- ね -
ね[嶺・峰] (名)「根」の字を当てることが多い。山。みね。「富士のね」「甲斐がね」「筑波ね」
ねあはせ……アワセ[根合せ] (名)草の根の長短を合わせて争う遊戯。「あやめの根合せ」が最も普通。古今著聞集、十九、草木「永承六年五月五日、内裏にあやめの根合せありけり」
ねめかく[睨めかく] (動、下二)にらみつける。ねめつく。宇治拾遺、九、くうすけが仏供養の事「おれ、後に逢はざらむやはとて、ねめかけて帰りにければ」(「おれ」は「おのれ」。対者をののしる語)
ねめつく[睨めつく] (動、下二)前項に同じ。
ねもころ (副)ていねいに。ねんごろに。つぶさに。しばしば。万葉、九の一七二三「かはづなく六田(むつた)の河の川楊(かはやぎ)のねもころ見れど飽かぬ河かも」⇒むつたのかは。
ねもころごろに (副)前項の語を、更にていねいに言う語。心深く。熱心に。懇切に。万葉、十三の三二八四「菅の根のねもころごろにわが思(も)へる妹によりては」
ねもころに (副)「ねもころ」に同じ。万葉、二の二〇七「天飛ぶや軽(かる)の路は、わぎもこが里にしあれば、ねもころに見まく欲しけど、やまず行かば、人目を多み」
ねや[閨] (名)「寝屋」の義。寝室。ねどこ。ねま。竹取「翁は閨のうちしつらひなどす」
ねやま[根山] (名)「近い山」をいう。夫木抄、秋四「峰の雲かさねて白き夕暮れに帰る根山の鳥の一こゑ」
ねらす (動、四)こらえる。がまんする。古今著聞集、十六、興言利口「しとをねらしてためらひ居たり」(「しと」は「小便」)
ねりいろ[練色] (名)白絹の練ったままの色。薄黄色を帯びた白色。枕草子、七「きたなげなるもの…練色のきぬこそ、きたなげなれ」(古びて萎えた衣が、きたなげだというので、練色そのものがきたなげだというのではない)
ねりかう……コウ[練香] (名)沈香・檀香・麝香・龍脳・薫陸などの粉末に、甲香(かいこう)を和して、蜜で練り合わしたもの。たきもの。あはせたきもの。甲煎。
ねいしん[佞臣] (名)へつらう臣。口のうまい家来。佞奸な臣。太平記、十二、聖廟御事「九重の帝闕に近づき、我につらかりし佞臣・讒者を一一に蹴殺さむと存ずるなり」
ねりぎぬ[練絹] (名)練って、しなやかにした絹。また、練糸で織った絹布。
ねりそ (名)木の枝をねじって、縄の代わりとするもの。薪などを束ねるのに用いる。後拾遺、十八、雑四「深山木をねりそもて結ふ賤の男はなほこりずまの心とぞみる」
ねりぬき[練貫・練緯] (名)練糸を緯にして織った絹布。平家、九、敦盛「練貫に鶴繍(ぬ)うたる直垂に、萌葱匂の鎧着て」(鶴の模様を縫い付けた直垂)
ねる[練る] (動、四)(1)おもむろに歩く。そろそろ行く。催馬楽、我が門を「わがかどを、とさんかうさん、ねる男」(2)糸を灰汁に煮さわして柔らかにする。和泉式部集「ねりたる糸、宮にまゐらすとて」(3)よく考える。推敲する。「字句を練る」(4)こねて固める。太平記、十八、瓜生拳レ旗事「泥にねられたる魚のごとくにて」
ねる[煉る] (動、四)怒る。怒って物を言いかける。落窪物語「たちはきが文を見給ひて、いみじうねりためるは」(怒ったようすであるのは)
ねろ[嶺ろ] (名)「ろ」は接尾語。嶺。峰。山の頂上。万葉、十四の三三七〇「あしがりの箱根の嶺ろのにこ草の花づまなれや紐解かず寝む」
