここに登りてひれもて振り招(を)ぐ。よりて、ひれふる峰と名づく」(従来、領巾を婦人のみの用いるものと説いたのは誤りである)
ひれ[比礼] (名)前項参照。害を避けるために振る布。古事記、上「その妻(みめ)すせりひめのみこと、蛇(へみ)のひれをそのひこぢに授けてのたまはく、その蛇くはむとせば、このひれを三たびふりて打ちはらひたまへとのりたまふ」
びれうビリヨウ[檳榔] (名)「びらう」の訛。⇒びらう。
ひれふす[平伏す] (動、四)「ひらふす」の転。身を平らにして伏す。平伏する。枕草子、一「さは翁丸といふに、ひれ伏していみじくなく」
ひれふるやま[領巾振山] (地名)「ひれふるみね」「ひれふりのみね」ともいう。肥前の国、佐賀県松浦郡鏡村と浜崎町とにまたがる山。鏡山。七面山。宣化天皇の御代、大伴狭手彦が新羅へ赴くため、松浦潟から船出した時、その恋人佐用姫が別れを惜しんで、この山に登り、領巾を振って狭手彦の名を呼びつづけたので名づけたという。「肥前風土記、松浦郡」および「万葉、五の八七一の右」または「古今著聞集、五、和歌」などにくわしい。
ひろ[尋] (名)長さの単位。両手を左右にのばして、端から端までの長さ。およそ六尺。この語、多くは助数詞として用いる。「八ひろ殿」「千ひろ」「一ひろわに」
ひがらめ[ひがら目] (名)「ひがら」と略してもいう。(1)やぶにらみ。斜視。三代男、三「色黒きひがらめの女、ぬるくうすき茶を運ぶもにくし」(2)見当ちがい。
ひろい[従] (名)位階のうち、従位をいう。「おほい」の対。この語、多くは接頭語のように用いる。「ひろいやつのくらゐ(従八位)」
びろう[尾籠] (名)痴(をこ)に尾籠(をこ)の字を当て、更にこれを音で読んだ語という。失礼。不作法。大小便などの話をすること。
ひろごる[広ごる] (動、四)(1)ひろがる。枕草子、一「柳など…まゆにこもりたるこそをかしけれ。ひろごりたるはにくし」(柳の枝を糸に見たてることから、その芽のこもっているのを繭にこもる蚕と見たてたもの)(2)ひろまる。源氏、桐壺「おのづから事ひろごりて、もらせ給はねど、東宮のおほぢおとどなど、いかなることにかと思し疑ひて」
ひろせ[広瀬] (名)川の、幅の広い瀬。新後拾遺、夏「大井川山もと遠く漕ぎつれて広瀬に並ぶ篝火のかげ」
ひろせたんさう…ソウ[広瀬淡窓] (人名)江戸時代の儒者・漢詩人。名は建。豊後の人。家塾を開き、敬天を主として、子弟に和漢の学を講じた。その詩は清高の風に富む。安政三年(一八五六)没。年七十四。著書、数十種。
ひろせのかはあひ…カワアイ[広瀬の川合] (地名)大和の初瀬川と佐保川とが出合って大和川に入るところの地をいう。祝詞、広瀬大忌祭「広瀬の川合に、たたへごと竟(を)へ奉る」
ひろたのくに[広田の国] (地名)神功皇后が天照大神の荒御魂をおまつりになった地。今、摂津の国、兵庫県武庫郡大社村大字広田に広田神社がある。この地であろう。神功紀、仲哀天皇十年二月「天照大神誨(をし)へまつりて曰く、我が荒魂をば皇居に近づくべからず。まさに御心広田の国に居らしむべし」
ひろたのみや[広田の宮] (神社名)広田神社。前項参照。増鏡、十九、久米のさらやま「広田の宮のわたりにても、御輿をとどめて拝み奉らせ給ふ」
ひろびさし[広廂・広庇] (名)寝殿造において、母屋の外側に設けた一段低い縁側のような所をいう。広縁。平家、八、征夷将軍院宣「上には高麗縁の畳を敷き、広廂には紫縁の畳を敷いて、泰定をすゑらる」
ひろぶた[広蓋] (名)衣服などを入れる箱の蓋。人に服などを贈る時、この蓋に載せて出すのに用いた。のち、この蓋に擬して作り、客に供する物などを盛る用とした。
