- そ -
そ[衣] |
(名)きもの。ころも。きぬ。古事記、上「神御そ織らしめたまふ時に、その服屋(はたや)のむねを穿ちて」 |
ぞ |
(助詞)(1)第三類、副助詞。強く指示する。係り助詞となる場合には、それを受けて結ぶ活用語は連体形である。これぞ我が家。これぞそれなる。(2)第四類、終助詞。念を押して、意を強める。古事記、上「あさ雨のさ霧に立たむぞ」 |
そばそばし |
(形、シク)(1)かどがある。かどばっている。(2)よそよそしい。そっけない。しっくりしない。源氏、桐壺「弘徽殿の女御、またこの宮とも御なかそばそばしきゆゑ」 |
そばつき |
(名)未詳。「外見」の義か。源氏、帚木「そばつきざればみたるも」=外見は、しゃれているようだが。 |
そばひら |
(名)左右。そば。かたわら。源平盛衰記、二十、八牧夜討「景廉は殊さらきりもなき剛の者、そばひら見ずの猪武者なり」⇒そは。 |
そばふソバウ |
(動、下二)(1)甘えて、ふざける。枕草子、三「せちは……そばへたる小舎人わらは」(2)はげしくじゃれる。傾城反魂香、上「虎は勇んで元信のいましめを噛み切り、背をさし向けてそばへたり」(3)風がやわらかに吹く。山家集、上「初花の開けはじむる梢よりそばへて風の渡るなるかな」 |
そばむ[側む・稜む] |
(動、四)(1)片寄る。わきへ寄る。そむけている。(2)ひがむ。すねる。 |
そばむ[側む・稜む] |
(動、下二)(1)にくんで目をそばだてる。かどだてる。源氏、桐壺「上達部・うへ人なども、あいなく目をそばめつつ」(2)ひがむ。すねる。(3)片寄らせる。わきへ寄せる。(4)離間する。じゃまをする。大鏡、七、太政大臣道長「上陽人は楊貴妃にそばめられて、みかどに見え奉らで、春の行き秋の過ぐることをも知らずして」 |
そひソイ[傍] |
(名)かたわら。そば。万葉、[14-3410]「伊香保ろのそひの棒原(はりはら)ねもころに奥をな兼ねそまさかし善(よ)かば」(「まさか」は「現在」「現実」) |
そびやかなり[聳やかなり] |
(形動、ナリ)すらりとしている。宇津保、国譲、中「姫君は、まだちひさくおはするが、あてにそびやかなる御かたちの、御ぐし少したけに余りたり」 |
そびやぐ[聳やぐ] |
(動、四)せいが高く見える。前項参照。 |
そびら |
(名)背中。古事記、上「そびらには千入りの靫(ゆぎ)を負ひ」 |
ぞう[族] |
(名)「ぞく」の音便。一族。子孫。うから。やから。徒然草、六段「みなぞう絶えむことを願ひ給へり」 |
そへソエ[岨] |
(名)「そは」の転。がけ。ふもと。宇治拾遺、十五「その二いろの栗を、思ふことかなふべくは生ひ出でて木になれとて、片山のそへに埋み給ひぬ」 |
そへうたソエ…[諷歌] |
(名)諷したとえる意を含む歌。神武紀、辛酉年正月「よくそへうた・さかしまごとを似てわざはひをおはらへり」古今集、序「その六くさの一つにはそへうた。おほざきのみかどをそへ奉れるうた」 |
そへにソエ… |
(副)いうまでもなく。もちろん。後撰集、十二、恋四「今日そへに暮れざらめやはと思へども堪へぬは人の心なりけり 敦忠朝臣」 |
そほ[赭] |
(名)色の赤い土。物に塗るに用いる。万葉、[13-3300]「おしてる難波の埼に引きのぼる赤(あけ)のそほ舟、そほ舟に綱取りかけ」(「赤く染めた舟」のこと) |