ねをなく…オ……[哭を泣く] (句)声を立てて泣く。哭に泣く。古今集、十一、恋一「忘らるる時しなければあしたづの思ひ乱れてねをのみぞなく」千載集、十五、恋五「ねをなけば袖に朽ちてもうせぬめりなほ憂きことぞ尽きせざりける 和泉式部」
ねんがん[年顔] (名)年をとって衰えた顔。和漢朗詠集、九日、菊「日精を食らつて年顔をとどめたる者五百か歳」(「日精」は「菊」。菊の酒を飲んで、顔のおとろえをとめた者五百歳)
ねんぎょ[年魚](名)(1)その年に生まれて、その年に生まれて、その年に死ぬ魚。(2)鮎および鮭の異名。
ねんごろに (副)「ねもころに」の音便。(1)懇切に。親切に。念入りに。ていねいに。(2)仲よく。むつまじく。
ねんじゆ[念珠] (名)「数珠」のこと。つまぐるごとに、仏を念ずるのでいう。古今著聞集、二、釈教「しばらく念誦観念せさせ給ひて、御念珠を抛(な)げ出されりければ」
ねいじん[佞人] (名)へつらう人。口のうまい人。佞奸な人。十訓抄、上「佞人、朝にあれば、忠臣のもの進まず」
ねんじわぶ[念じ侘ぶ] (動、上二)こらえかねる。がまんしきれなくなる。伊勢物語「この女、いと久しくありて、念じわびてにやありけむ、言ひおこせたる」
ねんず[念誦] (名)念仏し、誦経すること。源氏、夕顔「ねんずを、いとあはれにし給ふ」
ねんず[念ず] (動、サ変)(1)祈る。祈願する。源氏、夕顔「清水の観音をねんじ奉りても」(2)こらえる。がまんする。耐え忍ぶ。落窪物語「少将、そらごとと答(いら)へまほしけれど、念じかへして臥し給へり」
ねんず[拈ず] (動、サ変)ひねる。つまむ。
ねんだいき[年代記] (名)年代順によって史実または履歴を記載した書。
ねんなし[念なし] (形、ク)(1)残念である。無念である。古今著聞集、五、和歌「都にありながら、この歌を出さむこと念なしと思ひて、人にも知らせず、久しくこもりゐて、色を黒く日に当たりなしてのち」(2)容易である。たやすい。謡曲、放下僧「念なう討たれてさふらふ」(3)思いがけない。案外である。意外である。狂言、■糊「太郎冠者あるか。御前に。念なう早かつた。汝をよびいだすは別儀(べちぎ)ではない」
ねんねんに[念念に] (副)一念一念。時時刻刻。
ねんばらし[念晴らし] (名)疑念を晴らすこと。念のために行うこと。古今堪忍記、七「いま一度念ばらしに、今朝通りし道筋見ありきてこそ、死は死ぬべけれと」
ねんぷ[年譜] (名)人の一代を、年月を追うて記録したもの。
ねんぶつしゆう[念仏宗] (名)弥陀の名号を唱えて極楽往生を願う宗派の汎称。浄土宗・浄土真宗・時宗・融通念仏宗などをいう。
ねいみ[子忌] (名)「ねのびあそび」に同じ。散木集、春「むつきの初子の日、子忌といひて、家を出て野にいきて、ひねもすに居くらし」
ねんぶつのゑかう……エコウ[念仏の回向] (句)念仏の後に唱える回向文の称。すなわち、「観無量寿経」の「光明遍照十万世界、念仏衆生摂取不捨」の十六文字をいう。枕草子、十一「たふときもの、九条錫杖、念仏の回向」
ねんりき[念力] (名)思いを込めた力。諺「念力、岩をもとほす」
ねんりよ[念慮] (名)思慮(名)おもんばかり。
ねんれき[年歴] (名)長年の来歴。
ねうぜつニヨウ……[饒舌] (名)「ぜうぜつ」とも読む。よくしゃべること。多弁なこと。
ねうはちニヨウ……[鐃?] (名)寺院で用いる楽器。響銅(ざわり)という合金で作る。丸い皿のような、中のくぼんだ形。それを二枚うちあわせて音を発せしめる。