ひかり[光] (名)(1)輝くこと。光輝。古事記、序文「日浮かびてひかりを重ね、雲散りて烟にあらず」(2)はなやかに美しいこと。つや。光華。神代紀、下「赤玉のひかりはありとひとはいへど君がよそひしたふとくありけり 豊玉姫」(赤玉は美しく尊いと人は言うが、それにも増して君の姿は美しく尊かった)(3)勢い。威光。恩寵。めぐみ。源氏、桐壺「かしこき仰せごとをひかりにてなむ」(4)貴人の来ることの敬語。御光来。御光臨。源氏、総角「彦星のひかりをこそ待ち出でめ」(5)才能。太平記、三十二、天竺震旦物語事「許由と申しける賢人、世を捨て、光をつつみて」(6)他の多くの意味は、現代語の意味と同じ。
ひろまへ…マエ[広前] (名)「神の前」を敬っていう語。御前。おほまへ。ふとまへ。祝詞、春日祭「四柱のすめ神たちの広前にまをさく」
ひろめく[閃く] (動、四)ひらめく。光り輝く。雄略紀、七年七月「その雷(かみ)ひかりひろめき、まなこかがやく」
ひろめく[広めく] (動、四)ひろがる。枕草子、二「にくきもの…居むとする所を、まづ扇して塵はらひすてて、居も定まらずひろめきて」(金子元臣著「枕草子評釈」では「ひらめく」と同義に解しているが、やはり「ひろがる」意に解すべきであろう)
ひろる[広る] (動、四)ひろがる。古事記、下「はびろ、ゆつまつばき、しがはなの、てりいまし、しがはの、ひろりいますは、おほきみろかも」=葉の広い、枝の茂った椿、その椿の花の照り輝くように、その椿の葉のひろがっているように、美しくゆったりしていらっしゃいますのは、天皇でおわしますよ。
ひろろぐ (動、四)足許が定まらず、よろよろする。ぐらつく。よろめく。落窪物語「鎖(ぢやう)あけて遣戸あくるに、いとかたければ、立ち居ひろろぐほどに」
ひわだのしゆく (地名)「檜和田・日和田」などと書く。「奥の細道」に「檜皮」と書いたのは当て字。福島県安積郡の東北部にある地、今の日和田町におかれた宿駅。奥の細道「等躬が宅を出でて五里ばかり、檜皮の宿を離れて、あさか山あり」
ひわりご[檜破子] (名)檜の薄板で作った破子。⇒わりご。増鏡、十二、老のなみ「二位兼行、檜破子どもの心ばせありて仕うまつれるに、雲雀といふ小鳥を萩の枝につけたり」
ひわりど[檜割戸] (名)檜を割って作った戸。一説、ひはりどで、ひびの入った戸。神楽歌、早歌「霜月しはすの、かきこほり、あふり戸や、ひわ(は)りど、ひわ(は)り戸や、あふりど、ゆすりあげよ(む)、そそ(すす)りあげむ」(「ひはりど」の方がよかろう)
ひゑねヒエ… (句)動詞「ひう」の連用形「ひゑ」に、完了の助動詞「ぬ」の命令形「ね」の付いた句。「しごいて与えよ」また、ただ「与えよ」の意。⇒ひう。古事記、中「こなみが、なこはさば、たちそばの、みのなけくを、こしきひゑね」=年増が菜(食物)を請うたなら、立ち杣の木の、実のないところを、しごいて与えよ。(「こしき」の「し」は強めの助詞、「こき」に同じ)
ひを…オ[氷魚] (名)琵琶湖や宇治川などに産する小魚。形は白魚に似て小さく、白色で、氷のように光る。秋の末から冬にかけて網代などで捕る。蜻蛉日記「いかにして網代の氷魚にこと問はむ」源氏、橋姫「あじろは人さわがしげなり。されど、氷魚もよらぬにやあらむ、すさまじげなるけしきなり」
ひかりだう…ドウ[光堂] (名)金で塗った堂。金色堂。金堂。奥の細道「光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す…さみだれの降りのこしてや光堂」
ひをくくりヒオ…[緋緒括り] (名)袴などの裾を緋色の紐でくくること。古今著聞集、十二、偸盗「ひをくくりの直衣袴に、くくり高くあげたり」平家、八、太宰府落ち「平大納言時忠卿、緋緒括りの袴、糸葛の直垂、立烏帽子にて」
ひをけ…オケ[火桶] (名)木製の火鉢。枕草子、一「すびつ・火をけの火も白き灰がちになりぬるはわろし」(「すびつ」は「いろり」のこと)