そほづソオズ |
(名)「かかし」の古称。そほど。古今集、十九、誹諧歌「あしびきの山田のそほづおのれさへわれをほしといふうれはしきこと」(「うれはし」は「なげかわしい」) |
そほづソオズ |
(動、四)濡れる。そぼつ。源氏、葵「浅みにや人は下りたつ我が方は身もそほづまで深き恋路を」 |
そほづソオズ |
(動、上二)意は前項に同じ。 |
そぼつ |
(動、四)(1)濡れる。うるおう。古今集、八、離別「限りなく思ふ涙にそぼちぬる袖は乾かじ逢はむ日までに」(2)しとしとと降る。古今集、十三、恋三「明けぬとて帰る道にはこきたれて雨も涙も降りそぼちつつ 敏行朝臣」 |
そぼつ |
(動、上二)意は前項に同じ。 |
そほど |
(名)「かかし」の古称。そほづ。古事記、上「いはゆるくえびこは、今に山田のそほどといふものなり」 |
そうおん[宋音] |
(名)漢字音の一。宋時代の漢字音で、「行」を「アン」、「杜」を「ヅ」と読む類。入宋の僧や商人などの伝えた音。「唐音」と実質的区別はない。 |
そぼる |
(動、下二)たわむれる。ざれる。 |
そま[杣] |
(名)(1)木を植えて、材木を採る山。そまやま。(2)山林から伐り出した材木。そまぎ。(3)きこり。そまびと。(4)比叡山の別称。新古今、二十、釈教「あのくたらさんみやくさんぼだいの仏たちわが立つ杣に冥加あらせたまへ 伝教大師」の和歌に基づくもの。⇒おほけなし。 |
そまき[杣木] |
(名)(1) 杣山に生えている木。(2) 杣山から伐り出した材木。(3)たきぎ。雑木。また、木。 |
そまくだし[杣下し] |
(名)杣木を山川から流しくだすこと。 |
そまとり[杣取] |
(名)きこり。そまびと。 |
そまびと[杣人] |
(名)きこり。そまとり。 |
そまやま[杣山] |
(名)杣木のある山。そま。増鏡、二、新島もり「頼朝うちほほゑみて、はしもとの君に何をか渡すべきといへば、梶原平三景時といふ武士、とりあへず、ただそま山のくれであらばや、いとあいだてなしや」(「くれで」は「木のはしくれで」の意から「くれないで」「何もやらずに」の意にかけていう) |
そまやま[杣山] |
(地名)越前の国、福井県南条郡にある山。また、その麓にある村の名。太平記、十七、金崎城攻事「杣山より引き返す十六騎の勢に出し抜かれ」 |
そみかくだ |
(名)「山伏」の異称。「蘇民将来」と書いた札を山伏などが人に与えたことから「蘇民書く札」と呼び、それが転訛したものという。金塊集、雑「いくかへりゆききの嶺のそみかくだ高嶺のつうづきふみやならせる」謡曲、葛城「雪にや色をそみかくだの篠懸もさえまさる」 |
そみんしやうらい…シヨウ…[蘇民将来] |
(名)疫病よけの札にしるす語。「逸文備後風土記」にある物語に、すさのおのみことが備後の蘇民将来という者の家にとめて貰って厚遇を受けた礼として、茅(かや)で編んだ腰蓑のようなものを授けて「疫病よけにせよ」といわれたとあることに基づく。 |
そうがう…ゴウ[僧鋼] |
(名)僧尼を統轄し法務を網持する義。僧正・僧都・律師の三僧官の総称。枕草子、十一「僧鋼の中に威義具足してもおはしまさで」 |
そめいろ[蘇迷廬] |
(地名)梵語Sumeruの音写。「須弥山(しゆみせん)」に同じ。そめろ。すみのやま。蘇迷廬の山。妙高山。 |
そめがわ…ガワ[染川] |