ねおびる[寝おびるこ] (動、下二)「おびる」は「おびゆ」の転。睡眠中に、こわい夢などをみて、おびえて、目がさめる。ねぼける。枕草子、三「たとしへなきもの…常磐木多かる処に、鳥のねて、夜中ばかりに、いねさがなくおぢまどひ、木づたひて、ねおびれたる声に鳴きたるこそ、昼のみめにはたがひてをかしけれ」(「いねさがなく」は「寝ぞうがわるく」)
ねがはくはネガワクワ[願はくは] (副)「願ふは」の延音。願うところは。請望むには。「願はくば」は誤り。山家集、春「ねがはくは花の下にて春死なむそのきさらぎの望月のころ」
ねがはしネガワシ[願はし] (形、シク)願わしい。望ましい。源氏、葵「かかるほだしに添はざらましかば、ねがはしきさまにもなりなまし」
ねぎ[禰宜] (名)宮司または神主に次ぐ神職。祝詞、四月神衣祭「禰宜・内人は唯(おう)ととなふ」枕草子、二「心ゆくもの…寺には法師、社には禰宜などやうの者」
ね[哭] (名)声立てて泣くこと。万葉、三の三〇一「磐が根の凝(こご)しき山を越えかねてねには泣くとも色に出でめやも」
ねぎごと[祈ぎ事] (名)(1)祈り願うこと。ねがいごと。願がけ。祈願。源氏、常夏「人のねぎごとに、な暫し靡き給ひそ」うけらが花、一、春歌「いろいろの袖こそ見ゆれねぎごとも稲荷の山の杉の木の間に」(2)転じて、教訓の意。■曲、鳥追船「それ弓取りの子は、胎内にてねぎごとを聞き」
ねぎまをすネギマオス[祈ぎ申す] (動、四)願い申す。祈り申す。古事記、上「あめのこやねのみこと、ふとのりとごとねぎまをして」同、上「くしやたまの神をかしはでとして、天の御饗(みあへ)たてまつる時にねぎまをして」
ねぎらふネギラウ[労ふ・犒ふ] (動、四)骨折りを慰める。労を謝する。いたわる。神功紀、四十六年三月「百済国に遣はして、その王をねぎらはしむ」
ねぎり (名)それだけを主とすること。専門。曾我物語、一、おなじく角觝の事「ねぎりの角觝(すまふ)ならばこそ意趣もあらめ。ただ一座の一興に負け申して面白し」
ねぐ[祈ぐ] (動、四)願う。祈る。請う。古事記、中「みまし、ねぎ教へさとせ」=お前から、どうか(食事に出仕するようにと兄に)教えさとしてくれ。⇒ねぎまをす。
ねぐ[労ぐ・犒ぐ] (動、四)「ねぎらふ」に同じ。労を慰める。いたわる。万葉、六の九七三「かき撫でぞ、ねぎたまふ、うち撫でぞ、ねぎたまふ」
ねくさし[寝くさし] (形、ク)寝たらしい。寝たようすである。金葉集、八、恋下「近江にか(ぞ)ありといふなるかれいひ山君は越えけり人とねくさし」
ねぐさし[寝臭し] (形、ク)(1)寝具などに、寝たことによって生じた臭気がある。(2)食物に腐った臭気がある。麹の、一種の臭気にもいう。
ねたくる[寝腐る] (動、下二)寝て、姿が乱れる。蜻蛉日記「十余日ばかりにて、人ねくたれたる見えて」基佐集「朝霧のたえまに見ゆる女郎花こよひの露にねくたれにけり」
ねくたれ[寝腐れ] (名)寝て、姿の乱れること。しどけないさま。源氏、宿木「ねくたれの御かたち、いとめでたく見どころありて」
ね[音] (名)声。おと。「琴のね」「笛のね」「虫のね」「うぐひすのね」
ねくたれがみ[寝腐れ髪] (名)寝たことによって乱れる髪。拾遺集、二十、哀傷「わぎもこがねくたれがみを猿沢の池の玉藻と見るぞ悲しき 柿本人麻呂」(猿沢の池に采女の身投げたるを見て)と詞書)