ひをどし……オドシ[緋縅] (名)鎧の縅の一。緋色の革縅をいう。糸の場合には、特に「糸緋縅」という。大将の着るもの。
ひをむしヒオ…[■] (名)朝に生まれ、夕べに死ぬ虫。「かげろう」などの類であろう。源氏、橋姫「何かは、そのひをむしに争ふ心にて、あじろにもよらむ」枕草子、三「虫は…ひをむし」
ひをり…オリ[引折・日折] (名)昔、大内の馬場で、五月五日に左近衛、六日に右近衛の舎人が競馬・騎射を行うこと。射手が褐の裾を引き折って前に挟むことからいうとも、五日に試みて六日に折り返して行うことから称するともいう。伊勢物語「昔、右近の馬場のひをりの日、むかひに立てたりける車に、女の顔の下簾よりほのかに見えければ」謡曲、右近「ひをりせし右近の馬場の木の間より、影も匂ふや朝日寺の」
ひん[嬪] (名)上代の女官の称。のちの更衣。
ひんかく[品格] (名)しながら。ねうち。
ひんかく[賓客] (名)お客。まらうど。
ひんがし[名] (名)「ひむがし」の音便。ひがし。
ひんがしがは…ガワ[東川] (地名)「賀茂川」の別称。京都の東を流れる川の義。宇津保、祭の使「神楽すべきをり近うなりぬるを、水深くかげすずしからむ所求められよ。弁の君。ひんがし川には見えずなむ侍る」
ひかる[光る] (動、四)(1)光を放つ。照り輝く。古事記、上「あかだまは、をさへひかれど、しらたまの、きみがよそひし、たふとくありけり 豊玉姫」=赤玉は、それをつらぬく緒まで光り輝きますが、それにもまさって、白玉のようなすがすがしい君のお姿はとうとうございました。(2)容貌が美しく見える。風采がよい。源氏、桐壺「たとへむ方なく、美しげなるを、世の人、光る君ときこゆ」(3)威厳がある。「目が光る」
びんぎ[便宜] (名)(1)たよりのよいこと。都合のよいこと。好機会。平治物語、一、信頼卿信西を滅さるる議の事「便宜候はば当家の浮沈をも試むべしとこそ存じ候へ」(2)たより。音信。淀鯉出世滝徳、下「誰にどうと談合せむ。勝様からは便宜もなし」(3)適宜。適当。そのついでついでに、忘れずに適宜に行うこと。徒然草、十五段「そのこと、かのこと、便宜に忘るな」
びんぐき[鬢茎] (名)鬢の毛筋。源氏、紅葉賀「しどけなく打ちふくだみ給へるびんぐき、あざれたるうちぎ姿にて」
びんぐし[鬢櫛] (名)鬢を掻き上げるのに用いる櫛。多くは、つげの木で製し、横に長いもの。
ひんけいあしたす[牝鶏朝す] (句)めんどりが、朝ときをつくる。婦人が政治その他のことに出しゃばることの比喩。保元物語、三、無塩君の事「牝鶏朝する時は、その里かならず亡ぶといへり」
ひんさう…ソウ[品藻] (名)品がらや文章などの価値を定める義。品評。批評。駿台雑話、五、文章の盛衰「句ごとに品藻せざるはなし」
びんざさら[拍板] (名)田楽などに用いた一種の楽器。数十枚の小板を平面に並べ合わせ、糸でその一端を編み合わせ、板と板とを打って鳴らすもの。拍子をとるのに用いる。
ひんし[品詞] (名)文法用語。単語を、その文法的性質によって分類した種別の称。わが国語には、名詞・数詞・代名詞・動詞・形容詞・形容動詞・連体詞・副詞・接続詞・感動詞・助動詞・助詞の十二品詞がある。(接頭語・接尾語は、単語でないから、品詞には入れない)
ひんせき[擯斥] (名)退けること。いとうて、追いやること。
びんぜんたり[憫然たり] (形動、タリ)あわれむべきである。気の毒である。かわいそうだ。いたわしい。
ひんだう…ドウ[貧道] (代)僧の用いる謙称の自称代名詞。拙僧。愚僧。水無瀬玉藻、上「貧道が心には、定家こそ無双第一なる歌よみにて侍らめ」(西行の言ったことば)