(地名)筑前の国、福岡県筑紫郡にある川。「藍染川」ともいう。藍で染めた川の意から「思ひそめ川」「思ひ川」などともいう。伊勢物語「そめ川を渡らむ人のいかでかは色になるうてふことのなからむ」大和物語「あだ人のための渡りしそめがはの色の深さを見でや止みなむ」(「染革」と「染川」とをかけている) |
そめき[染め木] |
(名)物を染めるに用いる木または草。染料の草木。古事記、上「やまがたに、まぎし、あたねつき、そめきがしるに、しめころも」=山地で捜し求めた茜(あかね)草を■き、その汁で染めたころも。(「あたね」は「茜」か) |
ぞめき |
(名)浮かれ騒ぐこと。 |
ぞめく |
(動、四)浮かれ騒ぐ。 |
そめどの[染殿] |
(名)平安時代、宮中で布を染める殿舎。 |
そめどののおとど[染殿の大臣] |
(人名)藤原良房の別称。冬嗣の子。淳和・仁明・文徳・清和の四朝に仕え、太政大臣や摂政になった人。貞観十四年(872)没、年六十八。「染殿」はその邸の名。徒然草、六段「染殿の大臣」 |
そめどののきさき[染殿の后] |
(人名)文徳天皇の后。藤原明子(あきこ)。藤原良房の御女。父の邸「染殿」に住まれた。宇治拾遺、十五「染殿の后、もののけに悩み給ひけるを」 |
そめどのみや[染殿の宮] |
(名)藤原良房の邸の名。京都、正親町の南、京極の西、今の清和院門内の南、仙洞旧院の北に当たる。枕草子、一「家は……染殿の宮・せかゐ」 |
そもさん |
(副)中国、宋代の語「作■生」で、「いかに」「どうして」などの意。雨月物語、五、青頭巾「禅師見給ひて、やがて禅杖をとりなほし、作■生何の所為ぞと一喝して」 |
そうかく[総角] |
(名)男女の幼い時の髪の結び方。あげまき。転じて、子供の称。 |
そや[初夜] |
(名)(1)「初更」に同じ、源氏、若紫「そやといひしかども、夜もいたうふけにけり」(2)初更の読経の勤め。源氏、若紫「そやいまだ勤め侍らず、過ぐしてさふらはむとて」 |
そや[征矢] |
(名)戦陣で用いる矢。 |
そよめく |
(動、四)そよそよと音がする。 |
そら[曾良] |
(人名)⇒かはゐそら。 |
そらい[徂徠] |
(名名)⇒をぎふそらい。 |
そらいき[空行き] |
(名)行くふりをして行かぬこと。 |
そらかぜ[空風] |
(名)仮病の風邪。古今著聞集、六、管絃歌舞「この人は、そらかぜを病み給ふにこそ」 |
そらかぞふ…カゾウ[空数ふ] |
(枕詞)空の星を数える意。その数の多いことから「おほ」に冠するとも、星のように美しい「大津の子」に冠するともいう。万葉、[2-219]「そらかぞふ大津の子が逢ひし日に」(ここの「大津の子」は「吉備釆女」のこと) |
そらがくる |
(動、四)いじりもてあそぶ。ひねくりまわす。 |
そらごと[虚言] |
(名)うそ。いつわり。徒然草、七十三段「人の言ひしままに、鼻のほどをごめきて言ふは、その人のそらごとにはあらず」 |
ぞうがひじり[増賀ひじり] |
(人名)平安時代中期の天台僧。参議橘恒平の子。大和の多武峰に住み、奇行・逸話に富む。長保五年(1003)寂、年八十六。徒然草、一段「増賀ひじりのいひけむやうに、名聞ぐるしく」 |
そらだき[空薫・空?] |
(名)どこからとも知れぬように香をくゆらせること。また、どこからとも知れずかおって来るにおい。 |
そらだきもの[空薫物・空?物] |