ねぐら[塒] (名)「寝座」の義。鳥の寝るところ。とや。
ねこがき[猫掻] (名)藁で編んだむしろ。ねこだ。古今著聞集、十一、蹴鞠「ねこがきを敷かれたり」
ねこぎ[根こぎ] (名)木を、根のついたまま引き抜くこと。ねこじ。ねびき。
ねこじ[根こじ] (名)前項に同じ。古事記、上「あめのかぐ山のいほつまさ木を、根こじにこじて」
ねこず[根こず] (動、四)根のまま掘り取る。顕季集「花見むと根こじて植ゑし若桜咲きにけらしな風吹かぬ間に」(この動詞は、連用形の例しか見えず、四段活用か上二段活用か不明。今かりに、四段としておく)
ねこそぎ[根こそぎ] (副)のこらず。すっかり。ことごとく。
ねこそげ[根こそげ] (副)前項に同じ。
ねこだ (名)「ねこがき」に同じ。
ねこまた[猫股・猫又] (名)俗説に、猫が年を経て、尾が二股に裂け、化けるようになるという、その怪猫。徒然草、八十九段「奥山に猫又といふものありて、人をくらふなると、人のいひけるに」
ね[寝] (名)寝ること。眠ること。「寝もやらず」
ねざし[音ざし] (名)ねいろ。音のあじわい。
ねざし[根ざし] (名)(1)根がつくこと。源氏、明石「岩に生ひたる松の根ざしも心ばへあるさまなり」(2)生まれつき。家筋。素性。源氏、桐壺「もとのねざし賤しからぬ」
ねざす[根ざす] (動、四)(1)根が生える。根がつく。拾遺集、九、雑下「かくれ沼(ぬ)の下より根ざすあやめぐさ、あやなき身にもひとなみに、かかるこころを思ひつつ 大中臣能宣」(2)もとづく。原因する。基因する。
ねざむ[寝ざむ] (動、下二)眠りから覚める。目をさます。
ねざめ[寝ざめ] (名)眠りから覚めること。目ざめ。いざめ。万葉、六の一〇六二「あかときのねざめに聞けば」捨遺愚草、上「皆思ふねざめの空に過ぎにけむ行方も知らぬ月の光の」
ねしくをしぞも…オシ…[寝しくをしぞも] (句)難解の句で、諸説があるが「しくをしぞも」は強めや詠嘆の助詞を多く重ねたものとみて、全体で「寝るぞよまあ」ほどの意に解しておこう。古事記、中「みちのしり、こはだをとめば、あらそはず、ねしくをしぞも、うるはしみおもふ」=都から近江の国へ通ずる街道の端にある宇治の木幡村で育った美女(髪長姫)は、最初は自分の意に従うまいと思っていたが、別に拒まず我が意に服し、今は共に仲よく寝るぞよまあ、かわゆくてならぬ。
ねじろ[根白] (名)根の白いこと。古事記、下「つぎねふ、やましろめのこ、くはもち、うちしおほね、ねじろの、しろきただむき、まかずけばこそ、そらずともいはじ」=山城の女子が鍬で掘り起した大根のような白い腕を枕として寝なかった仲ならこそ、知らぬともいわれようが(あんなに夫婦して睦み合った仲なのに、いくら使いをやっても、知らぬ存ぜぬで帰らないのは、少しひどい。(「つぎねふ」は「山城」の枕詞)
ねじろ[根城] (名)根拠とする城。拠城。本丸。「出城」「出丸」などに対する語。
ねずなき[鼠鳴] (名)ねずみの鳴き声のような声。口をすぼめて、そのような声を出すこと。枕草子、八「うつくしきもの……すずめの子の、ねずなきするにをどりくる」
ねずのせき[鼠の関] (地名)羽前の国(山形県)西田川郡と越後の国(新潟県)岩船郡との境の日本海海岸に置いた関。今、山形県西田川郡念珠関村大字鼠が関の関川の北岸にその址がある。奥の細道「鼠の関を越ゆれば、越後の地に歩行(あゆみ)を改めて、越中の国一ぶりの関に到る。