ひかるかみ[光る神] (枕詞)「雷」のこと。雷の鳴りはためくことから「なりはたをとめ」に冠する。万葉、十九の四二三六「光る神なりはたをとめ、手携ひ、共にあらむと思ひしに」(「なり」は「はた」にかけたことば。「はた」は地名であろう)
びんたたら[鬢多多良] (名)平安時代の雑芸の一。五節の帳台試の時の乱舞に歌った郢曲。雑芸、鬢多多良「びんたたらを、あゆかせばこそ、ゆかせばこそ、愛敬づいたれ」
びんづら…ズラ[鬢頬] (名)(1)「みづら」の音便転。びづら。太平記、五、大塔宮熊野落事「しばらく御まどろみありける御夢に、びんづら結ひたる童子一人来て」(2)転じて、髪の毛。謡曲、楊貴妃「雲のびんづら、花の顔ばせ」
びんづる……ズ…[賓頭廬] (人名)梵語Pindolaの音写。十六羅漢の一。ばらもん族の出。南天竺の摩梨山に住み、仏滅後の衆生を済度したという。白頭・長眉の像に作り、寺院の本堂の傍などに安置する。わが国では、その像を撫でて病気平癒を祈る習俗がある。竹取「大和の国の十市(とをち)の郡にある山寺に、びんづるの前なる鉢の、ひたくろに墨つきたるをとりて」
びんなし[便なし] (形、ク)(1)ついでがない。都合がわるい。落窪物語「今までかくなむとも知られ侍らざりけるは、ただ頼みをびんなしと思ひおきたるにや」(2)あさましい。不都合である。似あわしくない。宇津保、俊蔭「ひたやごもりなりとて帰り給はむ、便なかるべし」源氏、帚木「人めしげからむところに、びんなきふるまひやあらはれむ」(3)ふびんである。かわいそうである。源氏、夕顔「いとかなしく思さるれば、びんなしと思ふべけれど、今ひとたび彼のなきがらをも見ざらむが」
ひんにならふ……ナラウ[顰にならふ] (句)「ひそみにならふ」に同じ。雲萍雑志、一「顰にならひて、師の疵をあらはす」
ひんぱん[蘋■] (名)「うきくさ」と「しろよもぎ」と。軽微で清浄なものは神に供えるによいとの意から、神に供え捧げる物の総称。太平記、三十三、八幡御託宣事「さまざまの奉幣を奉り、蘋■をすすめて、すなはち神の告げをぞ待たれける」
ひんぷ[禀賦] (名)うまれつき。天性。天禀。禀性。
びんべん[黽勉] (名)よくつとめること。せいをだすこと。。
びんらう…ロウ[檳榔] (名)しゅろ科の大喬木。熱帯地の産。檳榔子。古来、「蒲葵」と混同されて来た。⇒びらう。
ひかるげんじ[光源氏] (人名)「源氏物語」の主人公。容貌の光り輝くように美しいことから名づけた名。光る君。源氏、帚木「光源氏、名のみことごとしう言ひ消(け)たれ給ふとが多かなるに」
ひがん[彼岸] (名)(1)仏教で、涅槃の境地。波羅。平家、五、勧進帳「随縁至誠の法、一として菩提の彼岸に到らずといふことなし」(2)春分・秋分の日を中日して、一週間仏事を営むこと。また、その一週間の称。(3)対岸。むこう岸。
ひがんじよ[彼岸所] (名)彼岸の法会を営む所。太平記、十四、坂本御皇居「主上すでに東坂本に臨幸成つて、大宮の彼岸所に御座あれども、未だ参ずる大衆一人もなし」⇒ひがしさかもと。
ひ[氷] (名)(1)こおり、「氷室」「垂氷」などと熟する。(2)ひさめ。(3)雹。源氏、明石「地の底通るばかりのひ降り」
ひき[贔負] (名)「ひいき」の原語。自分の方へ引く義であろう。古今著聞集、五、和歌「これを見る人人、おのがひきひき、心心にいひつくるとて」
ひき[疋] (接尾)(1)布の長さを数えるに用いる助数詞。二反をいう。古くは四丈。今は鯨尺で五丈六尺。宇津保、国譲、下「絹五十疋、俵に入れて」(2)銭を数えるに用いる助数詞。十文をいう。折り焚く柴の記、上、祖父君性行「常に行き通ひし師の坊に請うて、青銅百疋を借り得て」(「青銅」は「銭」)
ひき[匹] (接尾)「牽き」の義。もと、馬を数えるに用いる助数詞。転じて、一般の獣類・鳥類・魚類にも用いる。