(名)どこからともなく、くゆらせる香。源氏、若紫「そらだきもの心にくくかをりて」 |
そらにみつ[空に満つ] |
(枕詞)空にそそり満ちる意から「山」に転じて、「やまと」に冠する。そらみつ。万葉、[1-29]「そらにみつ大和をおきて、あをによし奈良山を越え」 |
そらね[空音] |
(名)いつわってまねる声。うその鳴き声。枕草子、七「夜をこめてとりのそらねははかるとも世にあふ坂の関はゆるさじ」⇒よをこめて。 |
そらひじり[空聖] |
(名)名だけで、真の聖でない物。 |
そらみつ[空満つ] |
(枕詞)「そらにみつ」に同じ。古事記、下「そらみつやまとのくにに、かりこむと、きくや」=日本の国内で、雁が卵を産んだということを聞いたことがあるか。 |
そりたつ |
(動、四)進んで出で立つ。いそいそと進発する。古事記、上「天の浮橋に、うきじまり、そりたたして」(「そりたたして」は敬語。「御進発になられて」) |
そん[巽] |
(名)辰巳(たつみ)、すなわち、東南の方。 |
そんじや[尊者] |
(名)(1)智徳のそなわった、尊祟すべき者。羅漢の尊称。(2)昔、大臣などの大饗の時の第一の客。平家、一、鴨川合戦「やがて大饗行はる。……尊者には大炊の御門の右大臣経宗公とぞ聞えし」(3)裳着の式の時、腰結の役をする人。源氏、若菜、上「尊者の大臣の御引出ものなど」 |
そんしん[孫晨] |
(人名)昔の中国人。家が貧しくて、むしろを織ることを業とした。冬季に、夜具がないので、一束の藁を敷いて寝、朝はそれを片づけたという人。勉強家で詩経や書経に明かるかったという(「蒙求」の「孫晨藁席」の注)。徒然草、十八段「孫晨は冬の月にふすまなくて、わら一束(ひとつかね)ありけるを、夕べにはこれに臥し、朝には収めけり」 |
そうかん[宗鑑] |
(人名)⇒やまざきそうかん。 |
そんらい[?雷] |
(名)「?」は「到」。「潜龍」に対する語で、(潜んでいた龍が天にのぼって)雷となること、(皇太子が)天子となること。古事記、序文「潜龍、元を体し、?雷、期に応ず」 |
そうぎ[宗■] |
(人名)⇒いひをそうぎ。 |
そうくうかい[僧空海] |
(人名)⇒くうかい。 |
そうくわ…カ[葱花] |
輿の飾りとする金色の擬宝珠の称。その形が「ねぎ」の花のようであるところからいう。 |
そ[麻] |
(名)「あさ」のこと。「うみそ」「うちそ」「あをそ」のように、多くは複合語として用いられる。 |
そうくわれん…カ…[葱花輦] |
(名)天子の御輿の一。屋形の上に葱花を据えたもの。神事または天子の行幸に用いられる。前項参照。 |
そうけいちゆう[僧契沖] |
(人名)「釈契沖」ともいう。⇒けいちゆう。 |
そうさい[繪綵] |
(名)いろどりをした美しい絹。保元物語、三、無塩君の事「申后怒りをなして、繪綵を西夷・犬戎に与へて、幽王の都を攻めしかば」 |
そうさいぎやう…ギヨウ[僧西行] |
(人名)⇒さいぎゃう。 |
そうじやう…ジヨウ[僧正] |
(名)僧官の第一位。はじめは一人であったが、のち、大・正・権の三級に分かれ、大僧正を大納言に、正僧正を中納言に、権僧正を参議に準じた。 |
そうじやうへんぜう…ジヨウ…ジヨウ[僧正遍昭] |
(人名)⇒へんぜう。 |
そうしれん[僧師錬] |
(人名)…しれん。 |
そうす[奏す] |