ねずみなき[鼠鳴](名)「ねずなき」に同じ。
ね[姉] (名)(1)あね。(2)女子を親しんでいう語。万葉、九の一八〇〇「小垣内(をかつき)の、麻を引き干し、妹なねが、作り着せけむ、白たへの、紐をもとかず」
ねた[妬・嫉] (名)ねたましく思うこと。「ねたし」の語幹の名詞となった語。源氏、宿木「われこそ、かかるめを見むと思ひしが、ねたのわざやと思ひゐ給へり」
ねたがる[妬がる・嫉がる] (動、四)ねたましがる。にくく思う。落窪物語「いみじうねたがれど、かひあるべくもあらず」
ねたき[妬き] (形、ク、連体形)ねたましい。「ねたましいことよ」の意となる。土佐日記「淡路の御(ご)の歌におとれり。ねたき、いはざらましものをと、くやしがるうちに、入りて寝にけり」
ねたげ[妬げ・嫉げ] (名)ねたましそうであること。源氏、帚木「かたみにそむきぬべききざみになむあると、ねたげにいふ」枕草子、三「鳥は…時鳥は、なほ更にいふべきかたなし。いつしかしたり顔にも聞え、歌に、卯の花、花橘などに宿りをして、はた隠れたるも、ねたげなる心ばへなり」(にくらしいほど、すぐれた心であるとの意)
ねたけし[妬けし・嫉けし] (形、ク)ねたましい。にくらしい。万葉、十八の四〇九二「ほととぎすいと妬けくは橘の花散る時に来鳴きとよむる」
ねたさ[妬さ・嫉さ] (名)ねたましいさま。ねたましい度合。「妬し」の語幹に「さ」のついた名詞。神楽歌、きりぎりす「きりぎりすの、ねたさ、うれたさ、御園生に参り来て、木の根堀り食(は)んで、角折れぬ、角折れぬ」
ねたし[妬し・嫉し] (形、ク)(1)ねたましい。うらやましい。(2)うらめしい。にくらしい。にくい。竹取「かくあさましく、もて来ることなむ、ねたく思ひ侍る」枕草子、一「ねたしと思ひたる、ことわりなり」
ねたば[寝刃](名)切れ味のにぶくなった刀の刃。
ねたばつく[寝刃つく] (動、四)刀などの刃を研ぐ。梅園叢書、中、物に譬へて子たる者の教へを説く「生まれつきよしとて、教へざるは、よき刀とて、ねたばつかぬがごとし」
ねたばをあはす…オアワス[寝刃を合はす] (句)前項に同じ。
ねたまし[妬まし・嫉まし] (形、シク)「ねたし」に同じ。
ね[子] (名)十二支の第一位。(1)時刻では、夜の十二時。附図参照。(2)方角では、北。
ねたます[妬ます・嫉ます] (動、四)ねたむようにする。にくらしいと思わせる。人の心をじれさせる。源氏、総角「なべてやはなど、ねたまし聞ゆれば」
ねたみ[妬む・嫉み] (名)ねたむこと。そねみ。嫉妬。にくむこと。にくしみ。「ねたむ」の連用形が名詞に転じた語。
ねたむ[妬む・嫉む] (動、四)(1)うらやむ。そねむ。うらやみにくむ。嫉妬する。古事記、下「足もあがかにねたみたまひき」=足ずりして嫉妬された。(2)うらみに思う。にくく思う。口惜しく思う。竹取「翁、胸いたきことなし給ひそ、うるはしき姿したる使ひにもさはらじと、ねたみをり」
ねだる[根だる] (動、四)「根垂る」の義から「根足る」の意に用いて、「富み足る」の意。古事記、下「たけのねの、ねだるみや」=竹の根の四方八方に這って、欠けたもののないように、十分に富み足る宮殿。