ひぎ[氷木] (名)今いう「ちぎ」のこと。上代の家に用いた。今でも神社にその遺風が見られる。古事記、上「うかの山の山本に、底つ石根に宮柱ふとしり、高天原にひぎたかしりて居れ、こやつ」
ひきいれ[引き入れ] (名)元服の時に、冠をかむらせること。また、その役の人。源氏、桐壺「東向きに御椅子立てて、冠者の御座、ひきいれのおとどの御座御まへにあり」
ひきいれごゑ…ゴエ[引き入れ声] (名)息を引き入れるようにして、ひそかに、作って発する声。枕草子、二「にくきもの…ことなることなき男の、ひきいれ声して、えんだちたる」=格別とりえもない男が、かすかな声で、なまめかしく気取って、様子ぶったのが、実ににくらしい。
ひきいれゑぼし……エボシ[引き入れ烏帽子] (名)かけ紐をかけないで、頭に引き入れてかぶる烏帽子。一説、烏帽子を深くかぶること。古今著聞集、六、管絃歌舞「花田の単狩衣に青袴着て、引き入れ烏帽子したる男、おくれじと馳せ来たるあり」
ひきおび[引き帯] (名)袍・直衣などに用いる小さい帯。
ひききりなり (形動、ナリ)性急である。せっかちである。いらだっている。源氏、夕霧「女の斯くひききりなるも、却りては軽く覚ゆるなり」同、同「このおとども、はたおとなおとなしうのどめたる所さすがになく、いとひききりに、はなやい給へる人人にて」
ひきさふヒキサウ[引き塞ふ] (動、下二)引いて、ふさぐ。古事記、上「千引石を、そのよもつひら坂に引き塞へて」
ひあい[悲愛] (名)(1)無愛想なこと。無遠慮なこと。十訓抄、四、十八「これも公任卿の悲愛なるにてぞありける」(2)あぶないこと。危険なこと。平家、八、法住寺合戦「加賀房は我が馬のひあいなりとて、主の馬に乗り替へたれども」
ひきし[低し] (形、ク)ひくい。沙石集、一、上「ひきき人のたけくらべは、ひききを勝とするがごとし」
ひきしざる(動、四)引き退く。
ひきしじむ (動、下二)「ひき」は接頭語。弱くする。低くする。源氏、浮舟「声ひきしじめ、かしこまりて物がたりしけるを」
ひきしづむヒキシズム[弾き静む] (動、下二)調子外れに弾く。
ひきしろふヒキシロウ[引きしろふ] (動、四)(1)互に引き合う。ひっぱりあう。源氏、紅葉賀「脱がじと争ふを、とかく引きしろふほどに」(2)引きずる。徒然草、百七十五段「引きしろひて逃ぐるかいどり姿のうしろで」=(上着を抱え)引きずって逃げてゆく、その裾をつまんだ帯とけ姿のうしろつき。(3)引きのばす。(4)引きつづく。(5)伝わる。
ひきそばむ[引き側む] (動、下二)引いて、そばへ寄せる。(刀を)抜こうとする。平家、十一、副将被レ斬「重房が郎等、太刀を引き側め、左の方より若君の御後ろに立ちまはり、既に斬り奉らむとしけるを」
ひきそふヒキソウ[引き添ふ] (動、下二)「ひき」は接頭語。添える。添え加える。引きあいに出す。万葉、十六の三八六九「大船に小船ひきそへ」大鏡、七、太政大臣道長「ことと人を問ひ奉るたびには、この入道殿を必ずひきそへ奉りて申す」
ひきた[引板] (名)「ひきいた」の略。鳥をおどす「なるこ」のこと。ひた。万葉、八の一六三四「衣手に水渋(みしぶ)つくまで植ゑし田をひきた我が延(は)へ守れる苦し」
ひきた[引田] (地名)大和の国、奈良県磯城郡初瀬町大字白河の地。古事記、下「ひきたの、わかくるすばら、わかくへに、ゐねてましもの、おいにけるかも 雄略天皇」=引田の若栗栖原の赤猪子よ、若いころに共に寝たらよかったのに、今はもう老いてしまったよ。
ひきたてゑぼし……エ…[引立烏帽子] (名)「もみえぼし」の一種。うしろの角を引き立て、兜の下にかむるもの。⇒もみえぼし。
ひきつぼぬ[引き壺ぬ] (動、下二)「ひき」は接頭語。小さくかこう。小さくかこって籠る。栄花、若枝「屏風・几帳ばかりをひきつぼねつつ、ひまもなく居たり」