(動、サ変)(1)天皇に申し上げる。「啓す」の対。竹取「この内侍、帰り参りて、このよしを奏す」(2)(音楽を)かなでる。(3)成しとげる。はたす。「功を奏す」 |
そうづ…ズ[僧都] |
(名)僧官の第二位。僧正の次、律師の上。はじめは一人であったが、のち、大僧都・権大僧都・少僧都・権少都の四級に分かれた。
|
そうつゐぶし…ツイ…[総追捕使] |
(名)⇒つゐぶし。 |
そ[背] |
(名)せ。せなか。「そびら」「そがひ」「そ向く」のように、多くは複合語として用いられる。 |
そうばう…ボウ[僧坊] |
(名)僧の住む家。寺。 |
そうびん[僧旻] |
(人名)⇒そうみん。 |
そうぶん[処分] |
(名)「しよぶん」の転か。領所または遺産などを分配し処分すること。 |
そうべう…ビヨウ[宗廟] |
(名)帝王の祖先をまつる宮。伊勢大神宮の称。 |
そうべつ[総別] |
(副)すべて。およそ。狂言桜、諍ひ「総別、何も知りをらいで、むざとしたことを言ひをつて」 |
そうみん[僧旻] |
(人名)上代の学僧。推古天皇の朝に入唐。孝徳天皇の朝、大化の改新に参与。国博士となる。「そうびん」は誤読。白雉四年(653)寂、生年未詳。 |
そうむぢゆう…ジユウ[僧無住] |
(人名)⇒むぢゆう。 |
そうもん[奏聞] |
(名)「そうぶん」とも読む。天子に申し上げること。奏すること。奏上すること。 |
そうもん[総門] |
(名)外構えの正門。大門。徒然草、四十四段「笛を吹きやみて、山のきはに総門のあるうちに入りぬ」 |
そうりやうくわん…リヨウカン[僧良寛] |
(人名)⇒りやうくわん。 |
そ[所・処] |
(名)「しよ」の約音。ところ。竹取「皇子も同じところに籠り給ひて、知られ給ひたる限り十六そを」 |
そうれい[葱嶺] |
(地名)(1)中国、新■省天山南路の西南端の山脈、または同省パミル高原を中心とする諸山の汎称という。平家、八、太宰府落「かの玄■三蔵の流沙・葱嶺を凌がれたりけむ悲しみも、これにはいかでかまさるべき」(2)天竺、南閻浮堤の中央、大雪山の北、?熱地の南にあって、山上に葱が密生するという山。釈迦がこの山で修行したという。 |
そうゐ…イ[僧位] |
(名)僧の位。法印・法眼・法橋・和尚・上人などがある。 |
そがひ…ガイ[背向] |
(名)背面。うしろの方。また、横すじかい。万葉、[3-357]「縄の浦ゆそがひに見ゆるおきつ島漕ぎたむ舟は釣りせすらしも」同、[4-509]「ただ向かふ淡路を過ぎ粟島をそがひに見つつ」 |
そがものがたり[曾我物語] |
(書名)十二巻。異本は十巻。作者未詳。室町時代の前半期に成る。曾我十郎・五郎の兄弟が十八年間の辛酸の末、父の仇工藤■経を富士の裾野の狩場で討った願末を物語る。 |
そき[退き] |
(名)「そく」の連用形が名詞に転じた語。遠く離れること。また、遠方。果て。万葉、[6-971]「あた守る筑紫に至り、山のそき、野のそき見よと」 |
そぎすゑ…スエ[削末] |
(名)(1)削ぎおとしたものの末端。(2)髪の毛の末を切りそろえること。また、その髪。枕草子、九「風は…髪は、をばなのやうなるそぎすゑも」 |
そく[退く] |
(動、四)遠く離れる。古事記、下「やまとへに、にしふきあげて、くもばなれ、そきをりとも、われわすれめや 黒姫」=大和(都)のほうへ西風が吹きあげて雲が切れました。その雲のように、別れて離れていましても、私は決して忘れはいたしません。 |