ねぢくネジク[拗く・捩く] (動、下二)ねじける。(1)曲がりくねる。(2)すなおでない。ひがんでいる。正しくない。しつっこい。源氏、東屋「ひがひがしく、ねぢけたるやうに取りなす人もあらむ」
ねぢけがましネジケガマシ[拗けがまし] (形シク)ひがんでいるようである。源氏、帚木「いと口惜しくねぢけがましきおぼえだになくば」
ねぢけびとネジケ……[拗け人] (名)心のねじけた人。ひねくれた人。わざと反対する人。じゃけんな人。万葉、十六の三八三六「奈良山のこのてがしはの両面(ふたおも)に左(か)にも右(かく)にもねぢけびとの徒(とも)」
ねづネズ[捻づ・捩づ] (動、上二)ねじる。宇治拾遺、一、鬼に瘤取らるる事「鬼寄りて、さは取るぞとて、捻ぢて引くに大方痛きことなし」
ねつたい(形、ク) にくらしい。口惜しい。残念である。平家、九、宇治川「ねつたい、さらば景季も盗むべかりけるものをとて、どつと笑うてぞ退(の)きにける」
ねどころ[寝所] (名)(1)夜、寝る所。ふしど。ねや。(2)「ねぐら」に同じ。枕草子、一「からすのねどころへ行くとて、三つ、四つ、二つなど飛び行くさへあはれなり」
(助動)完了の助動詞「ぬ」の命令形。「とく行きね」
ねとりらうえい…ロウ―[音取朗詠] (名)調子をとって、詩歌を吟ずること。平家、八、大宰府落「ふなばたに起ち出で、横笛、音取朗詠して遊ばれけるが」
ねとる[音取る] (動、四)奏楽の時、まず楽器の調子をととのえること。古今著聞集、六、管弦歌舞「暫くありて、つひにねとりいだしたりければ」
ねなしぐさ[根無草] (名)根のない草。浮き草。多くは、浮いたことに寄せていう語。
ねなしぐさ[根南志具佐] (書名)平賀源内すなわち風来山人作の小説。二編十巻から成り、前編五巻は宝暦十三年(一七六三)、後編五巻は明和五年(一七六八)刊。当時世間に取り沙汰のあった名優の死に取材し、遊里・芝居・寺院にわたる遊蕩的な風潮を、皮肉と風刺とに満ちた筆で描いたもの。滑稽本の祖とも見らるべき作品。
ねになく[哭に泣く] (句)声を立てて泣く。「哭を泣く」ともいう。古今集、十一、恋一「わが園の梅のほつえにうぐひすのねになきぬべき恋もするかな」(上三句は序詞)
ねぬなは……ヌナワ[根蓴菜] (名)「じゅんさい」の異称。ぬなは。古今集、十九、俳諧歌「隠沼(かくれぬ)の下より生ふるねぬなはの寝ぬ名はたて(た)じ来るな厭ひそ 壬生忠岑」
ねぬなはの…ヌナワ…[根蓴菜の] (枕詞)「じゅんさい」の根を繰ることから「くる」の音に、また、頭音を重ねて「ね」に冠する。拾遺集、十九、雑誌「ねぬなはのくる人もなし」同、十四、恋四、ねぬなはの苦しからむ人よりも」(「ね」に冠する例は前項参照)
ねのかたすくに[根の堅洲国] (な)地の底遠く隔たって、現世とは容易に交通することのできない幽界。死者の行く国。根の国。底つ根の国。黄泉(よみ)。よもつくに。上代人の想像的地域「高天原」「常世の国」に対する地域。古事記、上「あは、妣(はは)の国、根の堅洲国にまからむとおもふが故に哭くとまをしたまひき」⇒たかまがはら⇒。とこよのくに。
ねのくに[根の国] (な)前項に同じ。神代紀、上「あは、母のみことの根の国に徒はむとおもひて、ただ泣くのみとまをしたまひき」祝詞、六月晦大祓「根の国・底の国にいぶきはなちてむ」
ねのひ[子の日] (名)(1)十二支の「子」に当たる日。(2)「ねのびのあそび」の略。宇津保、嵯峨院「御子の日がてら参り給へかし」土佐日記「今日は子の日なりければ切らず」