ひあじろ[檜網代] (名)(1)檜または竹で、網代に組んだもの。大鏡、六、右大臣道兼「檜網代といふものを張りて、的の形にいろどられたりし車のよこさまのふちを」(2)檜網代を用いた駕籠。婦人の乗り物に用いる。
ひきつぼね[ひき局] (名)前項の動詞の連用形が名詞に転じた語。小さくかこって籠ること。かりの局。蜻蛉日記「おのがじし、ひきつぼねなどしつつあめる中に」
ひきでもの[引出物] (名)饗宴などの時、主人から客への贈り物。もと、庭上へ馬をひき出して贈ったことから起った語。
ひきど[引き戸] (名)(1)敷居と鴨居との溝にはめて、引きつつ開閉する戸。やりど。(2)出入口に引き戸をつけた乗り物。
ひきぬの[疋布] (名)一疋つづきの布。⇒ひき(疋)。
ひきのやつ[比企の谷] (地名)相模の国、鎌倉の一地区。十六夜日記「しのびねは比企の谷なるほととぎす雲井に高くいつか名のらむ」
ひきはぎ[引剥] (名)「おいはぎ」のこと。古今著聞集、十二、偸盗「京都にては強盗し、辺土にてはひきはぎをして」
ひきはだ[蟇膚] (名)ひきがえるの膚のような皺のある革の称。折り焚く柴の記、上、父君容貌及嗜好「髪おろし給ひし後は、鞘をば革のひきはだに入れられたり」
ひきはる[引き張る] (動、四)(1)ひっぱる。(2)手をとって抑えつける。枕草子、八「人ばへするもの…物など取り散らしてそこなふを、常は引き張られなど制せられて」=物などを取り散らしてこわすのを、平生は抑えつけられなどしてとめられて。
ひきびき (名)ひいきびいき。傾城反魂香、中「お客衆のひきびきで」
ひきびきに (副)「自分の方に引く」義。思い思いに。てんでに。ばらばらと。落窪物語「ひきびきに参れば、二十余人ばかりさぶらふ」
ひあふぎ……オウギ[檜扇] (名)檜の薄板を糸でとじ連ねた扇。公卿は二十五枚、殿上人は二十三枚の板でつくる。枕草子、十一「檜扇は、無紋、から絵」
ひきふだ[引き札] (名)今日の「宣伝ビラ」または「ちらし」に当たる語。
ひきふと (名)「低太」の義。背が低くて肥大なこと。宇治拾遺、十三、大井光遠の妹強力の事「今は昔、甲斐の国の相撲、大井光遠はひきふとにいかめしく、力強く、足はやく」
ひきべ[蟇目・引目] (名)「ひきめ」に同じ。
ひきへぎ[引倍木] (名)下襲・衵などの裏を引き放ったもの。夏は板引にして着る。ひへぎ。
ひきぼし[引干] (名)日干しにした海藻などをいう。落窪物語「さては、ひきぼしなどや残りたる。少し賜へ」
ひきまさぐる (動、四)「ひき」は接頭語。もてあそぶ。まさぐる。宇治拾遺、十一「この法師少しひきまさぐらむと思ひて」
ひきまゆ [引き繭](名)糸に引くべき繭。まゆ。
ひきまゆの[引き繭の] (枕詞)まゆの中に蚕がこもっていることから「こもる」「こむる」に、また、糸の縁で「いと」「いとふ」などに冠する。後撰集、十二、恋四「ひきまゆのかくふたごもりせまほしみ」新千載集、十一「ひきまゆの心にこむる思ひありとは」新続古今、十一「ひきまゆのいとかく身をも包まずば」金葉集、八「ひきまゆのいとふ心のほどは知らるる」
ひきめ[蟇目・引目] (名)「ひきべ」ともいう。「響き目」の義か。鏃の一。木製で鏑矢の鏃に似て長く、四、五寸を普通とする。その木の中を空洞にして、数箇の孔をうがち、射ると空気が孔の中に入って高く鳴り響くので、妖魔調伏の効があるという。義経記、二「蟇目のおと、弓の弦おし張りなんどして 御宿直仕り」
ひきめがら[蟇目柄] (名)蟇目をすげた太い矢柄。太平記、十五、正月二十七日合戦事「箆の太さは尋常(よのつね)の人のひきめがらにするほどなる三年竹を、もぎつけに押し削りて」

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