そく[退く] |
(動、下二)退ける。遠く離させれる。古事記、中「御琴を押しそけて、ひき給はず」土佐日記「いつしかといぶせかりつる難波潟葦漕ぎそけて御船来にけり」 |
ぞくがう…ゴウ[辱号] |
(名)恥辱を受けた名。辱名。大鏡、六、内大臣道隆「無益の事を言ひてけるかな。いみじきぞくがう取りつるとてこそ笑ひ給ひけれ」 |
ぞくこきんわかしふ…シユウ[続古今和歌集] |
(書名)二十一代集、第十一番めの勅撰集。十三代集の一。二十巻。千九百二十五首。後嵯峨上皇の院宣により、藤原為家らが文永2年(1265)に撰進したもの。 |
そ[磯] |
(名)「いそ」の上略。いそ。浜辺。古事記、上「へつ波、そに脱ぎ棄(う)て」万葉、[15-3600]「離れそに立てる室(むろ)の木うたがたも久しき時を過ぎにけるかも」 |
ぞくごしふゐわかしふ…シユウイ…シユウ[続後拾遺和歌集] |
(書名)二十一代集、第十六番めの勅撰集。十三代集の一。二十巻。千三百四十七首。後醍醐天皇の勅命により、藤原為藤・為定父子が嘉歴元年(1326)に撰進したもの。 |
ぞくごせんわかしふ…シユウ[続後撰和歌集] |
(書名)二十一代集、第十番めの勅撰集。十三代集の一。二十巻。千三百六十八首。後嵯峨上皇の院宣により、藤原為家らが建長三年(1251)撰集したもの。 |
ぞくさんこく[粟散国] |
(名)仏教で、粟粒のように散布している小国をいう。 |
ぞくさんへんごく[粟散辺国] |
(名)(1)前項に同じ。(2)日本の異称。 |
ぞくさんへんち[粟散辺地] |
(名)前項に同じ。 |
ぞくさんへんど[粟散辺土] |
(名)前項に同じ。 |
ぞくしふゐわかしふ…シユウイ…シユウ[続拾遺和歌集] |
(書名)二十一代集、第十二番めの勅撰集。十三代集の一。二十巻。千四百六十一首。亀山上皇の院宣により、藤原為氏が弘安元年(1278)に撰進したもの。 |
ぞくせんざいわかしふ…[続千載和歌集] |
(書名)二十一代集、第十五番目めの勅撰集。十三代集の一。二十巻。二千百九十五首。後宇多上皇の院宣により、藤原為世が元応二年(1320)に撰進したもの。 |
そくたい[束帯] |
(名)「石帯で束ねる」義。正しい礼装。冠・袍・石帯・下襲・裾・表袴・剣・笏・沓など、すべてを備えて装う。 |
そけん[素絹] |
(名)次項の略。 |
そ[■] |
(名)「そん」の下略。たる。宇津保、嵯峨院「長びつどもにいひ入れさせ、酒そに入れて持たせて」 |
そけんのころも[素絹の衣] |
(名)僧侶の着る衣。染色は、宗派・階級などによって異なる。略して「素絹」ともいう。 |
そこ |
(代)(1)場所を指す中称代名詞。(2)事物を指す中称代名詞。それ。そのこと。万葉、[2-149]「そこ故に慰めかねて」(3)人を指す対称代名詞。やや下輩に用いる。そこもと。そなた。なんぢ。源氏、帚木「そこにこそ多くつどへ給ふらめ。少し見ばや」(源氏の君が頭中将に対して言う) |
そこはかとなく |
(副)とりとめもなく。何というあてどもなく。徒然草、序段「心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ」 |
そこはかなし |