(助動)否定の助動詞「ず」の巳然形。「足はあるかねども」
ねのびのあそび[子の日の遊び] (名)「子の日」に「根延び」をかけて言ったものであろう。昔、正月初の子の日に、人人が郊外へ出て小松を引き、千代を祝い、宴遊すること。ねのひ。
ねばふ……バウ[根延ふ・根這ふ] (動、四)根が長くのびる。根が生えひろがる。古事記、下「このねの、ねばふみや」=根がどこまでも広く張るように、しっかりした、繁栄する宮殿。
ねはん[涅槃] (名)梵語Nirvanaの音写。(1)煩悩を脱して、絶対のさとりの境地に入ること。(2)転じて、釈迦の入滅をいう。(3)「ねはんゑ」の略。
ねはんゑ……エ[涅槃会] (名)釈迦の入滅の日に当たる二月十五日に行う法会。徒然草、二百二十段「二月の涅槃会より聖霊会までの中間を指南とす」
ねひとつ[子一つ] (名)子の一刻。夜の十二時から十二時半までをいう。伊勢物語「女、人をしづめて、ねひとつばかりに男の許に来にけり」
ねびまさる (動、四)年齢よりもおとなびて見える。また、長ずるに従って美しくなる。源氏、榊「御かたちもいと清らにねびまさらせ給へるを、うれしくたのもしく見奉らせ給ふ」
ねびる (動、下二)次項に同じ。源氏、空蝉「鼻などもあざやかなる所無うねびれて、にほはしき所も見えず」
ねぶ (動、上二)(1)年齢が多くなる。年がふける。源氏、夕顔「貌などねびたれど清げに」(2)おとなびる。ませて見える。平家、十一、先帝御入水「主上、今年は八歳にぞ成らせおはします。御身の程より遥かにねびさせ給ひて、御形いつくしう、あたりも照り輝くばかりなり」
ねぶか[根深] (名)「根の深く地中にある」義。「ねぎ」の異称。蕪村の句「易水にねぶか流るる寒さかな」⇒えきすゐ。
ねぶち[念仏] (名)「ねんぶつ」に同じ。蜻蛉日記「夜はねぶちの声聞きはじむるより」
(助詞)第四類、終助詞。希望の意をあらわす。万葉、三の二九九「奥山の菅(すが)の葉凌(しの)ぎ降る雪の消(け)なば惜しけむ雨な降りそね」
ねぶつ[念仏] (名)「ねんぶつ」に同じ。玉葉集、神祗「ちはやぶる玉のすだれを巻きあげて、ねぶつの声をきくぞうれしき」
ねぶり[眠り] (名)眠ること。枕草子、一「困じてうちねぶれば、ねぶりなどのみしてと、とがむるも、いと所せく」
ねぶる[眠る] (動、四)眠る。いねむりをする。竹取「竹取の翁、さばかり語らひつるが、さすがに覚えて、ねぶりをり」
ねぼく[寝惚く] (動、下二)ねぼける。
ねぼけせんせい[寝惚先生] (人名)大田南畝すなわち蜀山人の別号の一。
ねほる[寝惚る] (動、下二)ねぼける。ねぼく。古今著聞集、十六、興言利口「ねほれ候はむからに、さることやは仕うまつるべき」
ねまちのつき[寝待ちの月] (名)月の出がおそいので、しばらく寝て待つ義。ふしまちのつき。(1)陰暦十九日の夜の月。蜻蛉日記「寝待ちの月の山の端いづるほどに、出でむとする気色あり」(2)二十日以降の場合にもいうことがある。
ねまどふネマドウ[寝惑ふ] (動、四)ねぼけて、とまどいする。枕草子、三「似げなきもの…老いたる男のねまどひたる」
ねみだれがみ[寝乱れ髪] (名)「ねくたれがみ」に同じ。
ねむ[睨む] (動、下二)にらむ。義経記、四「座敷の体(てい)をねめまはし、その後、土佐をはたとにらみ」

Page Top