(形、ク)はっきりしない。とりとめがない。はかない。更級日記「かやうに、そこはかなきことを思ひつづくるを役にて」 |
そこばく[若干] |
(副)いくらか。そくばく。多少。 |
そこひ[底ひ] |
(名)事物の行ききわまる所。きわみ。はて。古今集、十四、恋四「そこひなき淵やはさわぐ山川の浅き瀬にこそあだ波はたて 素性法師」 |
そこら |
(副)「ここら」ともいう。あまた。数多く。竹取「それが玉を取らむとて、そこらの人人の害せられなむとしけり」 |
そこらくに |
(副)幾度も。くれぐれも。万葉、[9-1740]「このくしげ、開くなゆめと、そこらくにかためし言を」 |
そじし |
(名)「そ」は「背」、「じし」は「肉」。背中の肉。背筋の肉。背中には肉が少ないので、「そじしの空(から)」「そじしの空(むな)」などという。 |
そせいほふし…ホウシ[素性法師] |
(人名)平安時代の歌僧。三十六歌仙の一人。俗名は良岑玄利(よしみねのはるとし)僧正遍昭の子。清和天皇に仕え、のち、出家して雲林院に住す。その歌は「古今集」に多く収む。生寂年未詳。 |
そ[十] |
(数)とお。じゆう。「三十(みそ)」「八十(やそ)」のように多くは複合語として用いられる。 |
そそく |
(動、四)急ぎあわてる。ざわつく。そそくる。源氏、帚木「西面の格子そそきあけて、人人覗くべかんめり」狭衣、三、下「若宮おはしてそそきありき給ふを」 |
そそく |
(動、下二)(髪・紙・織物などの)毛が立つ。げばだつ。乱れたつ。ほつれる。徒然草、百十八段「鯉のあつもの食ひたる日は鬢(びん)そそけずとなむ」 |
そそくる |
(動、四)(1)急ぎあわてる。もてあそぶ。落窪物語、一「立つ居つつ、おましどころの塵払ひそそくりて」源氏、若菜、上「あまがつまなど、御手づからつくりそそくりおはするも」(2)うながす。栄花、楚王の夢「若宮の御湯殿果てて、御前にそそくりふせ奉りたるを」 |
そそめく |
(動、四)ざわめく。源氏、夕顔「起きいでて、そそめき騒ぐも程なきを」 |
そぞろかなり |
(形動、ナリ)身のたけが高い。源氏、空■「つぶつぶと肥えて、そぞろかなる人」 |
そぞろく |
(動、四)何となく心が動く。平家、二、小松教訓「かやうの私事を大事といふやうやあるとのたまへば、兵仗を帯したりける兵ども、皆そぞろいてぞ見えたりける」 |
そぞろごと |
(名)つまらないこと。つまらないことば。徒然草、百三十五段「何となきそぞろごとの中に、おぼつかなきことをこそ問ひ奉らめ」同、同「これは、そぞろごとなればいふに足らず」 |
そぞろなり |
(形動、ナリ)(1)何という理由もない。枕草子、一「霜も露もへだてぬ空のけしきの、何となくそぞろにをかしきに」(2)何の縁もない。宇治拾遺、十一「そぞろなる人の手より物を多く得てけり」 |
そだたく |
(動、四)「そ」は接頭語。「だたく」は「手抱く」の略であろう。抱く。ただし、諸説がある。古事記、上「あわゆきの、わかやるむねを、そだたき、たたきまながり」=沫雪のような、やわらかい胸を、しっかり抱き、抱き合って、足をかわし。(「まながり」は「またがり」であろう) |
そだう…ドウ[素堂] |
(人名)⇒やまぐちそだう。 |
そ |
(代)事物を指す中称代名詞。また、人を指す他称代名詞。それ。あれ。かれ。万葉、[3-466]「わが庭に花ぞ咲きたる、そを見れど」土佐日記「そが言ひけらく」 |
そち[帥] |
(名)太宰府の長官。そつ。「正」と「権」とある。 |
そち |
(代)(1)方向を指す中称代名詞。そっち。そちら。(2)下輩に用いる対称代名詞。そなた。なんぢ。 |
そつ[帥] |
(名)太宰府の長官。そつ。「正」と「権」とある。 |
そつけつのくわん…カン[則闕の官]…カン |
(名)「太政大臣」の異称。その人なれば「則ち闕く」の義。 |
そでぎちやう…チヨウ[袖几帳] |
(名)袖を几帳のかわりに用いて、顔を隠すこと。また、その袖。枕草子、四「さてのちに、袖几帳など取りのけて、思ひなほり給ふめりし」 |
そでのわたり[袖の渡り] |
(地名)宮城県桃生郡にある阿武隈川の渡船場。奥の細道「袖のわたり、尾ぶちの牧」 |
そとがはま |
(地名)「そとのはま」ともいう。青森県東津軽郡の沿海一帯の称。昔は、北の果てと思われていた。小林一茶の句「日本の外が浜まで落穂かな」 |
そとのはま[外の浜] |
(地名)前項に同じ。枕草子、九「浜は、そとのはま、ふきあげのはま」 |
そとば[卒都婆] |
(名)梵語Stupaの音写。五重の塔や石塔などのことであるが、わが国では一般に、墓前にたてる戒名などを書いた細長い板をいう。徒然草、三十段「さるべき日ばかり詣でつつ見れば、程なく卒都婆も苔むし」 |
そとほりひめ…トオリ…[衣通姫] |
(人名)第十九代天皇、允恭天皇の妃。和歌に長じていられたところから、和歌三神の一として、和歌の浦の玉津島神社にまつられている。古今集、序「小野小町は、いにしへの衣通姫の流れなり」 |
そ |
(助詞)「な…そ」の項を見よ。 |
そとも[背面] |
(名)(1)山の北面。(2)後ろの方。外の方。 |
そなた |
(代)「そのかた」の約。(1)方向を指す中称代名詞。そち。(2)下輩に用いる対称代名詞。そち。なんぢ。 |
そなる |
(動、下二)「副ひ馴る」の意かという。枝・幹などが傾いて生え延びる。(「磯馴る」と書くが、字に囚われてはならぬ) |
そなれ |
(名)前項の連用形が名詞に転じた誤。地に傾いて生えること。「そなれの松」「そなれの木」 |
そにどりの[翠鳥の] |
(枕詞)「そにどり」は「かわせみ」の異称。頭と頬が緑色をしているので「青」に冠する。古事記、上「そにどりの、あをきみけしを、まつぶさに、とりよそひ」=青い御衣を、しっくりと着込み。 |
そね[其根] |
(句)その根。古事記、中「そねがもと、そねめつなぎて、うちてしやまむ」=その根のもとも、その球根の芽も、(あくまで、追及して)討たなければやめない。 |
そのかみ |
(句)その昔。その当時。 |
そのぢよ…ジヨ[園女] |
(人名)江戸時代の女流俳人。伊勢の人。医師斯波一有の妻。夫の死後、江戸へ出て其角の門に入り、俳諧を学び、薙髪して知鏡尼と称した。享保十一年(1726)寂、年六十二。主著、菊の塵。 |
そのはら[園原] |
(地名)歌枕の一。長野県下伊那智里村の地。古来、帚木の不思議によって著われている。枕草子、一「原は…そのはら」新古今、十一、恋一「園原や伏屋に生ふる帚木(ははきぎ)のありとは見えて逢はぬ君かな 坂上是則」 |
そはソワ[岨] |
(名)険岨な所。竹取「その山のそはづらをめぐれば」(険岨な崖の面の意。一本には「そばひら」とある。「そばひら」ならんば「そば」「かたわら」の意である) |